「むの字屋」の土蔵の中にいます
平成15年の北海道シリーズ
★「二世古」大寒しぼり原酒生酒★15/8/30のお酒
北海道シリーズの最終戦である。
北海道倶知安町の「二世古」(にせこ)。ただしラベルでは「二世古」の世は異体字の世である。
はじめて「二世古」を呑む。
しかも、出会ったのは四合瓶で2100円(税別)という大胆な値段の酒である。だから相当の自信作と見たのである。
たすきラベルに「大寒しぼり原酒」とある。
裏ラベルを見ると、製造年月は、すなわち瓶詰したのは「15.5.−」である。
アルコール度数は「18度以上〜19度未満」である。
アル添である。精米歩合が書かれていないので本醸造か吟醸かはわからない。
表ラベルには大きく「生酒」と書いてあるが、生生だか、生貯蔵だか、生詰めだかは書いてない。
さて、呑んでみる。酒はデーターではない。呑んでうまいかどうかである。庵主の好みかどうかということである。
栓をあけると麹のにおいがする。こういうお酒が好きである。
高めのアルコール度数は庵主の好むところである。
いやみのない味である。酒だけを楽しむには味に表情が乏しいが、食事といっしょに呑むとあきがこない酒と見た。
ていねいに造られたことが分かる力(りき)のはいったお酒である。値段は北海道でしか手に入らないお酒という意味で御祝儀値段といったところである。
★「国稀」本醸造★15/8/25のお酒
北海道で呑む日本酒が、東京で呑むお酒と比べてなぜおいしく感じないかということの回答である。
「北の錦」の純米酒「北斗随想」を呑む。二度呑んだ。別の店で呑んだのである。二度呑んで、その酒がよくできている純米酒であることを実感した。
そのあとに呑むお酒が問題なのである。
「国稀」の本醸造があった。
庵主はまだ「国稀」を呑んだことがない。さすが北海道である。増毛町のお酒が酒祭りに名を連ねている。
本醸造ということでいささかの不安はあった。「北斗随想」ができのいい純米酒だったからである。
「国稀」の本醸造を呑む。
アルコールのにおいがするわけではない。でもやっぱりもの足りないのである。味の厚みにさびしいものを感じるのである。あえて呑むまでもない酒だった。
呑む順番を間違えたようである。
「国稀」の上位ランクの酒に期待したい。
北海道にいくと気持ちが緩むのである。北海道にも酒知り人(さけしりびと)はいるから、千歳市内にもいいお酒が揃っている。だから呑む酒には不自由はしない。
が、呑んでいてもつまらないのである。東京で呑む日本酒のあのうまさが感じられないのである。
その理由は一つ思い当たることがある。
ストレスである。東京には適度なストレスがあるが、遊びに来た北海道にはそのストレスがすっかりぬぐい去られてしまうからである。
北海道に行くと、まず時間の流れが東京と違って緩慢になる。そして人圧がぐっとさがるから、お酒がくつろがせてくれるストレスの度合いが低くなってしまうのである。だから東京で呑むときとは違って、酒を呑んだときの快感の度合いもそれにあわせて低くなってしまうからである。
おなじ生ビールを飲んでも、暑い夏の日と寒い日に飲むのではそのうまさが異なって感じられるのと同じである。
東京は、お酒を呑むには最高のストレスが充満している理想的な環境なのである。庵主が酒都と呼ぶ所以である。
★セブンイレブンの酒売場★15/8/19のお酒
北海道から帰る時に機内で読んだ道内雑誌にこんな記事が載っていた。
旭川の「男山」が、この(平成15年)7月22日から蔵元の周辺の地域にあるセブンイレブンに限定して「男山特別純米生酒」を売り出したというのである。5度前後の一定温度のチルド輸送で蔵元から店頭まで配送するという。これまでは流通の関係で販売できなかったおいしい生酒がしっかりした温度管理のもとにお店に並ぶようになったという朗報である。
ビールでもキリンが「まろやか酵母」という酵母入りビールをセブンイレブンだけに限って供給している。
そうなのである。いまでも醸造酒の販売では多くの酒販店がかならずしも良好な状態で酒が売られているわけではないという状況の中にあって、セブンイレブンはうまい酒をきちんと温度管理して販売できるチャンネル(流通経路)なのである。
セブンイレブンは納入会社に対する要求もきびしいが、やるといったら末端まできちんと徹底できるコンビニエンスストアだから、酒の管理に関しても信頼はおけると思う。
ただ、あたりまえのことだが、最近1万店を越えたというチェーン店である。それだけの店にうまい日本酒を1社で供給することは無理である。日本酒はビールと違うのである。したがって、それぞれの地区にある蔵元がセブンイレブンの過酷な要求水準に同感できるなら、それぞれが供給することになるだろう。
管理はいいお店である。セブンイレブンに同感できるなら、本気を入れて呑めるお酒を造って納入してほしいものだ。セブンイレブンにいけばうまいお酒が呑めるということになれば、他の日本酒も販路もすこしはよくなるかもしれないからである。
