2022年8月

焼け石に水8/2ブルースタジオ監督/フランソワ・オゾン脚本/フランソワ・オゾン
フランス映画。原題は“Gouttes deau sur pierres brulantes”。allcinemaのあらすじは「四幕の室内劇。70年代、ドイツ。20歳の青年フランツは街で中年男のレオポルドに声をかけられ、婚約者アナとのデートをすっぽかして彼の家を訪ねる。そして、二人はそのまま同棲生活を始めるが……。」
Twitterへは「監督フランソワ・オゾン。バイセクシャルとバイセクシャルと転換者とストレートと。変な映画。」
見終えて2週間たった。細部はもう忘れてる。
いきなり男2人が部屋に入ってきて話始めると、どうやらオッサンが若い男を引っかけて家に連れ込んできた、ということらしい。けど、若い男には恋人がいるのに、なんでかオッサンの家に居着いて同棲生活を始めるというのは、なんなんだ?
こういう経緯を、フツーなら街の情景、歩く登場人物、出会い…なんていうショットを重ねて流れをつくっていくけど、そういう部分はまったくない。ほとんど間がなく、短兵急に話が進行するので、そう言われても・・・が感じがしてしまう。
若い男は、なぜオッサンとそういう関係になれたのか? ゲイに興味があった? そういうのもない。
とな生活をしていると、若い男の彼女が訪ねてきて。若い男との関係が復活するのかと思ったら、なんと、娘はオッサンと部屋にこもって関係しはじめる。若い男は、とくに何も不満はないらしい。でもって、娘はいつも意味なく下着姿でうろうろしている。不思議なのが、オッサンの傲慢な態度で、あれこれうるさいんだけど、若い男は抵抗せずに従っている。なんなんだ。なんていう生活をしていたら、おばちゃんが訪ねてきて。どうも、オッサンの元カノらしい。のだけれど、元は男で性転換したおばちゃん。たしか、オッサンと若い彼女、おばちゃんの3Pしてたっけか。記憶あやふや。
てな生活で、いきなり4人が並んでお尻フリフリの踊りを踊ったり。なんなんだ?
人物の掘り下げとか描写はまるでなくて、書き割り的に現象だけが描写される。なので、感情移入したりする部分はまるでなし。
妙なシーンといえば、ベッドに裸で横たわる若い男の部屋にオッサンが入ってくるときトレンチコート姿だったりする。こうはう場面が3回ぐらいあったけど、細かくは覚えておらん。
それで、最後はどうなったんだっけ? 誰か死ぬんだったか。あまり印象がない。っていうか、何なのこの話。な印象しかなかった。まあ、オゾンらしいといえばそうなんだけど。
※16時の回だったけど、客は全部で4人だった。
戦争と女の顔8/5新宿武蔵野館3監督/カンテミール・バラーゴフ脚本/カンテミール・バラーゴフ、アレクサンデル・チェレホヴ
原題は“Dylda”。ノッポという意味のロシア語らしい。allcinemaのあらすじは「1945年、終戦直後のレニングラード。戦争は終わったものの、街は荒廃し、市民は心身ともに追い詰められていた。多くの傷病軍人が収容された病院で働く看護師のイーヤ。PTSDに苦しむ彼女はたびたび発作に見舞われ、ある時、その発作が原因で不幸にも子守をしていた幼子パーシュカを死なせてしまう。そんな中、パーシュカの本当の母親で戦友のマーシャが戦地から帰還する。砲弾による負傷で子どもの産めない身体になってしまっていたマーシャだったが…。」
Twitterへは「終戦直後、復員した2人の元ソ連女性兵士の不思議でスリリングな関係がゆったりと。次第に経緯が分かってくるのが興味深い。脳震盪の後遺症。産みたい欲望。産めない女。戦争妻。男嫌い。赤と緑。…と、難解な背景。」「解説にはPTSDがどうとか書いてあるけど、そんな風には見えないのよね。イーヤについていえば、脳震盪になるほどの衝撃で物理的に脳障害が発症している感じ。マーシャも、物理的な負傷による影響が大きそう。まあ、そういうのも含めてPTSDだ、っていわれそうだけど。」「戦争映画みたいに宣伝してるけど、ただの百合映画だよ。これ。」
たまたま戦後に設定されているけど、これは暗めな百合映画だな。戦争の影響とか、PTSDとか、飾り程度で敷かないと思う。
冒頭、仕事場で呆けてしまっているイーヤが映る。字幕に「脳震盪の後遺症」とあったから、物理的な障害なんだろうと思う。別に、怖ろしい体験をしたことによる精神的障害ではないようだ。このせいで前線から送り返され、看護婦をしているらしい。呆けはしばらくすると治る様子。でも、大事なときにこんな具合になって、大丈夫なのか? と、気になるね。
イーヤは、以前からなのか、後遺症の影響なのか知らんけど、身体がでかいわりに大人しい性格なのか。幼い少年と暮らしているけれど、あるとき呆けがでて、抱きしめているうち少年を殺してしまったらしい。少年は息子なのかと思っていたらそうではなかったようだ。
控え目に暮らしてるイーヤ。そこに、かつての戦友マーシャがやってきて、同じ看護婦として働き始める。で、このあたりで、あの子供がマーシャの子供で、父親は戦死したことがわかる。だけど、人の子を預かり、殺してしまって、でも大して罪悪感もなく。マーシャもとくにつよく非難していない関係が奇妙。
夜、2人が歩いていると、2人連れの男が声をかけてくる。イーヤは嫌がるがマーシャは積極的。マーシャは1人をイーヤとともに散歩に追い出すと、残った、若きプーチン似の男サーシャを前部座席から引っ張り込み、自らパンツを脱いで迎え入れる。と、突然ドアが開いて、サーシャがイーヤにボコボコにされる。イーヤと散歩に行った男は「腕を折られた」なんてぼやいてる。イーヤは男に興味ないし、マーシャにいい寄る男にも敵意をもっているらしい。どーもイーヤとマーシャは、変だ。
その後も仲のよい2人。たまたま病院に慰問に来たオバサンのアシスタントで居たのが、イーヤにボコられたサーシャで。2人の仲が深まっていく。マーシャにとって男とセックスと子供は不可欠な感じで。でも、マーシャは前線で腹部を損傷したのか、子宮がないらしい。それでイーヤに、私の代わりに子供を産め、と要求する。マーシャの子供を殺してしまった(どういう具合に弁解したのか知らんけどね、殺した時の様子を)手前、嫌々ながら従う、な感じ。では相手を誰にするのか? もしかしてサーシャ? と思ったら、なんと陰気な元院長を指名する。なぜ彼かはよく分からないけど、マーシャは確か院長の弱み(なんだっけ?)をなにか握っていて、それで相手をするよう説得してたよな。
マーシャが横たわるベッド。その横にイーヤも横たわる。無感動にイーヤにのしかかる院長。嫌悪感からか、イーヤはマーシャにしがみつく。ちいさなベッドに3人、ギシギシいわせている。なんともシュール。このあたりで、そうか、イーヤはマーシャが好きなのか。イーヤはレズビアンなのか、と分かっては来るんだけどね。でもマーシャに、その気があるのかは分からない。
このあたりまで、衣装についていうと、イーヤが緑色を着ていて、マーシャが赤を着ていた。他にも、画面には赤と緑が多く使われている。赤と緑が補色関係にあることを考えると、イーヤとマーシャは表裏一体な関係と考えてよいのかも。性格も好みも違うけれど、つかず離れず、いつも一緒にいる感じ。仲のよい友だち? 
