ショートショット

タイムスリップ

井上 由

 俺は時間移動ができるらしい。それに気付いたのは、彼女と某有名遊園地へ行ったときだった。

 園内でアトラクションの順番待ちをしていたとき、些細なことから彼女と言い合いになった。そのとき、めまいがした。目をつぶり地面に座り込む。しばらくして目を開けると、周りは土以外、何もない場所だった。埋立地らしい。焦ったが、すぐにまた、めまいが襲った。目を閉じて耐え、数秒後に開けると、彼女がいた。俺たちは順番待ちの列から、はみ出していた。

 家に帰って調べると、遊園地の場所はその昔、広大な埋立地だったらしい。俺はその時代にタイムスリップしてしまったようだ。

 その後も何度か同じ体験をした。イタリアンレストランでの食事中、急に古い大衆食堂にいたこともあった。海岸で堤防に立っていたのに、突然、腰まで海に浸かっていたこともあった。こんなことが続き、俺は自分が時間移動する力を持っていることを確信した。ただし自分の意思で移動することはできないが。

 そして昨日。初めて彼女の家を訪問したときのことだ。二人で住宅地の道路を歩いていると、彼女が突然、怒りだした。俺の言葉が気に障ったんだろう。両目はつり上がり、鬼のような顔だった。そのときまた、めまいに襲われた。道路に座り込み、目を閉じる。持ち直して目を開けると、案の定、風景が一変していた。彼女もいない。見えたのは数軒の古い日本家屋だけだった。

「またかよ」独り言が出る。

 そのとき前方から若い女性が近づいてきた。俺の前まで来て言った。

「どうかなさいましたか?」

 俺が口ごもっていると、女性がかすかに微笑みながら続けた。

「飛びましたね。でも大丈夫。きっと戻れますから」

 そう言うと、通り過ぎていった。

 それから長い時間が過ぎた。いつもならすぐ戻れるのに、今回はダメだった。だんだん焦ってくる。数時間が過ぎ、あたりが暗くなってきたころ、ようやくめまいが訪れた。目を閉じる俺。めまいが去って目を開けると、隣に彼女がいた。風景も現代に戻っていた。

 そこから彼女の家までは、二分とかからなかった。彼女は高校生のころに両親を亡くしており、おばあさんと二人暮らしと聞いていた。

 おばあさんは俺を歓待してくれた。俺の顔を見て「つい先ほど会ったように思えてねえ」と笑った。

 彼女が台所へ行き、夕食の支度を始めたとき、居間でおばあさんが俺に言った。

「ちゃんと戻れて良かったねえ」

 おばあさんは続ける。

「孫を怒らせない方がいいですよ」

「えっ?」ドキっとした。

「孫にはまだ、力があることを伝えていないんですよ。でもそろそろ話さないとね。孫の怒りが収まらないと、あなたが戻れなくなるから」

「お、おばあさん、あなた一体、何を言ってい……」

「私の連れ合いのこと、お話ししましょうかねえ。まだどこかの時代で生きていると思いますけど」

 ほ、ほ、ほと笑う老婆を見て、俺の背筋が凍った。


copyright 2011:Yuu Inoue(Masaru Inagaki)  ffユニオン127号(2012.1月号)掲載


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