参考1:前田氏の役職一覧

参考2:オピニオン「論」 犯罪統計と治安 浜井浩一・龍谷大法学部教授(2004.02.24 大阪朝刊)

参考3:日本の治安は再生できるか

参考4:諸君!2003年9月号「今月の新書完全読破」宮崎哲弥(評論家)

参考5:「統計は犯罪の実像を示しているのだろうか」

参考1
前田氏の役職一覧

■東京都立大学法学部長
■東京都治安対策専門家会議委員
■日本刑法学会理事
■法と精神医療学会理事
■出入国管理政策懇談会委員
■最高裁判所一般規則制定諮問委員
■東京都立大学評議員
http://www.nhk.or.jp/bsdebate/0405/guest.html
■司法試験考査委員一覧(平成13年度)
http://members.at.infoseek.co.jp/barexam/iin13.htm
■少年補導センターの在り方等に関する研究会委員
平成15年5月15日現在
座長
http://www8.cao.go.jp/youth/suisin/hodou/homeibo3.html
■女性に対する暴力に関する専門調査会
平成15年12月15日現在
http://www.gender.go.jp/danjo-kaigi/boryoku/meibo-bo.html
http://www.gender.go.jp/danjo-kaigi/boryoku/siryo/bo12-2.pdf
■総合セキュリティ対策会議委員長
http://www.npa.go.jp/cyber/security/h15/syokai.htm
■IT時代の選挙運動に関する研究会委員
http://www.soumu.go.jp/singi/it_senkyo.html
■ヘルパー吸引検討委員会
http://homepage3.nifty.com/jalsaechigo/newshouse-9/9-28.03-2-3kouroushoukaigi1.html
■IT戦略本部 情報セキュリティ専門調査会
http://www.bits.go.jp/kaigi/tyousakai/dai1/1gijiyousi.html
■青少年の育成に関する有識者懇談会(第8回)
(協力者)
http://www8.cao.go.jp/youth/suisin/ikuseikon/kondan021018/08gaiyou.html
■平成16年度社会安全研究財団研究助成応募要領選考委員会
http://www.syaanken.or.jp/topx/topx2004.htm
■懸賞論文『未来を負託できる青少年の育成方策』の応募要項
主催 財団法人公共政策調査会、警察大学校警察政策研究センター
後援 警察庁、読売新聞社
協賛 財団法人社会安全研究財団
選考委員
http://www.yomiuri.co.jp/koho/news/20030623_01.htm
■コミュニティセキュリティカメラシステムに関する調査研究委員会
http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/seian/kamera/image/siryou1.pdf
■首都大学東京都市教養学部学部長予定者
http://www.metro.tokyo.jp/INET/OSHIRASE/2004/04/20e4s200.htm
■第25期東京都青少年問題協議会委員名簿副部会長
http://www.metro.tokyo.jp/INET/KONDAN/2004/01/40e1d100.htm
■東京都男女平等参画審議会
http://www.metro.tokyo.jp/INET/KONDAN/2004/03/40e3m400.htm
■事故報告範囲検討委員会
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/i-anzen/3/jirei/
■東京都安全・安心まちづくり有識者懇談会
http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/seian/ansin/image/hokoku.pdf
■子どもを犯罪に巻き込まないための方策を提言する会座長
http://www.chijihon.metro.tokyo.jp/chian/kodomo/kinkyuteigen.pdf

講演

■日本女性法律家協会
東京都立大学教授 前田雅英先生の講演録(2001年6月16日)
http://www.j-wba.com/topics/oldmain-topics.html#20010616
■姫路市市民局市民活動部 安全安心推進課
前田先生講演記事
http://www.city.himeji.hyogo.jp/anzen-ansin/simintaikai/maedakouen.html
■「安全・安心な社会の構築に資する科学技術政策に関する懇談会」
(講 師)
http://www.mext.go.jp/a_menu/kagaku/anzen/gijiyoushi/03112801.htm
■女性に対する暴力に関するシンポジウム
平成14年11月25日(月)
I. 基調講演
女性に対する暴力をめぐる近年の動向について〜売買春を中心に〜
東京都立大学教授 前田 雅英氏

国会参考人質疑

■第150回国会 法務委員会 第8号
平成十二年十一月十七日(金曜日)
参考人
http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/sangiin/150/0003/15011170003008c.html
■150 - 参 - 地方行政・警察委員会 - 3号
平成12年11月14日
参考人
国会会議録検索ステムで閲覧可
■154 - 衆 - 法務委員会厚生労働委員… - 2号
平成14年07月09日
参考人
http://www.shugiin.go.jp/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/012215420020709002.htm
■156/衆/青少年問題に関する特別委員会/5号/2003年5月8日
参考人
http://www.ishii-ikuko.net/kokkai/156/gijiroku/030508syounen-isii.htm
■159 - 参 - 法務委員会 - 10号 平成16年04月13日
参考人
国会会議録検索ステムで閲覧可
■159 - 衆 - 内閣委員会 - 11号 平成16年04月28日
参考人
http://www.shugiin.go.jp/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/000215920040428011.htm


参考2
『オピニオン「論」 犯罪統計と治安 浜井浩一・龍谷大法学部教授(2004.02.24 大阪朝刊)』

 犯罪が激増し、凶悪化する一方、検挙率はガタ落ち。世界一を誇っていた日本の「安全神話」は崩壊した、といわれる。だが、法務省時代に欧米に派遣され犯罪学を研究する一方、刑務所で受刑者と面接して犯罪統計を洗い直した経験から、浜井浩一・龍谷大学法学部教授は「犯罪はそれほど増えていない。凶悪化もしていない」と真っ向から否定、「むしろ刑務所が福祉施設化しているのが問題だ」と主張する。なぜか。論拠を聞いた。 【編集委員・奥田昭則】

 ◇検挙率低下は表の数字、背景に警察の方針転換

 ――日本列島を犯罪不安が覆っています。東京の地下鉄サリン(95年)以来、神戸の連続児童殺傷(97年)、昨年は福岡・一家殺害など、凶悪事件が絶えない。

 ◆犯罪不安が犯罪統計の数字を増やす、という一面がある。対策をとればとるほど治安がさらに悪化したように見える。社会の変動期に犯罪不安が起きやすい。不況で、ひったくり、侵入盗、「おれおれ詐欺」などの財産犯がゆるやかに増えてはいる。しかし、殺人はここ7、8年横ばい。長い目で見れば戦後一貫して減少している。

 ――犯罪認知件数は昭和期の2倍を超え、300万件に迫る勢いです。

 ◆警察統計は、警察の方針次第で動く面がある。かつて公安警察が主流で世界一の検挙率を維持するのが目標だった時代がある。そのために「自転車盗」を使った。例えば夜中に放置自転車に乗った若者を職務質問して止めると認知イコール解決で、検挙率100%。どんどん解決する。統計のマジックだ。一方、男女や親子の争いなどは民事不介入が原則だった。

 ――検挙率約20%は戦後最低水準。なぜここまで落ちたのか。

 ◆過去20年間の警察庁長官の訓示を調べ、犯罪統計にどう影響したか、分してみた。88年、金澤昭雄長官になって方針転換している。公安重視から国民が求めている警察」へシフト。また96年、国松孝次長官当時に「被害者対要綱」を出し、さらに変わった。ただ、警察は巨大階級組織で、上が変わって現場の警察官の意識が変わるまでに時間がかかる。
 その最中の99年に桶川ストーカー事件が起き、警察の対応の悪さが厳しく判された。それ以降「告訴・告発は全件受理しろ」と指示を徹底し、一変した。男女や親子間のもつれ、ヤミ金融など全部受けて、ものすごく忙しくなった。「オイ、コラ」の警察が泣き寝入りしていた被害者の訴えを聞くようになったのは良いことだが、おかげで余罪捜査がほとんどできなくなった。刑法犯の8割以上が窃盗で100件以上、余罪のあることが多い。検挙率が急に低下したのも当然だ。

 ――刑務所が過剰収容の状態だそうですね。

 ◆昨春学者になるまでの3年間、横浜刑務所勤務だったが、治安悪化には実感がなく、疑問に思って多い時で1日5人、受刑者を面接してみた。食いっぱぐれて入ってきた人が多い。老人や病気持ち、障害者、中国人らだ。リストラで最初に首を切られる。一番困ったのは痴呆老人だ。本来、刑務所で処遇するような人たちじゃない。刑務所が「社会的弱者」の福祉施設化している。確かに罪を犯したのだろうが、「まず、食えるようにしてあげた方がいいんじゃないか」と思った。

 ――小泉内閣の全閣僚が出席した昨年12月の犯罪対策閣僚会議で、「犯罪に強い社会の実現のための行動計画」を決めました。少年の街頭犯罪や、外国人の侵入盗を重視して「少年や外国人をスケープゴートにしている」ともみられる。

