ショートショット

未来カメラ 3

井上 優

 

 高島ミユキは、心配で仕方がなかった。恋人である奥山サトシの様子がおかしいのだ。同じ職場にいるサトシに「最近、ちょっとおかしくない?」と聞いても「そんなことはないよ」と答えるだけ。でもなんとなくおかしい。ミユキは「女の勘」が警告を発するのを感じていた。

 月曜日、会社へ来ているアルバイトの学生から、不思議なカメラの話を聞く。未来を撮影できるらしい。信じられない話だが、ワラをもつかむ気持ちのミユキは、紹介された《奇妙堂》で未来カメラを買ってしまった。

 それは小さなデジカメ風だった。店主によれば、バージョンアップ版だから、日にち別、時間別、分別と、細かな時間設定ができるという。

 翌日の火曜日の夜、ミユキはサトシと待ち合わせをした。駅前の喫茶店には、サトシが先に着いていた。店内に入り、サトシを見つけたミユキは、物陰からこっそりサトシを撮影する。時間設定は、今週の土曜日の夜だ。

 撮影と同時に、背面の液晶画面に画像が出る。それを見たミユキの顔がゆがんだ。サトシが見知らぬマンションのドアから出てくる様子が写っており、そこに見知らぬ女がいたからだ。

 その日のデートは、最悪だった。ますます気分が落ち込むミユキだった。

 水曜日、お昼休みに会社の食堂でサトシを見つけた。またこっそりと未来カメラのシャッターを切る。時間設定は昨日と同じで、土曜日の夜だ。結果は同じだった。女の部屋から出たサトシに向かって、開けたドアのノブを持ちながら手を振る見知らぬ女がいた。

 木曜日も金曜日も、ミユキはサトシを撮り続けた。もちろん設定時間は土曜日の夜。そして撮影のたびに、ミユキの心は傷を深めるのだった。

 もう我慢できない。はっきりさせるべきだ。土曜日の夜、サトシを尾行し、女の部屋へ入るところを押さえてやろう。ミユキは一大決心をした。

 尾行は、うまくいった。人混みに助けを借りて、ミユキはうまくサトシの後をつけた。

 マンションまで来た。サトシが階段を上り、二階の廊下へ出る。まだ気づかれていないらしい。階段から三つ目の部屋の前でサトシが立ち止まる。ここがあの女の部屋か……。そう思うとミユキの緊張が高まった。サトシの手がドアノブに伸びる……と思ったとき、突然彼が振り向いた。

「尾行かよ……」

 言いながらサトシがポケットから何かを出した。四角いそれを操作すると、ミユキに向かって突き出した。駆け寄り、見ると、喫茶店でサトシを盗撮するミユキの姿が写っていた。

「何よこれ」震える声でミユキが言う。

「君の様子がおかしいから調べていたのさ。アルバイトの学生から、便利なカメラがあると聞いたんで試してみたら……。君は僕を信用できないのか」

 なんと、サトシも未来カメラでミユキの行動を探っていたのだ。

 そのとき、マンションのドアが開いた。中から、ミユキの未来カメラに写った女が顔を出した。

「どうしたの? 大きな声を出して」

 サトシが答える。

「この子なんだよ、真面目に付き合っている子って」と、ミユキに目を向けた。そしてドアの女に顔を向けると言った。「ちょうど良かった。紹介する手間が省けたからね、姉さん」


copyright 2006:Yuu Inoue(Masaru Inagaki)  ffユニオン94号(2006.7月号)掲載


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