イーヤは、1回の性交だけで妊娠すると思い込んでいる。で、病院で女医なのか? に、妊娠しているだろう? と詰め寄るけれど、1回だけじゃダメ、何度もすること、と言われて呆然としてしまう。そもそも元院長が相手をしてくれるのかどうか…。いっぽうマーシャはサーシャとつきあい始めてウキウキな感じで、今度サーシャの両親に会いに行くらしい。
このあたりかな。食事をしているイーヤの、緑の衣装に、アクセントとして赤い布が貼り付くようなのを着ているのが映る。2人の関係の変化、を示唆しているのか。
な頃、同じアパートの仕立屋の女が、マネキンがわりにマーシャに緑色のドレスを着てくれ、と頼みにくる。マーシャは喜び、ぐるぐると舞う。この時点で、イーヤ=緑、マーシャ=赤、という色分けが逆転する。
うきうきと、サーシャのクルマで向かった先は豪華な屋敷で。そこで食事をするのだけれど、正式に食事に招かれていない様子で、つっけんどんに扱われる。とくに母親の方から。あれこれ聞かれ、結婚はしたことあるの? と聞かれ、「いつの結婚のことか?」と逆に問い質し、以下の言葉にちょっと驚いた。なんとマーシャは前線で何人もの男と結婚していて、好きでもない相手とも寝ていたようなのだ。それを聞いた母親は、「戦争妻ね」と言う。
ソ連軍には女性兵士がいたことは知っている。有名な女性狙撃兵もいた。イーヤもマーシャも、前線ではそういう存在なのかと思っていたのだが、女性兵士には上官の相手をするという、慰安婦的な役割もあったのかな、と。もし、イーヤにも同じことが要求されていたとしたら、レズの彼女には苦痛でしかなかったろう。戦場のPTSDと同じぐらいストレスになったんじゃないのかな。マーシャは、そういうなかで妊娠した、のか。たしか2年前に出産して、子供をイーヤに託した、とかいってなかったかな。ってことは妊娠期間もあるわけで、その間も戦いつつ別の男の相手もしていたのか? それで負傷して、終戦となって戻った? なんか、2人の女性兵士の裏には、ソ連軍前線における闇がうかがえるのだが。それについて、とくに示唆するところはとくにないのだ。うーむ。
ところでサーシャの実家の屋敷はレニングラードにあるんだよな。レニングラードは独ソ戦の舞台にもなった場所だから、荒廃しているのかと思いきや、そうでもなくて。サーシャの両親はかなりの富裕階級な感じ。共産主義の上層部にいるような雰囲気でもないのだよなあ。なんなんだ。
ところで、イーヤは仕立屋の女から緑のドレスを借り、マーシャに着せて送り出していた。けれど、食事で汚してしまった様子。あれあれ。
自分はもう子供が産めないけど、サーシャに好かれているし、結婚して養子(イーヤが生むということかな?)をもらい、フツーに幸せになりたい、というマーシャ願いは叶いそうもない感じ。戻ってきたマーシャは緑のドレスで。部屋に居るのは、真っ赤なセーター姿のイーヤで、ドレスが汚れちゃったね、とか彼女が慰めていたんだったか。なんかイーヤは堂々としている感じ。マーシャがサーシャとうまく行かなくなったことを内心喜んでいるのかな。それまでは、マーシャがイニシアチブを取っていたけれど、攻守変わってイーヤがマーシャの上に立った? 色で言うと、赤は、イニシアチブをとる方、緑は従う方、な感じなのかしら。
しかし、まだこれからも、イーヤの、受精のための苦痛な性交がつづくのかどうかしらないけど。イーヤはこれで、マーシャを支配下に置いて、2人で暮らしているのだろうか。
てな感じの、ダークな百合映画だったよ。
きっと地上には満天の星8/9ヒューマントラストシネマ渋谷シアター2監督/セリーヌ・ヘルド脚本/セリーヌ・ヘルド、ローガン・ジョージ
原題は“Topside”。上の面、というような意味のようだ。allcinemaのあらすじは「ニューヨークには地上での生活を捨て、迷路のように張り巡らされた地下トンネルで暮らす人々のコミュニティがあった。ニッキーと5歳の娘リトルは、貧しさからそんな地下生活を送っていた母娘。娘を愛する気持ちは誰にも負けないニッキーだったが、その日を生き抜くのに精いっぱいの過酷な毎日が続いていた。そんなある日、見回りに来た市の職員から逃れるため、リトルとともに地上に出ることを決意するニッキーだったが…。」
Twitterへは「NY。地下トンネルに暮らす母と地上を知らない5歳児の話。母親がバカすぎて共感も同情もできず。現実にこの手の人たちはいたらしいけど、たまに地上で稼ぐ大人はいいとして、風呂にも入らん子供はどうすんだ? 想像したくない・・・。」
母親ニッキーが気の毒かというと、とくにそんな風には思えない。娘リトルについては、身勝手なバカ親のせいで教育も受けられず友だちもおらず自由を制限されているので、とても気の毒。とはいえ、映画は背中に羽が生えたらとか空には星が、とかファンタジーを感じさせたりしていて、これはよくない。現実に向き合わなくちゃ。と、思う。
なぜ地下生活になったか。まあ、貧困とか個人の資質とかあるだろう。ではその背景に言及しているかというと、それはない。ニッキーは30凸凹で、知的レベルで劣ってるように見えないし、フツーに生活できなくはないだろう。それがなぜ? が最後まで残る。
ニッキーは携帯はもってるし金もあるみたい。地下生活で、どうやってんだ? もしかして、と思ったらやっぱりそれで。リトルをおいて時々地上に出て売春宿に出入りし、稼いでいたらしい。でも3対7しかもらえないのはお気の毒。しかもその大半をヤクに使ってる模様。なら、娘を施設に預けて1人でそうすりゃいいのに、そうしない。それが不可解。母親として一緒にいたい、という本能が、現実を見る目を曇らせているのか。子供の幸福を考えられないバカ女としか思えないのだよね。だから、ひとかけらも同情できず。
でまあ、金がないので売春宿に行くと、そこのオヤジはつっけんどん。借金を返さなかったのか、なんかトラブルがあってなのか。なんとか部屋に入れてもらい、娘をそこに残し、売春宿のオヤジと別の部屋で一発やって、それで仕事をもらえることになったらしい。
のはいいんだけど、リトルは5歳で地上を見たことがなく、売春宿のオヤジはニッキーに娘がいることを知らなかった、という設定が、はあ? だよな。そもそも、どこで子供を産み、地下に入ったんだ? 妊娠してるのなんかすぐ分かるだろうに。赤ん坊を地下で育てる? 水とかミルクとかおむつとかどうしたんだ。とか、ツッコミどころは少なくない。
で、売春宿のオヤジも「泊まってけ」というし、泊まるのかと思ったらそうはせず、リトルと逃げ出してしまう。これがよく分からない。ニッキーは何を考えているんだ? 教会に潜入してスマホ充電し、発見されたら「泊まれるか?」と尋ね、通報されそうになるとまたまた逃げだし、地下鉄にもどる。浮浪者追い出し作戦が進む地下じゃ暮らせないだろうに。と思っていたら、ここでなんとリトルとはぐれてしまう。ここが笑える感じで、ホームからニッキーが車両に入るやいなやゲロを吐き、うずくまってる間に電車は発進。リトルはホームに残されたまま…。でこれから電車を行ったり来たりするんだけど、バカとしかいいようがない。っていうか、なんでゲロはいたんだ? 伏線もなく突然でフォローもなく、なんなの? 
でまあ、しばらく駆けずり回り、ある車両の座席の下に横になってるリトルを見つけるんだけど、ずっと声をかけない。そうして、車両が止まると車掌に「座席の下に子供がいる」と告げ、去って行く。で終わるんだけど。子供を施設に預ける覚悟が、あんな一瞬で決まるわけないだろ。一緒にいたいという本能と、預けた方が…という考えが拮抗して、ニッキーが逡巡していた、という場面でもあれば、ああなるほど、になるんだろうけど、それはない。突然すぎて、「はあ?」でござんすよ。
というわけで、バカ親のドタバタする様子を見させられただけ、だった。
・リトルは黒人の血が半分みたいだけど、これは、ニッキーの客のこども、という解釈でよいのかな。
・売春宿の連中とか、地下の売人とか、みな黒人なのは、そういうものとして表現しているのか?
