【ニューヨーク発】東16丁目のちゃぶ台

 [ Last Updated : 9/9/97 ]

  女のライバル

 先日久しぶりに大所帯で撮影に出かけた。それも女子は私一人である。
 撮影場所が町から離れた自然の中だったせいもあって、宿泊はホテルではなく一軒家風のロッジに何人かで分散して泊まった。2泊3日、男8人と文字通り寝食を共にした。出演者を入れると男13人に女が1人。13:1である。これで無人島に流されでもしたら第二のアナタハン島、女王蜂・比嘉和子である。
 それはともかく、女が一人だからといって別に特典がある訳ではない。日本にいるときから男の中に女が一人、という状況での仕事は珍しいことではないし、第一、仕事なので、どちらかというと指示を出すという立場から、気を遣うほうが多い。(まあ、それでもやはり日本での男所帯の中での仕事よりも、アメリカに来てからのほうが「女」であることが有利につながることは確かに多いですけど。それでも特別“オイシイ”ことはない。)
 さらに今回は私にとって全員が初対面だった。
 男所帯を楽しむ余裕は全くなかったのである。
 それでも毎日毎晩一日中顔をつきあわせているうちに、今回のスタッフのキャラクターがだんだん見えてきて、これがなかなかご機嫌だったのである。仕事は速い、性格は良い、そして現場に笑いが絶えない。決して楽な撮影ではなかったのだが、それだけにこのスタッフに私はずいぶん助けられた。
 時間に追われて撮影を終え、飛行機の時間に間に合うか!?という状況で私たちスタッフはロケバス2台に乗り込んだ。
 私の乗ったほうの車には、ラッキーなことに今回のスタッフの中で一番の甘いマスクの(うーん、これを他のスタッフは読まないだろうな、ほとんどがアメリカ人だから大丈夫かな。)プロダクション・アシスタントと、私が頼りっぱなしだったカメラマンと、一緒に笑ってばかりいたチーフ・エンジニアの4人だった。
 はっきり言うと、これは私にとって、大変リラックスした、このロケで初めてで唯一の“オイシイ”状況だったのである。もうルンルンである。ほとんど車内は『私をスキーに連れてって』状態である。
 ところが、である。
 甘いマスクが突然、口火を切った。
 「Do you want to see my little monster ? (僕の小さな怪獣、見たい?)」
 嫌な予感が的中する。子供の写真である。
 もちろん私は彼らがみな既婚者であることを知っていた。彼らの左の薬指にキラキラと指輪が光っているのを初日にしっかり確認済みだったからである。
 そして私はどんな状況下でも、たとえその男性が結婚しようがしていまいが、全く動じない性格である。それでも、俄然子供は不得手である。特に「写真」、というのがいけない。
 『私をスキーに連れてって』状態が私の中でなだれ状態になって溶けていった。
 さらに私を深いクレバスに陥れる状況が起こった。
 他の2人がまるで、待ってました!とばかりに自分たちの子供の写真をドドドーッと出したのである。
 あの時ほど私は自分が火星かどこか地球から遥か彼方から来た異星人に思えたことはなかった。

 私は彼らを誘惑しようと思っていた訳でもないし、自分に子供がいないことを悲観している訳でもない。ただ、脂ののった、色気のある男たちが頭をつきあわせて自分の子供の写真を見せあって(それもあっという間に出て来るところに持っているのだ)「Oh !」とか「Ah !」と言っている姿を見てものすごくショックだったのである。そしてその車の中で、一時的なその小さな世界の中でその時確かに私は異星人だった。めまいがした。
 ここはどこ、私は誰。

 私は心に誓う。
 もし私が結婚したならば、ダンナが子供よりも私の写真を持って歩いてくれるように力一杯努力しようと!
 子供に負けてなるものか、と。

 子供の写真は束で持っていても、彼らの中で誰一人、ワイフの写真は持っていなかったのである。
 子はかすがい。でもこのかすがいは最大のライバルでもあるんだなあ。
 ワイフにとっても、それ以外の女にとっても。



朝香はつみ
テレビ・ディレクター

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