1999年12月

シックス・センス12/1上野宝塚劇場監督/M.ナイト・シャマラン脚本/M.ナイト・シャマラン
そして、彼は、霊媒者になりき。というわけではないのだけれど、とくにどーってことない話なんだよね。こんな、生き霊が見える(と主張する)人なんて、世間にいっぱいいるじゃねえか。NTVの「進ぬ電波少年」にだっていらあ。というわけで、たわいもない話である。ところが、このたわいもない話をそこそこ盛り上げていくのだから、なかなか鋭い。といっても、ちょいと意識しすぎて地味に暗く重く潜行し過ぎな気配はあるのだけれど。でも、生き霊が生身で登場するいくつかのシーンはおぞましくもあって、ちょっとビビッときたぞ。でもって、映画のオープニングでいっている「この映画には秘密があります。決して他の人にしゃべらないでください」という意味が分かるのはラストであるが、これはなかなか泣かせる。うーむ。いいオチを考えやがって。そーか、そーか。そーだったのか、と、じんわりと来るのでありました。
黒い家12/1上野セントラル1監督/森田芳光脚本/大森寿美男
あの、緊張感に欠ける原作を、森田芳光がどういう映画にしたのか興味があったのですが、お笑いホラーでした。こんなコメディにしてしまうとは。「乳吸え、乳吸え」が、もっとも笑ったところです(あれは大竹しのぶ本人の乳ではないようですが)。あと、三日月からボーリングもおかしい。とにかく、あちこちで笑える、なかなかの大ボケです。まあ、ラスト一歩前の彼女を助けるところで、ちょっとビリッときましたが、あとはだらーん。森田監督はいろいろ手法を駆使しているんだけどね。黄色とか緑の原色カラーの表出。メッセージの文字化。ゆっくり左右に揺れるカメラ。工場や海、町などのショットの無機質なインサート。上下に激しくカメラが揺れるワイプ。不定期なコマ落とし。プリンタか誘蛾灯のようなノイズ。その他その他。でも、サスペンスを盛り上げる効果はない。うーん。ほんとうに怖がらせる映画をつくろうとしていたのかなあ。途中でやになって、お笑いにいっちゃったんじゃないのかなあ。そんな疑問を抱かせる映画でした。
無問題 モウマンタイ12/3シネマミラノ監督/アルフレッド・チョン脚本/アルフレッド・チョン、ウォン・ワンケイ
上映前に、なんとこの映画の予告編をやりやがる。なんだ! と、怒ったのだけれど、予告編が終わってみたら、それは本当の予告編ではなかった、というオチがついた。しかし、正直に言って不愉快な仕掛けだ。こういう悪遊びはやめてもらいたい。一瞬、バカか、と小屋の人間に文句言いに行こうかと思ったくらいだ。こういう悪質なシャレは、効かないよ。あほ。
さて、本編だけれど、これがなかなか上質のラブコメに仕上がっている。見終わって、心に迫るものさえある。実をいうと、見始めてから30分ぐらいは面白くなかった。話がくどくてしつこいし、笑いもない、台詞もつまらない。テンポも幾分ずれている。これはどんなことになるのやら、と少々危ぶんだのだ。ところが、香港の1人暮らしに密入国の中国人娘が登場してから、がぜん面白くなってきた。岡村隆史の心の動き、迷い、葛藤などが実によく表現されている。しかも、コメディではなく、ふつうのラブロマンスと見ても遜色がない。そこらによくある、上っ面だけの清純ロマンなんかよりも、遥かに人間の本質を突いている。もちろん少々下品なところはあるけれど、その方が本来の生身に近寄れるというものだ。愛があればコンドームも必要だ。横に女の子が寝ていれば匂いも嗅ぎたいし触りたい。勃起もするし、マスターベーションもしたい。そういう、リアリティがいやらしくなく、正直に表現されていることを高く評価したい。それに、自分を捨てた女が、岡村の新しい恋に嫉妬したりする態度というのも、鋭い指摘だ。これは、お笑い映画ではなく、もっと、高く評価されていい映画だと思う。
ワイルド・ワイルド・ウエスト12/7上野東急監督/バリー・ソネンフェルド脚本/ジェフリー・プライス、ピーター・S・シーマン、S・S・ウィルソン、ブレント・マドック
ケネス・ブラナー扮する天才的な発明家が、まさに、五体不満足状態で登場するのには驚いた。日本でこんな設定にしたら、とんでもないことになるだろうな。元南軍のマグラス将軍(テッド・レビン)も、ちぎれた耳に蓄音機のホーンがついている。悪い奴は不具者なのだ。う〜む。こんなことは誰も指摘しないだろうけど(おっかなくて)、なんともはや。日本が異常に過敏すぎるのか、アメリカがアホなのか。よくわかりません。
さて、この映画にはいろいろなパロディがたくさんでてきます。RCAの犬には笑ってしまった。悪がスパイダーというのも、おかしい。「駅馬者」があったり「ET」があったり「インディジョーンズ」があったり、とにかくたくさん。私はあまり見つけられなかったけど、映画を知っている人なら、たくさん発見できるはず(たぶん)。え? ストーリー? んなもの、どーでもいいです。はちゃめちゃを楽しめばいいのだから。
