その世界は箱庭だった。
箱庭と言うよりは、迷宮であったかもしれない。
事実、その箱庭の中にすむ者達は其処を迷宮だと思っていた。

迷宮の如き箱庭には、数多くの魔物や魔獣や、その他危険なものが跋扈していた。
人々はそう言った危険に怯えながら懸命に生きていた。

だが、恐怖をもたらすからと言って、力が強いからと言って、
また時にどんな人間よりも賢いからと言って、
彼らが此の迷宮の支配者であった訳ではない。

支配者は一人の少女だった。

正確には、少女の形をしたもの、だった。
彼女は此の箱庭が創られた頃から目撃されている。
其の気の遠くなるような長い間、常に現れる彼女の姿は全く変わらなかった。
…勿論、其の年頃の少女らしく、服装の若干の変化はあるが。
長い栗色の髪、大きな焦茶色の瞳、象牙を刻んだ肌で年の頃は12,3。
常に紺碧の毛並みの獣を従え、気紛れに現れる。

気紛れに現れて、気紛れに「王冠(Crown)」を与える。

「王冠(Crown)」は、例えば強大な魔物を倒した勇者に。
例えば哀しみの歌を歌い続ける歌姫に。
例えば最後の神秘に辿り着いた錬金術師に。
…或いは、母を失い泣く子供に、
少女が何処からともなく現れて、与えるものである。

何時しか「王冠(Crown)」は力の象徴となり、知恵の象徴となり、
それを持つものは箱庭の中での絶対の栄誉と権威とを得るようになった。

だが、誰も其の本当の意味は知らなかった。





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