社員の活力を結集する組織づくり

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 1988年、フイリップモリス社が、クラフト社を129億ドルで買収した。

買収後の業績を見ても、この買収価格は適正であったと言える。

公認会計士の算定によるとフイリップモリス社は13億ドルの「物」(有形資産)と116億ドルの「その他」を買ったことに なる。

129億ドルから有形資産13億ドルを引いた116億ドルに相当するものは一体何なのか、これが新しい世界を知るためのポイントである。

 従来は、「帳簿価格」が大切なことであった。

土地、建物、生産設備、商品在庫の帳簿価格がポイントであつた。

しかし、今やこの考え方は180度の転換を求められている。

この180度転換を実感していただくために、試しに、「地元の銀行に行って13億円借りた」と想像してみていただきたい。

そして、あなたの会社の経理係が、照明を消して帰宅した後で1億円のお金がなくなっていることにあなた(社長)が気づいたとする。

その ときの驚きの程度を想像してみてほしい。

 1億円だけでも大変な大金であるが、現実になんとその12倍にも相当する残り12億円は「その他」に投資されているのである。

「信用」、「ブランド価値」、「世界に散らばる何万人のクラフト社員の頭から生み出されるアイデア」がこれに相当する。



新しい世界が始まっている

  ある重役は次のように確信している。

「有形資産は本物ではない」。

この言葉は、会計を学んだ者には理解できないし、

多くの経営者にも理解しづらい考え方であると思う。

ほとんどの経営者、管理職は、ほとんどの時間を有形資産(1/13)のマネジメントに使っている。

116億ドル分に相当する「その他」を度外視している。

 企業の経営者・管理者たちはわずか数百万円の投資案検討のために何回かの会議に多くの時間を費やすが、

人材トレーニング、研修を適当にやり過ごし、

イマジネーション(富の源泉)に関する真剣な議論は年に一度も行なわれない。



会社は、【個人】、【人間関係】、【マネジメント】、【組織】からなる

 

会社の生産性・効果を決定づける要素は、

「個人」の質、「人間関係」の質、「マネジメント」の質、「組織」の質である。


「個人」、「人間関係」、「マネジメント」、「組織」は、それぞれが個別に存在しているわけではなく、

人間の身体と同様に密接不可分につながっている。


したがって、「個人」のグレードアップだけに取り組んだとしても、

「人間関係」、「マネジメント」、「組織」が旧態依然では、

会社全体としての効率はアップしない。

「個人」のグレードアップとともに、

「人間関係」、「マネジメント」、「組織」を同時進行的にグレードアップすることによって初めて、

会社全体としての、あるいは部門全体としての効率性がアップする。





組織変革の最大のミステイク

 日本型経済システム、日本型経営システムの転換期にあたって、

「組織」の見直しに何千万、何億という金を投下する。

あるいは、「マネジメント」、「個人のスキルアップ」、「研修」に大金を投下する企業があとをたたない。


 この資金投下によって組織の効率がアップすればしめたものであるが、

うまくいったという本音を聞いたことがない。

ビジネス誌、経営誌に取り上げられる変革劇はほとんどが粉飾劇である。

この原因は明快である。

「企業はひとつの生命体である」という原則を無視した企業変革を無理押しするからである。

 「ひとつの生命体としての企業」という概念をご理解いただくために、まずは、「個人」、「人間関係」、「マネジメント」、「組織」の各次元を個別に述べてみたい。


      1. 