でも庵主は判っている。うまい酒は一期一会の酒なのである。定番でうまい酒を供給するということがどれだけ大変なことか。そして、そういう事情から、コンビニではそこそこにうまいお酒は手に入っても、ほんとうにうまい深い味わいの日本酒はやっぱり専門の居酒屋でしか呑むことができないということを。
★工場で飲む生ビール★15/8/17のお酒
北海道の空の玄関、千歳市は、サントリーの瓶詰工場があり、キリンのビール工場があり、地ビール「ピリカワッカ」の醸造所があり、隣町の恵庭市にはサッポロビールの工場があるというビール都市でもある。
毎年7月の最終土曜日と日曜日に開催されるビール祭りは年々そこで飲まれるビールの量が増え続けているという好評の行事である。もっとも車でやってきて飲むというわけにはいかないから、電車賃を払ってでもうまいビールを飲みたいという人たちの支持を得て、真夏の北海道には欠かせない恒例の祭りとなっている。
8月17日にキリンビールの工場で大麦刈りというイベントがあったので参加した。
目的は、工場内にあるビアレストラン「ハウベ」でうまい生ビールを飲むことである。
今月はエジプト料理特集ということで、ターメイヤなる豆のコロッケをとった。胡瓜のビール漬けも付け加えた。
ビールはハートランドである。400ミリリットル入りのグラスなら400円。550ミリリットルなら500円である。
庵主は、ビールにおいても量はいらない。 小さい方で頼む。
やっぱりうまいのである。ハートランドビールはうまいと本に書いてあったので、百貨店で瓶入りのハートランドを見つけて買ってきて飲んでみたがさほどとも思えなかった。が、この、北海道の空気の中で、工場のレストランで飲むハートランドはたしかによくできた味わいなのである。実体験してみる価値はあるビールである。
2杯目は「麒麟 淡麗」を飲んでみた。発泡酒は工場で飲めばうまいのか確かめてみたかったからである。
ハートランドの後に飲んだのではあきらかに次元の違う飲み物だった。
ビール会社はそういうものを造るのに力を注ぐなら、同じ力をビールの税金を安くすることに使えばいいのにと庵主は思ってしまう。
ビールの税金を安くしないと、当今この高率の税金では消費者の納得が得られないので今後はもう酒関係役人の天下りを引き取らないよとか、政治家のパーティー券にはいっさい協力できないよとかで当局の役人や関係政治家に圧力をかけて説得できないのだろうか。消費者にあやしいビールを飲ませる広告は上手だけど、飲み手の側に立って役人や政治家を説得することは下手なのだろう。
消費者が高いビールを買えなくなったのは、連中が政策的に不況にしたせいなのだから、せめて市民が懐(ふところ)の心配をすることなくビールを飲めるぐらいのことはやっても罰があたらないはずなのだ。やらずぼったくりの政策ではだれも付いて行かなくなるのではないか。もっとも本当の狙いはそこにあったりして。これ以上のことは素面では語れない。うまいビールを飲みながらの話題である。床屋政談ならぬ、ビール政談である。
冷夏の北海道もその日の千歳は快晴で、夏の日差しの中、さわやかな気分でうまいビールを飲んできたのである。
うまいビールを飲めば不満だって解消していい気持ちになるのである。御身安泰でいられようというものを。
★「海や」で二晩★15/8/15のお酒
千歳にうまい酒を置いている居酒屋があった。
「海や」である。ここならば呑めるお酒が揃っている。
はじめてお店に入ったときに呑んだのは「山法師」(やまほうし)である。
この酒の名前を知っている人なら、それだけでこの店の雰囲気が判るはずである。そういうお店なのである。
「山法師」は「六歌仙」があらたに立ち上げた酒銘である。2〜3年まえから作っている。青い瓶にはいっているので、その瓶の色が好みの別れるところであるが、庵主はその色を見ると心が引き寄せられる。庵主好みのちょっと呑むにはちょうどいいあまい酒だからである。
「海や」の「帆立てとアスパラのバター炒め」はうまい。ああ、いまほんとうにうまいものを食っているという満ち足りた気分になれる。しかも一皿の量が多いのである。北海道なのである。うまいものがドーンと出てくる。一人で酒を呑みにいくものではない。
庵主、このごろは食べ物の、量が食べられなくなった。定食の一人前が多過ぎると思うときがある。うまいものを少量たべたい。ついでにうまい酒を一杯だけ呑みたい。酔いたいのではない。天の恵みの甘露を一口だけ味わいたいのである。ほんの一杯の口福にひたりたいのである。多くは望まない。
だから、最初にまずい酒が出てくると大いに困る。つい、もっとまともなお酒を口にしたいという思いがわいてくるからである。
お店にはご迷惑かと思うが、最初に出てきたお酒がうまいと庵主はそれだけで十分満足してしまう。その時は、もっとうまいお酒があるのではないかといういじましいことは考えない。もうそれ以上はいらないのである。