ブレア・ウィッチ・プロジェクト12/30渋谷パンテオン監督/ダニエル・マイリック&エトゥアルト・サンチェス脚本/ダニエル・マイリック&エトゥアルト・サンチェス
うーむ。死ぬほど怖くないよ。少し眠かったし。林のシーンが長くて、中だるみあり。徐々に怖がらせる、っていうテクニックはさほど上手くないよ。1970年代の実験映画を見やすく撮りなおしてみたら、当たった、って感じじゃないのかね。大して奥は深くない。インターネットで騒いでいるらしいけど、「ツイン・ピークス」のときみたいに証拠物件がわんさかあるわけでなし。・・・こういう映画が流行る背景の方に注目すべきだろうな。つくりものではない、あなたのそばの得体の知れないなにか、とかが怖いんだよ、とかね。または、科学を超えたUFO的なものではなく、地霊的なシャーマニズムへの回帰、または、あこがれとか。そんな方向への考察が必要か。得体の知れないものへのアメリカと日本の反応の仕方の違い? 畏怖するアメリカに対して、包含してしまうというか、ときに妖怪と仲良くなってしまう日本との違いとか。ね。といいつつ、映画の中でも告白しているけど、バカ女のせいで引きずり回されたとんまな男2人がアホみたい。さらに、森というからもっと密度の濃い森林かと思いきや、木はまばら、空も太陽も見える林みたいな所なので、怖さがあんまりない。あれなら、コンパスを使わなくても南北はすぐ分かるだろうに。という、説得力のなさもいまひとつ。同じ所を堂々めぐり、というのは日本でいうところのキツネに化かされた状態で、あれは、疲労によってまっすぐ歩けなくなったせいだ。てなところも、うーむだな。こんな映画に金を払うのは、ちと、腹が立つ。どっかの共同ビルの一室で、簡易椅子に座って、地味目に見るのが似合ってると思う。えー。料金は、800円が妥当かな。
御法度 GOHATTO12/31上野セントラル1監督/大島渚脚本/大島渚
昼は、セピア調。夜は、ブルー。しっとりと落ちついた画面は、なかなかテイスティ。ほどよい緊張感が走って、期待させます。で、結論をいってしまうと3/4はよかった。でも、後半の1/4は盛り上がらず、いまひとつ。テーマは、面白い。しかし、男色の美少年が介入したことで、次第に新撰組という集団が高揚し、かつまた、困惑と迷走していく様子が描き切れていない。結局、言葉に頼っている。これは、味気ない。ひとつには、松田龍平が田口トモロウに肌を許すわけだけれど、その動機がいまひとつ納得できないことがある。松田龍平は、浅野忠信とはどうしたのだ? その他は? そういう不信感と動揺があまり表現されていないんだ。感情を露にするのは、田口トモロウだけときている。トミーズ雅も、かなり得な役回りで困惑を表現していたけど、本人の意思とは違う。彼は男色家として登場していない。近藤勇の崔洋一が、じわりと秘めた感情をだしていたけど。しかし、沖田総司の武田真治は、クライマックス近くで延々と雨月物語を語るだけ。土方歳三のビートたけしは、ひややか。どうも、新撰組が揺り動かされている、という程まで描かれていない。もうちょっとわざとらしくでもいいから、ポジティブに表現した方がよかったのでは? それと、奇妙なのが、浅野忠信が、最初でたきりであと登場しないで(といっても、ストーリーの中で名前はしきりに登場するのだけど)、最後にちょっとでるだけという扱い。これって、へんじゃないの? さらに、あの、薩摩訛りの2人連れの浪人はいったい何だったんだ? 彼らの存在の描き方がとっても中途半端だ。あっけなく死んでしまったのだろうけど、どういう魂胆で新撰組を挑発したのか。そこが? だね。ラストもつまらないし。幻想シーンも、いまひとつ。で、結局、松田龍平の思惑はなんなの? てなところで、ぶちり、と終わっている。なにも、真相が知りたいわけじゃないよ。全体が中途半端なので、ちょっとフラストレーションがたまる映画である。どっか投げやりというか、力の入り具合が均一でないのが不満。崔洋一、いいねえ。役者として、かなりいい。トミーズ雅の過剰さを削いだ演技もいい。武田真治と浅野忠信は、いまひとつだね。ビートたけしは、奥行きがなさ過ぎるのでは。そうそう。セリフがとっても聞きづらかったよ。それに、難しい単語が混じっているので、理解するのもたいへんだ。というか、理解できない部分が多かった。あの、字幕は、面白かったのに。後半で、出なくなったのが残念。もっと多用すれば、面白かったと思うんだけど。

 
 

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