死亡時の状況によって命名される鬼


・帳鬼

虎に噛まれて死んだ人の鬼のことである。この鬼は虎に隷属しており、他の鬼魅のためには働かない。虎が出かければ道案内に立ち、いつも深夜に人をおびき出して虎に襲わせる。虎が人を襲うと、笑いたわむれながらその後に従い、帯をほどいて裸にしてから食べる。猟師が仕掛けた罠を壊してしまうので、鳥梅や楊梅を混ぜておくといい。この鬼は酸っぱいものが好きなので、虎に気を配らなくなり、虎を捕らえることができる。

・吊死鬼

さまざまな理由で首吊り自殺をした人の鬼である。
薄生という者が旅先で泊まった宿で、明かりをつけたままうたた寝をしていると、若い女が突然入ってきて、鏡台や櫛箱を広げ、鏡に向かい髪を梳いたり結ったりして身繕いはじめた。そして自分の姿を鏡に映しながら長いこと部屋の中を歩き回っていた。やがて女は包みをほどいて服を取り出したが、まばゆいばかりの新品であった。それを身に着け、襟を直したり首を伸ばしたりして、身なりをきちんと整えた。
薄生は何も言わなかったが、奔放な娘が立派な身なりをして客の相手をするのだろうかと思った。しかし女は身繕いを終えると、長い帯を梁に垂らして結んだ。妙なことをするもんだとながめていると、女は落ち着きはらって爪先立って両足を曲げ、首を伸ばして帯にかけ、あっという間に首を吊ってしまった。目がすぐに閉じ、眉もたちまち引きつり、舌が口から二寸ほどはみ出し、顔色は生気が失せて鬼のようになった。薄生はびっくり仰天して飛び出し、主人を呼んでそこを調べてみたが、何も見あたらなかった。

・産婦鬼

句容の農婦が出産のために死んだので、荒れ果てた空き地に葬ったところ、近所の蒸し餅屋に毎日女性が二つずつ買いに来るようになったが、夜になって銅貨を紐に通すと、かならず紙銭(紙などを貨幣の形に切ったもので、死者のために燃やす。)が混じっており、女が払った銅貨の数と同じ数になる。店主が怪しんで、ある日女が買いに来たときにたらいでその銅貨を受け取ると、女は急に泣き出した。 「実をいえば、わたしは人ではありません。お産で死に、棺に入れられましたが、棺の中で子供が生まれたので、毎日蒸し餅を買って育てているのです。このお店で生気を少なからず受けていました。」と言い、さらに哀願した。 「わが家にはもはや人がおりません。棺の中にいるかぎり、この子は生き返ることが出来ません。しかも、あなたと姓が同じですから、救い出して育てていただければ、世々代々そのご恩は決して忘れはいたしません。」 店主は同情して引き受けた。 「だが棺を開けると祟りを受けるのではないのか。」 「大恩に感謝しているのに、棺を開けたからといってどうして害をなすでしょう。」 そして、埋葬されている場所を教え、むせび泣きながら礼を言うや、あっという間に姿を消してしまった。店主が教えられたように棺をあけると、遺骸はまだ朽ちてはおらず、まさに蒸し餅を買いに来ていた女であった。赤ん坊はかすかに暖かく、店主はその赤ん坊を自分の息子として育てることにして、女の棺は改めて葬った。その息子は大きくなると商売で財産を築いた。


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