ショートショット

不思議な写真

井上 由

 病床に伏していた祖母の容態がよくないと聞き、祖母の娘である母と孫娘の私がお見舞いに出かけた。

 日当たりの良い八畳間に、祖母の床はあった。母と私が雪見障子を開けて入ると、祖母は満面に笑みをたたえて迎えてくれた。ただ、起き上がる力がないらしく「このままで失礼するね」と言った。

 いくらかの時間が過ぎ、三人での会話が途切れたとき、母が台所を手伝ってくると言って立ち上がった。

 二人になると祖母は、かすれた声で「やっと、おじいさんの所へ行けるわ」と小さく笑った。私が「そんなことを言わないで」と言うと、微笑んだまま静かに話しだした。

「おじいさんと一緒になる少し前、居間で不思議な写真を見つけたの。実家の近くの浜辺で、今の私くらいのおばあちゃんがカメラに向かって笑っている写真。手招きをしていて『こっちに来て』と言っているみたいだった。家族は、老婆が私に似ていると言ったけど、当時の私は二十代。でも気になるので写真の浜辺に行ってみた。そこで、あんたのおじいさんと初めて会ったのよ」

 祖母と祖父の出会いの話は、初めて聞いた。私は先を促した。

「結婚して、あんたのお母さんができたころ、撮られた記憶がないのにおなかの大きい私の写真が現れた。二人目、三人目の妊娠中や出産後も次々と写真が現れる。その後もずっと現れ続けたの。不思議よね」

「ストーカーじゃないよね」と私が笑いながら言うと祖母が言った。

「どの写真も、私は微笑んでいるの。カメラの方を向いている物もたくさんあった。でも撮られた記憶がないのよね」

「どういうことなの?」

「ずっと分からなかった。そして三年前、写真が現れなくなったの」

「三年前って、おじいちゃんが亡くなったころ……。やっぱりおじいちゃんが撮っていたの?」

「そうじゃないわ。写真嫌いのあの人が撮ることはないの。でもね、やっぱりおじいさんだったのよ」

 訳が分からない。祖母が続ける。

「おじいさんが亡くなる直前、二人であの浜辺へ行ったき、私がおじいさんに向かって『こっちに来てくださいよ』と言いながら手招きをしたことがあったのよ」

「そ、それって、最初の不思議な写真と同じ……」

「そう。そのとき気付いた。不思議な写真は全部、おじいさんが見たものだと。おじいさんは、私のことを見続けてくれていたのね」

 祖母は、ふふふと笑った。ちょっと恥ずかしそうだけど、うれしそうな笑顔だった。

 祖父が見つめ続けた祖母の思い出は大切に保存され、最後の記憶が不思議な写真となって過去に現れた。その写真を見て若いころの祖母は浜辺へ行き、祖父と出会った。

 祖父と祖母が生まれ変わったとき、きっとまた浜辺の写真が現れる。そして二人はまた出会い、また幸せな人生を始める。繰り返される生まれ変わりと出会いの中で、二人は永遠に一緒なのだろう。

 翌日、祖母は静かに息を引き取った。その顔は驚くほど晴れやかで、満足げだった。


copyright 2012:Yuu Inoue(Masaru Inagaki)  ffユニオン129号(2012.5月号)掲載


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