ショートショット

夢データ

井上 優

 それを見つけたのは、いつも行くレンタルビデオ屋だった。ノンジャンルの棚の一番下に置かれていた。

 真っ黒なケースは妙にシンプルで「夢データ」という白い文字だけが見える。ケースを開けるとDVDはなく、消しゴムぐらいの大きさの筒状のものが入っていた。添えられた説明書には「夢データを見るには、枕元に夢カプセルを置いてお休みください」とある。どうやら夢を見ることのできるカプセルのようだ。

 なんだか胡散臭い雰囲気だが、俺はそそられた。さっそくレンタルしたのは言うまでもない。

 家に戻って説明書を読んだ。借りてきたのは試供品らしい。製品はホームページで買えるとか。ま、どんなものか分からないが、面白そうなので、その夜、枕元に置いて眠った。

 夢を見た。恋人に愛を告白する内容だった。俺には今、恋人はいないが、夢は妙に現実感があり、心地良かった。説明書に「カプセル内の機械によって夢を見るため、普通の夢より記憶に残りやすく、現実感を覚える方が多いようです」とあったのを思い出す。これはいい。これは買いだ。

 さっそく夢データを売っている会社「夢社」のホームページにアクセスした。見ると、かなりの量がある。恋愛ものから、冒険もの、SF、ホラーと何でもある。さらに読み続けると「これらの夢データは、すべて一般の方が見た夢を保存したものです」とある。どうやら本物の夢のようだ。

 とりあえずSFものを一つ購入。届いた夢カプセルを枕元に置いて眠ると、なかなか面白い内容だった。前回同様、目覚めたときには現実感があり、俺は大いに満足した。そして夢データの虜になっていった。

 それから何週間かが過ぎた。夢データのうち、面白そうなものは大半購入してしまった。新しいデータがないかと探すと、見慣れないものが目に飛び込んできた。表題に「強盗」とある。なんだか物騒な雰囲気だが、しょせん夢だ。たまには刺激の強いものも悪くない。そう思って購入した。

 翌日届いた夢カプセルを枕元に置いて眠る。それは恐ろしい夢だった。強盗が押し入り、その家の住人を殺してしまうのだ。残虐な映像は鮮明で、俺は朝起きたとき、全身にびっしょりと汗をかいていた。

 その日は夢データを見る気になれず、カプセルを置かずに眠った。

 ベッドに入ったのは深夜一時くらいだったが、なかなか寝付かれずにいると、ベランダのあたりで何やら物音がする。窓をこじ開けて誰かが入ってくるのだ。

 驚いて飛び起きると、侵入者はすでに部屋に入っていた。その顔には見覚えがあった。

「あ、夢で見た強盗……」

 まさか夢が現実になるなんて。いったい、どうなっているんだ。

 俺は四つんばいになって逃げた。しかし思うように体が動かず、あたりにぶつかってしまう。そのとき、買ったばかりの夢データのケースが棚から落ちてきた。蓋が開き、中身がこぼれ、説明書が目の前に落ちた。裏表紙が目に入る。体が凍った。

「このデータは、予知夢を見ることのできる能力者の夢です」とあった。

 振り返ると強盗が、息のかかる距離まで近づいていた。


copyright 2007:Yuu Inoue(Masaru Inagaki)  ffユニオン100号(2007.7月号)掲載


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