学ぶ組織・会社が伸びる

産業の高度化という経済法則は、いつの時代も、どの国にも通用しているようである。

農業(1次産業)の時代から工業(2次産業)の時代、そして、サービス業(3次産業)の時代へと基幹産業が推移する。

その国のより多くの人々が従事する産業は時代とともに変化し、

2次産業、3次産業、4次産業と高度化するという法則である。


この法則的な進化の流れにそぐわない事業運営は苦しく、流れに調和する経営が伸びるのは、自然の摂理と言わざるを得ない。


今回は、<産業別就業人口比率の推移>のグラフをベースに、日本企業の現状と可能性を探った上で、その対策としての「学ぶ組織」について論じてみたい。

下のグラフは、主な産業別就業人口の比率がここ40年でどのように推移したかを示したものである。


 まず特徴的なのは、1955年時点で就業人口の最大比率、

39%を占めていた農林業従事者が、

40年後の1995年に、最小比率のわずか5%に激減していることである。

 これは、農産物の輸入とともに、農業技術の進歩により、

小人数で農産物を必要量生産できる状況ができたことを意味していると思われる。

 ちなみに、アメリカは、農産物輸出国でありながら農林業従事者はわずか2%程度である。


 
次に着目いただきたいのが、第2次産業部分、建設業と製造業の合計である。

脱工業化、情報社会化が叫ばれだしてから、かなりの年数が経過していると思われるが、

第2次産業部分がほとんど変動していないことである。

1955年32%、1965年31%、1975年35%、1985年34%、1995年33%とほとんど水平に推移している。

 「脱農業化」と同時に「工業化」を進行したが、

「脱工業化」ができないままに、

「サービス産業の時代」、「情報産業の時代」に突入していることが見て取れる。


 
最後に注目いただきたいのは、第3次産業部分、運輸・通信業、卸小売、金融、保険、不動産専門家といったサービス業である。

1955年当時、33%であったが、1995年時点で58%へと着実な伸びを示している。

ご参考までに、アメリカではこの部分の就業者比率は80%であり完全に「脱工業化」がはかられている。


 ここまででわかることは、

産業の高度化の法則どおり、農業は就業人口を減少させ、サービス業は就業人口を伸ばしているが、

建設業、製造業は、人を抱え込み過ぎているということである。


ゴルフクラブで、テニスはできない

また、テニスラケットで、ゴルフはできない

  さて、ここからが提案である

すでにサービス業に位置している会社が、サービス業としてさらに伸びるための基本戦略、

そして、第2次産業に位置している会社が脱工業化をはかり、新たな伸びを手に入れる基本戦略である。

 まず、各産業の成長の法則をさぐる。

農業においても工業においても、

『みんなで、和をもって、きのうと同じ事、ほかの人とも同じようなことを繰り返す』

といった仕事のしかたを維持継続することが農業社会、工業社会における成長を約束される行動のパターンである。


需要されるもの、求められるものがはっきりしている、目に見える形で存在しているから、

それを効率的に生産的につくるために編み出された行動のパターンである。

これは、農業社会と工業社会とで通用したパターンである。

 一方、現代サービス社会、情報社会では、需要、求められることが、無尽蔵に存在しているにもかかわらず

農業社会、工業社会の時代の時のように、はっきりと目に見える形では存在していないことが特徴である


今であれば、送りたい荷物がある場合、宅配便を使えば、日本全国翌日には配達される。

宅配便は、今や、私たちの生活に密着した必需サービスとなっている。


 しかし、「宅配便」が生まれる以前に、こんなサービスを「発想」した人がいただろうか。

できてみてこそ当然、自然のこととなっているが、

目に見える形となって、収益の成立が証明されなければ、誰もこの事業を始めない。


パソコン、引越しサービス、ファミコン、無人工場用センサー、カタログ販売、あらゆる代行業、エステ等である。

