乾いた風と、砂埃の中で黒い影が佇んでいる。
気分が悪くなる程好い天気で、眩暈がしそうだ。
「倒れるなよ。」
影が白い貌をこちらに向けて言った。明るい太陽の日差しの下、足下に転がる塊に頓着することなく歩いていく。
黒い靴が血溜まりを踏む。鉄錆の臭いが立ち上る様だ。
「まあ吐かなくなっただけましか。」
「ましじゃない。」
「そうか?」
こんなことに慣れてしまう方がどうかしているのだ、と多分言っても理解はしまい。
嘗て人だった塊たちに、せめて黙祷を捧げる。
「何を祈るんだ?」
「…彼らの魂の冥福を。」
「お前が死んだとしても、彼らがお前の冥福を祈るとは思えないが。それでもお前は祈るか。」
「お前は祈らないのか?」
つい口にしてしまってから、愚問だと気付く。暗殺者が死者の魂に祈るだろうか。
「祈らないな。」
それだけ切り取って絵に納めれば大層佳いポートレートになりそうな光景だった。柔らかな日溜まりの中、端正な黒衣の青年がゆったりと歩く。
足下に散らばる肉塊と広がる血溜まりと、青ざめて俯く革命家を枠の内から外せば、随分と平和な光景だ。
「…君は、どうして暗殺者などになったんだろう。」
小径を抜けて、やや開けた場所へ出る。それでもまだ血の臭いがまとわりついてきている気がした。
「死ななかったからだ。」
返されると思ってなかった回答は簡潔だった。
「他のものになろうとは思わなかったのか?」
「思わなかったな。」
ぐらぐらと視界が揺れる。雲一つ無い空が眩しい。
「思えば、死んでいた。」
我慢出来ずに木立にしがみついた。
「生き延びる為には、殺す業を身につけるしかなかった。俺の周りには、生きた暗殺者か死体しかなかった。」
「ああ…」
「俺が死体でなければ、暗殺者だ。ただそれだけだ。」
地面が歪む。何処までも空は遠く高く、太陽には手は届かない。
嘗ての同志に断罪された時でさえ、こんなにも深い悲しみは覚えなかった。憤りも、絶望も今までにない程深い。
「大丈夫か。」
腕を取られ支えられて、確かに生きた人の熱を感じながらも、酷く遠い。
彼に言葉は届かない。

泣く事さえ出来ずに立ち尽くした。

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