ショートショット

聞こえる

井上 優

 

 足下で何かが光った。懐中電灯の光を向けると、そこにはプチダイヤの付いたネックレスが落ちていた。

 夜中に三人のクラスメートとやってきた廃屋。「出る」ことで有名なこのスポットの探索には気が進まなかったが、ラッキーだった。私はかわいいネックレスを拾い上げると、スカートのポケットに押し込んだ。

 次の朝、学校へ出かける準備をしながら、昨日拾ったネックレスを首にかけてみた。鏡の前で胸元を見つめていると、中学生の妹が入ってきた。すると頭の中に「私にくれないかなあ」の言葉が響いた。妹がしゃべったのではない。私の頭の中で声がしたのだ。

 ネックレスを着けたまま学校へ行った。自分の席に座ると、親友のトモコが声を掛けてきた。口が動いていないのに、彼女の声が頭の中で聞こえる。「昨日、恐怖スポットへ行ったんでしょ」と。妹のときと同じだ。私は驚いた。もしかしたら……。そう、このネックレスには不思議な力があるんだ。それを確信したとき、目の前にトモコの顔があった。ふと「トモコって、目の形がよくないね」と思った。

 トモコが行ってしまうと、今度はトシハル君が近づいてきた。数学のノートを貸してほしいと言う。もちろん喜んで貸してあげた。そのときまた、私の頭の中で声がした。「どうせ借りるなら女の子の方がいいっしょ」トシハル君の声だ。それを聞きながら私は「もうちょっと背が高かったら、私のタイプなんだけど」と思った。こんなこと、本人には言えないけどね。

 その後も、ほかのクラスメートといろいろな話をした。いつもの学校の、いつもの時間が過ぎただけだった。

 次の日、学校へ行くと、なんだか空気が違っていた。クラスメートが私を避けているみたいに思える。トモコに話し掛けたが、なぜだか目を合わせてくれない。少しだけ言葉を交わすと、自分の席へ行ってしまった。

 トシハル君が近づいてきた。私が満面に笑みを浮かべて迎えたのに、彼も私を見ない。昨日貸したノートを渡すと、一言「ありがとう」と言って向こうへ行ってしまった。

 どうして? 理由が分からない。だんだん気分がブルーになっていく。机に突っ伏して、ふくれっ面をしていた。そのとき、一緒に廃屋探索に行ったマサハル君が言った。

「探索んとき、何か拾っただろう」

 私はすぐに「そんなこと、してない」とウソを言った。ネックレスを持ち帰ったことを知られたら、泥棒呼ばわりされると思ったからだ。

 するとマサハル君は、「やっぱりな」と言った。続けて「そのネックレス、相手の心が読める便利な道具だと思ってるのか」と聞いてきた。私が黙っていると続けた。「そうじゃないんだ。それは、人間の考えていることを表に出すんだ。だから、おまえに相手の心が読めたのと同じように、おまえの考えていることも相手に筒抜けなんだよ」

 冷や汗が背中を流れた。それが本当なら、クラスメートが冷たい理由が分かる。私はどうすることもできずに、目の前にいるマサハル君に「どうしたらいい?」と聞いた。すると彼は「この期に及んで、まだプチダイヤに未練があるのかよ」と言った。それを聞いて、マサハル君の言ったことが本当だと、ようやく納得した私だった。


copyright 2005:Yuu Inoue(Masaru Inagaki)  ffユニオン89号(2005.9月号)掲載


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