ショートショット

黙る占い師

井上 優

 

 山谷ヨウコは、不安で仕方がなかった。目の前に座っている占い師が、さっきから何も言わないからだ。

 半年前から付き合っている彼の様子がおかしいため友達に相談したところ、この占い師を紹介してくれた。よく当たると評判の人で、友達も、言われた通りにしたら運が回ってきたと言っていた。休日などは、この雑居ビルの廊下に行列ができるというから、人気の高さは本物なのだろう。

 占い師は、黒い布をかぶっていた。そして入室したヨウコの顔を見るなり、一言、

「あ、あなたは……」

と言っただけで、あとは、うつむいたまま黙り込んでしまった。数秒なら「真剣に占ってくれているのだろう」と思うところだが、もう五分近く黙ったままだ。さすがに心配になったヨウコが声を掛ける。

「あのー、私のことを占うのって、そんなに難しいんですか?」

 問いには答えず占い師は、うつむいたまま小さな声で言った。

「これは言わない方が……」

「えっ?」

 ヨウコの心臓が、ドクンと鳴った。占ったら、言わない方がいいことが出たのだろうか。だとしたらそれは、ヨウコにとって不都合な内容だと容易に想像できる。ということは……。

 自分が青ざめてくるのが分かった。膝の上に置いたバッグが小刻みに揺れだしている。

「あ、あの、そ、それって……」

 言葉がちゃんと出てこない。声が震えているのだ。

 ヨウコの様子がただならぬことに気づいた占い師は、ハッとして顔を上げると言った。

「心配しなくていいですよ。今日の私は調子が悪いようで、うまく占えないのだと思います、たぶん……」

 なんとも煮え切らない言葉だ。調子が悪いなんてウソだと思った。はっきり言いたくないから、そんなウソをついたに決まっている。

「今日のところはお引き取りください。料金は半額で結構ですから」

 言われたヨウコが、震える体を椅子から持ち上げ、部屋から出る。

 廊下を歩きながら考えた。彼とのことは諦めた方がいいのだろうか、やはり私がいけなかったのだろうかと、マイナス思考が頭の中で渦を巻いた。

 廊下を進むと、別の占い師の部屋が見えてきた。ヨウコは、すがるような思いで、その部屋のドアを開け、中へ入っていった。ドアの向こうにはメガネを掛けた占い師らしい人が、にこやかな顔で座っていた。

 ヨウコが帰ると、メガネの占い師が、黒布をかぶった占い師を訪ねる。

「ありがとうね。助かったわ。このところ、お客が減っちゃってねえ」

 応えて黒布が言う。
「ま、困ったときはお互い様ですからね。占い師に黙られると、お客は心配でしょうがなくなるものだから」

「そうそう。お陰でこっちへ流れてくれたわ」

「でも先生にバレたら大変。弟子の私が先生になりすましていたこと、絶対に秘密にしてくださいよ」

「分かっているわよ。私とのことも秘密よ」

 悪徳占い師のメガネが、ふふふと笑った。黒布はメガネから、占い料の一部を受け取っていた。


copyright 2007:Yuu Inoue(Masaru Inagaki)  ffユニオン99号(2007.5月号)掲載


Shortshot へ