体感音響研究所


ボディソニックの効果








音楽の機能など






ボディソニックの技術開発
ボディソニックの研究
ボディソニック効果の探求

 

  bodysonic laboratory


小松 明

インタビュー

 

音楽における 1/fゆらぎ分析の理解

  

   小松 明  ボディソニック(株)研究開発センター

 

   インタビュアー 田中正道 日本バイオミュージック研究会事務局


田中 音楽療法が社会的に脚光を浴び、音楽にはこんな接し方もあったのか…というのが大方の人の率直な心情ではないでしょうか。そして音楽は、医療現場にも導入されています。全く新しいケア的アプローチを示唆したといっていいでしょう。
 こうした音楽療法に対する現実と期待は、同時に様々な方法で音楽に対するアプローチを活発にさせたともいえます。その中でも音楽を分析する方法の 1つとして、 1/f(えふぶんのいち)分析が α波分析と並んで、一般の人たちの間でも話題になることが多いようです。研究会の事務局への様々な問い合わせにも、 1/fゆらぎの問題が多いです。今回はこの 1/fゆらぎについて、その実態や理論構築の基礎などについてのアプローチをしてみたいと思います。

音楽の 1/fゆらぎは何を分析し、何を意味するのか

田中 まず  1/fゆらぎ とは、どのような状態をいうのか、それは人間と音楽の関係をいっているのか、あるいは音楽だけの成分を物理的に分析したものなのかを、分かり易く教えていただけますか。
小松  1/fゆらぎは心地よいと言われていますので、人間と音楽の関係を分析したもの…? とも思えますが、でも音楽の 1/fゆらぎは、音楽を物理的に分析したものです。 
 ここで、いきなり 1/fゆらぎの説明をすると、かえって難しくなりますから、 1/fゆらぎを理解する為に必要な知識をできるだけ平易に話しながら、音楽の 1/fゆらぎは、音楽の何をどのように分析し、それが何を意味するのかを説明できたらと思います。
田中 わかりました。それでは誰でも分る「そよ風」などのやさしい話からお願いします。

♪そよ風に例えると

小松 そよ風に例えて云えば、自然のそよ風は一定の強さではなく、ゆらぎがあります。強くなったり弱くなったり、徴妙に変化しながら揺らいでいるわけです。その変化は、私達の期待、予測どおりに変化することもあれば、期待に反した強弱を繰り返すこともある。これは期待性 (規則性) と意外性が桔抗した状態といえます。
 こんな状態を数値化し、スペクトルで表してみると 1/fゆらぎになっています。こうした強弱の適度なゆらぎの状態が、私達に心地よさを感じさせると言われています。
田中 音楽の場合も 1/fゆらぎの状態が心地よく、リラックスするわけですね。

♪心臓の鼓動を見ると

小松 次は人間の鼓動を例にとってみます。鼓動は割合正確に刻んでいますが、きちんと測定すると早くなったり遅くなったりの、ゆらぎがあります。数値化するために鼓動と鼓動のあいだの時間を次々と測定しプロットしていきます。
 こうして数百ぐらいのデータを取り、プロットさせたデータ曲線をフーリエ分析すると、その波形を構成する周波数成分の多数のサイン波コサイン波に分解することが出来ます。これをスペクトルで表すと、 1/fゆらぎ特性を示すと言われています。
 鼓動にゆらぎがあることをさらに突き詰めて行くと、細胞にも 1/fゆらぎがあることが解りました。脳では、多数の神経細胞が脳に集まり、信号処理をするわけですが、ゆらぎを巧みに利用して処理しているらしいことも解ってきたそうです。こんなことから 1/fゆらぎが心地よさを感じさせるのは、生理的に受け入れ易いのだろうと考えられるわけです。
  1/fゆらぎ理論で有名な武者教授は 『現在の私達が、時代も環境も人種も宗教も文化的背景も違うモーツァルトの曲を聴いて感動するのはどうしてなのか。価値判断のスタンダードは何か。どこかに良い悪いの共通点があるからこそ、芸術作品が残っていく。私はそのスタンダードは生理現象にあるだろうと考えています。最近の私達の研究で生体リズムのゆらぎが 1/fゆらぎであることが分かり、その謎が解けました』 と言っています。
 音楽に 1/fゆらぎがあるのも、そのスタンダードは生理現象に行き当るということでしょう。

♪フーリエ分析とは

田中 初歩的な質問になって恐縮ですが、フーリエ分析とは何ですか。
小松 数学の「フーリエ級数」による分析です この数学を使うと沢山の高調波や周波数成分をもった複雑な波形も、その波形を構成する周波数成分を多数のサイン波コサイン波に分解することが出来ます。これが「フーリエ分析」です。
 こうして分析したものをスペクトルに表すとその性質が分かり易くなります。音響関係では「周波数分析」と呼んで測定に応用されています。測定用としてはFFT(高速フーリエ分析)がよく使われます。
 フーリエ分析は複雑な計算を沢山しなければならないので、コンピュータによって行います。
  フーリエ級数  自己相関関数