 ◆日本のおとなから見て「えたいが知れない」という点で共通していると思う。非難されても何も言わないし、何も言えない。だから言いたい放題になりがちだ。刑務所に入っている外国人は、言葉が通じないので扱いは面倒だが、凶悪な人はいなかった。また犯罪の「低年齢化」は少年非行の専門家なら誰でも否定する。非行は14〜16歳でグンと増え、その後、高校に進学して就職すると落ち着く。ところが今は就職できず、フリーターになる。暴走族も足を洗えない。
若者の失業でむしろ少年非行が「高年齢化」している方が問題だ。

参考3
日本の治安は再生できるか

ISBN:4480061169
206p 18cm
筑摩書房 (2003-06-10出版)

・前田 雅英【著】
[新書 判] NDC分類:368.6 販売価:\714(税込) (本体価:\680)

以下、本書の問題点。(注:※は本文に対するコメント)

>第一章 危機的な治安状況
※この章では、刑事システムを概ね逆にたどる形で統計が提示され(刑務所統計→裁判所統計→検察統計→警察統計(検挙) →警察統計(認知))、システムを遡るほど犯罪増加の著しいことが印象付けられています。

しかし、ふつう犯罪発生の指標として用いられているのは警察の認知・検挙件数及び検挙人員で、司法統計など刑事システムのより進んだ段階における統計ではありません。このような比較によって警察統計の変化を強調しても、あまり意味があるとは思えません。

p.8
>テレビや新聞は、たとえば少年たちになぶり殺しにされた(中略)原因や背景の探求と、厳格な処罰は両立する。

※マスコミによる名古屋刑務所暴行事件の掘り下げが甘い、という話から連想的に脱線しています。この後も何かにつけて少年問題に脱線します。

p.21-23
>図2 戦後全刑法犯犯罪率の推移(交通業過を除く 人口10万人あたり)
>さて、図2は日本の犯罪状況を示すものとしてしばしば使われる、刑法犯犯罪率の推移を示したものである。たしかにこの図には、現在の日本の犯罪状況が最も分かりやすい形で示されているといってよいだろう。
(中略)
>図3 刑法犯認知件数の推移 (交通業過を除く)
>しかも、犯罪率は人口一〇万人あたりのものである。したがって、戦後は人口が少なかったため、犯罪率は相対的に高くなる。犯罪の認知件数そのものをみると、最近の犯罪増の激しさがいっそう鮮明なものとなろう。

※著者は一体どのような基準で統計を選んでいるのでしょうか?
なぜ認知件数を人口で割ったものが指標として用いられているのか、考えたことが無いのでしょうか?客観性・一貫性を欠いた基準で物事の序列を決め、深刻さが増していくかのような印象を与えるように並べていくのが著者の常套手段だと思われます。

p.26
>刑務所を所管する法務省の収容者数の増減に関する統計数値と、裁判所が公表している実刑言い渡しの数は、おおよそ一致している(図4)。そして裁判所で実刑を言い渡される被告人の数は、基本的に有罪人員に比例する。しかし実は、最近は有罪人員の増加の割合のほうが、実刑の増加より著しいのである。その理由は、このところ執行猶予率が高くなってきていることに求められる。

※この引用部分の後で著者自身が執行猶予率(または実刑率)は戦後前半期からずっと変化してきていることを詳述しているにもかかわらず、「基本的に比例している」などと書くのは矛盾しています。

p.28
>ただ先に見たように、刑務所の現場では、まさに平成の収容者の増加が、容易に対応しえないほど著しいものであり、あれよあれよという間に刑務所が溢れてしまった。実刑率が落ちているにもかかわらず、である。

>ということは、裁判所ではそれを上回る勢いで有罪人員が増加していたはずである。事実、有罪人の人員の推移は図4に示したとおり、増加が著しい。そして、有罪人員の増加傾向は止まっていない。ということは、刑務所人口も今後、確実に増える。

※実は先ほどと同じことを繰り返し述べているだけなのに、「ということは、裁判所ではそれを上回る勢いで有罪人員が増加していたはずである」などと、さも驚くべき新事実を発見したかのように書いています。

p.29
>図4 有罪人員の推移

※図中の実刑人員は刑法犯だけの値なのか、それとも特別刑法犯も含まれているのか分かりません。

この図に限らず、同書は全編を通じて何の統計値を使ったのか分からない場合が多く、検証が非常に困難です。それに加えて、データは何らかの操作を施された○○率という形で示されることが多く、しかも、それらの指標の解釈がどうにもよく分からないものである場合が少なくありません。

p.32
>ただ、犯罪増加の時期が問題である。図4の有罪人員の増加の時期と、図2の犯罪率の上昇の時期とは著しい乖離がある。犯罪が増えたのに、なぜ有罪となる人数(裁判にかけられる被告人の数とほぼ一致する)は増えなかったのだろうか。

※著者は警察による犯罪認知状況と裁判所統計の間にあるタイムラグに注目し、以下に示す二つの理由を挙げています。

・犯罪増加の主役である少年が通常第一審の刑事手続きの対象とされていない
・(成人の)微罪処分率と少年簡易送致率が上昇した

しかし、この点に関する一連の記述にはかなり問題があります。

まず、問題提起の仕方が奇妙です。犯罪率には人口変動の要素が絡むので、実人数である有罪人員と比べるのは無理があります。図3を持ち出す際に人口変動による影響の大きさを指摘していながら、なぜ図4を図2と比較しようとするのか理解に苦しみます。

分析にも難があります。

第一に、認知から裁判所の判決に至るまでのプロセスのうち、警察による検挙よりも先に進んだ部分しか扱っておらず、これでは片手落ちです。特に、警察が政策転換をして軽微な事案よりも重要な犯罪に力を入れるようになったために、1989年から検挙人員と検挙件数が大幅に減少し、検挙件数・人員と認知件数の乖離が進みました。

理解しがたいのは、この政策転換は著者自身も第一章の最後に指摘しているのに、犯罪認知と有罪判決の関係を論じるときには無視していることです。

『平成14年版犯罪白書』
資料1-1 刑法犯の認知件数・検挙件数
http://hakusyo1.moj.go.jp/nss/list_body?NSS_BKID=43&NSS_POS=246

第二に、少年が犯罪増加の主役であるという分析結果は犯罪行為と犯罪者の数の混同に基づくものです。確かに犯罪者の数である検挙「人員」に関しては1975年以降10年ほど少年を中心に増えており、成人は横ばいです。

『平成15年 警察白書』
第3章 犯罪情勢と捜査活動
図3-1 刑法犯の認知・検挙状況の推移(昭和21〜平成14年)
http://www.pdc.npa.go.jp/hakusyo/h15/html/E3001010.html

第2章 生活安全の確保と警察活動
第4節 少年の非行防止と健全育成
図2-16 刑法犯少年の検挙人員,人口比の推移(昭和24〜平成14年)
http://www.pdc.npa.go.jp/hakusyo/h15/html/E2401010.html

しかし、犯罪行為の数である検挙「件数」は成人も少年も同程度に増えています。

犯罪白書等で認知・検挙件の統計にあたってみると、著者が転換点とする1975年の後、1986年までは両者の変動数がかなり一致しています。そして、警察庁の犯罪統計書『昭和50年の犯罪』『昭和61年の犯罪』によって成人事件、少年事件、成人・少年共犯事件の検挙件数(解決事件を除く)を1975年と1986年で比較すると次のようになります。

成人事件 50万8,182(1975年) → 65万3,329(1986年) +14万5,147
少年事件 17万9,009(1975年) → 31万4,847(1986年) +13万5,838
成人・少年共犯事件 9,369(1975年) → 1万0,460(1986年) +1,091

『昭和50年の犯罪』
37 罪種別 成人・少年事件別 共犯数別 検挙件数
『昭和61年の犯罪』
24 罪種別 成人・少年事件別 共犯形態別 検挙件数

したがって、犯罪の認知と有罪判決の関係を分析するのに少年を持ち出すよりは、なぜ成人の検挙件数と検挙人員が連動しないのか調べた方がよいと思われます。

用語の説明

少年率とは、検挙人員(14歳以上)に占める少年(14〜19歳)の割合をいう。
少年関係事件率とは、解決件数を除いた検挙件数に占める少年事件及び成人・少年共犯事件(解決事件を除く)の割合を言う

第三に、「微罪処分率と少年簡易送致率が上昇した」という点については、「少年が通常第一審の刑事手続きの対象とされていない」のですから、あとは成人の検挙者について警察から先のプロセス(検察、裁判所)を分析すればよいのですが、著者が図7に示した微罪処分・簡易送致の割合に少年のファクターが含まれているため、非常に不透明になっています。

