■ 河合の宝「ゲンジボタル」 ■
 



6.ホタルの灯を消さないために

 ・とるな殺すな見て遊べ

   トンボのしっぽを切ってわらをさしこんだり、蛙のおしりに麦わらをさして
  ふくらませたりするような遊びを最近は見なくなりました。残酷な遊びですが
  何かさみしい気もします。
   同じような遊びに、ホタルをたくさん集めて発光器を自分の体に塗りつけ、
  ぼおっと光るのを楽しむ遊びがあったそうです。今ではしたくてもできない程
  ホタルが少なくなりました。昭和39年、生田蛍保存会設立15周年蛍祭りの
  パンフレットの中に『とるな殺すな見て遊べ』と言う言葉が出てきます。この
  時期は乱獲がホタルの数を減らす最大の要因でした。
   今でも1匹くらい、自分一人だけならという気持ちで気安く採っていく人が
  けっこう多くいます。今年、理科部員は毎晩ホタルの飛ぶ数を観測しました。
  やみ夜の中でホタルの観測をしていると、親子連れが来て、目の前でホタルを
  とっていくので、多くの部員が腹を立てていました。いさめなければいけない
  はずの大人がそれをしてるのは恥ずかしいことです。
   1匹2匹はまだ許されても、最近はホタルにかかわらずいろいろな生き物が
  商品化されているので、商売での乱獲も心配です。雌の大量捕獲をされたら、
  たねが絶えてします恐れさえあります。
   ホタルだけでなくどんな生き物でも、身近にいつもいると余り気にならない
  ものです。しかし、ある時ふっと気がつくと知らない間に姿を消してしまって
  いるのです。メダカ・ミズスマシ・サギソウ・ササユリ・モウセンゴケ、昔は
  たくさんいたのに、あったのにと言っても後の祭りです。


 ・ホタルは環境のパイロット

   ホタルが少なくなったのは河川の水質がどんどん変化してきたことも大きな
  原因です。歩くとホタルが顔に当たって困ったという2〜30年前にも、河合
  地区には今と変わらない数の民家があったし、その全てが汚水を川にたれ流し
  ていて下水の処理など全然していませんでした。それなのにホタルはたくさん
  いたのです。下流の川を見ると家庭の廃棄物が川の自浄能力を越える量になっ
  てしまい、水中の酸素を大量に消費してしまうので、汚れた臭い川になってい
  ます。また、下流の流れは川面に泡が立っています。家庭から出る各種の洗剤
  が分解されずに川に流れ込んでいるからです。田畑やゴルフ場からは殺虫剤・
  除草剤などの農薬が流れ込んだりします。工場が溶剤や廃液を流し込むことも
  あります。こうして水質が悪化していくのです。
   それに加えて、コンクリートの護岸工事で川幅を狭め、砂や礫(小さい石)
  からできた河原を少なくしたため、川の浄化能力が随分低下してしまいました。
  また、工事の際に出る土砂のため川底にヘドロがたまり生物相を大きく変えた
  場合もあります。
   ホタルは昔、人と自然とが共存していた時代の人里の生き物です。ホタルが
  住める水か、住めない水かは、人と自然が共存するぎりぎりの線だといえるの
  です。


 ・便利さをとるかホタルをとるか

   ホタルを山奥に追いやったもう一つの大きな原因があります。それは世の中
  が明るくなりすぎたせいです。
   ホタルが大発生するところは、回りに隠れるための茂みがあることは無論、
  近くに明かりが全くない暗やみのところです。街灯も家の明かりもありません。
  他地域でホタル保護活動が盛んなところでは、幼虫が上陸するころから発生地
  近くの明かりを消しています。
   私たちの地域のホタル発生地は、他の地域のように発生地が狭く限られてい
  るのではなく道に沿って流れる川の全域であるというところが難点です。この
  道は生活道路なので、防犯上街灯は多ければ多いほど危険が少なくなります。
  各戸の門灯も必要です。しかし、これらの明かりがホタルの光通信を妨害し、
  そのためにホタルが住みにくくなって、暗やみのある上流へ引っ越して行って
  しまうのです。家の窓から流れる明かりがどれだけ明るく見えるか、理科部の
  観測で痛感しました。
   『便利さをとるか自然環境をとるか』
   夜間照明だけでなく、宅地、道路、さまざまな廃棄物の処理など、いろいろ
  な面で選択をせまられている問題ではないでしょうか。


