『メルブルックスの新サイコ』
詳細解説


 主たる具体的な「笑い」のシーンを解説しよう。比較的、バーバルギャグは少なめなので、わかりやすいと思われる。「これこれは、この映画のモジリである」というような指摘解説は、できるものならやりたくないのだが、必要に応じて、それも行うことにする。しかし、実際は、観りゃわかるのものがほとんどだ。
 トリッキイなギャグも捨てギャグも、すべて何の区別もなしに、単純に、時系列に列挙することにしよう。
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G001  ロサンゼルス空港に着陸するTWA機(ノースウエスト機じゃないのが、ちょっと「画竜点睛を欠く」ところか)。窓には恐怖に引き攣るメル・ブルックス。タイトルが「高所恐怖症」で、ファーストシーンがこれだから、やんなっちゃうぐらいストレートで笑える。音楽が仰々しいので、なおさらおかしい感じがする。
G002  飛行機を降りる際にエチケット袋(ゲロ袋とも言う)を渡すメル・ブルックス。それまで、にこにこ笑いであったスチュワーデスが、とたんに嫌な顔をする。相も変わらずの「下品ネタ」から物語は始まるのであった。
G003  到着待ちの人々の中から、「きーーーっ」と叫びながら襲いかかってくる中年女性。実は、亭主に「お帰りなさい」。まあ、ジャブですね。
G004  メル・ブルックスに「ちょっとお待ちを」と呼び止める男。実は、トイレでメル・ブルックスを誘う単なる変態。下品ネタの次にメル・ブルックスが得意なのが、こういう変態ネタ。面白いかどうかは、ともかくとして。
G005  空港の扉を出て、「なんてドラマチックな空港だ」というメル・ブルックス。「自分でゆーな」ってなもんですね。ここで、タイトル・ロールは終わる。
G006  迎えに来たブロフィから写真を撮られるメル・ブルックス。嫌がりながらも、写真を取られているうちに、次第にポーズを付けている。このワルノリモードは、まさにメル・ブルックス映画。
G007  "I got it ! I got it ! I got it ! .... I ain't got it."というこのネタは、しつこく繰り返される。いいかげんあきれたメル・ブルックスが、じぶんで荷物を運ぼうとすると、ブロフィは、"You got it ! You got it !"と掛け声をかける。
G008*  車の中で「あれは、謀殺"Foul Play"だ」とブロフィが言うと、じゃじゃーんと、劇的大音響。見れば、隣に、ロサンゼルス交響楽団のバスが通る。この、素晴らしきクダラナさ!
G009  「とってもとっても重症の精神病療養所」"The Psycho Neurotic Institute for the Very, Very Nervous."という文字が笑わせる。繰り返しの「とっても」"Very"が、アンダーラインで強調されているという、このしつこさがメル・ブルックスだ。
G010  荷物を降ろすのに、また"I got it ! ..."をやっている。典型的なギャグ。
G011  リローマン教授を「リトル・オールドマン」教授と発音する、ちょっとした差別ギャグ。
G012  リローマン教授の教え。「最も大切なことは?」「小切手は受け取るな」。
G013*  新所長歓迎の晩餐。カメラは、中庭からゆっくりと近づいていく(トラックアップしているが、レールは見えない)。窓ガラスまで、カメラは寄っていき、「パリン!!」とガラスを割ってしまう。テーブルの皆がカメラの方を注目する。さも、申し訳なさげに、ゆっくりと、バックしていくカメラが、妙にかわいい。最初に観たとき、このシーンで気が遠くなりかけた。
G014  患者の回復率を尋ねられて、懸命に計算機で計算し、「ごくたまに」"Once in a blue moon."と答えるモンタギュー。
G015  新所長のバスルームに投げ込まれた石を抱えあげながら、またしても、ブロフィーが、"I got it ! ..."
G016  メル・ブルックスがインターフォンのくぐもったメッセージに対して「君、鼻を押さえないで、もう一度」。
G017#  狼男が見え、首筋が痛くなる患者に、「クリップ」と「さし歯」で、再発したかのようにおもわせるモンタギュー。ばかばかしいことこの上ない、あまりにも美しいシーン。やってることもすごいが、そもそも、これを思いついて実際にやろうとした段階で、だれか止めなかったのだろうか?
