2001年10月
| 10月28日(日) 蛍雪時代 昨日、母との京都旅行より戻る。 午後4時ごろ、のんびりと研究室へ。 誰もいないので、iBookで音楽などかけつつ、タンパク泳動用のゲルをつくりはじめる。 途端、ぶちっという音とともに、部屋が真っ暗になった。 そうだ、今日は停電があったのだった。 どうしよう、と思って廊下に出ると、むこうからK嬢らしき人影がやってきた。 「なんか、いろんな機械がピーピー鳴ってて、こわいんだけど」 「とりあえず懐中電灯だよね」 探したが、見つからない。ま、停電は1時間だから、冷蔵庫や冷凍庫は開けないでほっておけばいいや。 K嬢が、こちらの部屋をのぞきにくる。 「ねえ、この音楽、なに? どうして鳴ってるの?」 iBookのバッテリーで、音楽をかけっぱなしにしていたのだった。 混ぜ合わせかけた試薬をほっておくわけにもいかない。 デスクの上に道具をもってきて、iBookのディスプレイの光でゲルをつくりはじめた。 「螢の光」を歌ったら、K嬢がげらげら笑う。 これで異性どうしだったら、何かが起こってるよね、などと言いながら、ゲルをつくり終える。 あとは1時間静置だ。 もう帰る、というエリちゃんといっしょに、お茶を飲みに行く。 戻ってみると、電気は復旧していた。ありがたい。 10月29日(月) 私の居場所 わが細胞生理化学研究室には、ミツバチを扱っている人が多い。 2号館屋上に巣箱があって、ハチは勝手にそのへんを飛び回っては、 蜜だの花粉だのを集めてくる。 いっぽう、私の実験動物・スジコナマダラメイガは、 温度・湿度・光の条件をコントロールした部屋(通称・虫部屋)で飼っている。 この部屋には、コオロギやアリマキもいる。 この虫部屋が、実のところ、私のお気に入りなのだ。 温度は常に25度、湿度は50〜60%。 暖かく、湿ったこの部屋は、人間にとってもここちよい。 めったに誰も入ってこないので、静かな思索やいねむりに最適な環境なのだ。 タイワンエンマコオロギの声だけがリーリーと響く虫部屋で、このごろの私は癒されている。 10月18日(木) 私の一週間 無我夢中のうちに、新しい環境で暮らしている。 最近やっていること。 まず、ガ(メイガというちっちゃい灰色のガ。害虫)を大量にすりつぶす。 5グラムのガ、というのはおよそ500匹。 そいつらが溶液中に、均一につぶれている景色を想像していただきたい。 「わー、こしあんの羊羹みたい」 と口走ったら、ガが大嫌いな同室のSWおねえさまが悲鳴をあげた。 実は、このガには「ボルバキア」という共生細菌がいる。 ボルバキアは、いろんな昆虫に感染していて、宿主の昆虫の性と生殖をあやつってしまう、 実に妙な生きものなのだ。 こいつらは、昆虫の卵の細胞質を通じて、母から娘へと伝えられて増えていく。 なので、メスの昆虫がふえたほうが、ボルバキアにとっては都合がいい。 そこでボルバキアは、なんとメスの昆虫を増やしてしまうのである。 遺伝的にはオスの虫を、卵が産める機能的なメスにしてしまったり、幼虫のうちにオスの虫だけ殺してしまったり。 どういう仕組みでそんなことができるのかは、ちっともわかっていない。 それを知ろうとしているのが私の仕事であり、したがって、ボルバキアをもっているガを大量にすりつぶしているのだ。 これまで身につけてきた技術があまりにお粗末なのと、いろんな器具・機械の使い勝手が違うのとで、結局、初めから教わることになる。 SSK師匠は、学生実習をふたつ受け持っているようなもので、さぞや大変だろうと思われる。 ・・・と、Mさんに話したら、「今のうちよ、特権よ」と励ましてくださった。 ま、半年後にやらなきゃいいのよね♪ それにしても、今までの研究室でやってこなかった技術がたくさんおぼえられてうれしい。 