ウエスト・サイド・ストーリー8/10ギンレイホール監督/スティーヴン・スピルバーグ脚本/トニー・クシュナー
原題は“West Side Story”。allcinemaのあらすじは「1950年代後半のニューヨーク。マンハッタンのウエスト・サイドに暮らしていた多くの移民たちは、同胞たちで結束し、互いに助け合うことで厳しい世の中を生き抜いていた。そんな中、プエルトリコ系の若者たちで構成された“シャークス”と“ジェッツ”というヨーロッパ系移民グループの対立が激しさを増していた。ある日、シャークスのリーダー、ベルナルドを兄に持つマリアは、ダンスパーティでトニーという青年と出会い、2人は互いに惹かれ合う。しかしトニーはジェッツの元リーダーであり、2人の恋は決して許されるものではなかったのだが…。」
Twitterへは「退屈だった。登場人物の行動や態度は、みんなバカ。ムダなことばっかしてやがる。主演の2人は華がない。負の連鎖とか抑止力とか、現代の社会情勢につながるメタファーはあっても、単純すぎだろ。」「オリジナルは、むかしビデオで見たけど、それもとくに感動もせずだった。かつて社会現象にまでなった理由が、分からんのだよね。」
話は単純で、ニューヨークに住む移民の若者世代の縄張り争いみたいなもの。一方は白人(トニーはポーランドっていってたな。あとはユダヤとか、その他なのか?)で、片方はプエルトリコ。オリジナルもほぼ同じようだ。まあ、50年代は、どこでも青少年の非行はあったんだろう。けど、ムダに意地張って対立し、ただのケンカから殺し合いに発展するのは、バカにしか見えない。それは現在の視点だ、と言われるかも知れないけど、現在の視点でも感情移入できるように仕立てないと、映画は共感できないのではないのかな。
ジェッツのトニーは出所し、保護観察中。現在の頭はリフ。シャークスの頭はベルナルドで、その妹がマリア。まあ、これだけ覚えりゃいいんだろうけど、でも、その他のメンバーがほとんど記憶に残らないのがもったいなくない? チノはシャークス側だけど、なんか中途半端なやつとしか残らない。
そもそも、ダンスパーティで、初対面で、チラと見えただけなのにトニーとマリアが互いに惹かれ合い、マリアが影に引っ張り込んで自らキスする、ってのが、アホか、としか思えない。なんだこの尻軽女。純な娘なら、それなりの演出が必要だろうに。この出会いからして話に入れないので、以降、ずっと退屈なままだった。
なんだかんだで決闘の日が決まり。トニーとベルナルドが素手で相対決。でも「俺の妹に手を出すな」で、トニーは殴られるまま。トニーが反抗のチャンスをうかがっていた様子はないかも。とどめは刺さずベルナルドが立ち上がるとどっち側だったかナイフの音が。これでベルナルドがリフを刺し、今度はトニーがベルナルドを刺す。…のだけれど、ベルナルドはプロのボクサーなんだろ? それが、なんでトニーと互角扱いで、しかも、トニーを殴りっぱなしなんだ? それに、ナイフを出した時点で死の可能性がでることが分からんのか。想像力が足りないだろ。そういえば、銃を持ち込んできてたのはどっち側だったっけ? パトカーのサイレンで散り散りに逃げるとき、チノが銃を拾うんだよな。たしか。
殺そうとして、ではなく、弾みで、という描き方はされているけど。だからなに? だよな。
マリアの兄を殺してしまい、悩むトニー。でも、マリアの部屋に忍んでいくんだよ。おいおい。どういう神経してるんだ? で、マリアも、兄を殺されてもトニーを憎めない。というところに、ベルナルドの恋人で同居人のアニータがやってきて。始めは怒り心頭のアニータも、マリアの恋心には勝てない、というところの不自然さに、ええええっ? だよな。恋人を殺されたアニータが、マリアの恋を応援するのか。あり得んだろ、それ。
トニーはトニーで、マリアと逃げて幸せになるんだ! なんて荷物を詰め始めている。保護観察中に人殺しして、逃げて、平穏に暮らせると思ってるのがバカだろ。
アニータが、トニーを探してバレンティーナの店にやってくると、なかはジェッツの一味がうじゃうじゃ。で、アニータを襲おうとするのは、この時点でどういう元気なのだ? よく分からん。
と思ったらマリアは死んだ、というデマが流れ始めて(バレンティーナが言ったのか?)。それを聞いたトニーは悲しみに暮れるけれど、そこにチノがやってきて、元気はつらつなマリアの前でトニーを撃ち殺してしまう。まあ、いくら負の連鎖としても、いろいろムリがありすぎなのではないかな。素直に感情移入できる人間が、ひとりもおらんのだよ。
で、亡くなったトニーの遺骸を、ジェッツのメンバーがかつぐんだけど。よく分からんけど、シャークスの連中も一緒にかついでるのか? だとしたら、なぜかつぐ。理由が分からない。ムダな負の連鎖を断ちきるため? ならハナから対立なんてしなけりゃいいだろうに。
というわけで、ミュージカルの気持ち悪さもさることながら、登場人物の行動に「?」ばっかり浮かぶ2時間37分。冷ややかに、バカじゃね、こいつら。と思いつつ見ておった。
移民の対立が、中東戦争や東西対立、戦争全般における負の連鎖を象徴しているとか、拳銃が抑止力になるというのは危険な考え、という見方もあるだろうけど、でも、一般的すぎていまいちそこまで深読みしてあげる必要はないかもな。
コンビニエンス・ストーリー8/12テアトル新宿監督/三木聡脚本/三木聡
allcinemaのあらすじは「スランプ中の脚本家・加藤は、山奥でレンタカーの故障に見舞われ途方に暮れていたところを、不思議なコンビニ“リソーマート”で働く妖艶な人妻・惠子に助けられる。彼女の夫でコンビニオーナー南雲の家に泊めてもらうことになり、いつしか謎めいた夫婦との奇妙な三角関係へと発展していく加藤だったが…。」
Twitterへは「いかにも三木聡らしいタッチ。1/3ぐらいまでは小ネタ満載で傑作ペースだったんだけど一気に中だるみ。最後は辻褄ムチャクチャな感じでテンションだだ下がりだな。お盆の季節にちょうどいい三途の川あたりの話だったけど。」
同居人ジグザグの飼い犬ケルベロスが、エサを食べない。どうも犬人間とかいう特定のブランド品が好みの様子。執筆中の加藤はジグザグに連絡するが、オーディションで合格し「遅くなる」とメール。なので嫌々近所のコンビニに行くとギ、とかグとかいう(名前は正確ではない)名札をつけた店員がいて。加藤とのズレた会話がなかなか面白い。冷蔵ケースの向こう側に店員が不気味にいたりとか。と思っていたら、とつぜんクルマが店の入口から突入してきてグッシャーン! 間一髪、加藤は助かり、「よかったね」と店員から犬人間1瓶もらって帰るのだが。もどってみるとPCで執筆中だったシナリオがケルベロスにいじられ、全文字「う」になってしまっていて愕然。その怒りなのか、翌日、レンタカー(トラック)でいずこかの野原にケルベロスを置いてきぼりにしてしまう。途中で地蔵像にぶつかって割ったり(地蔵は道祖神で、それを壊したから結界が破られたとか?)。で、ひとやすみ。トラックを降りてうろうろしてたらすさんだ原野に、誰も訪れなさそうな、すさんだコンビニがあって、入るも店員がいない。いくつかゲットして2000円置いて戻り、発進させようとしたらエンジンがかからない。ふたたびすさんだコンビニに行くと、今度は女店員がいて、これが前田敦子の恵子。さっきの2000円は気がつかなかった、という。クルマもないしどうしよう。といったら、以前にガソリンスタンドで働いていた恵子が「見てあげる」と一緒に行くも、クルマがない! じゃあ泊まってけば、といわれてホイホイしたがう加藤。恵子には亭主がいて、六角精児が演じる南雲。胸にホルスの目(死者、ということか)の刺青をして、朝はラジオ体操、それが終わると森に行って指揮をする。森の中にスピーカーがいくつも並び、レコードをかけて指揮をするらしい。なんでスピーカーがたくさんいるのかいらんけど、別に、それぞれchが別れているわけでもなかろうに。
一方、ジグザグは順調に映画撮影してて、でも、行方不明の加藤の捜索を不思議な探偵(?)3人組に依頼する。
加藤は映画プロデューサーと連絡はとっていて、電話もしてる。なんとか事件というのを南雲にだったか教えてもらい、その話が載ってる雑誌をコンビニ店内の雑誌ラックで見つけ、その概要をプロデューサーに送ってもいて、とてもいいから映画化の話もでたりする。さらに、レンタカー会社からは多数のメールも届いてたりするので、このあたりまでは、加藤が異界=賽の河原にでも潜り込んでしまったのかな、と思ってた。
ところが、このあたりから話がねじ曲がっていって。恵子は加藤を色気で誘い、2人でここを出ていこう、と言うことになる。加藤が乗ってきたトラックを発見し、バッテリーを充電しようとしたのは、このあたりだっけ? 忘れた。それから、なんでか宿に泊まって祭にまぎれ込んだり。妙な展開になるんだけど、話が行き当たりばったりすぎでつまらないし小ネタも減って、しかも、伏線あるいは伏線回収にもなってないので、あまり覚えていない。
探偵たちは、なぜか簡単に件のコンビニに到達し、でも、簡単に南雲に殺されてしまっている。3人のうちの女ひとりは、どこへ行ったのか、コンビニにやって来ないし、消えてしまっているのはなんで? 