これらはすべて、できてみるまでは目に見えない需要だったのである。


しかし、その需要は、確実に存在していた。

そして、需要は、どんどん高度化していく。

 したがって、現時点で自社が分類上、2次産業に位置しようが3次産業に位置しようが、

重要なことは、

人々が求めること、企業が求めることに応えるべく、

また、目に見えない無尽蔵の需要を顕在化させるために、

今までにないサービス、

今までにないやり方、

今までにないこと、

今までにない
プラスアルファーを、はっきりとした形を提示することであり、そのための想像力・創造力である。


社員の想像力・創造力を生かすこと、

想像力・創造力を社内に育成すること、

想像力・創造力を発揮・育成できる組織体制を整備すること、


以上が、長期的な観点から、」経営の重要時である。


工業社会の時代に構築された会社組織は、

あくまでも、工業社会という土俵の中でこそ、うまく機能する組織である。


その組織で、

第3次産業、第4次産業の時代、想像力・創造力の時代を渡ることは、

ゴルフクラブで、テニスをするようなものである。 


工業社会型組織情報社会型組織の違いを示した組織モデルが図1である。


工業社会型は、経営トップを頂点とする三角形組織、いわゆる軍隊型で、役割が分担され、社員の所属部署、命令系統も比較的はっきりしている。


情報社会型組織は流動的であり、役割、所属部署、命令系統は状況に応じて柔軟に変わり、組織をまとめる中心はビジョンである。



情報社会型組織とは、

では、ここから、学ぶ組織へと成長するために、

認識すべきことと、為すべきことについてまとめてみたい。


学ぶ組織とは、

どうやって現在の状況が生まれたかを社員が認識 し、

絶えず発見している組織であり、

どのように変革することができるかを絶え間なく発見している組織である。


アイデア、企画、解決を常に発見している組織といわれても、ピンとこないと思うので、実例をあげる。



この会社は、建設業に位置する会社で社員数40人。


営業、設計、工事と3部門あり、さらに営業は2部門に分割されているので、営業に職長は2人存在する。

合計でこの会社の職長数は4人である。

職長4人には、それぞれ役割がある。

営業の長は、営業の数字をあげる。

設計の長は、設計の品質と生産性をあげる。

工事の長は、品質のバラツキをなくすことと生産性の向上、コストダウンである。


役割を4人に分担すれば、会社はうまく回転するのかといえば、

自分の分担のその日その日の仕事をさばくのが精いっぱいで、

自分の部門の品質や生産性のアップのための改善アイデア、企画、解決は全くといってよいほど生まれてこない。

これでは、将来の伸びを構想できる余地はない。


以上の例は、決して特殊な例ではなく、

私の経験上、9割以上、ほとんどの会社がこのような状況にあるものと思われる




今日において会社が伸びない原因は「役割」にある。

文字通り、役を割ってしまう「役割」「分担」「分割」に問題がある。



工業社会、大量生産社会においては、仕事の単純化、標準化、専門化が半ば常識化した成功の法則であり、仕事を標準化し専門化する。

その結果、組織はいくつかに分断され、それぞれの組織単位がそれぞれの役割を果たせばうまく仕事が回転した。営業部門、設計部門、工事部門である。


しかし、昨今のように経営環境が激変し、

既存の市場は収縮し新しい市場が成長する情報社会においては、

会社全体としてのアンテナをとぎすませ、方向性を常にベストな方向へ向けておかなければならない。


ところが、以上のように工業社会において形成された組織構造からは、「会社全体がどこへ行こうとしているのか?」といった問いに答える機能が欠落しているのである。

 社長が全体の方向づけをすべきであると思われる方がきわめて少数いらっしゃるかもしれないが、多くの企業においては、社長自ら現場に立ち、営業に駆け回り、資金繰りに心をくだいているのであり、とてもそんなゆとりがないことは実感としておわかりいただけると思う。