「南」の大吟醸があった。呑むまでもなかったが、北海道に遊びにきたのではめを外してみたのである。というのもその本醸造が十分うまいことを知っているからである。あえて呑むまでもないということである。
「北海道のお酒を呑みますか」と聞いてくれたので、何がありますかと尋ねたら、一つが「北の錦」の純米「北斗随想」だった。男山の純米もありますよとのことだったが、今夜は「北の錦」を呑んでみようと思った。
北海道の日本酒といえば、「北の誉」や「千歳鶴」もあるが、気になるのは「男山」と「北の錦」である。「北の司」とか「金滴」とか「国稀」などは北海道に居てもなかなか会えないお酒なのだから、気にしようがない。
「北斗随想」はクリーンヒットである。思わず、笑みがこぼれてしまった。いい酒あるじゃないか。
うれしくなって、その夜は3杯でおしまいにしたのである。
北海道の最初の夜は充実した夜となった。
そして第2夜。再び「海や」を訪れた。
きのう呑まなかった「正雪」の純米を呑む。酒に不足はない。でも「酒門の会」に出していた純米「正雪」のうまさを思い出してしまった。あの酒はすごい酒だった。うまいとかどうとかを感じさせることなく、口にした途端にあっと言う間にさらりと喉元を通り過ぎてしまったのである。水を一気飲みしてもあんなふうに喉にさわることなくはいってはいかない。「なんだ、これは」とはっとして「俺はいま酒を呑んでいる」と一呼吸おいてわれにかえったのである。
「男山」の純米というのは、よく聞くと生もと〔酉+元〕純米だった。この酒は庵主とは波長が会わない酒である。まずい酒というのではなく、いい酒なのだが好きになれない味なのである。そういう酒がいくつかある。いい人だからといっても、好きになれない人がいるようなものである。
菊川怜というタレントがいるが、今二十数社のコマーシャルに出ているという超売れっ子である。魅力的なことはわかるが庵主はどうにも好きになれない。そういう酒があるということである。
この夜は、千歳も蒸し暑かった。だからさいしょに生ビールを飲んだものだから、「男山」のあとにもう一杯を求めることはなかった。もう定量なのである。ほんのりと酔いがまわっていたのである。
★北海道で呑む「能代」という酒★15/8/14のお酒
秋田県能代市の酒だから「能代」である。「喜久水」の別銘柄である。
千歳市内の夜の町をそぞろ歩きしていたら、当店お勧めの地酒「能代」とある居酒屋があった。
見るとお店の名も「能代」とある。
ひょっとして、蔵元さんの知り合いかと思って入ってみた。
まずはその「能代」の純米をもらう。期待どおりのいい酒である。
聞くと、店名は店主の苗字が能代なのでそのまま能代とつけたとのことだった。
お客さんから「能代」というおいしいお酒があると聞いて、ご夫妻で蔵元まで訪ねて行ったという。
6月だったので造りは終わっていたが、蔵元さんの親切な応対を受けてすっかり「能代」にほれこんでしまったという。それ以来、この酒はお店の定番になっているという。蔵元さんのところで食べた漬物がおいしかったという。
おいしいじゃがいもがあるけどたべますかというので、いただくことにした。ほんとうは塩辛といっしょに食べるとおいしいのだけれど、きょうは塩辛がないので高菜(たいな)ですけどこれといっしょにたべてもおいしいよという。
おいしいイモをたべながら「能代」を呑んだのである。じゃが芋と酒。なかなか乙な組み合わせだった。
★家賃ビール★15/8/11のお酒
たかだか生ビール1杯の値段が明らかに高いのである。庵主はそういうのを家賃ビールと呼んでいる。
場所は羽田空港内の売店である。かなりの家賃を払っているようである。
北海道に向かう午前中の飛行機に乗る前にちょっと時間があったので、昼間から酒を飲むという不善に走ってしまった。庵主は飲んで機内ではすぐに眠ってしまえばいいのだが、ぎゅうぎゅうに詰められた客席の隣にすわった人が酒くさかったら迷惑このうえないのである。しかもそいつが熟睡しているとなると、たたきおこして文句も言えないではないか。
一方、こっちは減価償却ビールである。
幕張のホテルで朝食時に生ビールを頼んだら1杯が800円+税だった。いや、それにサービス料も乗っかっていたような気がする。
相当な費用をかけて建てたホテルなのだろう。早く元をとろうと必至のビールなのである。そんなビールの健気さに感動しながら飲んだものである。
六本木のラーメン屋で生ビールを頼んだら、アルバイトのおにいさんが泡4割ぐらいに注いで持ってきた。ジョッキに口を付けようとしたら、フロアの責任者のような女性が飛んできて、泡が多いようなのですぐに取り替えますと言ってきた。
一般的には、ビール7割:泡3割というのであればいいという。ビールの量が7割以下だったら不足分を注いでもらっていい。
しかしこの場合は庵主にはそれでも十分な量だったので、これでいいですと断ったら、ほんとうにいいですかと何度も恐縮そうに聞き返してきたことがある。
生ビール一杯もいろいろである。