これまで身につけたことは、そのうち役にたつときがくるだろう。 K先生は、かなり夜遅くまでお仕事をしていらっしゃる。 月曜日の夜11時半過ぎ、なにやら結果らしきものが出て喜んでいると、先生もいらして喜んでくださった。 ちなみに、ボルバキアは、コオロギにもハエにもいる。わりとメジャーな細菌である。 10月11日(木) なつかしい仕事 昨日は、実験材料であるメイガの餌をつくった。 原料は、ふすまとイースト、保湿材としてのグリセリン。これをひたすら混ぜるのだ。 ふすまは、レンジで熱くして、カビなどのいけないものを殺す。 これをやると、分子生物学の研究室らしからぬ、はなはだしく香ばしいいい匂いがただようため、 ある程度、人がいなくなってからやらないと、ヒンシュクをかう恐れがある。 而して、夜のお仕事となる。 3年前の卒業研究でも、このエサづくりをよくやっていた。 熱々のふすまに手をつっこんだとき、なつかしい感触にうれしくなった。 そばでショウジョウバエを解剖していたSSKさんが、「若返った気がした?」と聞く。 うなずくと、「でもね、それは気もちだけなんだよ」とよけいな念を押す。 そうこうしていたら、去年、ここで卒業研究をしていたIくんが登場。 エサをつくっているのをみて、「なつかしいっすね〜」と歓声をあげる。 ひとつには、あたりにただよう匂いのせいもあるだろう。匂いは記憶を呼び起こす。 10月10日(水) 新しい実験 さっそく実験を開始しているが、まだモノのありかなど、戸惑うこと多し。 DNase処理、足りなかったかも。そんなに混入しているのか?? それとも、ぜんぶファージのDNA? まさかねえ。 明日は超遠心。早起きして、前処理にきっちり時間をかけよう。 10月9日 (火) 究極の贅沢 日曜は、「ドン・ジョヴァンニ」の通し稽古を見せてもらいに、芸大の奏楽堂へ。 特等席にひとりでゆったりと座って、最高に人とモノとお金のかかった舞台を楽しんでしまった。 素人って幸せである。 ツェルリーナ役の人がとてもじょうずだった。 それにしても、すてきな歌が惜し気もなく、つるべうちに出てくるオペラだ。 しばらくは、頭の中にモーツァルト節がめぐり続けることだろう。 細胞生理化学研究室のドン・ジョヴァンニ、SSKさんは本日、博多で行われていた動物学会より帰京。 連日、しこたまおいしいお酒を召し上がってきたとみえる声。 Sくんによれば、発表したみなさん、盛況だったとか。めでたし。 多種多様なおみやげが来てうれしい。 10月1日 (月) 新生活 というわけで、新しい研究室での生活がぼちぼちと始まっている。 しかし、旧研究室のおかたづけも残っているので、行ったり来たり。 なんと、細胞生理化学研究室では、研究室名入りのノート用紙およびバインダーが支給され、実験に当たっては、「目的・材料・方法・結果・考察」をきっちり記録することになっている。たまったノートはファイルして、国家財産として保管されるのだ。 まあ本格的、と感心してしまった。「いかにも分子生物学の研究室みたいだよね」とは直接の上司・SSK氏。 これまで、ごくいいかげんな実験ノートをつけてきた身としては、ありがたい仕組みだ。 実験の失敗はすごく減るらしい。 そうだろうなあ。1年後に見直して、何をどう考えてやったのかさっぱりわからん、ということはなくなりそう。 現在は、机のセットアップだの実験の準備だのをしている。 目標は「頭のよさそうなデスクの創製」。 SSK氏の「できるかな〜」という力強い励まし、「完成したら見に行ってあげますよ」というEくんの嘲笑を背に受けつつ、がんばっている。 卒研のころ、旧細胞生理で私が使っていた名前入りのチップケースが出てきた。 なつかしい。 |