♪スペクトルとは  −  1/fゆらぎ の理解に必要なスペクトルの話 −

田中 今までの話で 「スペクトル」 と言う言葉が出てきましたが、 1/fゆらぎを理解する為にはスペクトルの知識が必要であると聞いています。理工系ではない人でも理解できるようにスペクトルの説明をして頂きたいのですが…
小松 スペクトルはいろいろな表し方がありますが、誰でも知っている太陽の光のスペクトルから話しましょう。太陽の光をプリズムで分けると赤橙黄緑青藍紫の虹の七色になることは良く知られていますが、これが光のスペクトルです。光の色は波長(周波数)に対応しています。これは太陽の光が、総ての色の光を均等に含んでいることを表しています。

 星のスペクトルを調べて、まだ行ったことのない星の原子や物質の成分が分かるなどの話も聞いたことがあると思いますが、このようにスペクトルに表すといろいろな性質が分かり易くなります。
田中 我々の知っている範囲で実はあれもスペクトル分析しているという例は他にどんなものがありますか。

プリズムによるスペクトル表示

図1 太陽の光スペクトル

ステレオのスペクトル表示例

図2 ステレオも周波数別に光のレベルであらわしている


小松 最近のステレオセットで高い音や低い音など周波数別に光のレベルでチラチラ表示しているものを見かけますが、あれも簡単な周波数スペクトルの一種で、時々刻々と変わる音楽の周波数スペクトルを表しています。

♪楽音(楽器の音)のスペクトル

田中 音楽と関係のあるスペクトルには他にどんなものがありますか。
小松 楽器の音のスペクトルがあります。音楽を構成する楽器の音 「楽音」は、まったくの正弦波(純音)だけの音というのはあまり無く、多くは高調波(倍音)を含んでいます。440Hzの 「ラ」 の音を、ある楽器で出したとすれば、その音は440Hzだけでなく、2倍の880Hz、3倍の1320Hz、4倍、5倍…という様に、たくさんの高調波が含まれています。
 ずっと高い方まで含まれているものもあれば、そうでないものもあります。これが音色を決める重要な要素です。
 クラリネットの音は 3倍 5倍 7倍…など、ほとんど奇数次高調波ばかりで独特の音色をもっています。楽音を分析して周波数スペクトルで表すとその楽器の音色の特徴が分かり易くなるわけです。
 楽音をスペクトルで表すと、それぞれの倍音の位置に、それぞれのレベルに応じた高さの線が立ちます。楽音の場合にはそれぞれの楽器の特性に応じた倍音列の線スペクトルになるわけです。
 楽音のスペクトル
               図3 楽器の音のスペクトル

田中 そのことと 1/fゆらぎとはどんな関係があるのですか。
小松 高次の高調波成分レベルの多いバイオリンの音と、高調波成分の少ないフルートの音では、同じラの440Hzでも波型が異なり、波形がゼロクロスをする回数をカウントすると、バイオリンの方が数倍高いものになります。このことは後でもう一度、触れることになると思いますが、1/fゆらぎ分析の要素になります。
 それと、こうした整数の倍音列スペクトルを持つ 「楽音」 は、ピッチの識別ができることが大きな特徴です。つまり耳で聴いたとき、ドレミファソラシドが聴き取れるわけです。
 同じ楽器でも打楽器の場合はピッチの不明瞭なものが多くなります。シンバルやマラカスなどピッチが分かりませんし、ボンゴや小太鼓など大小いろいろある太鼓類も概してピッチが不明瞭です。こうしたものは整数ではない倍音成分を持ったスペクトルになるわけです。
 代表的な雑音信号であるホワイトノイズやピンクノイズの場合は、隙間なくどの周波数成分もまんべんなく含まれており、連続スペクトルになります。先ほどの楽音との対比でいえば、連続スペクトルを持つ音は、ピッチの識別ができません。
田中 本題の 1/fゆらぎのスベクトルはどうなるのですか。
小松 これも連続スペクトルになります。これから話の主題になる音楽などの 「ゆらぎ現象」 は非常に周波数が低く、分析にプリズムは使えないので数学的手法の、フーリエ分析をするわけです。ゆらぎ現象を表すスペクトルは単位周波数あたりのエネルギー密度で表すので、正確に言うと 「パワースペクトル密度」 なのですが、一般的に物理などの分野では単にスペクトルと呼んでいる場合が多いです。
 スペクトルの性質を表す自己相関関数や予測などの話は難しくなりますので、ここではやめて、スペクトルがいろいろなことを分かり易く表すものだと理解してください。ゆらぎのスペクトルは、ゆらぎの性質を分かり易く表すわけです。