加えて、有罪人員と成人の検挙人員の推移は良く似ており、微罪処分率の影響がそれほど重要なのかという疑問が残ります。


p.39
>一九七〇年代後半からの刑法犯の増加にも関わらず、検察庁で受理した人員は図6で示したように八〇年代には微増するが、その後は減少している。

※図6は検察庁の受理人員ではなく「戦後起訴率の変化」のグラフです。自分で作成したグラフを間違って引用しています。

p.43
>もちろん、認知件数は不正確で、現実に検挙された数をもとに「犯罪数」を確定すべきだという議論も考えられなくはない。しかし、認知件数のデータの収集方法が変更されたわけではない以上、検挙率が落ちたからといって犯罪状況の指標を従来用いていたものから変えてしまうのはおかしな事である。

※犯罪統計細則に大きな変更は無いかも知れませんが、被害届の取り扱いは明らかに変わってきています。

p.45
>検挙率が急降下している状況の中では、「検挙人員がさして増えていないのに、警察が少年犯罪増をあおっている」という評論家は、善意で発言しているのかもしれない。しかし、検挙率が三分の一になっても検挙数が減っていないということは、大変なことなのである。

※「検挙率が三分の一になっても検挙数が減っていない」とありますが、1989年から1992年にかけて検挙率が大きくの低下した際に少年の検挙人員はかなり減少しています。罪種や被疑者の年齢によってかなり傾向が違うので一概には言えませんが、いずれにしても、検挙率と検挙人員の関係についてはもっと掘り下げが必要だと思われます。


p.46
>いずれにせよ、凶悪犯罪の検挙人員も認知件数の増加を反映しなくなった。

※増加率が認知件数に及ばない、というだけであって、検挙人員は認知件数の増加と共に増えています。そして、少年は1997年に急増した後は横ばい、成人は1998年以降右肩上がりとなっています。

 『平成13年の犯罪』
3 年次別 府県別 罪種別 認知・検挙件数及び検挙人員
http://www.npa.go.jp/toukei/keiji10/index.htm

p.47
>†なぜ検挙率が落ちたのか
>平成元年からの第一段の検挙率の低下は、警察庁の政策転換が現れたものであった。警察庁次長通達として、「職務質問の適正化」の指示が出された。その実質を分かりやすく言えば、犯罪検挙に大きな影響を持つ地域警察(交番の警察官等が中心と考えてよい)に対し、軽微な事案の検挙よりも重要な犯罪の摘発に力を入れるよう指示したのである。

>昭和五〇年代から増勢に転じていた犯罪状況に対応するため、限られた数の大切な警察官を、重大な犯罪の捜査などに重点的に投入しようとする狙いが合った。事件は増え、週休二日が導入され、しかも増員がほとんどない中で、合理的な選択であったと言えよう。だから、一時的に自転車窃盗などの検挙率が落ちても、さほど危機意識は無かった。

>ちょうど同じ時期に、検察も起訴率を下げた。数少ない貴重な検事・副検事・検察事務官を交通事故に起因する刑事事件よりも、重要な案件に投入すべきだと考えたのである。このような政策の当否については、いろいろな意見がありうるが、これをきっかけに検挙率の低下が始まったことは、ほぼまちがいない。

※第三章で著者は成人と少年の犯罪率を推定して「少年犯罪の増加が、戦後後半期の犯罪増加をもたらしてきた」と述べており、上の引用部と併せて考えれば、「少年犯罪の増加によってもたらされた戦後後半期の犯罪増加に対応するために警察が政策を転換した」と言いたいのだと思われます。

しかし、著者の犯罪増加要因分析は検挙人員をベースにしている点で失当といえます。前述のように犯罪の検挙件数は成人と少年で同じだけ増えており、推定値に関しても著者が検挙件数をもとに分析を行っていれば全く違う結論に達していたと思われます。

また、検挙率低下の理由として検察が起訴率を下げたことを挙げていますが、検挙率が20%を切ったとして問題になっているのは交通業過を除いた刑法犯であって、著者も指摘するように交通業過を除いた刑法犯の起訴率は下がっていません。

>第2章 国家の存立を脅かす外国人犯罪

※この章の特徴は留置場や裁判所など、検挙から先のプロセスに関する統計を多用していることです。そもそも、これらの統計は何重ものフィルターを得た結果であり、犯罪発生状況を的確に表しているか疑問があります。したがって、より発生状況に近いと思われる検挙活動の統計を用いたほうがまだよいと思われます。
また、肝心の検挙件数・人員の統計では「犯罪増加に対する外国人の影響はどの程度か」という点についてまともな議論が一切行われていません(警視庁の留置人員の分析では日本人と外国人を比較するグラフを用いて外国人の増加が強調されています)。

p.50
>†凶悪犯の急増
>犯罪率のグラフで示したとおり、ここ一〇年間の犯罪の増加は異常である。そして、それは一部に言われるような「軽微な犯罪を中心とした現象」ではない。たしかに絶対数では窃盗の増加が目立つが、同時に重大な窃盗事犯も増えている。しかし、それ以上に、凶悪犯罪、重要犯罪の増加率が目立つのである。
>もちろん、詐欺のように減少した犯罪も皆無ではないのだが、重要な犯罪は、ほぼ全て増加している。
>特に目立つのは、二一八九件(平成四年)から六三九三件(平成一三年)に増えた強盗罪、三五〇五件から九三二六件に増えた強制わいせつ罪、六七七三件から一万六九二八件に増えた暴行罪、九二三件から二三〇〇件に増えた脅迫罪、一万四八件から一万九五六六件に増えた恐喝罪、一万八八五四件から三万三九六五件に増えた傷害などである。

※粗暴犯の認知件数は2000年の警察改革と時期を同じくして急増しています。性犯罪の認知件数は1996年に被害者対策要綱が出され、また2000年に警察改革が行われた時に急増しています。

殺人は1993年から微増傾向にありますが、2000年からは未遂と予備の増加が目立っています。そして、少なくとも1980年以降は50%台を維持してきた認知件数における既遂の割合が突然40%台に落ちました。そして、少なくとも警察庁の最新の犯罪統計書『平成14年の犯罪』で調べられる2002年まで、既遂率は下がったままです。

強盗を手口別に見ていくと、上り込み強盗による増加も多いですが、ひったくりと恐喝からの罪名変更の疑われる路上強盗が強盗全体の増加に最も大きな影響を与えています。

『平成12年の犯罪』
『平成13年の犯罪』
『平成14年の犯罪』

2 罪種別 既遂・未遂・予備別 認知・検挙件数及び検挙人員
3 年次別 府県別 罪種別 認知・検挙件数及び検挙人員
4 年次別 府県別 強盗 手口別 認知・検挙件数及び検挙人員

http://www.npa.go.jp/toukei/keiji4/mokuji.htm
http://www.npa.go.jp/toukei/keiji10/index.htm
http://www.npa.go.jp/toukei/keiji8/H14_toukei.htm

さらに、警察庁の犯罪統計書で強盗を手口別、被害額別に調べてみると、概ね増加傾向にはあるものの途中で不自然なジャンプの見られるケースが少なくありません。強盗が増加傾向にあることは事実だとしても、その認知件数の増加を額面どおりに受け取ってよいかどうか、議論の余地があると思われます。

p.52
>いずれにせよ、これまで経験したことのない犯罪の急増は(中略)検挙率の低下を招いた。

※本全体を通じて、2000年前後に起きた検挙件数の減少にはなぜか一切触れていません。

p.52
>ただ、暴力団の受刑者は減っている。そして、その基礎となる検挙人員も減った。この一〇年で、三万二八五〇人(平成四年)から六%減少したのである。この一〇年で検挙率が落ちたものの、全刑法犯検挙人員は二八万四九〇八人から一四%も増加しているのである。

※ここに示された全刑法犯検挙人員は一般刑法犯の数値で、暴力団検挙人員は一般刑法犯と特別刑法犯の合計です。従って比較になりません。

 『平成13年の犯罪』
犯罪の概況
3 年次別 府県別 罪種別 認知・検挙件数及び検挙人員 
http://www.npa.go.jp/toukei/keiji10/index.htm

p.53
>現在、増加が特に目立つのは強盗罪である。そこで、最近の強盗罪の増加に影響した因子を探してみると、まず外国人犯罪が挙げられる。たとえば日本で検挙された事件の三・四%が来日外国人によるものであるが(平成一三年)、来日外国人の強盗罪検挙件数の割合は、その倍の七%となっている。

※どこが「たとえば」なのか分かりません。時系列に沿った比較ですらありません。著者が第二章のはじめに犯罪の増加率を求めた1992〜2001年の比較では、来日外国人犯罪は全体の増加の一割未満に過ぎません。

 強盗検挙人員
1,780人(1992年) → 4,096人(2001年) +2,316人
うち来日外国人
118人(1992年) → 309人(2001年) +191人

 強盗検挙件数
1,525件(1992年) → 3,115件(2001年) +1590件
うち来日外国人
95件(1992年) → 219件(2001年) +124件

