日本繊維新聞社発行「ニッセン研究季報 94冬号」掲載記事
研究員:武田朝子氏の研究論文より抜粋。
〜 企業の新企画と再生産業 〜
繊維リサイクルに取り組む企業が増えている。しかし、現時点では、日本全国で排出される繊維くずの8−9割が、ゴミとして廃棄されている。岡崎ほかいくつかの地域に集中する再生産業も、円高などの影響で、状況はかなり厳しい、繊維ファッション産業、再生産業、行政が一体となった取り組みが、必要とされているのではないか。
2.企業からの繊維くずの排出、再資源化
1)問題化している繊維くず
2)繊維くずの実態
3.繊維リサイクル
1)再生産地、岡崎
@反毛業
A紡績
B軍手
C繊維原料商
今回の素材では、英国チャイナグローブ社が紡績した糸を輸入したものもあるが、国内紡績メーカーとの共同で、日本国内のジーンズ裁断くずとインディゴ糸クズを再生したもの、落ち綿とバージンのアクリル・ポリエステルをミックスしたものがある。コストは、上級糸と同じくらいだという。米国などから再生綿やポリエステルを素材とした製品を輸入することは、一部行われてきたが、物の循環の観点からみれば、わざわざゴミを輸入して増やすようなもの。排出と再生が循環してはじめてリサイクルといえるが、その意味で、国内で排出される原料を素材としたこの試みは評価できる。
これまで、業界で自社内のリサイクルがまったくなかったわけではない。ポリエステルはもちろんのこと、紡績工場の落ち綿なども、自社工場あるいは業者入札などのうえ、不織布や紡績に原料還元されていたが、「あまり表だって言いたくない」というのがメーカーの態度だった。これを「リサイクルだからこそ価値がある」 と逆に前面に出して、環境意識やファッション性に訴えるのは、新しい。恐らく数年前に同じ事をしても、評価されなかったろう。消費者の環境意識が高まったタイミングを、過たずとらえたといえる。
この他、同様に織維くずを再生した綿製品を開発した日本リサイクル運動市民の会と小杉産業、工場から発生するデニム生地の裁断クズを製品ラベル化したリーバイ・ストラウスジャパン、生分解性繊維の開発に取り組む鐘紡やユニチカ、自社が生産販売したポリエステル100%衣料を回収してボタンやファスナーにするリサイクル・システムを作った東レほか5社など、この時期、リサイクルをセールスポイントとした企画が相次いでいる。
1)問題化している繊維くず
このような企業の取り組みは、今後ますます増えることが期待されるが、現時点では、企業から排出される繊維くずのうち、リサイクルされるのは一部で、多くはゴミとして処理・処分されている。
通産省産業構造審議会、再資源部会の「廃棄物再資源化に関するガイドライン(94年9月改定)」では、繊維工業について、「繊維くずの再資源化」が、汚泥の原料化やポリエステル減量加工アルカリ廃液再資源化とならんであげられている。
繊維くずは産地でも問題とされている。例えば、泉州毛布工業組合と泉大津の繊維関係団体では、繊維くず処理対策担当を設け、排出状況の調査や、対策協議など行っている。
くずが問題になる理由はいくつかあるが、そのひとつが、処理・処分コスト。以前は、再生原料として、いい値段で外部業者が買い取ったが、その値段は次第にさがった。現在、多くの企業は、外部の廃棄物処理業者に回収・処分を委託しているが、無償でもひきとってもらえればいい。ゴミとして処分すれば、逆にコストがかかるからだ。自治体のゴミ処分を例にとれはチ処分コストはトンあたりおよそ3万−5万円。最終処分地の不足や、環境意識の高まりから、どの自治体も、現在、企業責任やコスト負担をより厳しく求めていく方向にある。
繊維くずの排出や再資源化の実態を正確に把握することは難しいが、入手できるわずかな資料から推定してみる。
通産省は、1977年に実態調査をおこなっている(昭和52年度再資源化実態調査報告書・繊維くず)。やや古いが、これまで行われた、唯一の総合的な調査である。
これによると、全国の繊維くず排出量は、年間で推定1,703,805トン(繊維工業、衣服その他繊維製品、化学工業)。同年の繊維製品出荷量(糸ベース)が、220万トンであったから、その約77.3%にあたる。そのうち、織物クズが約70%を占める。同報告では、くずの94.2%が再資源化されているとしているが、その再資源化の方法をみると、自社内利用は6.4%にすぎず、外部の業者に売却または無償で譲渡している企業が92.7%に達している。委託された業者が、そのクズを実際にどうしているかは、この報告書からは明らかでない。
前述の泉州も同様で、年間のくず排出量4,488.9トンのうち89.0%が業者に委託され、焼却場に持ち込みは9.3%、一般ゴミとして処理が1.7%となっている。今回の調査では、業者に委託された後のくずの行方の全貌はわからないが、後述するような再生産地の処理量から概算して、恐らく7−8割が、ごみとして処分されていると考えられる。
1)再生産地、岡崎
集められたくずのうち、リサイクルされる部分は、再生業者が集積している愛知県岡崎や、大阪府泉大津に運ばれる。 今回取材した岡崎では、年間およそ7万6千トンのくずを再生している。
再生産地岡崎には、原料問屋、反毛(はんもう)、紡績、フェルト加工、さらにその糸を利用する軍手やインテリアなどの産業が集積している。近隣の豊田市は軍手やフェルトなど再生製品を大量に消費する自動車産地だ。
