インターネットを利用した    
       数学の学習への取り組み

 〜 インターネットは数学の夢をみるか 〜   

          愛知県立豊田工業高等学校 
               藤 井 健 二 

1.研究のねらい
 最近では「インターネット」という言葉が新聞 
に載らない日は無いほどである。また、学校現場 
に於いても「こねっとプラン」等の大規模な研究 
や個人ベースでの実践が勢力的に行われている。 
 しかしながら算数・数学という一教科の目から 
このインターネットを眺めてみると、その実践・ 
研究はまだまだこれからという感も否めない。  
(小中高校生を対象とした算数・数学のページも 
他教科に比べてそれほど増えていない。)    
 そこで小中学生を主な対象とした、算数・数学 
の問題に挑戦をするページをインターネット上に 
公開し、その可能性や問題点について考えてみる 
ことにした。                 

2.研究の内容・方法
 私が契約しているプロバイダー(接続会社)で 
は個人のホームページ用として15Mのエリアを 
利用できることになっているので、そこへ算数・ 
数学の問題のページを作成することにした。   
                       
http://www2.gol.com/users/nekopapa/sugaku/
                       
 問題は過去数年分の大学入試問題を参考にしな 
がら、小学生版、中学生版それぞれの問題を作成 
している。正解はホームページ上では公開せず、 
間違った場合などにはヒントを出すなどしながら 
主に電子メールを利用してやりとりを行っている。
 また、現状ではインターネットを利用できない 
学校も多いため、研修会などでこのホームページ 
に関心を持っていただいた先生方には問題などを 
印刷し、こちらから郵送することも行っている。 
(1) 「中学生でも解ける! 大学入試問題」   
 中学生を主な対象とし、次の様な構成で作成を 
行っている。(別紙参照)           

@「メニュー」  ・・ 目次、お知らせなど  
A「準備」    ・・ 予備知識となるお話  
B「問題」    ・・ 中学生向けに出題   
C「ヒント」   ・・ ちょっとしたヒント  
D「解答用紙」  ・・ CGIを利用     
E「正解者一覧」 ・・ 小、中、高、一般別  

 ハイパーテキストの特性を利用して、メニュー 
の画面を中心に各画面へ自由に自由に移動できる 
ようになっている。              
 平成9年8月現在、このページで公開している 
問題は次の10問である。           

@あなたの誕生日は4で割り切れる?      
  整数の性質、確率             
A大好きなあの人の電話番号は9で割り切れる? 
  整数の性質、場合の数           
Bガウス君に挑戦! 合計いくつ?       
  等差数列の和               
C一休さんに挑戦! 合計いくつ?       
  等比数列の和               
D小さい頃、ぬり絵って好きでしたか?     
  場合の数                 
E「ぬり絵」問題 第2弾! 96年度入試より 
  場合の数                 
F愛とは分かち合うこと!           
  三角形の面積、平面座標、直線       
Gどこまでも真っ直ぐなヤツ、彼の名は「直線」 
  平面座標(直線)、垂直になる条件     
H行列のできる旨い店!            
  行列の和・差・実数倍・積         
I「行列」君のすごい技            
  一次変換、三角形の面積          

 平成9年度については、2学期以降新しい問題 
を公開く予定である。             



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(2) 「小学生にもできる! 大学入試問題」    
 小学生を主な対象として各問題の作成を行って 
いるが、中学生版の様な予備知識は必要としない 
問題を出題している。(別紙参照)       

@「メニュー」  ・・ 目次、お知らせなど  
A「問題」    ・・ すぐに取り組める問題 
B「解答用紙」  ・・ CGIを利用     
C「正解者一覧」 ・・ 小中学生専用     

 このページは中学生版に挑戦をしてくれていた 
中学生からのリクエストでスタートした。問題が 
簡潔であるため、中学生版よりも取り組みやすい 
ようである。そのため中学校の授業でも利用して 
いただけるようになり、当初小学生専用であった 
正解者一覧も小中学生別に掲載することとなった。
(高校生以上の方からの参加も受け付けている。)

(3) 「小学生にもできる! 発展編」      
 このページも小学生版の問題に挑戦してくれて 
いる中学生の生徒との「こんなことも発展させて 
考えてみてはどうですか?」というやりとりの中 
生まれた。アイディアを素早く反映できると言う 
ホームページの利点の一例であるといえる。   
 小学生版の問題を元にして、高校で習うような 
範囲まで発展させられないかと考えている。   

