vol.15 「夢中〜その2〜」(2000/08/30)

前号にも書いたが、ぼくは今、ラグビーに夢中になっている。
これに対して、「せっかく少林寺をやっていたのにもったいない」という反応をする人が多い。 あるいは「少林寺はもう辞めたのか」「少林寺は嫌いになったのか」という反応もある。

これについては、なかなか一言で答えきれない。
結局、ぼくにとって少林寺拳法とは何なのか、ラグビーとは何なのか、という問いそのものだか らだ。
ちょうどいい機会なので、じっくりと考えてみたい。

少林寺拳法は、競技として捉えれば、団体競技ではなく「個人」競技である。
にもかかわらず、これまでの様々な少林寺拳法を通じた体験の中で、ぼくの中で強く印象に残っ ているのは「個人」ではない。

例えば、練習において、ワザの上達には、協力的な練習相手というのが必ず必要である。これは 攻撃役と防御役が明確に分かれており、護身の技術(防御役の技術)である少林寺拳法ならでは の特徴である。攻撃役となる練習相手は、練習の状況作りを相手の状況に応じて設定する必要が ある。身体的負荷は、何度も蹴られたり、投げられたりする攻撃役の方が多くなる。この攻撃役 がうまくリードできると、みるみるうちに防御役のワザは上達する。
攻撃役の関わり方ひとつで、防御役の反応もガラリと変わり、結果、ワザの上達度合いもガラリ と変わる。
ぼくは、自分のワザの向上よりも、防御役をリードする攻撃役の役割に興味をもっていた。
この関係を最低限のチームとして捉えている。

もっと大きなチームになると、数百人単位の講習会がそれにあたる。リード役は、攻撃役として 多くの人の相手をするとともに、講習会全体をプロデュースする役割も担う。
うまくいった時は、数百人の受講生のエネルギーの方向が、サァ〜と変わっていくのがわかる。 単なる集団から、自発的、自律的集団に変わる瞬間だ。いったんそうなると、練習後の道場の掃 除は、何も言わなくてもそれぞれが積極的にやる。宿舎に戻っても、誰が言うともなく布団に入 るまで畳の上で練習しているなど、チーム全体の動きがよくなるのだ。

ぼくは、この変化に興味をもった。人が持つエネルギーの方向が変わる瞬間がある。それをチー ムという考え方と掛け合わせれば、常にポテンシャルの高い集団を作れるのではないか。

残念ながらきれいごとばかりではない。一方でひとりひとりのエネルギーがうまく使われず、く すぶっている状況も現実として少林寺で感じた。もちろん、少林寺だけではなく、ラグビーの組 織にだって同じような問題はある。様々な組織が抱えている問題なのだ。だからこそ、チームの 大切さを切実に感じ、そこに法則を見出したいと思っている。現在、浪人会をはじめとした、い ろんなコミュニティの運営に関わっているのは、そのための実験でもある。

ラグビーもその実験のひとつである。
ラグビーのゲームの成否は、ひとりひとりの判断に負うところが大きい。その場その場での判断 が有機的なプレーとしてつながるかどうかは、それぞれが自発的に共通したイメージを描けるこ とが必要になってくる。つまり、プレーヤー全員が、自発的なスタンスに立ってプレーしていな ければチームとして成立しない。
80分間のゲームの中で、ボールに1回しか触れないようなポジションもある。テレビで見るゲー ムでは、ボールに触れている選手を中心に映すが、それ以外のところでも、ちゃんと"仕事"をし ている選手がいるチームはやはり強い。
そんな「個人」の動きが、ダイレクトに「チーム」に反映するラグビーに、何かヒントがあるの ではないかと思っている。

結局のところ、少林寺もラグビーも、ぼくにとっては同じテーマなのだ。
ただ、なかなか答が見つからないテーマでもあり、行き詰まってもいたのも事実。
そんな時に、ラグビーと出会い、直感的に"何かがある"という予感のもと、吸い込まれるように ラグビーの世界に入って行ったというのが正直なところだ。

直感的に飛び込んだラグビーの世界だが、ぼくにとっては未知の世界。ふと気がつけばプレッ シャーだらけである。入門したてで、帯の結び方から道着のたたみ方まで、何も知らない白帯 の拳士が、少年拳士の指導を任された場面を想像してほしい。しかも、1年後には必ず上手くす ると約束したとしたら…。ラグビーの世界でぼくはそういう立場にいる。自分の尻にはボォー ボォーと火がついているのだ。
好奇心とプレッシャーで、ぼくの夢中は「夢中×2乗」になっている。
しかし、プレッシャーが大きければ大きいほど、その先に何かが見えるということを、ぼくは 経験的に知っている。

だから、今は、ラグビーに夢中。

(三浦伸也)

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