【ニューヨーク発】それでも住んでるNYC
[ Last Updated : 4/7/97 ]
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浮浪者の話(その1:出会い??)
僕には浮浪者の知り合いがいる。 ま、こちらでは皆に彼のことを "Friend" と
言っているが、日本語で「友達」と書くと、ちょっと大げさな感じがするので、「知
り合い」にしておく。
彼の名はケニーといって、52歳の黒人だ。 彼はだいたい毎週木曜日になると、
僕の住んでいるアパートの近くの34丁目と2番街の角で、プラスチックのビール・ケ
ースの上に座っている。 他のホームレスと同じ様に、そこは銀行の出入り口近くだ
。 彼が金曜日には34丁目とパーク街の角にいるのは知っているが、あとの日は何処
にいるのかは知らない。
彼の住まいは近くのホームレス・シェルターだ。 だから彼は毎日、夕方6時の
配給の時間までにはシェルターに帰る。 シェルターには彼のベッドとロッカーがあ
るらしい。 夜はシェルター内のテレビで、主にニュースを観ていて、世の中の出来
事には結構詳しい。
ケニーとの出会いは、次の通りである..
ある日、僕が犬の散歩をしていた時、僕の犬が彼の所へ走り寄って行ってしまっ
た。
僕の犬はとても人なつっこいので、よく道端の浮浪者の所へもひょこひょこ行っ
てしまう.. 独り言をブツブツ言っている、アブナイ浮浪者にも寄って行こうとす
るので、いつも犬には「No! ダメ!」と言い聞かせている。
しかし、その日は犬の方が速かった。 僕が止めようとした時には、もう彼は浮
浪者ケニーの足元でしっぽを振っていた。
でもその時、犬を止めるのが一瞬遅くなってしまったのは、犬が走り寄って行っ
た瞬間に、とても険しかったケニーの表情が、ぱっと笑顔に変わったからである。
そして浮浪者は「ヘーイ!」と笑いながら、犬の訪問をとても喜んだ。 僕の犬
は、じゃれながら、ケニーの足元に置いてあった、彼のコーヒーを目ざとく見つけ、
それをペロリとなめてしまった。 それでも彼は「ヘイ! 俺のコーヒー飲んじゃっ
たよ、ワハハハ..」と、とても嬉しそうだった。
その日はそれで別れたのだが、僕にとって意外だったのは、ケニーの明るい性格
だった。 あんなにハッピーな浮浪者は今まで見たことがなかったからだ。 確かに
ハッピーに歌を歌ったりしている浮浪者もいるが、みんな頭もイッちゃってるのがほ
とんどだ。 しかし、彼はそうではなかった。 しかも、話し方もしっかりしている
...
彼の座っているビール・ケースを、木の箱に変えて、周りの風景を農場に変えた
ら、どんなに似合うだろう.. そんな事を一瞬考えた。 そして、そんな雰囲気を
、彼は持っている。
次に彼に会ったのはその約一週間後だ。 彼はいつもの場所にいた。 銀行のセ
キュリティー・ガードが彼に話しかけている。 僕は彼に話しかけようかどうか、ち
ょっと迷ったので、とりあえず彼らを無視して、横の銀行に入った。
僕はキャッシュ・マシーンを使いながら、ウィンドウを通して、彼の様子を伺っ
た。 どうやら、セキュリティー・ガードとは話が終わったらしい.. また険しい
表情に戻って、ガラスの向こう側に座っている。 こないだの明るさは、あの時だけ
のものだったのだろうか?.. とまた一瞬考えたが、とりあえず小銭をあげること
に決めた。
銀行を出て、彼に近づいた.. やはり厳しい顔をしている! が、もう後には
引けないので、声をかけた。 すると、彼の表情が笑顔に変わった。 良かった..
やっぱり、本当に明るい人なんだ..
僕は「こないだは僕の犬が、コーヒー飲んじゃってごめんね..」と言って、コ
ーヒー代として50セントあげた。 彼は「オー!」と言いながら、丁重にお礼を言
ってきた。 そして、「俺も一度は、キミの犬みたいなのが欲しいなぁー.. 犬は
心の友になるだろ? 俺もいつかは犬を飼うんだ!」と言って、笑った。
彼は別れるまで、お礼を丁寧に、何回も言ってきた。 ついでに「体に気を付け
て、犬も大切にな..神の御加護がありますように..」と言った。 何だかこっち
が、宣教師のお説教を受けているみたいだ。
これじゃ50セントじゃ足りなかったかな..なんて思いながら歩き始めたが、
実際に50セントじゃコーヒー1杯も買えない..ということに後で気が付いた。

つづく
NAO
ミュージシャン
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