ショートショット

未来カメラ 5

井上 由

 サチ子の一家が引っ越した日、新築の一戸建ての前で家族四人の写真を撮った。普通のデジカメで一枚。その後、カメラを替えてまた一枚。どちらも引っ越し業者のスタッフさんに撮ってもらった。二台のカメラのうち一台は、サチ子が友達から「未来を撮影できるカメラがある」と聞いて、奇妙堂という店で買ったものだ。半信半疑だったが、もし本物なら未来を見てみたいと思い、十年後にセットして撮影した。

 どちらのカメラにも、背面に液晶画面が付いているが、未来カメラにはプリント機能もあるので、その場で出してみた。出てきた写真と、普通のカメラの画面の両方を見たが、変わらない様子が映し出されていた。ただ未来カメラの写真は、生け垣や庭木の背が高くなっており、家の壁やブロック塀が少し色あせていた。その様子を見たサチ子は、未来カメラは本物だと確信した。

 ただ何となく違和感があった。十年後なのに、家族の顔つきが同じだったからかもしれない。でも小さな子供がいる訳ではないので、十年くらいの経過だったら変化がなくてもおかしくはない。サチ子はそれ以上、気にすることはなかった。

 新居での初めての夕食は、すき焼きだった。居間に備え付けのガス栓に繋いだコンロでぐつぐつと煮ながら、熱々の肉をほおばった。

 翌朝、サチ子が目覚めると、家族は皆、起きて台所にいた。二階の片付けが済んでいなかったため、昨夜は四人とも一階の居間に布団を敷いて休んだのだ。

「おはよう」

 サチ子が元気よくあいさつをすると、母親が浮かない顔をしている。ダイニングに置いたテレビがつかないというのだ。電灯もつかないし、ガスコンロに火がつく様子もない。

 引っ越し早々、こんな状態なんて。まさか欠陥住宅じゃないよねと母親に言ったサチ子は、問題の個所をデジカメに納めることにした。カメラの動画撮影機能で撮り、業者にクレームを言うときの証拠にしようと考えたのだ。

 食卓の上に置かれたデジカメに手を伸ばしたとき、未来カメラで撮ったプリント写真が目に入った。と同時に、昨日の違和感がまた起き上がってきた。なんだろう、この気持ちは。サチ子が写真を凝視する。そして目を上げ、その場にいた家族三人を見た。服装が同じだった。自分を含めた家族四人、昨日も今日も同じ服を着ている。さらに十年後を撮影した写真でも同じ服を着ている。どういうことだ。

 胸騒ぎがしたサチ子は、台所から居間へ取って返す。そこには四つの布団が敷かれたままで、近づいてみると、四人とも布団の中にいた。壁に目をやると、ガス栓からシューシューと音が出ている。居間にはガスが充満していたらしく、家族四人はすでに冷たくなっていた。

 四人は自分の死を知らないまま幽霊になっていた。未来カメラには幽霊も写るらしく、十年後も幽霊のままの四人であることを教えてくれた。それならば幽霊家族として、静かに暮らしていこうと、サチ子はぼんやり考えていた。ただし他者と関われない、永遠の暮らしになるが。


copyright 2014:Yuu Inoue(Masaru Inagaki)  ffユニオン142号(2014.7月号)掲載


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