ショートショット

出られない

井上 優

 気がつくと、二階の自室のベッドにいた。夜になっているようで、周囲が暗い。立ち上がって電灯のスイッチを押すが、つかない。停電かと思い、階下へ向かった。

 廊下にある配電盤を見たが、ブレーカーは正常だった。やはり停電か。

 居間や台所へ行っても誰もいない。家族はどこへ行ったのだろう。俺一人だけが家に取り残されたようだ。こんなことは、今まで一度もなかった。

 電話してみようとケータイを探すが見あたらない。それなら家の電話でと受話器を上げたが、発信音すら聞こえない。コードレスフォンではないのだから、停電でも電話は通じるはずだ。電話線が切られているのだろうか。

 不安がますます増大する。外へ出てみようと思い、玄関ドアに手をかけて押すが、ビクともしない。カギはかかっていない。なのに全く動かない。まるで外から施錠されたかのようだ。

 居間へ戻り、サッシ窓から出ようとしたが、内側のロックがかかっていないのに、こっちも開かない。
 監禁されたと思った。

 しかしなぜ自宅に監禁するんだ。意味が分からず、俺は狼狽した。同時に恐怖にも似た感覚に襲われ、とにかく外へ出なければならないと考えた。台所へ行き、食卓テーブル用のイスを持ち出すと、居間のサッシ戸の前でそれを持ち上げた。力任せに振り下ろそうとしたとき、外で声がした。

「ヤバイよ。帰ろうぜ」

 若い男の声だ。それに応えて別の男が言う。

「大丈夫だって。ちょっとのぞくだけだから」

 家の電灯がついていないため、強盗に狙われたのだろうか。俺は振り上げたイスをそっと下ろして身構えた。

 玄関のドアが開いた。外からは簡単に開けることができるらしい。

 こちらへ向かって廊下を歩く音がする。相手は二人。こちらは一人。圧倒的に不利だ。俺は冷蔵庫の陰に身を隠すことにした。

「そのまんま、って感じだな」

「かえって不気味じゃね?」

 声と一緒に男たちが台所へ入ってくる。見ると土足だ。この野郎、人んちへ土足で入ってくるんじゃねえよと腹が立った。むかついた拍子に冷蔵庫を押してしまったようだ。何かが落ちる音がした。

「誰かいるのか……」

 男の一人が言った。二人ともビクついているようだ。その様子を見た俺に勇気がわいてきた。そっと冷蔵庫の陰から身を出す。

 二人はビクつきながら俺の顔をしげしげと見たが、次の瞬間「わあー」と叫んで逃げ出した。なんだよ、弱っちい強盗だな。

 ふと床を見ると四つに畳まれた白い紙が落ちている。奴らが落としていったのだろう。拾い上げて開く。新聞の切り抜きをコピーしたもののようだ。

 そこには俺の写真が載っていた。なんで俺がと不思議に思いながら記事を読む。

 どうやら強盗は、今日よりずっと前にやってきたらしい。俺はそいつに殺されたのだそうだ。

 なぜ家から出られなかったのか、ようやく分かった。「こういうのを地縛霊って言うんだよな」と独り言が口をつく。これから先、俺は永遠にここに居続けなければならないようだ。


copyright 2008:Yuu Inoue(Masaru Inagaki)  ffユニオン109号(2009.1月号)掲載


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