どんどん話はつまらなくなって。恵子はどうしたんだっけ? はぐれた加藤がコンビニに戻って探偵の死骸をみつけ、南雲と撃ち合いになるんだったかな。どうなったんだっけ?
プロデューサーからの電話によると、なんとか事件というのは、加藤が書いてきた概要とは違って、コンビニの家族が全員死亡したものだった、とかなんとかというのもあったな。
最後はバッテリーが直って。トラックで帰ろうとするとケルベロスが現れて、一緒に帰るんだったっけか。で、外人店員のコンビニに行って買い物してたら店員が恵子に変わっていて。そこにまたしてもクルマが飛び込んできて! で、次の場面では、ジグザグが犬人間のガラス瓶に花をいれてコンビニの前に献花する、と。恵子は、お盆だからこの世に戻ってきてたのか? とにかく、この事故で加藤は亡くなった、ということのようだ。
分かったような、よく分からないような、いつものような、勢いで始まって最後はテキトーに、収拾が付いたような感じで終わらせている。けど、もやもやばかり募るのは、細部の辻褄がカチリと合ってないせいだろうと思う。
・最初に異界へ迷い込んだ加藤は、半死状態だったのか? 元気だったのか。ならば、なぜ迷い込んだのか? 最初の事故で仮死状態になり、魂が異界に行ったとするなら、プロデューサーやレンタカー会社との会話・連絡は不自然になる。ジグザグが探偵に捜索依頼するのもおかしい。ここから捻れてるのだよね。
・リソーマートの夫婦二人が、過去の事件の犠牲者だとして。何年前の事件か知らんけど、成仏せずに賽の河原を彷徨っていたのか? これも変。恵子が加藤を色気で誘うのは、この世に未練があって戻ろうとしたから?
・ジグザグの指が短い理由とか、伏線になってないのかよ。ジグザグ自身も、あまり機能してないし。
・妙な探偵3人組も、ただの虚仮威しで機能してない。
とかまあ、いろいろ細部のツメが甘いというか、勢いだけでつくっているというのか。もっと練り込んで仕立てをしっかりして、ああなるほど、で終わるようにすりゃあいいのに。もちろん、妖しく曖昧なところも残しつつ、ね。でも、それがなくて大アバウトでテキトーで、三木聡はいつもこれだから、映画が記憶に残らないんだと思う。もったいない。
前田敦子は、顔が貧相だね。化粧っ気がないせいで、フツーのオバサンに見える。加藤の前でタオルをはだける場面があるんだけど、なーんだ、見せないのか。もうそろそろ露出しなさいよ。
L.A.コールドケース8/15ヒューマントラストシネマ渋谷シアター1監督/ブラッド・ファーマン脚本/クリスチャン・コントレラス
原題は“City of Lies”。allcinemaのあらすじは「アメリカ、ロサンジェルス。LAPDで2パックとノトーリアス・B.I.G.の殺人事件を捜査していたラッセル・プールは、刑事を辞めた後も独自に捜査を進めていた。しかし事件発生から18年たった今も、事件は未解決のままだった。そんなプールのもとに、ノトーリアス・B.I.G.ことクリストファー・ウォレスの事件を記事にしようとする記者ジャック・ジャクソンが話を聞きにやってくる。やがてジャクソンはデス・ロウ・レコードの設立者シュグ・ナイトと深く繋がったLAPDの驚くべき闇を知ることになるのだったが…。」
Twitterへは「腐敗したロス市警の闇に迫った警官の実話をジョニー・デップで。実は単純な話をムダに複雑にしてて、過去と現在、関連事件、人物や組織名がゴチャマンと登場するのについていけず。最後も分かったような分からんような。で、実際何があったの?」
2パックが殺され、対抗するラッパーも殺された、という事件報告が前提になって。さらにあおり運転で射殺事件があり、どっちも警官だった、なエピソード。からのロス市警の闇を暴くプール刑事、の話なんだけど。これ、わざと話を分かりにくくしてるのか? 過去と現在が頻繁に移り変わり、さらには人物関係がロクに把握できないまま話が進んでいき、名前とか組織名がセリフにどんどん上がり、そいつは誰でどういうつながり? と考えてももう分からない。よく名前がでてきたクリストファー・ウォレスって、誰かと思ったら2パックと対抗してたラッパーの、ノートリアス・B.I.Gって解説にはあるよ。へー。混乱の極みだな。バッド・ボーイってのは人じゃなくて音楽レーベルなのか。それとロス市警はどういうつながり、関係があるんだ? 最後まで分からなかった。こっちの知識、理解不足なのか。映画の説明不足なのか。あおり運転警官射殺は、あれはただの偶然なのか? 警官がバイトで警備してたとか、どういう利害関係なの? 後半で、警官がプールの見てるところで男を射殺してたけど、ありゃなんなの? 他にも、逮捕されて裁判になって、「バッド・ボーイ」と証言しなかったからどうとかも分からん。プールの仮設はつぶされたけど、市(だっけ?)は捜査令状を取っていて、でも使われなかったというのをジャーナリストのジャクソンが見つけたけど、20年前のものだからと警察から突き返されたり。ああ、分からん。警官がレコード会社と関係して、どういう利点があったんだ? 麻薬?がらみ? あおり運転警官射殺では、殺した白人警官は裁判を望んだけど司法取引になったとかで怒ってたけど、ありゃなんで? とかもう、なにがなにやら分からん状態。なので、見始めて30分ぐらいで頭が働かなくなり、少し寝た。起きてから、いろいろ事件の関連性が少しずつ明かされては行くけど、やっぱりそれでも前提となる関係とかつながりが頭に入ってないから補いきれず。なんでこんな分かりにくくつくったのかな。もっとバカ丁寧でもいいから、最初の方で関係性とか対立とかが見えるようなシナリオにすりゃあいいのに。ほんと、つかれたよ。
・プール刑事には息子がいて野球選手らしいけど、あのエピソードで何を言おうとしてたんだ? あのチームは3Aぐらいなの? 知らんけど。離婚しても息子の活躍は見てた、と。それだけ? ラスト、息子がとつぜん大きくフィーチャーされてるんだけど、どういう意味があるんだ? 
・ジャーナリストのジャクソンも、かつて何とか賞を受賞した記事が間違いだったとかいってるけど、どういう記事だったんだ?
春原さんのうた8/17ギンレイホール監督/杉田協士脚本/杉田協士
allcinemaのあらすじは「美術館での仕事を辞めてカフェでのアルバイトを始めた女性が、深い喪失感を抱えながらも、そんな彼女を気にかけてくれる人々と織りなす淡々とした日常を優しく見つめていく。」
Twitterへは「歌集が原作の映画。ストーリーらしきものはなく、断片的で、辻褄を関係ないエピソードがだらだらと。ので少し寝た。みんなマスクしてるのは時代の記録になるかも。あちこち無差別ロケもしてる模様。主人公の顔も最後の方でやっとまともに見えてきた。」
あらすじにある、美術館をやめた、という話はでてきてたか? 記憶にないな。冒頭は、引っ越してきた風だけど、以前の住人から部屋を引きついでる感じで、フツーにはあり得ない状況。なので、とても変。以前の住人は男性で、宮崎県が実家で、楽器を演奏してる感じ。ヒキの絵なので顔はいずれもよく分からない。女性がカフェで働いているのは分かるけど、まともに顔は映らない。店には知り合いらしい人とか常連っぽい人とか法事帰りの人とか、いろいろくるけど、それが誰なのか、ほとんど分からない。バイクで2人乗りする相手がいたり、別の男性とは河口湖に行ったり、突然、高雄駅を訪れてる様子が映ったり。店の2階で書道していたのも、主人公の女性なのか? 別人? 