さて、この会社の「学ぶ組織」へのチャレンジの第一歩はこうである。

職長5人と社長、合計6人で定期的な議論の場を設けて、会社全体としての方向性を議論する。



次に、会社全体として為すべきことをリストアップし、

調べながら、

考えながら、

考えを実験・テストしながら、まさに、学びながらそれを為していくのである。

うまくいけばしめたものだし、うまく行かなくともそこから多くを学ぶことができる。

そして、このプロセスによって、

戦後50年の工業社会を通じてしみついた工業社会パラダイム、断片化、機能別組織、工業社会的意識を脱して、

変化の激しい国際情報社会を伸びる「学ぶ組織」に改造することができる。

情報感性、スピード、コミュニケーションの意味と効用を実感として理解したすばらしい「学ぶ組織」が誕生する。

「学ぶ組織」へと成長するために

「学ぶ組織」へと成長するための基礎、基本、なくてはならない最大重要事は「チームで学ぶ」ということである。

チームで学ぶには、メンタルモデル(認識)とビジョンの共有が必要になる。

意思統一、ビジョンという言葉を耳にされたり、ご自身で口にされたご経験がおありかもしれないが、

世間でよく言われている「ビジョン」はビジョンのためのビジョンであり、

学習のためのビジョンという位置づけになっていないので、ここでいうビジョンとは全く似て非なるものであることを、くれぐれも誤解なきよう、ご理解いただきたい。

意思統一も同様である。

では、「学ぶ組織」の中核としての「チームで学ぶ」ということと、そのために必要な「メンタルモデルの統一」と「ビジョンの共有」について解説する。


チームで学ぶ


「学ぶ組織」へと成長するためにまず理解すべきことは、「チームで学ぶ」ということである。

学ぶ単位は、『個人』ではなく『チーム』である。

一個人として何を知っていて何を知らないか、知識のある個人、知識のない個人といった個人間比較の時代ではなく、知の単位はチームである。

チームとして何を知っているか。

これが、そのチームの発想レベルを決定する。

もちろん、知るということでのポイントは、より多く知ることではなく、より大切なことを知ることである。

会社が伸びる上で最も大切な知識、最も必要な知識を獲得するために、個人でがんばるか、チームでがんばるかといった選択である。

言うまでもなく、知識獲得競争において、個人に勝ち目はないのである。


メンタルモデル(認識)の統一

組織のパターンは、人々のメンタルモデル (認識) から生まれてくる。

関連部所がどのように相互に作用しあうかといった認識からである。

当然、別の人は別の認識を持っており、あらゆる組織において、関連する部所はどこなのか、

その部所がどのように相互に作用しあっているかといった認識は人によって異なる。

たとえば営業という組織に関連する部所は営業部門だけと捉える人もいれば、

営業という組織に関連するのは営業部門だけでなく、設計部門、工事部門であると捉える人もいる。

さらに社外的存在を含めて考える人もいる。

また、それぞれの部門の相互の作用のありかたに関する認識も人によって異なるのである。

「組織的な学習」が起こるためには、一人一人がどのような認識をもっているかを進んでほかの人に知らせなければならないし、

知らせる心の準備をしなければならない。

お互いのメンタルモデルを比較対照し、違いを議論し、その組織(たとえば営業という組織)が、

ほんとうは、どのようなものであるかといった統一認識にたどりつかなければならない。


ビジョンの共有

社員とビジョンの関係は、地球と太陽の関係に似ている。

戦後50年の物質的繁栄、金銭的繁栄を求めてきた工業社会においては、

給料とタテヨコの人間関係が社員をつなぎとめる原動力であったと思われるが、

現代においては、給料と人間関係もさることながら、地球と太陽が付くことも離れることもなく一定の関係を保っている、しかも地球はその周りを時速10万キロ程度の超高速移動をしているといった状況の中核を司る太陽をビジョンに喩えることができる。

ビジョンによって社員は明るさと活力と方向性を与えられ、

また逆に、社員が日々学ぶ事を通じてより高度なビジョンへとつながっていく関係である。

ビジョンを共有するプロセスは、メンタルモデル(認識)の方向性合わせと同じであると言うこともできる。

ビジョンとは、10年先(何年先でも構わないが)にどんな会社になりたいのか、

事業領域をどの辺に設定するのか(何屋さんと呼ばれるか)、

基幹技術は何か、

誰に何を提供するか、

どんな社員に成長したいか、

またどんな社員を採用したいか等である。

メンタルモデル(認識)が統一され、ビジョンが共有されたならば、

チーム学習(あるいは組織学習)が可能となる。

第一に、お互いに異なった認識を共有するプロセスを通じてお互いに学ぶ。

認識の統一ができただけで解決する組織上の問題はたくさんある。

たとえば、一人一人が異なった部門で仕事をしているが、その部門は同じシステムに属していること、

部門が相互に作用しあっていることを理解するだけで「協力」が自然に生まれてくる。

第二に、「共有されたビジョン」をテスト・実験することによって、その正しい点、間違っている点をいっしょに学ぶことができる。

この「協力」と「いっしょに学ぶ」体制がどれだけ社員の活力を引き出すかは、経験した人々のみが知ることのできることである。

最後に

「学ぶ組織」への道は平坦ではない。

すんなりと「学ぶチーム」を形成できたチームは一つとしてない。

そのプロセスにおいて、衝突があり、適応があり、困難が伴うが、チーム確立のために是非必要な試練なのである。

この宇宙は永遠なる宇宙のリズムで動いている。

そのリズム、その法則にかなった経営は伸びる。最も貴重な経営資源「人」を活かす組織が「学ぶ組織」である。

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