 ・こんなことならできる

   ホタルに限らず各地の自然環境活動を類型化してみると、だいたい同じ様な
  経過をたどって盛んになり衰退していくような気がします。
   まず、開発の進んでいない地域に繁殖していた生物が、あるとき数が減少し
  それが貴重な生物資源であることに気づき、保護の気運が高まってきます。
   保存会ができ、組織的に看板を立てたり○○祭りを組織したりして、保護の
  PR活動をするようになります。
   しかし、存在が有名となり観光化して人が訪れるようになり、乱獲が目立つ
  ようになる一方、開発の波が押し寄せて道路が整備されたり、宅地ができたり
  して保護活動とは裏はらに数がどんどん減っていき、ついには絶滅のピンチに
  陥っていきます。
   このような傾向は、その生き物だけの存在に視点をあてて、自分たちの生活
  の便利さはそのまま確保しようとしている点に問題があると思います。広く環
  境保護を考えなくては解決できない問題です。自然と人間との共存が21世紀
  の課題です。しかしそう言って何もせずにいたのでは『河合の宝ゲンジボタル』
  が絶滅するのは、他地域の状況を見れば時間の問題のような気がします。その
  対策としてさしあたってできることを考えてみました。
   まず、カワニナを増やしてみる工夫をしてみたらどうでしょう。カワニナも
  ホタルも、本流に全く絶えてしまったというわけではありません。カワニナが
  生息しているところを見つけたら、川を汚さない程度にえさをやって、増殖を
  こころみるのです。
   本流に注ぎ込んでいる谷川や水田の側溝でも、状況がよければホタルが発生
  します。生平のほ場整備をしたところに平成4年たくさんのホタルが発生して
  います。ここは、その前年ぐらいからカワニナがたくさん発生していたところ
  です。
   えさは食べ残しの残飯、スイカやキュウリのへた、イモ類、キャベツやレタ
  スの外の葉など何でもよいと思います。
   次に、なるべく暗い闇を確保してあげることです。川に面した家では、川の
  方の窓の明かりを消すかカーテンをするのが意外と効果的です。
   ホタルが土の中に入っている初夏まで、土手の草を刈るのを待ってもらうよ
  うにするのも大切です。
   それから、ホタルの季節に見物客に勇気を出して
  『ぼくたちの宝です。捕っていかないで下さい。』
  という勇気を持つことです。一番良いのは、保存会の組織で上のようなことが
  実施できることです。まだ、少ないとはいえ毎年ホタルが出るので、『今年は
  少ないな』程度にしか絶滅の危機感がないのが災いしているようです。
   最近河合中学校の飼育室を見学に来た、長野県高森町や岐阜県芥見地区では
  一度全くホタルが絶えてしまい、苦心の末、毎年何千というホタルが舞うまで
  に再興させたと言います。国の天然記念物指定第1号の滋賀県守山町は、都市
  開発のために復元不可能で指定解除となってしまいましたが『守山のホタル』
  の灯は消えず、人工河川で毎年ホタルを飛ばしています。
   日本で国の天然記念物に指定されているゲンジボタルの発生地は、上の地図
  の白丸のところで、ほんの僅かしかありません。守山町以外にも山梨県昭和町
  も指定解除の憂き目を見ています。
   減ったとはいえ、河合地区にはホタルの灯が毎年ともるのです。
  『ゲンジボタルは河合の宝』。天然記念物の指定の誇りを再認識して、みんな
  でホタルとホタルが育つ美しい自然を守っていきましょう。





あとがき

 岡崎市内で河合中学校を知らない人はかなりいますが、ホタルの学校と言え
ば知らない人はありません。それほどホタルに縁の深い学校にもかかわらず、
生徒とホタルの距離はけっこう幅広く、理科部以外の生徒がホタルを知る機会
は理科の授業ぐらいです。ホタルと豊かな自然を守り育てる次代の若者にホタ
ルを知ってもらいたくて、まだホタルのことをほとんど何も知らない状態をも
かえりみず、まず自分が勉強するつもりで本にまとめてみました。
 参考にしたのは、『岡崎市史自然編』『ゲンジボタルの人工増殖』『岡崎の
ホタルガイドブック』と、古田先生があちこちで話されたときに使われたテキ
スト類や研究報告書など、他にホタル資料室に保管してあった各地の保護団体
の啓蒙書、全国ホタル研究会の機関誌、『ホタルの観察と飼育』(ニューサイ
エンス社)、『ゲンジボタル 水辺からのメッセージ』(信濃毎日新聞社)、
『ゲンジボタルと生きる』(くもん出版)などです。
 引用・孫引きが多く、趣旨一貫しないところがあったり、数値に矛盾があっ
たりするところがありますが、今後更に検討してゆきたいと思います。

                 平成4年8月
                 河合中学校理科部(顧問 竹内 昭次)



 竹内先生が河合中学校時代に作られた冊子を、藤井が自分の勉強も兼ねて、
全文を入力し直しました。誤字・脱字などは全て藤井の責任ですので、何か
気のつかれた点がありましたら藤井までご一方下さい。

                         (平成8年5月6日)

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■ 補足 ■

 

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