 『平成13年の犯罪』
4 年次別 府県別 強盗 手口別 認知・検挙件数及び検挙人員
132 刑法犯 年次別 国籍別 来日外国人による検挙件数及び検挙人員
 http://www.npa.go.jp/toukei/keiji10/index.htm

用語の説明

来日外国人率とは、検挙件数に占める来日外国人事件または検挙人員に占める来日外国人の割合をいう。

p.55
>†外国人被告人の多い地域
>外国人犯罪の増加は、当然、裁判の場にも見られるはずである。事実、通常第一審裁判所の被告人、八二万八六八五人中、なんと九五九四人が外国人で占められてしまった(平成一三年)。一一.六%は外国人被告人なのである(表2)。

>しかし、地域差が激しい。現在でも北海道や九州では、外国人被告人が五〇人に一人以下の裁判所も多い。ところが東京地裁では、四人に一人以上が外国人被告人なのである。外国人被告人は東京を中心に関東と中部に同心円状に広がっている。一般の犯罪率は、東京以上に福岡や大阪が高い。北海道もかなり高い。それに比較すると、外国人犯罪は、なお東京に核があり、遠くになるにしたがって率が減少する傾向にあるといえよう。
 
>また、注目すべきは中部地方である。長野や三重の率が高く、愛知、岐阜も少なくない。大阪より外国人被告人が多いという点は、やや意外な感じがする。その地域では、ブラジル人の被告人が目立つ。しかしやはり、東京の周辺に外国人被告人が集中しているのは確かだ。また関東北部にも外国人犯罪の多発地域が存在する。

※ここで著者は地域ごとの外国人犯罪の状況を司法統計によって分析しようとしています。しかし、検挙人員ではなく、何重にもフィルターのかかった第一審の被告人数統計を使うのは適切ではありません。

著者の分析は通常第一審の被告人に占める外国人の割合を基本にしているようですが、どうにも不可解です。表2は各都道府県の通常第一審被告人に外国人の占める割合のはずですが、そのタイトルは「外国人の犯罪率」です。ふつう外国人の犯罪率といったら、認知件数を住民の人口で割った「犯罪率」のような住民人口に対する外国人犯罪数か、或いは「検挙人員人口比」のように外国人全体に占める外国人犯罪者の割合を想像します。このようなタイトルの付け方には違和感が拭えません。

「外国人被告人は東京を中心に関東と中部に同心円状に広がっている」「外国人犯罪は、なお東京に核があり」「東京の周辺に外国人被告人が集中している」というのも、果たして外国人と日本人の対比である第一審被告人に外国人の占める割合にもとづいて論じるべきことなのか疑問です。

東京よりも福岡や大阪で高いとされる「一般の犯罪率」は、ここでの「犯罪率」が認知件数を人口で割ったものを指しているのでしょうから、これと比較されている「東京から遠くになるにしたがって減少する傾向がある」率は各都道府県の人口に対する外国人犯罪の率の筈ですが、本当にそうなのでしょうか?

中部地方の各地域を大阪と比べて「外国人被告人が多い」と書いていますが、外国人被告人の数が多いのは大阪の方で、中部地方のほうが高いのは外国人被告人の「割合」です。

総じて、「率」といいながら複数の概念が区別されずに使われているような印象を受けます。

なお、通常第一審裁判所の被告人が82万8,685人とありますが、9,594人はその1.2%に過ぎず、11.6%に遠く及びません。通常第一審事件の終局総人員数8万2868人を写し間違えたのではないかと思われます。

 『平成13年度版司法統計年報』
第 24 表 細別表 刑事第一審事件 通常第一審事件の終局総人員 合議・単独,自白の程度別弁護関係別 全地方・簡易裁判所
第 38 表 細別表 刑事第一審事件 外国人の通常第一審事件の終局総人員 終局区分別 地方裁判所管内全地方裁判所・全簡易裁判所別
http://courtdomino2.courts.go.jp/tokei_y.nsf/2d9f062bbe3217b049256b69003ae2b5/5dd627a7d91b44a849256d51000f7ed2?OpenDocument

p.62
>†問題なのは来日外国人
※刑法犯総数(交通業過を除く)では検挙件数59万2,359件のうち2万4,258件に過ぎない来日外国人犯罪が犯罪増加の大きな要因になるとは考えるのは無理があります。

 『平成14年の犯罪』
1 罪種・態様別 認知・検挙件数及び検挙人員
131 刑法犯 年次別 国籍別 来日外国人による検挙件数及び検挙人員」
http://www.npa.go.jp/toukei/keiji10/index.htm

>図15 外国人犯罪検挙数の推移

※縦軸が(万人)となっていますが、(万件)の間違いです。検挙件数は検挙人員の2倍〜4倍です。

p.64
>中部地方に外国人犯罪が急増したのも、ブラジル人の犯罪の増加と関連する。そして、これらの地域では軒並み検挙率が落ちてしまったのである。

※検挙率低下は中部地方だけの現象ではなく、2000年の警察改革が主な原因だと思われます。いずれにしても、検挙率低下とブラジル人犯罪の増加を併記しただけでは両者の因果関係を示した事にはなりません。

>第三章 治安悪化の根源としての少年問題
p.80
>1.急増する少年犯罪
>†強盗の主役は少年
>外国人以上に注目すべきなのは、やはり少年である。最近の強盗罪検挙人員の中で、少年の割合の増加が目立つ。増加した結果、四割を超えているのである。さらに、ここで注意しておかなければならないのは少子化傾向であり、少年(すなわち十四以上二十歳未満)の人口は七%に満たないという事実である。それだけ、少数の少年が四割以上の強盗を犯していることになる。人口十万人あたりの成人の強盗の検挙人員は二・四人であるが、少年は十九・二人なのである。実は刑法犯全体を見ても、人口十万人あたりの成人の検挙人員は一八三・六人であるのに対し、少年は一六〇〇人で、八・七倍である(二〇〇一年の統計による)。

>このように、最近の強盗事件の増加に少年が大きく関与していることは疑いない。ただ、後述のように、成人の事件数も増加している。当然といえば、当然なのだが、実は一〇年前まで、成人の犯罪は全体として減り続けていたのである。それがついに、成人も増加に転じた。だから、最近の異常な犯罪増加率が出現したのである。

※著者は強盗の増加要因について「このように、最近の強盗事件の増加に少年が大きく関与していることは疑いない」と書いています。その直後に「ただ、後述のように、成人の事件数も増加している」という(恐らく強盗ではなく刑法犯全体に関する)記述があるために非常に読み取りづらくなっているものの、第六章の記述から、著者が少年を強盗増加の主要因だと考えていることが分かります。

p.190
>ここで改めて確認しておかなければならないのは、上昇率が特に高くなっているのは、軽微な窃盗事犯などではなく、強盗に代表される重大事犯だということである。統計値もマスコミ報道もそのことを示しており、国民の不安は高まっている。そうだとすれば、なりふりかまわず、強盗事犯等の上昇を止めていかねばならない。

>そのような観点から、まず取り組まなければならないのは、来日外国人犯罪であり、少年犯罪である。前述のように、その二つが、強盗などの急増の最も主要な因子だからである。

※著者はこのような主張の根拠として、強盗検挙人員に占める少年の割合の増加、成人・少年の人口10万人あたりの強盗検挙人員及びその比を挙げていますが、これは論理飛躍としか言いようがありません。

強盗検挙人員に占める少年の割合の増加は、少年の増減率が成人の増減率よりも大きいということを意味しているに過ぎません。少年が横ばいでも成人が減少する、あるいは少年が減少していても成人がそれ以上の勢いで減少していれば、少年の割合は増加します。従って、このような指標だけ持ち出しても不十分で、全体の増加にしめる少年の割合を求めるためには、他に強盗の検挙人員総数のデータが必要です。そもそも、強盗検挙人員に占める少年の割合など持ち出さず、単純に成人と少年の検挙人員を比較すればよいだけの話です。

また、成人・少年の人口10万人あたりの強盗検挙人員及びその比を持ち出すのは部分と全体の混同です。全体に対する人口比の影響を考えるためには、他に年齢別人口に関するデータが必要になります。

1980年以降の強盗の検挙人員は、認知件数と共に1989年を底とするV字型になっています。そして1989年と著者の検討期間の最後の年である2001年を比較すると

 強盗検挙人員
1,444人(1989年) → 4,096人(2001年) +2,652人

 うち成人
8,70人(1989年) → 2,426人(2001年)  +1,556人

 うち少年
5,74人(1989年) → 1,670人(2001年)  +1096人

となり、検挙人員増加の41%を少年が占めています。最近の強盗検挙人員の増加に少年が大きく関与しているとは言えそうですが、過半数は成人なのです。したがって、成人を脇に置いたまま、検挙人員を根拠に少年犯罪が強盗などの急増の最も主要な因子であると主張するのはやや無理があると思われます。

