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井上 優

 

 担任の教師に頼まれ、ユキヒコの家へ様子を見に行くことになった。ユキヒコとは、特に親しいわけではないが、中学が同じだったし、まあ家が近いと言えば近いため、先生が僕に目を付けたようだ。高校二年になって同じクラスになったわけだし。

 ユキヒコはもう一週間以上、学校を休んでいる。あいつの家は両親とも多忙で、なんでも今は二人とも海外赴任だそうだ。だから、あいつは今、一人暮らしってわけだ。どうやらオンラインゲームにハマってるらしい。

 マンションの玄関チャイムを押すと、インターホンから「勝手に入れよ」とユキヒコの声がした。なんで僕だと分かったんだろう。ちょっと気になる。

 ドアを開けると、北側にある玄関から南側の部屋が見渡せた。そこにユキヒコはいた。僕が中へ入っても、全くこちらを見ない。コンピュータのモニタらしい大型の画面に見入っている。

 近づき、「何で学校へ来ない」と聞く。ユキヒコは、それには答えずに「面白いものを見せてやるよ」と言い、画面の端をクリックした。

「ほら、吉田だよ。今からこいつをここへ呼ぼう」

 画面の中にCGで作った人物が現れた。クラスメートの吉田によく似ている。ユキヒコが操作すると、CG吉田が動き出す。しばらくすると見覚えのある道へやってきた。さっき僕が通ってきた道だ。

 「もうすぐだ」とユキヒコが言うと、玄関チャイムが鳴った。彼はさっきと同じように「勝手に入れよ」と言う。ドアが開くと吉田がいた。吉田は「あれ? なんで俺、ここへ来たんだ?」と言った。

 僕が目を白黒させていると、ユキヒコが「俺がここからすべてをコントロールしているんだ」と言った。
 ということは、吉田の動きもこのコンピュータからコントロールしたってことか? そんなバカな。でも、吉田は確かにここへ来た……。

「今度はお前をコントロールしてやるよ」ユキヒコが言う。突然、僕の背中に悪寒が走った。「できるはずがない」という思いと、「もしできたら」という恐怖が、頭の中に混在した。

 きっと僕の顔は恐怖に満ちあふれていたのだろう。僕を見て、まずユキヒコが笑った。そして吉田も笑い、言った。「お前、簡単に引っかかるんだなあ。うれしいぜ」
 なんだ、そういうことか。二人して僕をからかったんだ。安心した。そうさ、こんなパソコンで人間を操れるハズがない。僕も一緒に笑った。

 ひとしきり笑うと、ユキヒコが立ち上がりキッチンへ向かう。冷蔵庫からコーラを取り出した。そのとき僕は、何気なしにコンピュータのモニタを見た。瞬間、背筋が凍った。モニタの中のCGユキヒコも、冷蔵庫からコーラを取り出しているのだ。そして何よりも恐ろしいことに、現実のユキヒコの行動よりもCGユキヒコの行動の方が、ほんの少し早く起きているのだ。これって、もしかして……。

 コーラを飲み終えたユキヒコが、空き缶入れらしき箱のふたを開けたとき、画面のCGユキヒコが、突然、僕に笑いかけた。そしてコンピュータのスピーカーを通して言った。

「言っただろう? ここですべてをコントロールしてるって」


copyright 2003:Yuu Inoue(Masaru Inagaki)  ffユニオン77号(2003.9月号)掲載


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