1986年1月25日。冬晴れの土曜の午後からこの年の新春温泉会は始まった。湯西川、川治、七沢に続き第四回目を迎えた新春温泉会。今回の参加は過去最高の九人となった。一昨年川治の七人でもすでに団隊旅行だったのに、今回はそれを上回る参加者だ。参加者は、この会の発起人でもある青柳、田中と湯西川四人衆の鈴木、丸山。今回の幹事になってしまった伊藤、この会に毎年お酒を持って来れるようにと酒造メーカーにわざわざ就職した北沢。今回初参加組は、デパートの仕事をさぼってやってきた小林、小平市の図書館で古い夢を読んでいた片桐、そして酒と言えば青柳かこの人という山本さん。逆井と松岡の大さんが居たならば往年の西村研不動のメンバーそろい踏みとなるところだ。
例年、新春温泉会は一月の成人の日の連休を使っていたのだが、今年は連休にならず土曜の午後出発という形になった。ここで、幹事の読み違いとなったのは多人数なので誰か「追いかけ」をやるだろうと踏んでいたのだが、全員がそろってしまった。これならば往きのロマンスカーの指定席を取っていればよかった。が、今回は幹事のわがままで小田急線の急行で行くことにする。新などはてっきりロマンスカーだと思って昼御飯のハンバーガーを買ってきていた。「一年中、どの時間に乗っても混んでいる」小田急線のなかでコーヒーをすすっていたような記憶がある。やっぱり、各駅停車の方がすいてて良かったかなぁ。
なにはともあれ、そんな状況で湯本についたときには辺り真っ暗。なんとも趣のある登山鉄道に乗り換えて一路目指す強羅へと向かった。
強羅の駅前は、月の光に照らしだされて寒さをいやましていた。例によって駅前で酒の調達。そうか、余り遅くつくと店も閉まってしまうわけだ。と言うわけで、今回の宿「石くら」に辿り着いた。夕食も早々に風呂へはいりに行く。白く濁った湯につかり、風呂の中でも当然ワンカップを開けて、いい気持ちー。みんな適当にあがってきて、さて部屋で宴会というとき「?」一人足りない。あれ、丸山が風呂から戻っていない。まあ、丸山の長風呂も新春温泉会の付き物だからどうのこうの言っても始まらない。こちらで、勝手に始めてしまおう。
いやしかし、実のところ夕食は風呂の前だか後だか、全然覚えていない。食事は覚えていなくても、風呂のことは覚えているというあたりが新春温泉会の性格を物語っているようだ。
無事、宴会も盛り上がりテレビゲームや卓球をやりに階下へ降りていく。今にして思えば、この時の卓球が後々のテニスの呼び水になったのではないだろうか。さらに、この時丸山は「集合までに時間が余ったから」とデパートをぶらぶらして衝動買いしてしまったバトミントンのラケットを持ってきていた。そして、翌日のことになるが湯本まで行くバスの中で、今度みんなでテニスをやりに行こうと言うような話しを鈴木がしていた。これが、後の朝霞炎天下テニスや熱海寒風強行したけどやっぱり寒くて中断テニスに結びついたことは、まず間違いないことだろう。
などという未来の話しをしている間に、みんなはまた部屋に戻ってきていた。今年は自主的に持ち寄った酒が多くて、まだ開けていない分が結構残っていた。「これどうしようか」などと言いながら後片付けをしていたが完全に杞憂に終わったのは山本さんの顔を見ればすぐに予想のつくことである。
さて、後片付けもすんで、布団を敷直して寝ようか、と言うことになったとき、新が幼いころの思い出をポソっとかたった。「小さいころ、いとこたちとドコドコドッコイをしたものだったなぁ」そういう子供の遊び大好き人間の我々がこれを聞き逃す手はない。「なんだそれ。どうやるんだ」ということで、たちまち素朴な子供の遊びはハードな大人のスポーツと化してしまった。しかしあのドコドコドッコイのどこにそんな魅力があるのか知らないが新と青柳は一度始めたら電気の傘が壊れようと窓硝子が割れようと止めようとしないで、とうとう床が抜けて柱が倒れ宿が崩壊してもドコドコドッコイをやり続けていた。東の空が白み始めたころ、二人は力つきてようやくドコドコドッコイを止めたのだが、そのころには強羅の旅館街のあらかたは瓦礫の山と化していた。
さて、翌日。幹事の怠慢でなにをするあてもなく宿を出た。廃虚となった強羅の町を後にケーブルカーで山を登っていく。早雲山駅に着いてからが例の優柔不断旅行となる。スケートをしようだの大涌谷へ行こうだの。結局じゃんけんによって大涌谷へ行くこととなった。
大涌谷は、極く普通の冬の日の大涌谷の姿をしていた。風が冷たく、どんよりした空からは時々雪がちらついていた。かもしれない。そして、温泉卵はとてもおいしかった。あれは、あの硫黄の臭いの中で食べなくてはおいしくはないのだろうなぁ。
などと言ってる間に、昼御飯を食べてバスで湯本まで下る。ロマンスカーの出発までにまだ少し間がある。ここで露店風呂に入る行動派グループと土産物屋を眺めて喫茶店で時間を潰す思索派の二手に分れて行動する。集合は座席でなどと言ってるのだから幹事の怠慢がわかろうというものだ。
やがて時間がたち出発の時刻。行動派グループが買ってきてくれたビールとコップを持って電車の中の宴会の開始。昨日の残りのお酒が結構な量だ。急行と違ってロマンスカーは早い。新宿までにとうてい飲みきれるものではないだろうと思っていた。が、ここで活躍したのが山本さん。「あけちゃえあけちゃえ」というノリで、見る見る酒がなくなっていく。箱根−新宿間ほとんど飲みっぱなし。最後に残った日本酒の五号パックの口を切ったのは多摩川をわたってからのような気がする。新宿についたときはもうみんな完全に出来上がっていた。
「じゃあ、また来年の幹事さんよろしくね」と言ってみんな別れて今年の新春温泉会は日曜日の夕方、無事終了した。