G018  モンタギューは、電話で見え見えの符丁を用いる。
G019#  催眠治療中に、リローマン教授の「闘え、闘え!」のセリフで、ボクシングになってしまうメル・ブルックスと教授。それだけならまだしも、止めに入ったモンタギューが上着を脱ぐと、ご丁寧なことに、蝶ネクタイにストライプシャツで、そのまんま審判になってしまう。この世のものとは思えないギャグ世界に突入したのであった。上着を脱いだ瞬間、映画館はどよめいたものだ。
G020  メル・ブルックスの高所恐怖症を口止めされたモンタギューであるが、「口外無用」を誓った直後に、病院内に広まってしまう。よくあるギャグであるが、「やるぞやるぞ」と思わせておいて、ほんとうにやってしまうのがばかばかしい。モンタギューのキャラクタ設定にもよく合っている。
G021  凶暴患者病棟で、口ひげが半分ない担当医。患者にやられたようだ。その患者もひげが半分無いのが笑わせる。
G022  まるで伝統芸のような「コッカー・スパニエル」。発情しているシーンや、「ふせ、ふせ!」というシーンが、なかなかに素晴らしい。「こんな動物が、鏡で接触を図るとは?」との問いに「コッカーは利口ですから」というのが笑わせる。
G023  「クモの巣にかかったのだ。とにかく逃げ出したい」とディーゼルに訴えるウェントワース医師。窓の影で、ほんとうにクモの巣のように見える。このシーンは、同様のショットがヒッチコックの『断崖』に存在する。
G024  閉じ込められた車の中、ラジオから流れるチープなロックンロールの騒音で鼓膜が破れてしまうウェントワース。それまで、思わせぶりに危機をあおっておいて、最も考えられない方法で殺すというこの方法論がヒッチコック・ライクではある。にしても、くだらないこと甚だしい「殺し方」である。
G025  ブローフィに「写真を1枚」と言われ、嫌がる風をしているのだが、いざ撮影となるとポーズを取るメル・ブルックス、モンタギュー、ディーゼルの3人。
G026  ベルボーイに新聞を持ってこいと頼み、『サイコ』のシャワーシーンになってしまうシークエンス。おもしろいけれど、それだけのもの。
G027  マデリーン・カーン(ビクトリア)の登場とメル・ブルックスとのからみ。ベタなことをいろいろとやっている。
G028  講演会場に子供がいるので、なかなか直接表現ができなくて、遠まわしに言うメル・ブルックス。下品なシーンだけれど、うまい。
G029  「ボードビリアンここにあり」のような、ピアノバーのシーン。リチャード・H・ソーンダイクのHが、ハーポのHだというのが泣かせる。そして、メル・ブルックスは"High Anxiety"を唄うのであるが、その途中に客いじりのインタビューが入っているところが、すばらしい。
G030*  ディーゼルとモンタギューの密談。ガラステーブルの下からカメラが二人をうつすのだが、その上にカップやポットをどんどん置かれるものだから、あっちこっちに移動するカメラがなんともかわいい。おそらくこれは、階上の男が歩き回るのをガラス越しに下から撮影した『下宿人』にインスパイアされたシーンだと思う。
G031  ホテルロビーの銃による殺人シーン。「犯人はあいつよ!」という女性をアップにするショットがなかなか古くて、しかもヒッチコックライクな感じがする。
G032  最低に下品な『鳥』のシーン。ふんを山ほどかけられて、クリーニング屋に飛び込むと、客がみんな店から出てくるオマケのシーンまで、しつこいくらい下品。
G033  逃走中にマデリーン・カーンと会う。車から服からバッグから、全部おんなじブランド品。しかも、マークはルイ・ヴィトンのニセモノとくる。
G034  ネガを現像して引き伸ばすブロフィ。いちいち部屋いっぱいまで全部引き伸ばす、むちゃくちゃぶり。
G035  ネガをよこせと言われて「絶対渡さん」というブロフィ。銃を突き付けられ「はい」と渡す。
G036  モンタギューが「シスコの新聞を買い占めよう。小銭もいる、トラックもいる」とばかばかしい策略を述べる。このとき、椅子に座りそこねるという、くだらないほど捨てギャグも入っていて笑える。
G037  金門橋のそばの公衆電話で、殺されかかるメル・ブルックス。そのうめき声をイタズラ電話だと思い込むビクトリア。なんやかや言いながら、結局、相手にしてしまうのがたのしい。
G038#  救世軍でボロ衣装を集め、サンフランシスコ国際空港の検問を抜けるメル・ブルックスとマデリーン・カーン(ビクトリア)。これこそが、名人芸の競演。芸人魂というものを感じる、この映画でも特筆すべきシーン。"No No No No No No No "という言い方や、「ババビンババビン」と言いながら歩くところやら、とにかくうまい。
G039  死んだように眠るリローマン教授。この期に及んで、こういうクダラナイ捨てギャグをはさんでいるのがすごい。
G040  囚われたブロフィのテープをはがすと、遅れて痛がる。さらに、「衝撃」の音響効果が聞こえ、みんなして上を見る。しつこい。
G041  塔で。「これでは私はまるで……」「卑怯者?」
G042  壊れそうな板をこえて、次の板にジャンプすると、そっちが割れてしまう。指1本になるまで落ちかかるが、必死にリカバーするのが、またばかばかしい。
G043  精神分析上の記憶の中のメル・ブルックス。赤ん坊の格好はしているが顔はメル・ブルックスのまま。このシーンと同様のことをブライアン・デ・パーマが『愛のメモリー』でやっていた。
G044  塔から転落するディーゼルが、ほうきに乗った魔女になってしまうくだらないシーン。
G045  豹変して降参するモンタギュー。キャラクター設定ぴったり。
G046  ぐるぐる回るうちにハネムーン先のシーンとなるのは、実にヒッチコック・ライク。その"Honey Moon City"のホテルから、カメラは壁を破壊し、抜けてゆき、ロングショットとなりエンド。


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