さらに、「事件の増加」を問題にするならば検挙「件数」のデータを用いなければなりません。1980年以降の強盗の検挙件数は、人員と同じく1989年を底とするV字型になっています。そして1989年と2001年を比較すると

 強盗検挙件数(解決件数をのぞく)
1,198件(1989年) → 3,085件(2002年) +1,887件

 うち成人事件
846件(1989年) → 2,174件(2002年) +1,328件

 うち少年事件
306件(1989年) → 723件(2002年)  +417件

 うち成人・少年共犯事件
46件(1989年)→188件(2002年)   +142件

となり、強盗検挙件数の増加は70%が成人事件で、少年事件の3.2倍、少年事件と成人・少年事件の合計と比較しても2.4倍増えているという結果になります。

したがって、強盗増加も最も主要な因子が少年犯罪であるという主張は成立ちません。先述の来日外国人犯罪についても同様です。

 『平成元年の犯罪』
20 罪種別 成人・少年事件別 共犯形態別 検挙件数
39 罪種別 犯行時の年齢別 検挙人員(総数表)

 『平成13年の犯罪』
17 罪種別 成人・少年事件別 共犯形態別 検挙件数
40 罪種別 犯行時の年齢別 検挙人員(総数表)
http://www.npa.go.jp/toukei/keiji10/index.htm

なお、少年による強盗の検挙数は1997年に急増した後に横ばいという不自然な推移を示しており、恐喝やひったくり(窃盗)の一部を強盗として扱うようになったのではないかという指摘が、立教大学の荒木伸怡教授を始めとする複数の専門家から出ています(参考資料5)。

この章の第一節「急増する少年犯罪」では、治安対策における少年犯罪の重要性を強調するために、検挙件数と検挙人員、それに部分と全体の混同による的外れな分析が延々と繰り返されています。

p.83
>†少年の犯罪数を推定してみると
> しかし、何より注目すべきなのは、図26に示したように、少年の刑法犯数が戦後ほぼ一貫して増え続けてきたという事実である。なお、単純に少年一〇万人あたりの少年の検挙人員をグラフ化すると、各種白書類に見られるように、平成に入り、少年犯罪は若干減少し、ここ三、四年改めて増加を始めたようにも評価できる。

 >しかし、これまで強調してきたように、平成以降、検挙率が急激に変化したのである。そこで、戦後の少年犯罪の発生状況一貫したものとして、おおよその比較をするために、各犯罪類型の認知件数を、成人と少年の検挙人員に従って割り振った数値を推定して描いたのが図26である。
> 具体的には、各年のそれぞれの犯罪類型における認知件数を、検挙された成人と少年の比率で分け、それぞれを合算した数値の人口比を求めたものである。犯罪類型により、少年が犯しやすいものもあれば、そうでないものもある。そこで、個別に分類して推定値を算出して合算したのである。

 > もとより、「認知はされたが、検挙されなかった事件は、その年、その犯罪類型に関しては、検挙された成人対少年の比率に応じたものである」ということが仮定されている。その意味でおおよその推定でしかないことに注意していただきたい。

>†戦後、少年はただただ犯罪化した
この、図26に示されているように、少年刑法犯は、ほぼ一貫して減少し続けている成人刑法犯と際立った対象を示している。この少年犯罪の増加が、戦後後半期の犯罪増加をもたらしてきたのである。

 >すでに示したように、わが国の犯罪発生状況はU字型を描く。昭和五十(一九五七)年を境に、前半は減少し、後半は増加したのである。前半期に犯罪が減少したのは、高度成長期が終わるまでの期間、成人犯罪がかなりの勢いで減少したからである。成人犯罪の減少が、少年犯罪の増加を「吸収してくれていた」と言ってもよい、

 > 図26は人口十万人あたりの数値なので、成人の減少幅が小さいように見えるが、犯罪率に関する図2に関するグラフとの関係で見れば、実際にはその数倍の影響をもたらした。

著者は検挙率の低下を理由に推定犯罪率なる指標を導入し、さらにそれが犯罪率にどのような影響を与えたのか分析しています。しかし、推定犯罪率の計算法と結果の解釈、犯罪率への影響の分析に至るまで、問題点が多々あります。

・推定犯罪率の計算法に関する問題点
まず、著者は推定犯罪率を求めるために「各犯罪類型の認知件数を、成人と少年の検挙人員に従って割り振った数値を推定」しています。これは検挙「件数」と検挙「人員」の混同です。認知「件数」を割り振るのですから、本来ならば行為の数である検挙「件数」で割り振るべきです。

推定犯罪率はある種の仮定の上に成立っており、さらに基本となる認知件数は被害届に対する警察の姿勢の変化が反映されているので、検挙件数と検挙人員のどちらで計算しても果たして犯罪発生の実態を捉えることができるのか不明です。しかし、そのどちらかを選択するかで結論が大きく変わってきてしまう以上、著者の取り違えは重大です。

また、著者は犯罪類型別に推定値を算出する理由を「犯罪類型により、少年が犯しやすいものもあれば、そうでないものもある」からだとしています。しかし、犯罪類型別に推定を算出する場合とそうでない場合の違いは、犯罪類型ごとの少年の犯しやすさの違いを考慮するか否かによって生じるのではありません。

認知件数のうち少年によると推定される部分を犯罪類型別に求めて合算した数値は次のように表されます。

Xa = (X1・σ1 + X2・σ2 + … + Xi・σi + …+ Xn・σn)

ただし、Xaは犯罪類型別に求めて合算した少年の認知件数推定値、Xi(i = 1,2,…n)は各犯罪類型の認知件数、σi(i = 1,2,…n) は各犯罪類型の検挙人員に占める少年の割合です。

一方、各犯罪類型別ではなく、刑法犯全体の検挙人員によって認知件数を割り振った値は次のように表されます。

Xb = σ * X

ただし、Xbは刑法犯全体の検挙人員によって算出した少年の認知件数推定値、σは刑法犯全体の検挙人員に占める少年の割合、Xは刑法犯全体の認知件数です。

Xaは次のように書き直せます。

Xa = (ε1・σ1 + ε2・σ2 + … + εi・σi + …+ εn・σn) * X

ただし、 εi(i = 1,2,…n) = Xi / Xで、刑法犯全体の認知件数に対する各犯罪類型の割合です。

一方、Xb は次のように書き換えられます。

Xb = (y / Y) * X

ただし、Yは刑法犯全体の検挙人員、yはそのうちの少年の数です。
Y及びyは各犯罪類型の和なので、

Y = Y1 + Y2 + … + Yi + … + Yn
y = Y1・σ1 + Y2・σ2 + … + Yi・σi + … + Yn・σn

従って、

Xb = (ρ1・σ1 + ρ2・σ2 + … + ρi・σi + … + ρn・σn) * X

ただし、 ρi(i = 1,2,…n) = Yi / Yで、刑法犯全体の検挙人員に対する各犯罪類型の割合です。

XaとXbを並べて書くと

Xa = (ε1・σ1 + ε2・σ2 + … + εi・σi + … + εn・σn) * X
Xb = (ρ1・σ1 + ρ2・σ2 + … ρi・σi + … + ρn・σn) * X

となり、二式の両辺をXで割ると、

Xa / X = (ε1・σ1 + ε2・σ2 + … + εi・σi + … + εn・σn) 
Xb / X = (ρ1・σ1 + ρ2・σ2 + … + ρi・σi + … + ρn・σn)

結局、どちらの式にも各犯罪類型の検挙人員に占める少年の割合σi(i = 1,2,…n) は取り込まれており、両者の違いは検挙人員と認知件数それぞれの犯罪類型別構成比の違いです。

・結果の解釈に関する問題点
認知件数は犯罪の発生件数ではなく、警察の捜査活動の結果です。最近の認知件数増加には警察の政策転換が大きな影響を及ぼしているとされており、推定犯罪率が実態を表しているかどうか疑問があります。

また、著者の示した図26は1956年から始まっています。このため、戦後前半期の3分の1が欠けており、終戦直後の1945年から1948,9年にかけての刑法犯認知件数の急増期と1950年から1954年にかけての急減期が検討の対象外となってしまっています。

 『平成15年 警察白書』
第3章 犯罪情勢と捜査活動
図3-1 刑法犯の認知・検挙状況の推移(昭和21〜平成14年)
http://www.pdc.npa.go.jp/hakusyo/h15/html/E3001010.html

・推定犯罪率と犯罪率の関連付けの問題点
犯罪率と成人・少年の推定犯罪率の関係は次の通りです。

20歳以上の成人、14〜19歳の少年、13歳以下の少年の人口をそれぞれp1、p2、p3とし、全人口をPとします。

P = p1 + p2 + p3.

