ショートショット

サンタの道具

井上 優

 小学生が塊になって歩いている。彼らは大声で、もうすぐクリスマスだとか、ゲームがほしいとか話している。

「最近、プレゼントをもらえなくなってないか?」

「そういえば、去年はナシだった。だからママとデパートへ行ったんだ」

「サンタがサボってるのか?」

「サンタなんていねーよ」

「そんなことない。絶対にいるって」

 いかにも子供らしい会話だ。俺は自分の子供のころを思い出しながら、奇妙堂への道を進んだ。

 「時間戻りの薬」や「未来カメラ」などの胡散臭い商品を扱っている奇妙堂へは、学生時代から顔を出している。店主と波長が合うからだろうか。

「いらっしゃい。久しぶりだね」

 店主の声に俺が微笑む。

「何か面白いもの、ある?」

 あいさつ代わりに俺が言う。

「さっき、振りの客が持ち込んだ『サンタの道具』ってのがあるけど」

 「道具」は金属製だった。ワイングラスのような足の上に卵形の塊が乗っている。どう使うのか、皆目見当が付かないが、なぜだか俺は気に入ってしまった。「いくら?」と聞くと、店主が「買うの?」と目を丸くした。

 独り住まいのアパートに持ち帰り、お気に入りのちゃぶ台の上に置く。なかなかいい感じだ。

 ところが翌日から異変が起きた。

 一日目は、なんだかそわそわした。

 翌日は、たくさんの靴下を買った。

 三日目、百足以上の靴下を部屋中にぶら下げた。

 四日目に遊びに来た彼女が、壁いっぱいの靴下を見て「どうしたのよ」といぶかった。俺が答える。

「最近、変なんだ。今日はジンジャークッキーを焼きたくなったんで、レシピ本を買いに行こうかと……」

「あなたがクッキーを?」

 彼女の声が裏返った。

 いつから変なのかと聞かれ、サンタの道具を買ってからのようだと答えた。それを聞いた彼女は、神妙な顔をしてワイングラスに似た金属の塊を持ち上げた。

「これが原因ってこと?」

 言いながらひっくり返す。そこにはボタンのようなものが付いていた。

 彼女が「押してみていい?」と聞くので「いいよ」と気軽に答えた。

 同時に道具が光りだした。鈍い光だが、温かな色合いで確かに光っている。彼女と俺が顔を見合わせていると、ベランダの窓を叩く音がした。見ると、なんと、赤い服を着たサンタクロースがいるではないか。

 部屋に入ったサンタは言った。

「ここにあったんですね」

「あ、あなた、もしかしてサンタクロース?」俺が言う。

 「ええ、そうです」サンタは光っている道具を手に取り「これがないと困るんですよ」と言った。そして部屋の中を見回しながら「あなたたちには、こんな風に効いてしまうんですね。実はこの道具、サンタがプレゼントをしたくなる活力源なんです」

 そう言うと、道具を持ったままベランダの先に浮いていたソリに乗り、大空へ飛び去ってしまった。

 翌日、また小学生の塊に出会った。

「だから、プレゼントが来ないのは、サンタがサボってるからだって」

 その言葉を聞いた俺は「今年は大丈夫っぽいぜ」と言ってやった。


copyright 2007:Yuu Inoue(Masaru Inagaki)  ffユニオン103号(2008.1月号)掲載


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