(4) nekopapakidsの活動            
このホームページを運営していく中で、多くの  
先生方と知り合うことができた。特に和歌山大学 
教育学部附属中学校の角田先生と出会えたことが 
このページの発展の大きな転機であった。    
 中学生版の問題を印刷し、選択数学の中で生徒 
さんに取り組んでもらえるようになり、授業での 
利用の可能性も大きく広がってきた。      
 その後、佐賀県唐津市立第一中学校の平田先生、
岡山大学教育学部附属中学校の川上先生と言った 
先生方と、学校間の交流や先生方の情報交換など 
を目的にML(メーリング・リスト)をスタート 
させた。                   
 本年度からはMLの管理を角田先生から藤井に 
移すと共に、次のような活動をされている先生方 
に参加を呼びかけながら少しずつその輪を広げて 
きた。(平成9年8月現在 29名)      
────────────────────── 
@インターネット上で算数・数学のページを作成 
 されている先生方              
Aインターネット上の算数・数学の問題に挑戦を 
 している小中学校の先生方          
────────────────────── 
 今年度の1学期後半には、インターネット上の 
算数・数学の問題の話題をはじめ、授業でのパソ 
コンの利用、こねっとプラン、JAVAの利用に 
についてなど様々な情報交換がこのMLを通して 
行われた。それぞれの分野で活躍されている先生 
方が多いので疑問に思ったことなども気軽に相談 
することができる場となっている。       
個人的にもMLの管理・運営を通してさまざまな 
ノウハウと言ったものを得ることができ、大変に 
よい経験となっている。            

(5) nekopapakids特別企画「夏休みの課題」   
 nekopapakidsの先生方との交流の中で生まれて 
きたのが、この「97夏休みの課題」のページで 
ある。問題作りをしていただける先生方に、各自 
ホームページ上に問題を作っていただき、目次の 
ページを私が作成して公開をしている。     
 解答は一旦藤井宛に電子メールで送られてきた 
後MLへ流し、担当の先生方に採点の結果などを 
解答を送ってくれた本人とMLの両方へ出してい 
ただくようにしてある。ML経由で解答や採点の 
結果などを流すことにより、メンバーの先生方に 
その様子を知っていただけるようにしている。  
 メンバーの先生方の中には、夏休み前に問題を 
印刷し学年の生徒全員に配布していただいた先生 
も何人かみえるので、夏休み後半あるいは2学期 
当初にどのような解答が届くか楽しみなところで 
である。(自宅や出校した際にインターネットを 
利用できる生徒からは、既に何通かの解答が寄せ 
られている。)                



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4.考察
 「中学生版」の問題をスタートとしてかれこれ  
1年になるが、その間に考えたりしたことなどを 
いくつか述べてみたい。            

(1) 算数・数学に関すること
@問題のレベルをどのくらいに設定をするか   
 私自身が小中学校で教えた経験がないため問題 
のレベルをどの程度に設定をしたらよいか判断に 
悩むことが多い。中学生版の第7問や第8問など 
は地元の新聞社の日曜版にある「中学生の勉強室」
に同じ様な問題が出題されていたこともあった。 
 逆に、中学生版の問題を小学校生の子どもたち 
に解かれてしまうと言う嬉しい誤算?もあった。 
(現在の最年少記録は、小学校1年生の男の子で 
ある。)                   

A問題に偏りができやすい           
 できるだけ少ない予備知識で問題を解いてもら 
おうとすると、どうしても「場合の数」や「数列」
と言った分野に問題が偏りがちになる。高等学校 
で教えている立場からすると、2次関数、三角比、
ベクトル、微分・積分といった内容が使えないの 
が大きいといえる。              
 この辺りは「小学生版の発展編」や2学期以降 
に作成予定の「中学生版」の問題の中で少しずつ 
取り上げていくことができればと考えている。  
 今春の大学入試より新カリキュラムに対応した 
問題が出題されているので、その中からも良い問 
題を探してみたい。              

B発展性のある問題をいかに見つけるか     
 中学生版の問題の場合、出題にあたってはまず 
大学入試問題の中から使えそうな問題を選び出し 
ている。小中学校の授業で使っていただいている 
ことを考えると、できるだけ発展性のある問題を 
選びたいと思っているのだが難しい面も多い。  
 小学生版の問題の方が問題が単純な分、発展的 
に考えやすいので、2学期以降「発展編」でその 
う言った部分をフォローしていきたい。     
(2) インターネットに関すること
@数式の表示の問題              
 基本的にHTMLは数式の表示に向いていない。
かと言って問題全体をTEXなどで作成し、その 
イメージを表示しようとするとページ全体が重く 
なってしまう。そのため現在のところ数式の必要 
がある部分のみ画像ファイルを作成し、本文中に 
貼り付けている。(中学生版の第9問参照)   
 今後の新しい技術に期待したいところであるが、
インターネット全体の中から見ればその必要性は 
かなり低いので難しいかもしれない・・     
【参考】                   
・上付き χ2    
・下付き χ1    
・エックスは「x」よりも「χ(カイ)」の方が 
 それらしく?見える。            

A黙っていても参加者は集まらない       
 小中学生で自宅などから自由にインターネット 
を利用できる生徒はまだまだ少ないこともあり、 
算数・数学の問題のページを作っただけではなか 
なか参加者は集まらない。現在では授業で使って 
いただいていることもあり、それなりに知名度も 
上がりあまり宣伝活動をしなくなったが、ホーム 
ページをスタートした頃には次のような場を利用 
して宣伝活動をしていた。           
 ・パソコン通信niftyのフォーラム    
 ・小中学校のホームページを見て回り宣伝   
 ・MLへの参加(mathedu、キッズリンク)
(これから始められる方はぜひnekopapakidsへ!)