成人の推定犯罪率をa1、少年の推定犯罪率をa2とすると、認知件数は

a1・p1 + a2・p2 

となるので、

犯罪率をAとすると、

A = (a1・p1 + a2・p2) / P = (a1・p1 + a2・p2) / (p1 + p2 + p3).

となります。つまり、犯罪率は推定犯罪率だけでは決まらず、成人と少年の人口が関係してきます。

次に、p1、p2、p3、a1、a2がそれぞれ冪1、冪2、冪3、兮1、兮2だけ変化するとします。

このとき、冪1、冪2、冪3、兮1、兮2が十分小さければ、Aの変化僊は一次の項までのテイラー展開によって、一年分の変化程度ならば十分な精度で近似できます。

僊 ≒ (p1 / P)・兮1 + (a1 - A)・(冪1 / P) + (p2 / P)・兮2 + (a2 - A)・(冪2 / P) - A・(冪3 / P)

成人を例に取ると、(p1 / P)・兮1は成人の推定犯罪率の変化による犯罪率の変化を示しています。(p1 / P)は成人が人口に占める割合で、これが大きいほど推定犯罪率の変化が犯罪率に強く反映されます。

また、(a1 - A)・(冪1 / P)は成人の人口変動による犯罪率の変化を示しています。成人人口の増減がどのように反映されるかは、(a1 - A)  / Pによって決まります。例えば、成人の推定犯罪率が犯罪率に比べて小さい場合には、成人人口の増加が犯罪率の低下に寄与し、その程度には(a1 - A) / Pの絶対値が関係しています。

推定犯罪率の変動兮1と兮2には、それぞれ成人と14〜19歳の少年が人口に占める割合が係っています。戦後の人口に占める割合は成人が55〜80%、少年が7〜14%なので、前の年との比較では、成人の推定犯罪率は1.3分の1から1.8分の1、少年の推定犯罪率7分の1から14分1の影響を犯罪率に及ぼすことになります。

 『我が国の推計人口 大正9年〜平成12年』
第4表 年齢(各歳),男女別人口(各年10月1日現在)−総人口(大正9年〜平成12年)
http://www.stat.go.jp/data/jinsui/wagakuni/index.htm

ところが、著者は推定犯罪率と犯罪率の関係を論じる際に、人口に全く言及していません。それどころか、「図26は人口十万人あたりの数値なので、成人の減少幅が小さいように見える」成人犯罪が、「犯罪率に関する図2に関するグラフとの関係で見れば、実際にはその数倍の影響をもたらした」というよく意味の判らない説明をしています。

成人の減少幅が小さいように見えるのは成人に比べて変動の大きい少年の値を一つの軸で表しているからではないか?

犯罪率に推定犯罪率が数倍の影響を及ぼすはずが無いから、全く軸のスケールが異なる図2と図26のグラフを紙面上の物理的な長さに基づいて比較しているのではないか?

といった疑問が浮かぶものの、著者の真意は全く分かりません。

また、犯罪率の減少は1950年から始まっているのに、図26には1956年より前のデータがなく、この点で著者の分析は中途半端です。

p.87
>なお、一般に指摘されていることに加えて、特に少年事件において注意すべきことは、成人事犯に比し、取調べが緩やかで余罪捜査が十分ではなく、関連した認知件数がかなり少なくなるという点にある。

著者の指摘が事実だとすれば、少年の推定された認知件数になんらかの上方修正を加える必要があるかもしれません。

ただ、一般論として成人は少年よりも巧妙に犯罪を行うと考えられます。例えば、最近は成人による万引きが問題となっており、毎日新聞に「万引きは非行少年が多いと思われてきたが、成人の方が悪質だ。巧妙化した手口に対し、各店舗と協力して効果的な防犯対策を検討していきたい」とする警視庁幹部の話が掲載されていました。

 大人の万引き:10年間で倍増 換金目的な窃盗団
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/jiken/news/20040904k0000e040060000c.html

仮に少年に対する余罪取調べが緩やかだとして、それを「補正」したとしても、捜査されるべき余罪が少年と成人で同程度存在するかどうかは分かりません。また、捜査において成人と少年で違いの出る要素として、捕まえやすさ、自供の取りやすさ、及び冤罪の発生しやすさも重要になってくると思われます。

p.91
>†送致されても処分されるのは一部
>平成十三(二〇〇一)年の家裁の処理状況を見ると、家裁送致少年二〇万四三六七人のうち、審判をそもそも開始しないものが一〇万七三七三人、審判したが処分しないものが三万六九五二人、処分されるものは三万一二六一人にすぎない。処分者の内訳は、施設には収容されない保護観察が圧倒的に多く二万六五〇九人で、少年院送致が五五二一人、児童自立支援施設が三七〇人、刑事処分は一二六五人のみである。

>少年法改正の影響もあると思われるが、刑事処分や少年院送致は若干増加した。しかし、それでも、家裁に送られても、審判不開始・不処分になる少年が四分の三以上を占めている。この状況が、日本の少年司法の最大の特徴といってよい(もちろん、そのプロセスで少年に一定の感化力や脅威を与えることはあるだろうが)。そしてこのような状況は、状況は、図29(104頁参照)で示すように、昭和五〇(一九七五)年に始まる。

※ここでのデータの取り扱いには幾つか問題点があります。

著者が引用していると思われるのは一般保護事件の終局決定別既済人員です。

 『平成13年度版司法統計年報』
少年事件編
第 6 表 総覧表 少年保護事件の終局決定別既済人員(平成5年〜平成14年)
平成13年 一般保護事件
http://courtdomino2.courts.go.jp/tokei_y.nsf/0/1b6a65ccc73e43f049256c33002d599f?OpenDocument

また、p.91の「図28 家庭裁判所に送致された少年の扱い(2001年)」には、家庭裁判所の終局決定別処理状況の構成比が円グラフで示されています。

 刑事処分 0.7%
保護観察 14.7%
児童自立支援施設又は児童養護施設へ送致 0.2%
少年院送致 3.1%
不処分 20.5%
審判不開始 59.5%
その他 数値示されず (1.3%か?)

データの取り扱いの問題点として、第一に本文中に示された家裁送致少年の数値がその内訳と合計が一致しないことが挙げられます。審判不開始が10万7,373人、不処分3万6952人、処分3万1,261人の合計は17万5,586人なのですが、これは家裁送致少年20万4367人と比べて2万8,781人足りません。

第二の問題点としては、本文中に示された処分者の内訳と合計が一致しないことが挙げられます。保護観察2万6,509人、少年院送致5,521人、児童自立支援施設が370人、刑事処分は1,265人の合計は3万3,665人なのですが、これに比べると著者の示した数値(3万1,261)は2,404人足りません。

第三の問題点としては、本文中の数字と図28で構成比の食い違がっています。

著者の示した数字をまとめると、

 家裁送致少年の総数 20万4,367 (100.0%)
処分の計 3万1,261 (15.3%) 3万3,665(16.5%)?
うち刑事処分 1,265 (0.6%)
うち保護観察 2万6,509 (13.0%)
うち児童自立支援施設又は児童養護施設へ送致 370 (0.2%)
うち少年院送致 5,521 (2.7%)

 不処分 3万6,952 (18.1%)
審判不開始 10万7,373 (52.5%)

となりますが、構成比が図28とは一致しません。

第四の問題点としては、「その他」の項目の数字は図中に示されていません。合計が100.0%だとすると他の項目を引いて1.3%になるはずなのですが、グラフでは刑事処分の0.7%よりも細くなっています。

引用されたデータそのものに問題があるので、司法統計によって平成十三年における一般保護事件の終局決定別既済人員を調べてみると、次のようになっています。

 総数 20万4,367 (100.0%)

 検察官へ送致 3,491 (1.7%)
うち刑事処分 1,265 (0.6%)
うち年齢超過 2,226 (1.1%)

 保護処分 3万2,400 (15.9%)
うち保護観察 2万6,509 (13.0%)
うち児童自立支援施設又は児童養護施設へ送致 370 (0.2%)
うち少年院送致 5,521 (2.7%)

 知事又は児童相談所へ送致 143 (0.1%)

 不処分 3万6,952 (18.1%)

 審判不開始 10万7,373 (52.5%)

 移送・回付 8,949 (4.4%)

 従たる事件 1万5,059 (7.4%)

著者が取り上げなかった項目に、検察官送致の年齢超過、知事又は児童相談所へ送致、移送・回付、従たる事件があります。特に移送・回付、従たる事件は無視できないほどの数があります。検察官送致のうちの年齢超過についても、刑事処分の約1.8倍の2,226人おり、これを無視する著者の姿勢に疑問が残ります。

そして、著者が図28に示した構成比は一般保護事件の終局決定別既済人員から移送・回付、従たる事件を除いて計算したものだと思われます。司法統計を基にして計算した結果は次のようになり、著者のグラフと一致します。