店があったり、アパートがあるのは、小竹向原? 一般人がどんどん写り込んでるけどいいのかね。
男性も店に来るけど、客なのか知り合いなのか、なんだか分からない。女性のアパートを訪ねてくるのは、友人か。なんだか分からない。淡々と、そういうのがつづく。
ある日、帰ると女性の訪問客が玄関前に居て。初対面? 「○○さんですか?」と聞き、中に入れてたけど、名字は忘れた。客の女性は、部屋にあったリコーダーを勝手に吹いたり、ウクレレも手にしたり、なかなか図太い人で、前の住人から(なのか?)から教えてもらったのかつくってもらったのか、とかいう歌まで披露する。その客をほたらかしてベッドで寝てしまったり、変なの。この訪問客は、前の住人とどんな関係なんだろう? まあいいけど。
別の日、知り合いがやってきて、ケーキを食べ、その後、ベランダで不達のハガキかな? を焼く。宛名は春原なんとか書いてあった。この春原さんは、リコーダーを吹いた訪問者なのか? それとも、宮崎が実家の前の住人なのか? 
男性の客が撮っていた、別の客の食べる様子の映像をカフェの2階の窓に大写しにしたのを、みんなで見ている。あれは、学校の発表だけで使用する筈じゃなかったのか?
とかなんとか、やっぱり何だかよく分からない、断片。詩的といわれればそうだけど、だからなに? としか思えない。この手の映画は、苦手だよ。
アプローズ、アプローズ! 囚人たちの大舞台8/18ヒューマントラストシネマ有楽町シアター2監督/エマニュエル・クールコル脚本/エマニュエル・クールコル
フランス映画。原題は“Un triomphe”。allcinemaのあらすじは「崖っぷちの役者エチエンヌは、刑務所のワークショップに講師として招かれ、囚人たちに演技指導をすることに。演劇に興味もない囚人たちに手を焼きながらも、彼らと難解な不条理劇の傑作として知られるサミュエル・ベケットの『ゴドーを待ちながら』を稽古して、刑務所の外での公演を実現させようと決意するエチエンヌだったが…。」
Twitterへは「フランスの刑務所は、囚人のためのワークショップがあるらしい。その講師が囚人に演技指導し、公演まですることに…。なかなか自由で大らかな刑務所だよね。謳い文句の「予想外のラスト」は、想定内だったけどね。」「話の展開が大雑把なんだよね。対立や困難を克服してだんだん上手くなるとか、そういうのなくて。いつのまにか観衆を前に公演してる。しかも、どこが優れているのか、客に受けているのか、よく分からない。ちなみに芝居は『ゴドーを待ちながら』で、筋は知らないのだけどね。」
殺人犯までをも含めた服役囚が、ワイワイガヤガヤいろんなワークショップに参加できるというのは、フランスどこでもなんだろうか。日本なら反省学習会てな感じになりそうだけど、そういうのはまるでなし。しかも参加者は不満を言ったり自分都合をあれこれぐだぐだいったりする。それも監視のいないフツーの部屋で。日本じゃありえないだろうな。
設定はおもしろい。けど、ちっともワクワクしないのは、ムダに通俗的にしてるからじゃなかろうか。フツーのオバサンたちがネットで話題になってイタリアに行く、ような映画もあったけど(題名忘れた)、構成が似たり寄ったりで、ドタバタ喜劇でおちゃらけにしてる。服役囚たちは外見的には見分けがつくんだけど、人間的にとくに掘り下げていないので、個々人の魅力に欠けるんだよね。せいぜい幼い息子がいる囚人ぐらいが気になった程度。いつもひねて文句ばっかリいい、奇妙な恰好のジョルダンも、たんにそれだけ。他も推して知るべし。
で、エチエンヌは『ゴドーを待ちながら』を練習するんだけど、その成果がつたわってこないのだ。そもそもなぜ『ゴドー』なのかもよくわからない。何度もでてくる練習風景は、服役囚たちか練習に乗り気なく、あーだこーだいってる場面ばかり。何かの課題にとりくんで克服するとか、ゴドーと自分を重ねてなにかを発見するとか、そういう成長譚がまるでない。ワークショップ風景はいつも同じドタバタ。つまんねえよ。
で、最初は刑務所内だったか、どっか外の施設だったか、で公演し、好評。といっても、オリジナルの『ゴドー』からどれだけ逸脱しているのか、が、オリジナルを見たことのない自分に分からないので、とくに笑えず。は、まあいい。で、好評を得て、国内のいろんな劇場を転々として公演するようになる。
囚人たちの不満は、お土産でもらったぬいぐるみや菓子にヤバいものが含まれているかも知れないので、監視がチェックすることにある。ったって、そういうことはあり得るんだから、そんなことに怒ってもしょうがないだろ、と思うんだけど。でも、そういうことより、囚人たちの自由がどんどん広がっていくことが心配だよね。宿泊先のホテルの窓からみんなで脱出し、美容院で髪をいじってもらったり。まあ、ちゃんと戻ってくる理性を保てているのが不思議ではあるけれど、それより、警備が杜撰すぎだろ、と思うしかない。あんなの、GPS足輪でもつけて対応するのが筋だろうに。
あちこち公演し、好評を得ても、囚人たちは「評価されている」「認められている」ということに自覚がないんだよね。だから、彼らには満足感もないし、向上心も見えない。こういうところが、つまらないところだ。
でまあ、最後はパリ、オデオン座にも上がれることになって。売れない俳優エチエンヌは、自分が立つことが叶わなかった舞台に、教え子たちが立つことに興奮している様子。でも、当日、時間になっても囚人たちは現れない。この舞台を実現するために骨を折った女性の検察官(?)だっけ、も面目丸つぶれだろうに。そういう話にはしない。なんと囚人たちの代わりにエチエンヌが登壇し、『ゴドー』にからめて囚人たちが逃げたらしいことを訥々と話すんだけど。おいおい。そんな場合じゃないだろ。だれも逃亡した囚人たちを追わないのかよ? この公演を企画した連中も、大事になったという感じではなくエチエンヌの話を聞いてる。なんなの、この大らかさというか寛容さは。エチエンヌも女性検察官も、懲罰ものじゃないのか?
しっかし、逃げた連中も連中で。これまでも「逃げよう」といっていた囚人もいたにはいたけど、「自分たちの芝居は受けている。面白くなってきた」という囚人もいた。なのに、最後の最後で、一斉にみな逃亡するってのは、どうなんだ? 逃げるより、役者として服役期間を過ごした方が気が楽なんじゃないのかね。なんか、すっきりしない終わり方だ。ぜんぜん爽快感はない。
ラストのクレジットで、北欧のどっかで実際にあった話を元にしているらしい、とでる。気になるのは、逃亡した服役囚たちはそのまま逃げおおせたのか? それとも捕まったのか。そこが知りたいよね。
セイント・フランシス8/23ヒューマントラストシネマ有楽町シアター1監督/アレックス・トンプソン脚本/ケリー・オサリヴァン
原題は“Saint Frances”。allcinemaのあらすじは「34歳独身のブリジットは大学中退で定職もなく、今はレストランのウェイトレスとして働いていた。本人としては一生懸命に生きているのに、独身で子どももいない彼女に対する世間の同情的な眼差しが大きなプレッシャーとしてのしかかってくる。そんな中、ナニーとしてレズビアンカップルの6歳の娘フランシスの子守をする夏の短期仕事を得たブリジット。子どもが好きなわけでもない彼女は、おませでちょっと生意気なフランシスに手を焼いてしまうのだったが…。」
Twitterへは「学中退でいまいちパッとしない30半ばのバイト生活女が、レズカップルの子守りを始めて。生意気な6歳の娘フランシスに救われる話なんだけど、なにかっていうと画面が経血だらけってのはなんだかなあ。」
ノースウェスタン大学はわりと評価の高い学校らしい。そこを1年で中退し、以降なにをしてきたのか知らんけど現在はレストランの給仕係をしているブリジット。両親は健在だし、大学中退は経済的な理由でもなさそう。男経験はそれなりなのか? でも、たまたまパーティで知り合った25歳ぐらいのジェイスと寝て、いきなり生理! シーツは真っ赤、ジェイスの顔も血だらけ。クンニとかしてそうなったのか。ケラケラ笑って始末してたけど、男に嫌悪感はないのかなあ。