岡崎は、もともと三河木綿の産地で、戦中戦後には「ガラ紡」、その後「特紡」で繁栄した。リサイクルというカタカナ言葉が使われるはるか以前から、繊維の再生は、産業として成り立ってきたのである。しかし、日本経済の成長、とくに近年の円高によって、繊維ファッション産業同様、厳しい状況におかれている。その様子を、業種毎に概観したい。
@反毛業 反毛とは、糸・織物などさまざまな 形で運び込まれてくる原料を、綿にすることをいう。現在、企業数は134(中部反毛工業協同組合加盟数、93年)であるが、廃業者が年々増えている。
安藤反毛工場の安藤さんのストックヤードに運び込まれてきた原料をみると、その種類の多さは驚くばかりだ。一番多いのは、大手の紡績・織布メーカーの白ポリエステルの繊維くずだが、そのほか裁断くず、売れ残りや傷物の衣類、シートベルトや消防ホース、一度再生されたフェル卜など何でもある。円高で中古衣料の海外輸出が不振になると、それも反毛にまわってくる。反毛業者の9割は工賃業者だが、
安藤さんはメーカーと直取引もし、積極的な経営を行っている。安藤さんが、自分で機械を改良し、どんな素材もだいたい反毛にする技術をもっているので、それを知ってメーカーや業者がさまざまな素材を持ち込んでくることもあり、処理・処分コストの軽減に必死な企業の事情がうかがえる。なかには、再生できる原料と、できないものを抱き合わせにしてひきとらせるメーカーもあって、反毛業者をたいへん困らせているそうだ。
問題は、せっかく多くの素材を反毛しても、その先の需要があるかどうか。現在、反毛の主な用途は、白色の綿は特紡紡績、色物は自動車製材など向けのフェルトだが、いずれも需要量、価格ともに下がる一方である。
A紡績 反毛綿を原料とする紡績は、特紡と呼 ばれる。現在企業数は99(日本和紡績工業組合・組合員数)。特紡の主な需要は、軍手産業で、現在、特紡の用途の56.7%を占めている。以前から軍手は、 岡崎の主要産業のひとつではあったが、他の用途がふるわなくなって、軍手の比率は伸び続けている。カーテンを中心とするインテリアや、ネクタイ芯なども主要な用途だったが、カーテンが合繊にかわるなど、需要は激減している。
日吉興業(株)の吉口さんは、「これまでは付加価値の低いものでもやってこられたが、これからは新しい用途を考えないと生き残れない」という。
B軍手 日本全国で軍手は年間350−400万ダース生産されている。このうち200万ダースが岡崎産。軍手の原料は、ポリエステルや綿の混の反毛と、バージンを混ぜた、特紡糸が多い。軍手産業も、一時は大変な好景気だったが、近年東南アジアからの輸入が増えたり、大口需要である自動車産業など国内の製造業の不振で、需要が減っている。価格は15年近く据え置きになっているが、今後ますます輸入が増えると予想されるなかで、シェアを失うことを恐れて値上げができない。
C繊維原料商 原料商は、組合員数40のほか、アウトサイダーが20社ほどある。メーカーから排出されるさまざまなくず素材や、中間段階の綿、糸などを買い入れ、用途に応じて素材や色、分量をまとめて売る。
岡崎でも大手原料商の鈴木さんが営む鈴木鉦平商店では、原料は、北陸の合繊メーカーを中心に、合繊クズ、織布クズ、仮織りクズなどを、全国各地から仕入れている。仕入れ価格は素材によって異なり、高いものでは、トン30万円もするが、メーカーから無償、さらに逆有償でひきとるものもあるそうだ。
鈴木さんは、今年5回中国を訪問した。目的は市場調査。日本での需要が減っている一方で、中国や東南アジアでは、繊維産業や製品需要の拡大にともなって、糸やふとん綿になる再生原料の需要が伸びている。特に合繊などは希少原料として人気がある。鈴木さんが輸出に本格的に取り組み始めたのは、ほんの1年半ほど前だが、現在、輸出の割合は40%に達している。
このように、繊維再生産業も、繊維ファッション産業とよく似た問題に直面している。今のままでは、大手原料商だけは、高級原料の輸出で生き残れるかもしれないが、反毛・紡績など人手がかかりしかも価格の低い業種は、衰退してしまう恐れもある。原料輸出でさえ、岡崎産地がなけれは、ルートを全部組み直さなければならないと、鈴木さんは言う。
もし繊維くずの再生産地が日本からなくなったら、どうなるだろうか。再生産業当事者にとってはもちろんだが、繊維ファッション産業にとっても、問題は深刻ではないか。再生産業がなければ、一部の純度の高い高級原料だけが輸出され、その他の大部分の繊維くずは、ごみとなるだろう。一企業がリサイクルできる素材や量は、いくら企画を考えても、ごく限られたものだ。 岡崎のような産業集積がなければ、さまざまな素材を分類し、再生していくことはできないのである。
繊維くずをごみとして処分するには、すでにみたように大きなコストがかかる。これまで、再生産業にのったり、委託された業者が焼却や投棄処分して分散されていたコストを、排出企業が全部負担し、処分できるか。たとえコストを全額払っても、排出される繊維くず全量を、環境に負荷を与えない形で処分するに十分な施設は、現在のわが国にはないのが現状だ。
ごみとして処分するのでなく、リサイクルを考えるなら、緊急な課題のひとつは、用途開発であるが、それには、他業種が集積する再生産地で、長年つちかわれた技術や経済メリットが、役立てられるべきだろう。そのためにも、社会的な環境意識の高まりを背景に、行政からの政策、資金援助などの取り組みが必要とされる。
