前略ごめん下さい。

先達ては相談に乗つて頂き、誠に有難う御座いました。あの日以来、貴兄の御高見を胸の裡にて何度も反芻し、また己の心に何度も問い掛けて、漸く回答らしきものが纏まりましたので、御報告申し上げます。

矢張り、私は死のうと思ひます。

確かに、貴兄の仰るやうに死を以て贖ひ得る罪などはないのでせう。森羅万象、広大無辺の此の世界の長久の時の流れの中にあつて、私の存在と言ふものは芥子粒よりも小さなものがほんの瞬き一つの間に現れては消えたようなものだと思ひます。そのほんの小さなものが僅かの間に犯す罪などは、此の世界を此の世界たらしめる大いなる徳に比べれば、まるで較ぶべくもないのだと思ひます。
然し、その僅かな露の如き罪も、塵芥の如き此の身には重いのです。
斯くの如き重き罪を、羽の如く軽い己の命を以て贖ふ事が出来るとは到底思へません。貴兄は「死で罪を贖ふ事が出来るのか。死ねばその罪を放棄することになるのだ。罪を償ふことが出来るのは、生き続ける者のみだ」と仰いました。貴兄は、憤つておられました。
此処で私が此の罪を放棄すれば、罪は何処に行くのでせう。罪を放棄した私は、何処へ行くのでせう。
このまま生存らへて膨大な罪を抱へ償う傍からまた新たな罪を生み出していく様は容易に想像がつくのです。
ですが、死の向かふには何があるのでせう。

貴兄も御存知の通り、私は弱い人間です。

ありありと目の前に見ゑる長く辛い償ひの路を行くよりは、何があるやら分からぬ方を選ぶのです。
私には、死を選ぶことが酷く甘美で一層楽なことのやうに思へるのです。それは罪の償ひにすらならぬ事だと分かつております。
死を以て罪を贖ふことなど出来ないと、貴兄は仰いました。
確かに、さうなのでしょう。
死を以てしても、罪は贖へぬのです。
況や、生を以て如何に罪を贖へませう。
そう考へると、私では前に進むことも後へ退くことも出来なくなつてしまつたのです。

貴兄は屹度、悲しまれると思ひます。
妹も、悲しむでせう。彼は何も知らないのです。
如何か何も知らないあの子を宜しく御願ひ致します。

貴兄を、御尊敬申し上げておりました。

貴兄は大変慈悲深く、私のやうな者にも大変良くして下さつたのに、私はこの様な形でしか報いることが出来ませんでした。
本当に申し訳ないことで御座います。

如何か御赦し下さい。
そして如何か、悲しまないで下さい。
どうか、貴兄が罪の重荷を負うことなく、末永く壮健であられることを御祈り申し上げます。

草々






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あとがき。
…いや何となく。
しかし、鬱々としているからこんなもんを書こうと思ったのか、それともこんなもんを書くから鬱々としているのか。
似非文語調には要注意。…と言うか間違いがあったら是非教えて下さい…(切実)
設定とか経緯とか掘り下げて考えてみたらどうも赤柑橘行きな内容になってしまいそうだったので敢えて手紙文のみ(笑)