な関係がしばらく続き。ブリジットが妊娠。でも、ブリジットは生む気なし。なぜなんだろ。シングルマザーを選択する女性も少なくないのに。まだ自分に自信がないから? というか、なぜ彼女はなにをやっても中途半端で、何もないのか? というところにフォーカスされていないところに、少し不満がある。だって、そういう性質だから、なら、話はそれでオシマイだ。多くの女性がブリジットと同じような感情を持っている、のなら、映画でもそういう同類の女性を出せばいいのに、そうはしていない。ナニー先の女性の片方はバリバリ働いているようだし、もう片方は育児疲れはあるものの、2人の生活に不満があるようにも見えない。他に登場する女性たちも、みな社会の歯車として働いていたり、とくに問題なく生きている。なのにブリジットだけ、モラトリアムがつづいている様子。30も半ばだというのに。というところが解明されないと、いくらこの映画を見て「そうそう、わかる」という声が多いとしても、こちらにはピンとこないんだよなあ。
ブリジット役のケリー・オサリヴァンが脚本を書いているらしい。自分の経験をもとにしているのか。でも、ケリー・オサリヴァンは脚本を書き、主演しているわけで、どこかでやる気がでたってことだ。
この映画の中では、6歳の娘が聖なるフランシス的な役割を果たし、ブリジットに日々の救いを与えているようだけれど、では、ケリー・オサリヴァンはどのような体験をしてやる気を獲得したのか? もし、具体的な何かがあるなら、それが見えないと、なるほどとい言えんだろ。ケリー・オサリヴァンにも、聖フランシスみたいな、教えを説いてくれる人がいたのかね。
まあ、6歳のフランシスは、誰かを救うために、生意気で知ったような教訓を話すわけじゃないだろう。たまたま口から出る言葉がそうだった、ということなんだろう。で、フランシスに影響を与えているのは育ての親のレズカップルなわけで、では、社会の多様性がフランシスを育てていると言うことなのか。では、ブリジットは気付きが遅い、ということなのかな? まったく、大きな子供だよなあ。
なんとなくジェイスとつき合って、堕ろして、ナニーという仕事を得て、レズ夫婦と少し共感し合い、なぜかジェイスと別れ、外見で判断したのかギター教師を誘惑して、でも期待通りには行かず、いろんなたんびにフランシスに癒され…。な話だけど、結局最後にブリジットは何かを得たのか? 具体的な前進は見えなかったような気がするんだけどなあ。なので、もやもやしたままなんだよね。
・冒頭で、ブリジットがクルマを運転し、ナニー先の面接を受けるんだったか。のとき、話していた相手は誰なんだ? 友人? その友人は、画面に出て来てたっけか? で、携帯見ながら運転してて追突しそうになったりするんだけど、よそ見運転もしてて、なんか信頼できねえな、と思ったんだよね。
・ジェイスと寝た後、インスタ写真がぞろぞろでてきて、子供の写真もあるので結婚して家庭を築いたのかと思ったら、違うのね。後半でジェイスが、僕のアカウントで検索したりして、とか言ってたのは、ジェイスのインスタかなんかを覗いていたと言うことなのか。
・ギター教師と寝た後だったか、その前だったか。帰る方向が北と南で反対で、でも「相乗り」がどうとかいっているのは、タクシーのことか? でも結局一緒に寝て。翌朝寝坊していたのは、自宅? 慌てて玄関前に行くと「クルマがない」で慌ててナニー先に走るのは、と゜ういうこと? で、ナニー先にいったら、そこに停まってたクルマから違反切符? を剥がして…。なんか、この経緯がよく分からんのよね。
・このギター教師とのセックスだけど、あれは教師は勃起しなかったのか? なんかうまく行ってない様子で。で、ここでもブリジッドは整理中でシーツを汚す。女性にとって生理は大変。は分かるんだけど、ジェイスと寝た時も、ギター教師と寝た時も生理中でシーツを汚し、それで男の方にも影響が…。ナニー先の家でも堕胎後のせいでかはみ出て椅子を汚すし。この女、無神経すぎないか? と思ったのは事実。
・ブリジッドの避妊法が変なの。コンドームは使わず、男が行きそうになると「抜いて!」といっているから膣外射精か。そんなんで男は満足せんだろ。ジェイスとの関係が上手く行っていたように描いているのも、なんだかなあ、な感じだな。それに、妊娠してしまうのも、しょうがないんじゃないのか。あれじゃ。
・ナニー先で大学時代の同級生に会って。相手はブリジットがナニーと分かると「料理をつくって」とか急に態度が横柄になるのは、ありがちなんだろうか? 相手は本も出している成功者らしいけど…。なんかステレオタイプな描き方のような気がするけど。
・ナニー先のレズカップルは、黒人と、アラブ人? 両方とも黒人? 色の薄い方が妊娠し、赤ん坊を産むんだけど。あの種は、どうしたんだろう? 人工授精で、どっかからもらってきた、ということなのか? 上の子のフランシスも同様? など、疑問。
・ブリジットがフランシスを連れて散歩中、フランシスが浅い池にドボン! を通りかがったジョギング中らしき男が助けてくれて。ブリジットは慌ててフランシスを抱きかかえるんだけど、男が「大丈夫?」と聞くと「大丈夫なわけないでしょ!」みたいに怒鳴るのは、どうなんだ? 助けてくれた相手だろ。ひでえ女だな、ブリジット。
・ナニー先の黒人妻の方が、タクシーかなんかでフランシスを連れていたら女中と間違えられた、と涙ながらに語っていた。まあ、あるだろうな、そういう先入観は。気の毒にと思いつつも、そういう背景(黒人が女中をしているという現実)があってのことなのかな。それとも、統計的にそう言うことはないのに、そう見られやすいと言うことなのかな。
・そういえば。ブリジットがジェイスとつき合うようになった経緯も、偏見だ。あるパーティでブリジットがインテリっぽい男と話していて、男が彼女にどんな仕事をしているのか聞いた。「給仕」と応えたら、空気が冷めた感じで。で、ブリジットがジェイスと会話していて、「仕事は?」と聞いたら「給仕」と返ってきたので安心して会話が進んだ様子。ってことは、ブリジットにも偏見があるってことだよなあ。
女神の継承8/24ヒューマントラストシネマ渋谷シアター2監督/バンジョン・ピサンタナクーン脚本/バンジョン・ピサンタナクーン
タイ/韓国映画。原題は“The Medium”。allcinemaのあらすじは「タイ東北部の小さな村で先祖から代々受け継がれてきた祈祷師として活動する女性ニムに密着したドキュメンタリー映画の撮影が始まる。そのさなか、ニムは姉から娘ミンの様子がおかしいと相談される。やがてミンを救うために儀式を行うニムだったが…。」
Twitterへは「タイ×韓国合作。霊媒師vs悪霊。ドキュメントタッチのホラー。取り憑かれた娘の奇行から経血まみれ、スプラッターなどなど。前半はだらだらで眠かったけど、後半になっても仰天展開にはならず。こんなもんかな。」「万物に精霊が宿るとか、タイの精霊に対する考え方は、日本と近いんだな。こないだ高島屋史料館でみた『まれびとと祝祭』 が頭に浮かんだ。あと、エンドロールに流れる歌が、日本の祭祀や儀礼で歌われるような詠唱とそっくりで驚いた。」
霊媒師ニムの姪ミンが奇行を繰り返すようになった。ニムは、姪の母ノイ(ニムの姉)がかつて霊媒師になるのを拒絶したので、神霊バヤンがとりついたのかと疑う。姪が、次の霊媒師になるよう求めているのか? てな感じで始まって。でも、取り憑いているのは神霊バヤンではなく悪霊、と分かる。ではと霊媒師が除霊しようとするが、悪霊は強敵。なので別の男性霊媒師を頼り、儀式を行おうとするが、この過程でニムは寝てる間に死亡。葬儀翌日の儀式では、ミンを家に閉じ込めたまま、ノイをつれて儀式の場所に向かう。この場所はかつての紡績工場跡地で、ミンが失踪し、倒れているのをニムが発見した場所である。しかし、男性霊媒師は悪霊に負け、死亡。家からはミンが脱出し、儀式の場所に向かう。そこでは、ノイが霊媒師の役割を行なっていた。ミンとノイの対決? ノイが勝利して、周囲にいた男たちやドキュメンタリー撮影班の面々を襲っていく…。てな感じで、ほぼ『エクソシスト』な感じなんだよね。
この映画、一族&家族関係がとても分かりにくい。ニムとノイは姉妹で、でも3兄弟といっていた。冒頭の葬儀で亡くなったのはウィローとかいう男で、その妻がノイなのか? もう1人の姉か妹の亭主? よく分からんまま見ていた。だって、後半で、ノイの家にはオッサンがいて、ノイと同じ床に寝ているのだもの。しかも、その男には若い妻らしいのがいて、産まれたばかりの赤ん坊がいるらしい。なんだか混乱の極みだ。
なのでWebで調べると…。
兄マニ/若い妻と幼児
姉ノイ/亭主がウィロー、息子マック、娘ミン
妹ニム/独身の霊媒師
なんだと。へー。もっと分かりやすく見せてくれよ。ってか、ひとつ屋根の下の床にマニとノイが一緒に寝てたのか。若妻はどこに寝てたんだ?
