【ニューヨーク発】それでも住んでるNYC

 [ Last Updated : 5/31/97 ]

浮浪者の話(その3:ボランティア?)

前回までのあらすじ:近所の浮浪者ケニーとの交流が始まった。 しばらくすると、彼が浮浪者にしては、結構稼いでいるのが分かってきた。 僕は「差し入れ」を中断した..


   「差し入れ」をしなくなっても、ケニーはいつもと変わらず、僕と僕の犬を見ると「ヘーイ!」と笑顔で話して来る。 何もあげずにいるのは、結構かわいそうな気もしたが、別に僕は彼の世話を義務づけられているわけでもないので、「今日は何も持ってないけど、話し相手になるよ..」と言う事にした。 彼は、「もちろんさ! それでいいよ!」と、快く答えた。 
   そう言われてしまうと、「彼は、どうしたら人から哀れんでもらえるか、計算 されているのでは?...」と、考えていた自分がいやになってしまう...


   何がともあれ、彼は話し好きだ。 こちらが遮らなければ、きっと一日中話してくるのではないかと思う。 しかも、彼の話は最近のニュースから、聖書について、または、彼の人生観など、なかなか楽しい。 お互い、共感出来る事があったりして、そういう時は「やっぱりそうだよな!」と言ってお互い握手をする。
  
   ある日、彼が「本当はまた仕事がしたいんだ..」と言うので、老人ホームなどでの、患者の介護なんかピッタリじゃないか..と思った。 そんなに話しが好きだったら、向こうも話し相手が欲しいだろうし、ちょうどいい。 そこで、それを彼に告げると、「そいつはいい! そんな人助けの仕事があるのなら喜んでやるさ!」と、かなり乗り気になった。 ただ、困ったのは続けて「じゃあ、そういう仕事を探してみてくれないか..」と、頼まれてしまった事だ。

   僕はその時は「ああ、ちょっと探してみるさ..」と適当にあしらったが、一週間後にまた「例の仕事なんだけど、何かあったかい?」と、しっかり聞かれてしまった。 僕は、あんな話を切り出した事を後悔したが、変な考えから「差し入れ」を中断した事へのお返しだと、思う事にした。


   何から当たったら良いのか、全く見当がつかなかったので、とりあえずインターネットでホームレス・サービスのページを調べてみる... それらのほとんどは、子供か、子供連れのホームレスを救う団体で、しかも彼等が求めているのは一般からの「寄付金」だ。 とても52歳の黒人の職探しなど、相手にされそうにない。

   探すうちにひとつだけ、ホームレスの社会復帰をトレーニングしている団体があったが、そこも「寄付金」を求めていた。 とりあえずメールを送ってみたが、いくら経っても、何の返事も来なかった。 僕がこの事をケニーに告げると、彼は「あそこは俺も行った事があるが、全くダメだったよ..」と言った。

   全く、こんなに使えそうな人材なのに、コイツら一体何を考えてんだ! という思いが込み上げてくる。  でも、こういう人達を生み出してしまう社会が悪いのか、彼等自身のせいなのか? まあ、いろいろあるが、ちょっと分からなくなってきた。

   ケニーは言う.. 「みんな俺達を、ただのホームレスだと思って通り過ぎるけど、中には立派だったヤツらもいるんだぜ.. 俺の知り合いには、学校の校長だったのもいるし、NASA の技術士で、スペースシャトルを作ってたヤツもいるんだ!」 そのうちの「元校長」は、社会復帰に成功し、今はホームレス・シェルターのカウンセラーをしているそうだ。


   職探しの希望もなくなりかけたある日、ケニーがニューヨークのジュリアーニ市長の話しをし始めた。 彼がそうやって話し始める時、僕は彼の言う事に賛成出来なかったとしても、しばらく黙って聞く事にしている.. 何故ならシェルターでは、誰も彼の世間話なんて聞いてくれないからだ。 シェルターの人間達には、少し話しが難しすぎるらしい。

   僕は、いつもの様に彼の話しを聞いていた..が、そこでひとつ思いついた。 僕は彼の話しをさえぎって言った。 「ジュリアーニ市長へメールを出すことが出来るよ!」

   家に帰ると、早速シティー・ホールへメールを出した。 

   そしてまたして、また返事は来なかった... 

   が、それから一ヵ月後、「あなたのメールの要約を、ジュリアーニ市長に渡しました。 又、ホームレス・サービス局、局長にも同様に送りましたので、何らかの措置がとられるのを待って下さい」とのメールがきた。 そして、その一週間後、ケニーの属しているシェルターの部長さんから、電話がかかって来た。 「私自身が彼に会って話しをしたいので、あなたの話している浮浪者の事について教えてほしい」

   こりゃまいった。 ものはやってみるものである..。

   その部長さんは、わざわざケニーの座っている、34丁目と2番街まで、話しをする為に、歩いてやって来たそうだ。 そして、ケニーに6月中旬の、「ホームレスへ仕事を与える集会」のインフォメーションを渡していったそうだ。

   これで、何とかなるのでは..と思ったが、ケニーは過去にもその「集会」へ何度か行った事があり、やはり何もなかったらしい。 「でも、また行ってみるよ..」とは言っている。

   ただ、またひとつ勝手な事を思ってしまった。 ..ここで彼に仕事が見つかってしまうと、もうあの「いつもの場所」で、彼を見る事が出来なくなってしまう.. それもちょっとさみしいかな..。


   最後にケニーからのメッセージだ..「みんな、ただ通り過ぎているホームレス達だが、本当はスゴイ奴の前を通り過ぎてるかもしれないぜ! ただ、ひとつだけ言える事は、独り言を言ってる奴に近づいちゃダメだよ! アイツらはヤバイ!」(笑)




場合によってはつづく..

 NAO
 ミュージシャン

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