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サンタの子

井上 優

 

 今年、小学校教師になったばかりの石田真理恵は、二学期最後の日を迎えていた。体育館での終業式も終わり、クラスごとの時間だ。真理恵は子供たち一人ひとりに通知票を手渡していた。

 手渡しは名簿順に行った。最後に渡したのは、山下幸子だった。いつも静かな幸子。成績はふつうで、生活態度もふつう。本当に目立たない子だ。

「昔からどのクラスにも、目立たない子は一人くらいいるものだけど……」

 そう思いながらも、真理恵はそんな幸子が気になって仕方がなかった。

 幸子は不思議な子だ。友達の輪に入ろうとせず、友達が誘っても一緒に遊ばない。しかし遊ぼうとしないのに、いつもクラスメートの近くにいる。数人がしゃべっていると、そばで話を聞いているように見える。仲間に入りたいのだろうと思い、真理恵が声をかけるのだが、それに従ったことは一度もなかった。

 明日から冬休み。真理恵は子供たちに、休み中の注意を伝え、家庭へのお知らせ、そして宿題を配った。これで二学期が終わった。

 「さようなら」の声と共に、子供たちがバラバラと教室を出て行く。真理恵も今日は早く帰ろうと思った。職員室へ戻り、帰り支度をする。靴を履き、校門を出たとき、前に幸子が歩いているのを見つけた。追いかけて声をかけようと思ったが、幸子の様子がおかしい。まるで誰かとの約束の時間を気にするかのように、急いで歩いている。

「どこへ行くんだろう」

 いつもふつうの幸子が、ふつうでない行動に出ている。気になった。そして真理恵は、いつの間にか幸子の後をつけていた。

 どれくらい歩いただろうか。幸子が一軒の農家の敷地内へ入っていった。真理恵は気づかれないように生け垣に隠れて様子をうかがった。すると、幸子以外にもたくさんの子供たちが農家へやってきた。小学校一年生くらいから六年生くらいまで。男の子もいれば女の子もいる。みんな敷地内へ入ると、そこにある馬小屋らしきものへ入って行った。

 真理恵が中の様子を知ろうと生け垣からのぞき込むと、馬小屋の中に一人の大人が見えた。赤い服を着た老人のようだ。白いひげも見える。

 子供たちが老人に向かって何かを言っている。誰かの名前、そして、おもちゃ類の名称……。一人の子が言った。「斉藤君恵ちゃんは、おしゃれセット。坂口良太くんは○○アドバンス……」名前と一緒に言われる言葉には、プレイステーなんとかとか、セーラーなんとかといった言葉も聞かれた。幸子も同じように、老人に向かってしゃべっていた。そこには真理恵のクラスの子供全員の名前があった。

 一通り聞き終わると、老人が立ち上がった。子供たちが少し離れる。そのとき真理恵は見た。トナカイに引かれたソリが音もなく近づき、老人を乗せるのを。

 三日後、クリスマスの朝。幸子のクラスの子供たちは、それぞれの家で目覚め、枕元に欲しかったものが置かれているのを見つけて喜びの声を上げた。しかしそれが幸子のお陰だったとは、誰も知らない。子供たちが欲しがるプレゼントを知るため、サンタはたくさんの子供を送り込んでいたのだった。


copyright 2003:Yuu Inoue(Masaru Inagaki)  ffユニオン79号(2004.1月号)掲載


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