 品質管理(QC)のデミング博士いわく、

組織の問題の90%は、「仕組み・制度」に関わる一般的問題である。

わずか、10%が、人に関わる個別の問題である。

 多くの経営者、管理職はこのコトバを誤って解釈し、

組織構造や制度を正せぱ、

人に関する問題も消滅すると考えている。

これは全くの誤解である。

しかし、その逆は正しい。

人に関わる10%の問題を先に解決すれば、

他の90%の問題は消滅する。

なぜならぱ、「人」が、組織の「戦略」,「構造」、「制度」、「スタイル」を生み出しているからである。

これらは、人々の手足であり道具である。

したがって、ハイクオリティー組織を創造するための鍵は、まずハイクオリティーな人材、自然の原則・原理を解しこれを活用できる人材を育成することである。


<デミング博士の原則>

成功の共通分母は、

強く、心をかき立て、導き、啓発し、精神を高揚きせる「目的」である。

「目的」が明快に頭にセットきれたならば、「目的」を意識してスタートするならば、その「目的」が全てを導く。

「目的」が創造力を解放する。

潜在意識を引き出し、記憶や内容を引き出す。

そして、記憶からではなく「イマジネーション」をもとにして働くようになる。

過去に縛り付けられ限定されることなく、将来何が可能かをかぎわける嗅覚・センスを獲得することができる。



2.人間関係

 組織は、人間の身体と同様に、個々の個体が相互に関係しあった生態系である。

その関係の質を高めるためには、

個々の個体は、相互の信頼にもとづき、

それぞれが、総合的、効果的に働くようにバランスを保つ必要がある。

 相互信頼の基盤は『心の預金口座』である。

「心の預金口座」はいともたやすく蒸発する。

特に、連続的なコミュニケーション(意思疎通)への期待、意思疎通の深化への期待が破られたときである。

コミュニケーション(意思疎通)が不十分になると、人々は、記憶、恐れ、消極的な妄想の渦へと意識を向かわせる。

 結婚関係であれ、仕事の関係であれ、相手の「心の預金口座」に新たな預金をしなければ、「心の預金口座」は蒸発してしまう。

 古い友人に対しては、お互いあまり期待するものがないので、新たな「心の預金」をする必要がない。

会う機会があったとき、瞬間に心のベルトを形成することができる。

さらに、古い友人と相互に関連した重要問題を扱う機会もほとんどなく、楽しい記憶を呼び起こすにとどまる。

 しかし、結婚、家族、仕事においては、

日々問題に直面し、

問題の解決には
心の預金を必要とする。

相手を認める、評価する、信頼する、尊敬する、それを動作、 表情、コトバに表明することである。




3.マネジメント

マネジメントとは、経営資源、人ものかねを最高効率、最高効果で使うことである。

言うまでもなく、「人」が最大のポイントだ。

<効果的マネジメントヘの変身>
ステッブ1
社員を次のように認識する
・「あの社貝は能力、知恵、エネルギーに富んでいる。」
・「あの社員は、まだ引き出されていない膨大な能力と可能性を内包している。」
ステツブ2
社員の目的、ものの見方、ことば、関心事、彼の顧客、彼の上司、問題意識などを理解する事を通じて、彼を理解する。
ステップ3
信頼関係を形成し維持する

これができたら、

      1)コントロールの範囲を拡大することができる。(人を動かすことができる。)

2)余剰管理者を減らすことができる。

3)官僚式の複雑な手続き業務を取り除くことができる。

4)不必要な管理職(人件費)を減らすことができる。







 
4.組  

 組織の継続的改善の本質は、

利害関係者に関連した問題を解決することにつきる。


ほとんどの組織は財務資料やその分析を中心として問題解決に取り組む。


しかし、優良組織は
あらゆる利害関係者の声を絶え間なく吸い上げている。

 彼らは、熱心に利害関係者の声に耳を傾け、

その声の診断にもとづいた解決案を打ち出す。

これが、優良企業が優良であり続ける秘訣である。





 財務会計においては、8段階での照準合わせがなされる。

①データ収集、

②データ診断、

③方針設定、

④代替案の策定・評価、

⑤意思決定、

⑥決定案実行、

⑦方針に対する結果測定、

⑧データ収集。


 しかし、

こと「人財会計」のこととなると、

①データ収集の一段階で紛糾してしまう。

なぜならば、ほとんどの人がそのデータを診断する方法を知らない からだ。

彼らは、①データとして、人々の声(いくつもの目的、いくつもの問題)を収集するものの、②データ診断に踏み込めない。

よって、次の段階の③方針設定では、本来必要なデータ診断をすっ飛ばし、初期の思いこみに墓づき、方針、さらには行動計画まで策定してしまう。

 利害関係者に関する声を吸い上げる仕組みは、ほとんどの組織でまだできていない。

確かに、経営者はいくつかの調査によって声を吸い上げることもあるが、結果は相手の期待あるいは幻滅(何も変わらなかった場合)を喚起するだけである。

そして、次回声を吸い上げようとしても冷笑的な態度に直面するのみである。 
← (私は実際こんな組織に直面した)

 このような組織のクオリティーは打撃を受け、損なわれることとなる。

一人一人の個人が、かつてはクオリテイー向上への気概を持っていたとしてもである。

本質的クオリテイーの向上は、「経営者、管理職が利害関係者に関する問題の解決に取り組み始めた時」に起こる。

ほとんどの組織は利害関係者に関する情報を収集する手段すら持っていない。

 あらゆる組織が利害関係者の声を吸い上げる仕組みをつくりあげ、善循環的にこれを活用 されることをお勧めする。

そして、顧客、社員、仕入先、株主とのシナジー(相乗関係)をつくりあげることが組織の目標である。


ハイクオリティー組織への原理原則

物理の世界に「重力の法則」があるように、

「会社という生命体」にも法則がある。

1「心の預金口座」の法則
 人間関係の質を左右するのは「相互信頼」、相互信頼の墓盤は「心の預金口座」。

人間関係上大切な「心の預金口座」はいともたやすく蒸発する。

2「会社はひとつの生命体」の法則
 人間の身体を構成する臓器、筋肉、骨格、筋肉は全て神経でつながつている。

全身を支えている骨格も神経の束である。

心が打撃を受けると神経が打撃を受け、

身体・頭がダメージを受ける。

企業も身体同様に個人、人間関係、マネジメント、組織が密接に関係した一つの生き物である。

3「能力は生き物」の法則
 個人の能力は生き物であり、

「自然に」、「少しずつ」 、「1日1日」、「ステップバイステップ」、

かつ「継続的」な努力・トレーニングによって、

「自然に」、「少しずつ」、「1日1日」、「ステップバイステッブ」かつ「継続的」に伸びる。

4「会社はひとつの生き物」の法則(その2)
 企業は生態系であり、

4つの次元、

「個人」、「人間関係」、「マネジメント」、「組織」

を同時進行的 (連携的)に進捗することによって企業生命体は確実に進化する。

5「知恵は無尽蔵」の法則
 人間の知恵、センス、活力は無尽蔵である。

出せば出すほど、加速度的に涌いてくる。

人間の頭は「打ち出の小槌」である。

尚、本稿の作成にあたり、次の書籍から一部引用させていただきました。
Tom Peters, THE TOM PETERS SEMINAR, MACMILLAN LONDON, 1994.
Stephen R. Covey, PRINCIPLE-CENTERED LEADERSHIP, SIMON & SCHUSTER, 1992.

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