B個人情報の保護に関して           
 私のページでは、正解したときに正解者一覧に 
氏名・学年・学校名を掲載するようにしていた。 
氏名の掲載については、本名ではなくペンネーム 
での登録も呼びかけてきたが、昨今の個人情報に 
関する議論も考慮して学校名の掲載は取りやめる 
こととした。                 

【例】1997.8.7 ねこぱぱ さん(小5)愛知県



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Cホームページは作ることより維持管理が大変   
 昨年の5月よりこのホームページを始めてみて 
つくづく思うことは、ホームページを作ることも 
大変だけれども、その維持管理はもっと大変だと 
言うことである。特に小中学生を対象としている 
ということから、送られてきた解答に対する返答 
などかなり気を使う部分が多い。        
 現在のところ多くても1日に数通の解答が寄せ 
られる程度であるので、まだその日の内に採点の 
結果などを送り返すことができるが、これが毎日 
10通以上の解答が来るようになった場合には、 
これまでのような形での対応は難しくなる。自動 
採点と言った方法も考えられなくはないが、でき 
れば自分で返事などを書きたいと思っているので 
少しでも効率の良い方法を考えておきたい。   

Dアイディアを即、活かせるのがホームページ  
 「97夏休みの課題」の企画を通して実感した 
ことは、何か面白そうなアイディアがあった時に 
それを一番早く形にできるのがホームページであ 
ろうと言うことである。夏休みの課題を作ろう! 
と言う私の発案に対して日本各地の先生方が一度 
も顔を合わせることなく、半月余りの間に課題の 
ページができたことは驚くべきことである。   
 このように教員のレベルではインターネットの 
有用性は十分に発揮されていると言える。今後は 
この有用性をいかに生徒のレベルで発揮していく 
かが大きな課題であると言える。        

5.今後の課題
@数学でコミュニケーションを         
 昨年、和歌山大学附属中学校を訪問した際に、 
角田先生から提案のあったことであるが、「数学 
を通してコミュニケーションの力を養えないか」 
と言うことを考えていきたい。私のページの問題 
を印刷し授業で取り組み、解答を先生が行うこと 
で完結してしまった場合、インターネットの存在 
価値は全くなくなってしまう。         
 インターネットの命はコミュニケーッションに 
あるのではないかと考える。          
 自分の考えを正しく相手に理解してもらうため 
には、適切な表現を用いて理路整然とした文章が 
必要となる。また、他者と議論をするには相手の 
考えを正しく理解して、それに対する自己の考え 
を論理的に展開をしていく必要がある。     
 そう言った力をインターネットの利用を通して 
養っていくことが出来ないだろうか。また、そう 
言った活動を通して、数学に対する理解を深めて 
いくことはできないだろうかと考えている。   

AJAVAの利用               
 現在、多くの先生方により授業でのパソコンの 
利用について研究がなされている。これらのこと 
をインターネット上で具現化するひとつの方法と 
してJAVAの存在がある。          
 因数分解の問題を出題して、答え合わせをする 
ようなことであればJAVAスクリプトで、また 
図形の変形など視覚的なものを含むものであれば 
JAVAアプレットを利用することによっていろ 
いろなことができる可能性がある。       
 クラス全員でインターネットを利用した授業を 
想定した場合、こういった素材となるべきページ 
もたくさん必要になると思われる。       

B多解問題の開発
 慶応大学普通部の荒川先生は多解問題に複数の 
学校で取り組むと言う実践を行ってみえる。   
 電子メールでやり取りを行う場合、余程相互の 
学校間で打ち合わせをしておかないと、時間差が 
できてしまい、誰かが先に解いてしまったために 
他の者が学習の意欲を失ってしまうと言うことも 
ありうる。そう言った面からも多解問題を数多く 
用意しておく必要も強く感じている。      

6.終わりに
 学校におけるインターネットの利用の研究は、 
まだまだ始まったばかりである。特に算数・数学 
については他教科以上に多くの実践が必要である。
今後ともnekopapakidsの活動を中心にさまざまな 
実践・研究を進めていきたい。         



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このレジメは、1997年の日数教・群馬大会で発表した際に使用したものに若干の加筆・修正を 
加えたものです。ご意見などありましたら、ぜひ nekopapa@gol.com までメールをお願いします。