vol.16 「心の師匠と不肖の弟子〜“夏の三重合宿”裏話Vol.2」

今度の合宿は、思いがけず我が"心の師匠"も参加してくれた。
 心の師匠は、言わずと知れた(?)もうりいさん。
 ちょうど1年前、何か技のことで「おお!」と思い、「これからは心の師匠と呼ばせていただきます!」と。その時は冗談だった。
でも、しばらくして、あながち冗談ではなく、そう呼ぶだけの素地もあったことに気づいた。

もうりいさんが初めて我が家に来たのは、2年半ほど前。その夜、男連中が車座になり、拳法談義が始まった。
私は隣りの部屋で、子供達を寝かしつけながら、襖の向こうの話を聞こうと思って聞いていた。
話が、"拳法に対する心の持ちよう"といった内容になり、自分のスタイルについて問われると、
「だって、痛いのはイヤだからぁ」
と、拳士にあるまじき(?)何ともヘタレなことを言う奴が。
それも、本当にほとほと嫌だ、という言い方。呆れるより感心したね、私は。
それが、もうりいさんだった。
当時の私は自分の内面、特に自分で否定していた"弱さ"とか"醜さ"を、ようやく受け入れようとしていた。なので、もうりいさんの、いともあっさり「痛いのイヤだぁ」と言える――自分の弱さを受け入れるどころか、表に出して人にどう思われようと何ともないって態度に、いたく感動した次第。
実は、人としてこれほど強いことはないんでね。
以来、心のどこかで、もうりいさんに憧れてたわけだ。

もうりい師匠は1日遅れで菰野入り。
「あづさんと練習しようと思って」と、もはや道着も持ってきてない。
「荷物になるし」合宿に来てるくせに、道着すら負担な師匠って…。
しかも私は、道着を持ってる。
師匠と弟子、早くも全然気が合ってないし…。

ただ私も、道着を着てはいなかった。
朝から双子の一方が熱っぽく、練習どころじゃなかったせい。
でも一応、師匠と並んで、ストレッチの真似事を。
目の前では、他の参加者が早くもヒートアップして、ガンガンやっている。
のんびりペースの師匠と私は、多少気後れ。
それでも、何かしようか、ということになったのだが……。

私は、当てられることに慣れる「ほらほら、突いてごらん」をやりたい。
師匠に突いたり蹴ったりしてほしいわけ。
ところが師匠は「イヤだ」。突きを受け崩される方がいい、ときた。
ここでもまた気が合わないんだな。
その場は私が押し切って、突いてごらんをやった。でも、なまじ普段から5分と続けないので、すぐ飽きちゃうし、発熱小僧の不機嫌が気になって中断。
練習らしい練習など、結局、やらずに終わったのだ。

でも、それは相手が私だから。
実は師匠、達人。教えてほしがる拳士は多い。
  最終日も、大学生のただよし君が、柔法マットの上で寝ている師匠を起こして、教えを乞うていた。
その時、ダンナやスギちゃん、私は、練習よりフミちゃんやアキちゃん(別名:倫太郎)と遊びたかった。
で、みんなして、道場の広い庭でしゃべってた。
しばらくすると、師匠がふらつく足取りで庭へ出てきて、「動いてたら気持ち悪くなって、吐きそうになった」。
みんな一斉に叫んだ。「練習やめぇよ!」

師匠、普段はすさまじいらしい。
ほとんど家に帰らず、会社に居続け、眠る間もなく仕事仕事仕事。
当然、慢性的な睡眠不足(なので、我が家やこういう場に来ると、ひたすら寝てる)。
それと、師匠がある物事を追及するのに、照準をぴたりと定めるや、怖いほどきちっと詰め寄っていく様を1度だけ見たことがある。1度だけだけど。
そういう姿を見聞きしていると、「本当に自分にとって大事」がはっきりしてるんだろうなぁ、と。
だから、その部分では人一倍集中もすればこだわりもするけど、それ以外は「も〜何でもい〜よ〜」で受け流せてしまえるのだろう。

そうだ。
師匠のこだわりと言えば、コーヒーがある。
師匠が淹れるコーヒーは、抜群においしいのだよ。
今回もキャンプ場で、朝食後にコーヒーを淹れてくれた。
私は、ず〜っとそばに貼りついて、淹れたてを飲もうという魂胆。
待ってる間、「師匠のコーヒーに合わせてケーキでも焼きたいねぇ」「お〜、いいね〜」って、こういうところでは意見が合うのね、師匠。

合宿後、師匠にメールをちょうだいした。
「今度は、ごろごろするだけのツアーでもやって、お返しします」とあった。
「ツアーをやってください」では決してないのだ。
練習でどんなに気が合わなくても、師匠はやっぱり師匠だった。