■ vol.40 「おやじの背中」(2002/11/12)

数人の仲間と新しい仕事を始めました。
今のところは、今の会社の理解を得て、2足のワラジをはいています。
この新しい仕事については、またの機会で詳しく話します。

それにしても、この新しい仕事は、まったくのゼロからのスタートでっせ。
つまり、事務所選びから、何から何までがゼロからで、しかも手作りでのスタートなんです。

事務所に関しては、絶妙のタイミングで、掘り出し物の物件にぶつかりました。
こんな掘り出しもんは、めったにお目にかかれんっちゅうくらいの掘り出しもんです。
さっそく申し込みをするんですが、法人化はもうちょっと先になるので、とりあえず、個人で契約することになります。
仲間は、関東に住まいがあるわけではないので、今のところ会社勤めをしていて、関東に住所があるぼくの名義で契約をします。

次は、連帯保証人。
ぼくらのやりたいことを心から応援してくれている、某会社の社長が、快く連帯保証人になってくれたんです。
保証人としては、文句なしですわ。
ところが、家主さんは、保証できる収入があるかどうかよりも、血縁関係者の方が安心できると。
ぼくのおやじは、既に定年退職して、72歳の年金生活者。
保証できるんかいな、と思うんですが、家主さんはその方がいいと。

実は、おやじに頼むんは、嫌なんです。
保証人を頼むからには、理由を説明せんといかん。
そこで、おやじに反対されると、なんか、やっぱりしんどいんですわ。
オカンやったら、なんぼ反対されても、何とも思わんのやけどね。
まあ、背に腹は変えられへん。
思いきって、おやじに電話しました。

最初に電話に出たのは、オカン。
案の定、オカンは、「あんた、もう、また、もう、ほんまに。養う家族がいっぱいおるのに、ほんまにぃ〜、もうあんたは・・・」というのが延々と続くんです。
こういうのは慣れっこなんで、オカンが何を言おうとほっといたらええ。
で、「ちょっと待っとき、おとうちゃんと変わるから」と。

いよいよ、おやじの登場。
おやじが電話口に出たので、最初から事の次第をていねいに説明しました。
おやじがどう反応するか、かなり緊張しながら。
おやじは、ぼくの話を「フム、フム」と聞いていました。
で、聞き終わってから、かなりびっくりしたことを言うんです。
落ち着いた口調で、
「わかった。契約書を送れ」と。
続いて、
「わしから見たら、むちゃくちゃあぶなっかしい橋に見える。
けど、そんなこと言うても、おまえは聞くようなヤツやないやろ。
わしは、冒険ができんかった。
おまえは、冒険をしようとしてる。
それもまた人生やと思う。
納得いくまでやれ。
その代わり、おまえが倒れたら、一緒にやる人やら、家族やらに迷惑がかかるから、健康管理だけはちゃんとせい」

不覚にも、泣きそうになりました。

おやじは、ここ数年、脳溢血で何度か倒れたり、ガンの手術をしたりして、かなり弱っていました。
弱音こそ吐かないけど、やっぱり、おやじが小さく見えるんです。
もう72歳なので、"死"を意識しているんでしょう。
それに、たたき上げの国鉄マンとして、仕事に没頭していた時代を過ぎて、定年になってからは、日に日に老いていきました。
別段、趣味もなく、人生のテーマもなく、ただサラリーマンをまっとうしてきたおやじは、仕事から離れた途端に、何をしていいのかわからなくなったんでしょうね。

そんなおやじを見るにつけ、「おやじ、しっかりせいよ」と心の中で思っていました。
ところが、今回、おやじは背中を見せてくれました。
やっぱりでっかい背中でした。
おやじのひとつひとつの言葉は、何となく、おやじの遺言のような気がしたんです。
死を意識しながら、何かをぼくに託そうとしているような気がしてしゃあないんです。

おやじのおかげで、ぼくは、自信を持って、仲間とともに、新しい事業を始めることができます。

おやじ、ありがとう。


(三浦伸也)

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