俺の同級生はサトリだった。
「驚きはないな」
軽い吟味の含まれた声に睨みつけてやったが堪えた様子はない。確かにまあ、やつがサトリだと言うこと自体に対しては、自分でもいささか不思議なことに驚いてはいない。
かと言って、「ああやっぱりな」という納得を覚えたかというと、そう言うわけでもない。
大体やつは無神経で人の心の機微というものに疎い。疎く見えた。
人の考えを読むという、伝説の妖怪様にはとても見えない。
だが、そもそも妖怪なんてものが実在するものなのか。
「そりゃお前、いちいち自分が自己紹介する時にヒト科ホモサピエンスでーす、って言うか?種族なんかとりあえず省略するだろ」
うん、まあそうだろうな。多分ホモサピエンスだけ集まってるはずの学舎に他種族混ざってるなんて誰も思いも寄らないよな。そんな中単一種族で構成されてるはずなのにわざわざそんな暗黙の了解ぶっ壊しに行かないよな。てか、人間社会に人間以外が混ざってることが想定の範囲外だよな。一体人類の何割が妖怪なんだ。
「そんなに多くはないよ。上手く立ち回れる種族はあまりいない。この町なら、50万人に1人いるかいないかってところかな」
それはつまりあれか。この町にいる妖怪はお前ともう1人、いるかいないかって言う事実か。
「ご明察」
褒められても嬉しくない。
残念ながら、やつがああいう顔で笑っている時は嘘は吐いていない。何もそれは俺がこの町にいるかもしれないもう1人の妖怪サトリだからだと言うからではなくて、経験則であり確率論だ。
「うん、お前は妖怪じゃあないしな」
17年間の自覚にお墨付きをありがとう。
「高校入って偶然にもお前のような頭の持ち主に会えて良かった。町に出るとこういう出会いがあるから良いな!」
持ち上げてくれないで良いからさっさとそのノートを写すなら写せ。サトリなのに日本史が苦手ってどういう事だ。
「暗記科目は苦手なんだ。で、この字はなんて読むんだ?」
悪筆は認める。が、それは普通に漢字の体をなしている。
「え、何でこれでウガヤフキアエズ?無茶じゃね?」
無茶じゃない。と言うかそこはただの雑談だったから無理に写さないでも良いと思う。
「お前のノートは板書よりも雑談メモの方が多いよな…」
うるさい。恨むなら雑談好きの先生を恨め。化学はこんなもんじゃねえぞ。
「それでテスト前に化学のノートは他のクラスのやつに借りてたのか。言ってくれれば貸してやったのに」
同じクラスで借りてもしょうがないだろうが。あの先生さっぱり授業進めないから。良いからお前は手を動かせ。
「はーい。じゃあこのご恩は別の形でお返しいたしましょうかね」
そうしろ。

俺の同級生はサトリである。疑う余地はない。

何せ俺は、この昼休みに一言も口をきいていない。
端から見ればやつが独り言をぶつぶつ言っているのをぼんやり眺めているだけだ。
でも俺の主観としては会話は成立している。してしまっている。

やつはにったりと笑って、ノートを閉じた。


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