 総数 18万0,359 (100.0%)

 検察官へ送致 3,491 (1.9%)
うち刑事処分 1,265 (0.7%)
うち年齢超過 2,226 (1.2%)

 保護処分 3万2,400(18.0%)
うち保護観察 2万6,509(14.7%)
うち児童自立支援施設又は児童養護施設へ送致 370 (0.2%)
うち少年院送致 5,521 (3.1%)

 知事又は児童相談所へ送致 143 (0.1%)

 不処分 3万6,952 (20.5%)

 審判不開始 10万7,373(59.5%)

著者は「家裁に送られても、審判不開始・不処分になる少年が四分の三以上」と書いていますが、その分母となるのは著者が家裁送致少年数の合計として示した20万4,367人ではなく、移送・回付と従たる事件を除いた値です。これが著者の立場というならともかく、処理の方式に一貫性がありません。後述するように図29は別のやり方で計算しています。

また、「そしてこのような(引用者注:家裁に送られても、審判不開始・不処分になる少年が四分の三以上の)状況は、図29(104頁参照)で示すように、昭和五〇(一九七五)年に始まる」と書いているものの、図29は刑事処分、保護観察、及び少年院送致のグラフで、審判不開始・不処分のグラフは描かれていません。

p.98
>少年が刑事処分を科されるのは、懲役・禁錮以上の重大な犯罪を犯した場合に、しかも家裁が「刑事処分相当」と判断した場合に限られる。その結果、適用例は非常に少なく、一%に満たない。そして図29にあるように、一九七〇年以降、数も率も減り続けている。少年犯罪は増加しているにもかかわらず、である。

この時期の少年検挙人員の増加は主として初発型非行(非行の動機・手口が比較的単純で,初期的段階の非行といわれる万引き、オートバイ盗、自転車盗、占有離脱物横領)によります。平成14年版犯罪白書及び昭和61年版警察白書によると(但し触法少年も含む)、昭和51年から昭和58年までの少年検挙人員の増加およそ11万1,000人のうち約八割のおよそ8万8,000人が初発型非行による増加です。

 『平成14年版犯罪白書』
資料4-2 交通関係業過を除く少年刑法犯の年齢層別検挙人員及び人口比
http://hakusyo1.moj.go.jp/nss/list_body?NSS_BKID=43&NSS_POS=275

 『昭和61年 警察白書』
第4章 少年非行の防止と少年の健全な育成
表4−6 初発型非行で補導した少年の数の推移(昭和51〜60年)
http://www.pdc.npa.go.jp/hakusyo/s61/s610400.html

主要罪名別の検挙人員の推移(但し触法少年も含む)を平成14年版犯罪白書で窃盗と横領(殆どが占有離脱物横領)以外について調べてみると、1980年前半に暴行、傷害及び恐喝が目立って増えたものの(それでも1960年代ほど多くない)、それ以外の殺人、強盗(平成になるまで)、強姦、放火、脅迫、詐欺、強制わいせつは減少しています。

 『平成14年版 犯罪白書』
資料4-4 少年刑法犯の主要罪名別検挙人員
http://hakusyo1.moj.go.jp/nss/list_body?NSS_BKID=43&NSS_POS=277

p.100
>少年の場合は、家裁送致のほかに、不良行為としての補導が存在している(107頁参照)。それをも含めて考えると、非行を犯して処分されるのは本当に少ない。何度か補導され、学校でも持てあまし、ようやく家庭裁判所に送られてきた少年のうちで、審判不開始と、審判の結果、不処分とされたものの数を合わせると、前述のように四分の三以上に達するのである。

>実質的な処分となる、保護観察、少年院などへの送致、刑事処分のための逆送は合計しても十五%に満たない。成人の場合も、微罪処分とか起訴猶予などディヴァージョンが広く認められているとされるが、検挙人員の六〇%は有罪となっているのである。

※「実質的な処分となる、保護観察、少年院などへの送致、刑事処分のための逆送は合計しても十五%に満たない」とありますが、この15%未満という数字がどこから出てきたのか不明です。著者自身による図28によれば、刑事処分0.7%、保護観察14.7%、児童自立支援施設又は児童養護施設へ送致0.2%、少年院送致3.1%で、その合計は18.7%ですし、移送・回付、従たる事件を含めて計算した場合ですら、処分の割合は15%を超えます。

成人の検挙人員が有罪になる割合60%というのも何の数字なのか分かりません。

交通業過を除く刑法犯については、平成13年における成人検挙人員は18万6,638人です。そして、検察庁終局処理人員のうち交通業過を除く刑法犯で起訴されるのは9万3,286人で、検挙人員の半分を切っています。さらに、交通業過の成人検挙人員は83万0,387人で、このうち起訴されるのは9万9,215人と12%弱です。
起訴される人員が検挙人員の半分に満たないのに、検挙人員の60%が有罪になるとはちょっと考えられません。
特別法犯に関しては検挙人員ではなく送致人員の統計があるだけなので、そもそも検挙人員の何%といった議論はできない筈です。

 『平成13年の犯罪』
 1 罪種・態様別 認知・検挙件数及び検挙人員
 http://www.npa.go.jp/toukei/keiji10/index.htm

 『平成14年版 犯罪白書』
資料2-1 罪名別検察庁終局処理人員
http://hakusyo1.moj.go.jp/nss/list_body?NSS_BKID=43&NSS_POS=261

p.102
>前述のように、戦後の日本では、平成に入るまでは成人犯罪は減り続け、少年犯罪のみ増え続けてきた。そして、昭和五〇年以降、犯罪率がかなり上昇したにも関わらず、それに対応でき六〇%の検挙率を維持しえたのは、少年簡易送致の割合を増やしていったことによる面もかなりあると考えられる。平成以前は、少年犯罪の中でも窃盗などの増加が目立ったのである。

 >もちろん、これは少年に対して警察が「手を抜いた」ということではなかった。警察も含め、日本全体に保護主義が過度に蔓延し、「少年なのだから、迷ったら、きちんと送致するのはやめておこう」ということが正しいこととされていたのである。

 >そして軽微で、しかも再犯のおそれのない者についてまで通常の手続きで送致することは、かえって少年や保護者の心情を害する結果を招き、少年法の終極の目的に反すると考えられてきた。

※これを読むと、警察に保護主義が蔓延することにより少年簡易送致の割合が上昇し、それによって検挙率が低下せずにすんだかのような印象を受けます。

著者は少年簡易送致率の上昇だけを取り上げて「保護主義が過度に蔓延」と書いていますが、成人の微罪処分率も大幅に上昇しています。警察庁の『昭和50年の犯罪』と『平成13年の犯罪』によれば、1975年と2001年の交通業過を除く刑法犯の微罪処分率と少年簡易送致率は次の通りです。

 成人
1975年 検挙人員 24万7,335 微罪処分 5万5,433(22.4%)
2001年 検挙人員 18万5,944 微罪処分 7万9,044(42.5%)

少年 
1975年 検挙人員 11万6,782 少年簡易送致 1万7,105(14.6%)
2001年 検挙人員 13万8,654 少年簡易送致 5万8,109(41.9%)

 『昭和50年の犯罪』
1 罪種・態様別 認知・検挙件数及び検挙人員
32 罪種別 逮捕・送致別 検挙人員 

 『平成13年の犯罪』
1 罪種・態様別 認知・検挙件数及び検挙人員
28 罪種別 身柄措置別 送致別 検挙人員 
http://www.npa.go.jp/toukei/keiji10/index.htm

従って、保護主義とは別に、微罪処分・少年簡易送率を上昇させた成人と少年に共通の要因があると考えることもできます。
また、著者の言うように少年簡易送致の割合を増やすことが検挙率の維持につながっていたとしても、おなじく簡便な処理である微罪処分について触れないのは片手落ちです。

検挙率の変動について補足すると、検挙率は1964年から1969年にかけて63.9%から53.8%まで減少します。その後はほぼ一貫して増加し、1985年には64.2%のピークを迎えます。つまり、戦後後半期の最初の十年は、一旦落ち込んだ検挙率が認知件数の増加にも関わらず回復に向かっていた時期であると言えます。

 第3章 犯罪情勢と捜査活動
図3-1 刑法犯の認知・検挙状況の推移(昭和21〜平成14年)
http://www.pdc.npa.go.jp/hakusyo/h15/html/E3001010.html

これには、龍谷大学の浜井浩一教授が指摘しているように、公安重視の政策による自転車盗の積極的な取締りが行われていたことが非常に大きいと思われます(参考資料2を参照)。

占有離脱物横領の認知の端緒および主たる被疑者特定の端緒はいずれも90%以上が職務質問で、検挙率はほぼ100%です、つまり「認知イコール解決で、検挙率100%」の犯罪です。

