ショートショット

希少種

井上 優

 

「また見えた。今日は首からだ」

 いつごろからだったか、サチオは会社の同僚の中に、妙なヤツが紛れ込んでいる気がしていた。性格が変わっているとか、妙な癖を持っているとか、そんなレベルの問題ではない。あきらかに人間ではないヤツがいるのだ。

 今日の男は、ヒレを持っていた。そいつがトイレから出てきたとき、何気なく見ると、シャツの襟と首の間から魚のヒレのようなものが伸びていたのだ。目を疑い、メガネをかけ直して見ると、それはなくなっていた。

 以前にもあった。経理課の女性の左腕袖口から、鳥の羽のようなものが大量に見えていた。その前は上司。課長の耳が通常の五倍くらいあり、頭の上でつながっていた。

 あまりの異常さに我慢しきれなくなったサチオは、仲の良い同僚のケイジに相談をもちかけた。妙なところはなさそうな同僚だ。

 一通り話を聞いた後で、ケイジが笑いながら言った。

「見直したら普通だったんだろう? だったら見間違いじゃないのか? ヒレの付いた男なんて、まるでアマゾンの半魚人だな」

「ヒレ男だけじゃなくて、羽女や耳デカ男もいるんだぜ」

「それだって見直したら普通だったんだろ? やっぱり見間違いだよ。お前、疲れているんじゃないのか?」

 ケイジの言う通りかもしれない。俺の目のセイかもと、サチオは思った。

 ところが次の週、サチオを驚かせることが起こった。トイレの前で見たヒレ男が転勤になったのだ。さらにその次の週には、羽女と耳デカ男も突然の転勤で海外へ行くことになった。

 またケイジに相談すると、彼は「偶然だろ。あの人たちは力があるから、ご栄転さ」と笑った。

 それからしばらくは何事もない日々が続いたが、あの転勤騒ぎから三カ月が過ぎたとき、またサチオの目に信じられないものが映った。係長の口が、鶴のように長く伸びているのだ。思わず「係長、それって……」と言いかけたとき、口は元通りになっていた。

 その日の夜、会議室に二人の男がいた。係長が言う。

「課長、あの男、どうにかなりませんか。貴重な存在だということは分かりますが、やりにくくて仕方がありません。あれで仕事ができればまだしも、そっちの方はさっぱりなんですよ。そのくせ妙に観察力が鋭い。もう何人、転勤するハメに陥ったか……」

「仕方がないじゃないか、国を挙げてのプロジェクトなんだからな」

「でもやっぱり気に入らないですよ。われわれの方が多数派なのに、なんでこんな目に遭うんですか?」

「おいおい、君もこの星の悪癖に毒されてたか? 多数決を言うならまだしも、多数だから正義だともとれる発言はどうもな」

「あ、すみません。そんなつもりではなかったのですが……。いやあ、長いことここに住んでいるせいですかね」

 地球が別の惑星からやってきた生命体に侵略されて長い時間が過ぎた。ただし地球人はそのことに気づいていない。侵略者たちが、地球人と共存するために自らが持つ変身能力を使い続けているからだ。そして長い時間がたちすぎたため、在来種たる地球人は限りなく少なくなり、希少種として保護されていたのだった。


copyright 2007:Yuu Inoue(Masaru Inagaki)  ffユニオン98号(2007.3月号)掲載


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