エイプマン・テリーの「人間になりたい」Vol.8
 こんにちは。エイプマンです。

 さて、今回のPop iT!はファットボーイ・スリム特集です。ファット・ボーイと言えば最新作でドアーズをサンプリングしたり、有名無名、ジャンルを問わず様々な過去のレコードから素材を独自のセンスで料理し、印象的な作品を作っていると思います。前述ドアーズもそうですが、The Whoの"I can't Explain"のギターリフをつかった「Going Out Of My Head」に象徴されるように、根底にあるロッキンな感覚が僕にとってはたまらない魅力です。

 一昨年だったでしょうか、来日したファットボーイ・スリムことノーマン・クックのDJプレイを実際に体験したのですが、僕はそこでとんでもない興奮に包まれました。クラウドを熱狂の渦におとしいれている彼がキンクスのオールナイト・アンセム「All Day All Of The Night」をプレイしたのです。自然な流れで耳に飛び込んできたデイブ・デイヴィスのギター・リフ。あの時友人と手を取り合って踊り狂った瞬間は今でも鮮明に思い出されます。それだけあのシチュエーションでプレイされたキンクスはあの場にマッチしていました。(レイ・デイヴィスのインタ ビューによると「ファットボーイ・スリムがキンクスの曲を使いたがっていたよ」とのこと。)あの瞬間を思い出すたびに僕はレイ・デイビスが「All Day〜」をライブで演奏する前に叫ぶ一言が心にこだまします。「Rock bands will come、Rock bands will go、but Rock'n'roll is gonna go on forever !(ロックバンドは現れて、そして去って行くけど、ロックンロールは永遠に続いて行く)」。ノーマン・クックがキンクスをプレイしたあの瞬間にもロックンロールは続いていたんだなと、僕は思いました。そして、レイ・デイビスがその思いを歌にしたものがありまして、今回はその話です。

 それは1973年、「プリザヴェイション第1幕」というキンクス通算13枚目のスタジオ・アルバムとして発表されました。このアルバム自体は古き良き英国のヴィレッジ・グリーンを舞台に繰り広げられる、平和な土地を利用して、ひともうけをたくらむ、資本主義の申し子、地上げ屋フラッシュと政治家ミスター・ブラックの忍び寄る魔の手とその騒動を巡るヴィレッジ・グリーンの人々の物語がテーマです。「ロックの歴史の中で、演劇と音楽の結合をレイ・デイヴィスほどねばり強く追求し続けてきた人間はいない」といわれるほどで、このアルバムもステージでの演劇的表現を前提として作られた物です。いわゆるロック・オペラというやつです。この時期のキンクスはその演劇的コンセプトを実現するために女性コーラス、ホーンセクションを含め13人もメンバーがいたほどです。このアルバム自体は序章を描いたのみで、続きは翌年の「プリザヴェイション第2幕」という2枚組のセリフもガンガン入るアルバムに本編が引き継がれるので、アルバム自体は少しわかりにくいかもしれません。しかしながら、このアルバムには、冒頭に書いたことに関して、とても心を熱くする楽曲が含まれているのです。(アルバム自体の話はこの原稿の主題ではないので、別の機会にゆずりたいと思います。)それが、「あの人たちは今、何処に」という5曲目に収録されている楽曲です。レイ・デイヴィスはここで「これから歌う連中はあんたも知ってるかもしれない」と歌い始めます。以下少し長いですが歌詞の要訳です。

 「あいつらがトップニュースを賑わしたのはそんなに昔のことじゃない。でも今はみんな、その他大勢のひとり、あの連中、今一体どこにいるんだろうねぇ。あのスインギング・ロンドナーズ、オシー・クラークやマリー・クアント、あのテディーボーイズ達、怒れる若者達(注1)は一体どこに行ってしまったんだろう。プロテスト・ソング(反体制歌)なんて今どこで歌われているんだろう。ロッカーズやモッズたちはみんなどうなったんだろう。連中、世間と折り合いをつけてまともな仕事についているといいんだがな。」

 と、トラヴィスばりの泣きのバラードで今は消えてしまった「価値観を覆した熱い時代」を懐かしみ、今彼らはどうなっているんだろうと歌います。しかし、懐かしみだけでは終わりません。最後にレイはこう歌います。

 「ああ、だけど、ロックンロールはまだ生きているのさ。そうさ、ロックンロールはまだまだ生きているんだよ」

 まさしくその通りだ!といつ聴いても感動してしまいますが、ここに歌われていることは、20世紀の終わりにファットボーイがキンクスをプレイした事にもつながってくると、僕は勝手に思っています。モッズやテッズやロッカーズの熱さは、いろいろな要素を伴って現在も生きていると思うし、あくまでも個人的な思いですが、僕の中でもロックンロールは続いています。だから、僕の中でロックンロールが続くかぎり、僕はDJをするときにキンクスの ライブ盤から「All Day All Of The Night」をプレイし続けたいと思います。「Rock bands will come、Rock bands will go. But Rock'n'roll is gonna goon forever!」のかけ声とともに。(スーパースターDJノーマン・クックと僕なんかじゃ、比べ物になるわけもありませんが…。

 〜今月のテープ収録曲について〜
 今回はファットボーイも作品で取り上げたThe Whoの「I can't Explain」のリフと関連して、印象的なリフ一発な選曲です。90年代後半にあの印象的なリフを蘇らせたファットボーイと同じように、昔からいろいろな所で顔を出しています。(実は余談ですが、The Whoのピート・タウンゼントが「I Can't Explain」を書いたのは、キンクスの「You Really Got Me」のリフに衝撃を受けたからという話もあります。)と言うわけで、題して「ロック・バンドは現れてそして消えて行くけど、カッコイイギターリフは永遠に続いて行くんだ!」です。

 それでは今月のエイプマンはここまでです。また来月お会いしましょう!

〜Pop iT! Freezine Vol.34より〜


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