 『平成14年の犯罪』
3 年次別 府県別 罪種別 認知・検挙件数及び検挙人員
7 罪種別 認知の端緒別 認知件数
21 罪種別 主たる被疑者特定の端緒別 検挙件数 (警察活動)(総数表)

『平成14年版 犯罪白書』によれば、少年の場合は殆ど全てが占有離脱物横領である横領の検挙人員(触法少年も含めて)は、底をついた1968年の839人から1985年の2万2,658人まで、大変な勢いで増加しています。そして、時期的にも検挙率の増加開始と一致します。成人についても、当時の犯罪統計書や犯罪白書等から少年と同様の激しい増加が確認できます。

 『平成14年版 犯罪白書』
資料4-4 少年刑法犯の主要罪名別検挙人員
http://hakusyo1.moj.go.jp/nss/list_body?NSS_BKID=43&NSS_POS=277

 犯罪白書 目次検索
http://hakusyo1.moj.go.jp/nss/cast_common?FUNC=1&FORM=docs_m.input&FORM2=mokuji.top

さらに、金城学院大学の鮎川潤教授は、この時期に初発型非行への「早期発見、早期治療」のスローガンのもとで少年による占有離脱物横領に対して警察活動が活発化していたと指摘しています。従って、少年犯罪への対応の強化が検挙率の上昇に繋がった面もあるのではないかと思われます。

鮎川潤『少年犯罪 本当に多発化・凶悪化しているか』(平凡社新書、平成13年)

p.103
>図29 少年処分の終局人員に対する割合

※刑事処分、保護観察及び少年院送致の終局人員に対する割合を示すこのグラフは、数値の算出法に問題があります。

 グラフに示された2001年の保護観察の割合をみると、どう見ても著者が図28で示した14.7%に達しておらず、13%前後です。これは一般保護事件の終局決定別既済人員から移送・回付、従たる事件を除かないで計算した保護観察の割合に近い値です。

 いずれにしても、「家裁に送られても、審判不開始・不処分になる少年が四分の三以上」という記述の根拠となった値を算出した時とは別の方法を用いていることには変わりありません。
審判不開始・不処分の率が高いと主張するときにはより値が大きくなるように、そして処分の率が低いと主張するときにはより値が小さくなるように算出法を選択していることになります。

p.104
>わが国の少年に対する処分は、一九六〇年代の少年犯罪増加期を経て、七〇年まで刑事処分への重点シフトが進行した。

※図29に示された刑事処分のピークは1968年です。

参考4
諸君!2003年9月号 今月の新書完全読破

宮崎哲弥(評論家)

【今月のワースト】(6月)
前田雅英『日本の治安は再生できるか』(ちくま新書)
 本書の著者、前田雅英は刑法学界の権威である。私は彼の講義と教科書によって刑法の総論、各論をはじめて学んだ。その頃は極めて現実的、合理主義的なものの考え方をする人だったのに……。本書を読み終え、嘆息を禁じえなかった。
 日本の治安の悪化を示す統計が多数示されている。その提示の仕方が極めて訝しい。
 例えば犯罪増加、検挙率の低下を見ると日本の治安は危機的状況にあるという。なるほど数字だけみればその通りだ。だが、原因論になると急にあやふやになる。例えば、検挙率の急激な低落の因由は「軽微な事件よりも重要な犯罪の摘発に力を入れるように指示した」警察庁の「政策転換」にあるというのだ。本当だろうか。
 小林道雄『日本警察崩壊』(講談社)によれば、検挙率急落は、従来は現場で成績を上げるために被害届を握り潰してきたのを、近年誤魔化しを改め、正直に受理するようになった結果だという。
 小林によれば、検挙率を嵩上げするためのまやかしは「警察社会の『常識』」として横行していたらしいが、前田はその点にいささかの配慮も無い。
 剰え、検挙率低下を元に「推定犯罪率」という統計的に極めて問題の多い数値まで捻出している(この統計処理の難点については、私と藤井誠二の共著『少年の「罪と罰」論』春秋社を参照されたい)。
 だが、本当に衝撃的なのは、現在の刑法学の主流説である結果無価値論に否定的評価を下している第五章だ。自由主義的刑法観を根底から覆しかねない旧師の主張に、ただ唖然とするばかりだ。

参考5
「統計は犯罪の実像を示しているのだろうか」

 前田雅英著「少年犯罪ー統計からみたその実像」東京大学出版会B5版212頁の書評です
 法学セミナー2001年1月号116頁
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 極めて多数のグラフと豊富な戦後風俗の写真を交えつつ本書が伝えようとしている内容は、「少年犯罪は重大化し増大しており、危機的状況にある。ところが、家庭裁判所の対応において、審判不開始・不処分の比率が増加している反面、検察官送致の比率が低下し、保護観察処分の比率が増大している。保護主義・自由主義に基づくこのような運用が、少年を取り巻く社会規範の喪失と相まって、少年が規範を承継できていないこと(規範の喪失ないし形成不全)に寄与している。運用を改めると共に、少年法を改正して検察官送致の可能な年齢を引き下げるべきである」と、要約できよう。
 多岐にわたる記述の中で、少年法の歴史や現行制度の説明には、同感し納得できる部分が多い。しかし、多数のグラフの中には、首をかしげざるをえないものが少なくない。それらの中から、少年犯罪の増大が危機的であると視覚に訴えている口絵の図一「日本の少年刑法犯検挙人員率(検挙率補正値)」のグラフを選んで、問題点を指摘したい。
 犯罪の実態把握には、捜査機関の認知件数による方法と、犯罪の暗数調査、すなわち、捜査機関に通報しなかった犯罪を含む犯罪被害数を市民に尋ねる方法とがある。犯罪白書は、人口一〇万人当たりの認知件数を、外国との比較などに用いてきた。しかし、認知件数は市民の通報行動などに依存するので、平成一二年版からは、暗数調査の結果も用いられることとなった。そのいずれでもない検挙人員を本書があえて用いる意図は、性別・年齢などによる区分をしたいからであろう。だが、検挙人員やその内訳は、検挙活動へのエネルギーの注ぎ方に依存する。重要な事件を中心に解決する場合(三〇頁)、残るエネルギーは、検挙が容易で検挙率を上げることのできる犯罪に注がれることとなろう。
 本書が頻繁に用いている「検挙人員率」の意味は、もしも丁寧な作業をしていれば、検挙人員中に少年(口絵の図七では年少・中間・年長・触法)と成人が占める人数を求め、それぞれ人口一〇万人当たりに換算した数値であろうと推測される。そうであれば、万引きや占有離脱物横領(自転車盗)などで検挙されることの多い少年の検挙人員の変動が、自ずと強調されて示されることとなる。それに加えて著者は、検挙率の低下を補正し、少年の検挙人員率が極めて高く、かつ、上昇しているとする。その補正方法は、「一九八八年頃までの検挙率がそのまま維持された場合を想定して認知件数に応じた検挙人員を推定し、それを成人と少年の検挙人員の割合に従って割り振った数値」(八頁)とのみ説明されており、その検証は不可能である。しかも、この補正方法によるのでは、検挙しやすい犯罪の変動がますます強調されることとなる。この点について著者は、「このような補正を行わなくとも、現在の少年犯罪が、数値上は危機的情況にあることは変わらない」(八頁)と述べている。もしもそうなのであれば、補正をしない数値を示して論述し、「科学の基礎」である検証可能性を残すべきであった。なお、本書は、「補正値」を用いる場合にはその旨を注記すると記しているにも関わらず、読み進むと検挙人員率に注記が無くなっている。もしも注記を忘れたのであれば、内容の正確性に疑問が残るし、もしも注記が不要なのであれば、極めて問題の多い「補正値」を何故本書の冒頭部分で用いたのかに疑問が残る。
 少年による強盗のみが近年増加したことは犯罪白書から明らかであり、それを否定する刑事法研究者はいない。また、その増加理由については、粗暴犯である恐喝の一部を凶悪犯である強盗と扱うようになったと理解されている。これに対して著者は、「『恐喝かさ上げ説』は、専門的に見ればまさに奇妙な主張」(一〇四頁)と述べている。粗暴犯である恐喝と凶悪犯である強盗との分水嶺は、抗拒不能であったか否かであるから、被害者の供述録取書にその旨を警察が記載しさえすれば、恐喝ではなく強盗として、検察庁・裁判所にそのまま通用して行く。この意味でこれは、刑事手続の実態についての著者の無理解を露呈した記述である。
 概して本書は、統計処理面では、できればダレル・ハフ著高木秀玄訳『統計でウソをつく法』(講談社ブルーバックス)、谷岡一郎著『「社会調査」のウソ』(文春新書)等を参照しつつ、慎重に読むべき本であり、統計学の名著をも多数刊行している東京大学出版会が、その刊行書籍の品質を問われかねない本であると考える。
    11/10/00  立教大学教授 荒木伸怡(あらきのぶよし)

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