【ニューヨーク発】Kick Chaos!

 [ Last Updated : 9/17/96 ]

 ”道端のお葬式 ”

ある土曜の夜中過ぎ、近所の日本食レストラン「たかはち」で友人と最後のお銚子を空けようとしている時、外が突然赤く光った。そのうちに人ごみで道が覆われた。

この辺りはアルファベット地区と呼ばれ、観光客からはとても怖ーいと敬遠されている場所であります。
1988年に起こった「トンプキンズ・スクエアーパーク暴動」では警察の蛮行が指摘され、それに一役かったのが市民の撮った”ビデオカメラ証言”とロサンジェルスのロッドニー・キング事件の先駆者的な役割を果たした暴動です。

あっ、また暴動だ!と思うやいなや「すぐもどるから...」と友人は人ごみへ消えていった。
”そんなー。”残された私は、そこの勘定を済ませるしかなかった。

私は一人、人ごみを掻き分けその先頭に出た。なんとそれは無数のろうそくで灯された道端のお葬式だったのです。その人は41才の白人ホームレス男性、マーリン。
彼はそのコーナーに透明のビニールの家(人がやっと一人入れる程のもの)を作り十数年もの間、外界を観察し続けていた。彼にはいつもたくさんの訪問客がいたのを覚えている。
寒い冬の日、小さなストーブを皆で囲んで暖め合っていた事、ごみ箱から拾った食べ物の残りを周りのホームレス達に分け与えていた事。一人の時は専ら読書に熱中していたらしい。確かに彼の家は本で埋っていたように思う。

もともと体が丈夫ではなかったマーリンは、厳しい路上の生活がたたってか風邪をこじらし肺炎を患っていたという。”私は医者だ。”と名乗るウエイター風の制服を着た中年の男が話しかけて来た。”リックはとうとう今朝早く、口から大量の血を吐いて亡くなったんだ。少し前から俺の手ではどうしようもならないくらい病んでた。内緒でよく薬を持ってきてやったんだが.....。どうしようもなかった。でもこの人の集まりを見てくれよ、こんな大きなパーティーはマーリンにとって初めての事だぜ。”
私は、このおじさんが本当の医者であると信じたかった。

道行く人々がろうそくの光りに足を止め、マーリンのために祈を捧げた。ある酔っ払いはろうそくの前にひざまずき頭を垂れたと思いきやそのまま倒れ込んでしまった。祈りを捧げるどころではない。 時計を見るともう朝の2時30分。私は友人を探した。後ろの方で待っててくれた。

丁度1ブロック過ぎたところで、猛獣のような声がクラブから聞こえてきた。パーティーだ。
私はもう一つのパーティーに出席出来て良かったと思った。


杉下 さとみ(女・32歳)
メディア・アーティスト

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