ってことは、マックとミンは、やっぱり兄妹だったのか。従弟なのか? とも思ったんだけど。
で、亡くなったウィローの家系は呪われていて、祖父、父ともに呪われた死に方をしていた。マックも最近バイクで事故死、という話だったけど、実は自死だったらしい。という系譜は、最初の方でセリフで話されていたけど、頭にあまり残らんよな。これ、整理してから見たほうがいいよなあ。1回じゃわからんよ。ってことは、失踪したミンが発見されたのは、祖父が経営していた工場跡地だったのか。はあー。
ミンの奇行は、職場での突然の大量経血とか、夜中職場に男を引っ張り込んでセックスとか、幼児退行とか、そんなのから始まるんだけど。ある夜、ミンを送っていったタクシーが彼女を降ろし、Uターンしたらまた前方にミンがいたというドラレコ画像だけは超常現象かな。あとは、わりと現実的で。飼い犬を煮て食っちゃうとか、叔父マニの幼子を野原に放置するとか、まあ、その程度。最後の、工場跡地の儀式の場では、男性霊媒師の弟子(だったのか、あの連中は、はあー)とか、撮影スタッフを食い散らかすとか、ちょっとグロになるけど白黒映像なので、毒々しくないんだよね。
で、終わってみると、何だったのこの映画? 的な感想しか出てこない。題名の『女神の継承』は、霊媒師の仕事を受け継ぐことの意味だろうけど、結局、そうはなっておらず、ミンは悪霊に取り憑かれただけ。男性霊媒師による儀式までの間が1週間ぐらいあったのかな。その間、ドキュメント撮影班は家の中に隠しカメラを密かに設置し、その映像を家族に見せるんだけど。この間にニムは死ぬ、ミンは犬を食う、その他奇行を夜中に繰り返していて。それを撮影スタッフも家族も見るんだけど、なーーーんの対策も施さないんだよね。ミンを縛り付けて部屋に閉じ込めるとか、庭に牢でもつくって入れておくとか。まったくしない。儀式を早めましょう、とも言わない。なんなんだよ。
それと、ウィローの先祖の悪行が祟られているのだとしたら、なんでミンだけ執拗にこうなるの? もともと霊媒師の素質を持っていたノイの娘だから? マニ、ノイ、ニムは血がつながっていないから祟られないかと思ったら、ニムは亡くなっている。これは、霊媒師として悪霊退散を試みたから? とか、いろいろ疑問符は残るのであった。
ブラックボックス:音声分析捜査8/30ギンレイホール監督/ヤン・ゴズラン脚本/ヤン・ゴズラン、 シモン・ムタイルー、ニコラ・ブヴェ=ルヴラル
フランス映画。原題は“Boite noire”。allcinemaのあらすじは「ヨーロピアン航空の最新型旅客機がアルプスで墜落し、乗員乗客316人全員が死亡する航空機事故が発生する。さっそく航空事故調査局の音声分析官が、フライトレコーダー、通称“ブラックボックス”に残されたコックピットの音声分析に取り掛かることに。しかし通常であれば最も優秀なマチューが責任者のポロックに同行するはずが、何かと孤立する彼は今回の事故調査から外されていた。ところがポロックが謎の失踪を遂げ、マチューが調査を引き継ぐことに。そして、コックピットに男が侵入したという分析結果を発表する。これによりテロの可能性が高まり、事故原因は突き止められたかに思われたのだったが…。」
Twitterへは「主人公以外の人物の立場が分かりにくい。次第に分かりつつあるとはいえ、もやもや。音だけの知的な展開かと思ったら背景の陰謀とかでてきて、これもチャチ。あれはなに? これは? も多すぎ。話の輪郭は早々につたえて欲しいな。」
キャッチフレーズは「<音>だけで真実を暴け!」だけど、終わってみれば主人公は自分の足であちこち歩いて真実を見つけてるし、別に<音>だけじゃなかったよなあ、というのが感想かな。
・マチューは、最初、上司から調査から外される。
・上司と同僚が、回収したブラックボックスから音声データをダウンロード。
・直後、上司が無断欠勤。以後現れず。
・局長の指名でマチューが上司の代わりに分析。
・音声が途切れ途切れ、かすれている。なかに「神は偉大なり」という声が聞こえる。なのでマチューはハイジャックの可能性、と報道発表。
・マチューの妻の仕事が何なのか、最初よく分からず。
・航空学校の同窓会の様子も、記憶がおぼろだな。
・その後、自動運転装置がどうとかいう話がでてきて。最初は良く分からなかったんだけど、マチューの妻は、その自動運転装置の許認可を採点するような立場らしい。公的機関なのかはよく分からず。マチューは妻のスマホからだったっけ? よく覚えてないけど、自動運転装置のレポートみたいなのを妻に黙ってDL。それを局長に見せると、そのレポートが公になって、妻のデータが漏出したと発覚。妻はクビになり、マチューとも仲違い。だったっけ。
・その後、マチューは上司の家に侵入するんだったか。最初は、なにか発見したんだっけ?
・このあたりから、黒い車がマチューを追ったりするんだけど、危害は加えない。あれは何だったんだ?
・で、自動運転装置が原因ではなくて。別に原因がある、と気づくんだったよな。過去データからだったかな、記憶がおぼろだけど。愉快犯みたいな男が故意に飛行機のシステムをハックして、自動運転装置をいじっちゃうんだったかな。それに気づいて、だったか。マチューは冒頭で上司と検証していたヘリ画像を再度見直すんだけど、見直すについてはどういうヒントがあったんだ? で、その映像に埋め込まれた位置データを発見し、行ってみたら上司の家の裏庭の池で。そこに、本当のブラックボックスが沈められていた、と。
・そのあと、すこしアクションがあったんだったかなあ。忘れた。で、そのオリジナルの音声を再生すると、ちゃんと会話は聞こえていた。ハックされていたのも分かったんだっけか?
・ののち、だったか、誰かに追われてマチューのクルマがクラッシュ、だったかな。マチュー死亡。
・後を引き継いだのは、妻だったっけか? が、どこかの航空会社の社長がスピーチする場面に上司の告白ビデオをかぶせて流し、それで悪行が公に。だったかな。
・妻は、いつのまにか復職していたのか? はあ? で、マチューの声に応えてやれなかった、とかなんとかいって、終わりだったかな。
でも、なんかスッキリしないところが多いのだよなあ。この映画。
まず、登場人物の立場や関係性を、ちゃんと見せてくれよ、という感じなんだよね。アバウトには見せている。でも、輪郭をはっきりとは見せていないのだ。たとえばマチューの妻。その妻が対応しているオッサン。あれは、航空会社の社長なのか? 自動運転装置の会社の親玉? あと、航空学校の同窓会で話した男性。この3人をはっきり描くだけでも、話はスッキリすると思う。
あと、よく分からないのが、なぜマチューが最終的に狙われ、殺されたのか。もちろん、上司の告白ビデオはあった。上司は、自動運転装置の会社から? ニセのレポートを書くよう言われ、やっているうちに泥沼に…。てなことを言っていた。では、自動運転装置は不完全だったのか? 愉快犯のハックとの関係は? 自動運転装置の機能は間違っていなかったけど、簡単にハックされてしまうところが欠点、ということ? で、今回の事故を受けて、上司はオリジナルのブラックボックスを隠し、でも、それをマチューが発見するであろうことを確信し、ヘリの音声データに位置データを埋め込んだ? でも、なんで急に反省し始めたんだ? っていうか、上司はブラックボックスを隠した後、どうなったの? 自殺したの? 殺されたのか? それが分からん。
そしてさらに、反省しかけていたのに、なんで上司は今回も音声に加工を加えたのか? 最後の方で、マチューはヘリ墜落の映像と音声から波形を抽出し、そこに数字が埋め込まれているのを発見する。それはなにかの位置情報で、行くと、上司の家の裏の池にたどり着く。そこに、なんと、ボイスレコーダーの別の基板が沈められていて。そこから音声を抽出すると、改ざんされていなかった会話が現れて、事実に肉薄…。
しかし、航空機事故が発生、一報を受けて上司と同僚が現場に行き、ボイスレコーダーを回収。もどって分解し、基板から記録情報をダウンロード(するところまで記録映像で残っている)。あとは同僚が分析…。なんだけど、上司はいつ、基板をすり替えたんだ? しかも、声に加工し、アラーは偉大なり、なんて言う言葉も追加してるんだろ。上司に、そんな時間があったのか?
