ショートショット

未来カメラ 6

井上 由

 付き合っているミサキと、最近、小さなケンカをすることが多くなった。心配になった俺が同僚に相談すると「カツヤも未来カメラを試してみろよ」と言われた。未来を撮影できるカメラだという。怪しげな話だが、気休めになるかもしれない。同僚に教わった《奇妙堂》で、さっそく未来カメラを買った。

 翌日の土曜日、ミサキが俺の部屋へ遊びに来た。しばらくすると、見ていたテレビ番組の内容から言い合いになった。ああ、まただ。そこで俺はミサキに「写真を撮ってやるよ」と言った。突然のことにミサキは面食らったようだが、断る理由もなく、小さくうなずいた。

 未来カメラをミサキに向けてシャッターを切る。すぐにカメラの画面を見ると、おかしなことに左右に分割されていた。写っている内容も、左右で全く別だ。右側の写真ではミサキと俺が街中を一緒に歩いている。左側の写真ではミサキと知らない男が楽しそうに食事をしている。

 一度に二つの場面が出てきたということは、同時刻の未来が二つあるということなのだろうか。

 ミサキは写真を見たがったが、適当にはぐらかし、こんな話をした。

「これ、未来を写せるカメラなんだ。今ミサキを写したら、二つの写真が出てきた。これって未来が二つあるってことかもしれないな」

「未来を写せるカメラなんてウソくさーい」ミサキは信じない。

「本当なんだよ。でさ、未来が二つあったら、ミサキならどうする?」

「そりゃあ、良さそうな方を選ぶわよ。当然でしょ」

「だよな。でもどうしたら選べるんだろう」

 俺は考えた。そして《奇妙堂》の店主が「カメラの中身が未来へ行って撮影し、戻ってくるんだ」と言っていたのを思い出した。それが本当なら、カメラの中にタイムマシンがあるはずだ。そこをいじれば、二つの未来のどちらかを選べるかもしれない。俺はカメラを分解してみることにした。

 なかなか分解できなかったが、レンズを取ると中が見えるようになった。そこにはキラキラ輝く球体があり、ぐるぐる回転していた。

 ミサキと一緒の未来をつかむため、俺はカメラの中へ指を突っ込んだ。さっきの写真では、左側のミサキは知らない男と一緒だった。ならば右側を選ぶべきだろう。いや待て、カメラを通して写る像は上下左右が反転しているから左を選ぶのか。でもレンズの側から触るならやっぱり右側か。迷っているうちに、回転する球体に触れてしまった。

 「あっ」と思った瞬間、めまいがして目を閉じた。しばらくして目を開けると、写真で見たレストランにいた。目の前のテーブルに、ミサキと見知らぬ男がいる。突然現れた俺を見てミサキが「何よ、今更。もうおしまいにしたでしょ」と言った。

 現代のミサキは硬直していた。カツヤが突然消えてしまったからだ。

 そのときカツヤのケータイが震えた。メールのようだ。《奇妙堂》かららしい。文章の初めの2行ほどが見えている。そこには「未来カメラに重大な不具合が見つかりパラレルワール……」と書かれていた。


copyright 2016:Yuu Inoue(Masaru Inagaki) ffユニオン153号(2016.5月号)掲載


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