[ Last Updated : 5/31/97 ]
最初のうちは、僕も何だか善人になった気分だったので、毎回バナナとか、パンとか、スープとかを差し入れしていた。 彼はいつも丁重にお礼を言ってくれる。 そのうち、彼の身の上話もしてくれる様になった。(実は結構それが聞きたかったのだ..)
彼は今年で52歳で、両親は彼が若い頃に交通事故で亡くしたそうだ。 「普通両親は、何か財産を残してくれるんだろうけど、オレの親は何も残さずに死んじまったよ..」と、彼は言う。 ただ、母親がいつも「自分の体を大事にするんだよ..けっして、傷つけるんじゃないよ..」と言ってた事は、胆に命じているそうだ。 それと、「他人様に迷惑をかけない事」と教えられた事も、浮浪者生活で守っている。 彼が自分から金乞いをしないのはその為だ。
結婚歴はナント3回もある。 実は、ずい分前に話したことなんで、はっきりとは覚えていないが、最初の奥さんとの間には息子(もう成人)がいて、今、彼女らはニュージャージーに住んでいるらしい。 最後の奥さんはムチャクチャ美人だったらしいが、ドラッグ癖がひどくて、彼が稼いできた金は、全てコカインに使われてしまったらしい。 彼は「もう二度と結婚はしない」と言っている。
そして、最も知りたかった、浮浪者になったいきさつだが、よくあるパターンの、会社をクビになった事かららしい。 彼はゼロックス社の工場で働いていたそうだ。 そして、そこで十数年も働いた後、ある日突然、わずかな退職金を渡され、解雇されたそうだ。 理由は工場のコンピューター化らしい。
彼はそれから毎日飲んだくれの生活を始めた。 職を失い、奥さんにも逃げられ、彼は知らぬ間にアル中になっていた。 そして、酔っ払ってはそこらで寝ていたらしい。 そのうち、地下鉄を住みかにし始めた。
冬のある日、彼はいつもの様に酔っ払って駅のホームで寝ていた所を、警官に起こされた。 「じゃまだからどけ」と言われて、起きようとしたが、体が動かなかった。 気が付くと、ナント下半身が寒さで凍っていたらしい。 彼はそのまま病院へ運ばれ、3週間ほど治療を受けたそうだ。 そして、それからアル中のリハビリ...
彼が今住んでいるシェルターは、その病院のまん前にある。 多分、彼が受けたリハビリは、そのシェルターのプログラムの一貫のハズだ。 そして、そこでの生活は今年で4年目を迎える..
そして、それ以来、彼は母親に言われた事を改めて痛感したらしい。 「もう二度と、自分自身を粗末にはしない」と誓ったそうだ。
さて、そんなケニーだが、しばらく交流を続けているうちに、あることに気が付いた。 道に座り込んで、彼と話していると、実に多くの人々が、やってくるのである。 しかも、そのうちのほとんどが常連(?)で、「やあ、ケニー、元気そうじゃないか?」とか、「ケニー、お腹すいてない? 今、スープ買ってくるわ」と、次々と「差し入れ」を持って来る。 そして、ケニーもそれらの人々が近づいてくると、「あ、彼がやって来る、彼は友達なんだ..」と、あいさつの用意をする。
もっと驚いたのは、日によって座る場所を変えている事だ。 ある金曜日、僕は彼を「いつもの場所」から西へ3ブロック程離れた所(東西のブロックは結構遠い)で見つけた。 金曜日はそこが彼の「いつもの場所」であった。 そして、そこでも何人かの常連がいて、お金や食べ物など「差し入れ」を持って来ていた。
「なんだ、僕がいちいち心配しなくても、しっかり稼いでるじゃないか..」と、僕は思った。 「もしかしたら、ケニーは予想以上に頭が良くて、どうしたら人から哀れんでもらえるか、計算されているのではないか...?」そんな思いが頭をよぎった。 そこで僕はとりあえず、むやみな「差し入れ」は当分しないことに決めた。 そのかわり今まで以上に、話し相手をする事にした...
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またまた続く。
NAO
ミュージシャン