あとついでに。位置情報から再びたどり着いた上司の家。どれだけ広いんだ? 奥につづく道、ボートが必要な池…。個人の家なのか?
ブルー・バイユー8/30ギンレイホール監督/ジャスティン・チョン脚本/ジャスティン・チョン
原題は“Blue Bayou”。allcinemaのあらすじは「韓国で生まれ、幼い頃に養子としてアメリカにやって来たアントニオ。今はシングルマザーのキャシーと結婚し、連れ子のジェシーと3人で貧しいながらも幸せな日々を送っていた。ところがある日、スーパーで買い物をしていた3人はキャシーの前夫で警官のエースとその相棒に出くわし、アントニオは理不尽に逮捕されてしまう。やがてアントニオは、30年前の養子縁組の際の手続きに不備があることが発覚し、国外追放命令を受けてしまうのだったが…。」
Twitterへは「要は米国における韓国養子の話で、市民権がなくて強制退去が頻出、をいいたいらしい。なのに主人公は嘘つきで泥棒で刺青師で本人も刺青だらけ。どこにも共感できんだろ。義理の娘に好かれてる理由とか、前夫が嫌われる理由とか、諸々説明足りなすぎ。」
最後まで見ると、米国で養子となった韓国人の多くが現在、市民権がなくて強制送還されている事実を訴えようとした映画だと分かる。もちろん、この映画の中盤でも、弁護士からその事実は伝えられてはいるけれど、詳しくはない。ところが、映画全体を見れば、犯罪歴があって全身に刺青がある韓国人男性アントニオのヤバい行動と、彼とともに暮らしたい米国人妻キャシー、そしてなぜかアントニオを慕うジェシーの、奇妙な家族の話になっているのだよね。
アントニオはキャシーの前夫と同僚に暴力を振るった罪で勾留される。キャシーは保釈金を払うが、保釈されない。追及すると、移民局に送られているという。追及すると、強制送還のおそれがある、というので弁護士に相談すると、市民権がない、と言われてしまう。弁護士に払う500ドルがない。で、アントニオは仲間とともにバイク泥棒を働き、支払うわけだ。なんだ。盗癖は直ってないじゃないか。しかも、この一件については、最後までこれ以上触れられない。なんなんだ。
アントニオは里親を転々とし、最後に養子となった家庭では虐待され、その一家には悪い記憶しかないらしい。そういうこともあるだろう。でもやはり、養子となった経緯、虐待の背景、養子先を離れたのはいつ頃で、どう自活してきたか。そして、いつどのようにキャシーと出会い、暮らすようになったのか。アントニオのどこがよかったのか、を描かないと説得力はないのだ。だって、見かけはチンピラだし、ロクな仕事もしてないし、嘘はつくし、泥棒だろ? 市民権がない、ということだけで、共感したり同情したりはできない。だって、同じようなことになった韓国人養子はたくさんいるはずで、みながみな泥棒でも刺青屋でもないはずだ。むしろ、真面目に暮らしていたら強制送還されることになった、という事例の方が共感も同情もしやすいだろうと思う。もちろん映画的に面白くするため、アントニオを破天荒にしたのかも知れない。はたまた、養子先で虐待されたからアントニオはグレた、と言いたいのかも知れない。なら、そう描くべきだ。嘘つきで泥棒なのは環境のせいばかりではないはず。むしろ素質だ。こんな韓国人なら、米国には要らないんじゃないの? と思われるような設定にしたことの方が理解できない。韓国人に差別的感情はなくても、そう思う。
そもそも、キャシーと前夫はなぜ別れたのか。それが分からない。前夫がジェシーに、見放してすまん、みたいなことをいう場面が一ヵ所あったけれど、あとは特段変な風ではない。たとえばアル中の暴力亭主でキャシーがボコボコにされてた、ようなことは言われていない。ジェシーに対してもやさしく接し、キャシーには「娘と会わせろ。権利だ」といっている。ところがジェシーは前夫=実父を毛嫌いしていて、アントニオの方が大好き! に描いている。では、そうなった理由はなんなのだ? フツーは義父を嫌うだろ。このあたりもテキトーというか、ご都合主義過ぎて、なるほど感がないのだよね。
あと、この前夫。性根が悪いんだかいいんだか、よく分からんのだ。アントニオには喧嘩腰に接していたのに、最後の方、公聴会の場にはのこのこ1人でやってきて、キャシーに「なぜ」と問われている。すると、「アントニオにはアメリカに居て欲しい」なんてことを言うのだよ。しかも、キャシーはアントニオを1人で韓国に行かせるはずだった。けれど、当日になってキャシーはジェシーをつれて空港に行き「私たちも一緒に行く」とすがりつく。このキャシーの行動を知ったキャシーのは母は、前夫に「娘と孫を取り戻してきて」と頼み込むのだ。では、前夫とキャシーの母親はいい関係だったのか? なんか、人間関係の描き方もつぎはぎだらけ。なんなんだよ。な、感じ。
結局、アントニオは1人で韓国に行くんだけど。あんな終わり方じゃ、今後が思いやられるな。たぶん前夫がすり寄ってきてキャシーと復縁し、ジェシーとも仲直りするみたいな感じだな。別れて愛を貫けない感じのアメリカ映画が多いから、そうなると思うぞ。べつにいいけど。
・がん患者のベトナム難民一家との交流は、とってつけたような感じ。アントニオは、韓国がまだ貧しかった時代の養子、一方はベトナム戦争直後のボート難民という形で国を追われ、アメリカへ。そしていま、女性は死につつある。まあ、キャシーに新しい生が誕生することの対比でもあるんだろうけど、むりやりな感じもしてしまう。女性が、もうすぐ死ぬからとアントニオに刺青を依頼するのも、はあ? な感じだし。
・ベトナム女性の家でのパーティで、キャシーが請われて歌うのが「ブルー・バイユー」で、これが上手すぎて、なんか浮いている。
・強制送還前に、アントニオがキャシーに「これはきれいな金だ」といって大金を渡すけど、どういうきれいな金なんだ? 出所はどこなんだよ。
・ICEってなに?・弁護士は、公聴会には養父母が出席するといい、といっていた。けれどアントニオは「死んだ」と嘘をつく。養母は生きていることが分かり、弁護士は出席してもらうように、と説得するけれど、強行に拒否する。で、その理由が、養父に虐待されたけれど、養母はそれを観て見ぬフリをしていた、からだという。はあ? なんでそれが養母を拒否する理由になるんだ? 結局、会いに行って、出席を請うのだからワケが分からない。しかも、養母は養父から暴力を受けていて、それでアントニオを守れなかったみたいではないか。なら養母も犠牲者のはずで。わけがわからん。
・公聴会の様子は描かれない。終わって帰ってきて、アントニオを除く一同がうなだれていると、ドアが叩かれる。あれ、ドアを叩いたのは、誰なんだ?
・弁護士は、丸もうけだよな。どうせ訴えても却下されるのは分かってるはず。それでも仕事を受けて、50万だったか、手数料をもらってる。
・前夫より、その同僚がアントニオに厳しいのは、韓国人=移民差別か。でも、最後の方で、その同僚はたまたまバーに居たアントニオを、仲間と一緒にボコボコにする。そのせいでアントニオは公聴会には出席できず、だった模様。でも、出席していても、結果は変わらんのだろ? はさておき、そういう仕打ちをした同僚に、前夫が切れて、パトカーのハンドルに手錠でつないでしまう。そこにキャシーが飛び込んできて、同僚をボコボコにする。なんだよ。キャシーは前夫と仲直りしたのか? 変な関係。ってか、前夫の態度は、なぜ変化した?
・やたらでてくる、アントニオの、母親に関する記憶。しつこすぎ。アントニオは水に沈められ、間引きされようとしている。それがなんで養子に? なんだよね。その経緯をちゃんと描いてくれよ。

 
 

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