♪ 1/fゆらぎの f は frequency の頭文字で周波数のこと…
  では 1/fの1は? − λ(ラムダ)はゆらぎの性質を表す指数 −

田中  1/fゆらぎは 45度の傾きだといわれますが、その辺りを説明してください。
小松 数式的には P= 1/fλ で表されます。P はパワー、f は frequency の頭文字で周波数を表します。1 は 分数 1/fの分子で、 1/fは周波数の逆数ですから 周波数が倍になると、パワーP は 1/2(半分)になる。周波数が 10倍になったらパワーは 1/10 になる…といった関係です。
 横軸に周波数、縦軸にパワーをとり両対数グラフで表します。図4を見てください。横軸の周波数 1Hz 前後のあたりのパワーが高くなるとスペクトルは水平方向に近づきます。つまり λ の値が小さくなります。逆の場合は λ の値が大きくなります。P= 1/fλ の数式がそのことを表しています。
 λは指数で 1/fは 1/f のことです。f1=f だからです。つまり λ=1 の場合が 1/fゆらぎで 45度の傾きになります。この λ はゆらぎの性質を表す指数です。
田中 λ とゆらぎの性質の関係は?
小松 λ が 2 の場合は、変化の少ない単調な 1/fゆらぎとなります。もしこれが音楽なら刺激の弱い単調な音楽になる 1/f2 ゆらぎ傾向の音楽です。λ が  1 より大きくなる程、この傾向が強まります。弛緩を生じ、安堵と休眠に導くともいわれています。
田中 スペクトルグラフの上では傾きが 60度ぐらいになっていますね。
小松 λが 1 の場合は、規則性と意外性がバランス良くとれている 1/fゆらぎを表します。 1/fゆらぎの音楽は、期待性と意外性が桔抗した、適度な相関性と適度な変化のバランスがとれた音楽ということになります。覚醒状態で最も精神の安定が得られる状態ともいわれています。
田中 これは良く知られた 45度の傾きですね。
小松 λ が 0 の場合は、規則性のまったくない刺激の強い 1/fゆらぎということになります。
 λ が 1 より小さくて 0 に近付く程、音楽は刺激の強いものになります。緊張と興奮を生じる情動反射を誘発する性質があるともいわれています。
田中 これは水平になるわけですね。
小松 このように λ はゆらぎの性質を表す重要な指数なのです。
   ゆらぎのスペクトル
              図4 1/f ゆらぎスペクトル

♪ 1/fゆらぎ、研究の発端は雑音から始まった

田中 ところで 1/fゆらぎの研究というのは音楽の研究から始まった…?
小松 少し意外でしょうけれど、 1/fゆらぎは、電子デバイスである抵抗や真空管、トランジスタなどの半導体に存在する熱雑音やフリッカ雑音などの 「電子のゆらぎ」 をなくそうとしたのが研究の始まりです。高性能にする為、低雑音化の必要があるからです。
 雑音という概念はいろいろな定義の仕方がありますが、一般的には、求めている目的の信号以外の信号を雑音とします。
田中 雑音は大概、じゃま者ですからね。
小松 そうですね。ところが一方では、研究や測定の為に、数値的にきちんと定義された基準となる雑音信号が必要になります。ホワイトノイズやピンクノイズは代表的な標準雑音信号で、測定用としてよく使われています。
 ホワイトノイズやピンクノイズは、どの周波数成分も隙間なく、まんべんなく含まれており、連続スペクトルになる訳ですが、そのスペクトルをみるとホワイトノイズは高い周波数成分も低い周波数成分も均一に含まれているので P= 1/f0=1/1=1 であり、周波数に関係なく パワー P が 1 になるので 1/f0 の水平なスペクトルになります。
 ピンクノイズは周波数に逆比例して高い周波数の成分が少なくなっていくので、 1/fすなわち 1/fとなり、45度の傾きを示すスペクトルになります。先ほどお話した図4のスペクトル図を確認して下さい。 1/fゆらぎの、ゆらぎ現象のスベクトルも連続スペクトルです。

♪ホワイトノイズ、ピンクノイズと、音楽のゆらぎ現象との関係
 − 音楽の 1/fゆらぎは、音楽をそのまま周波数分析したものではない −

田中 ピンクノイズ、ホワイトノイズのスペクトルと、音楽などのゆらぎのスペクトルとの関係を、もう少し詳しくお願いします。
小松 これはある専門誌に書かれていて気になったことなのですが、「ホワイトノイズが不快な音に感じられるのは 1/f0 なので不快なのだ」 と云うのですが、これは誤解です。
 この論に従えば 「ピンクノイズは 1/fなので快い」 ということになりますが 「ゴー」 という感じのピンクノイズも 「シャー」 という感じのホワイトノイズと同じ様に不快な雑音であり、快くなどありません。音響測定でピンクノイズを使っている人なら、皆よく知っています。誤解が起こるのは、次のことを見落としているからだと思います。
音響測定用の標準雑音信号である ホワイトノイズをフーリエ分析(周波数分析)すると 1/fになり、ピンクノイズをフーリエ分析すると 1/fになります。これは信号を単に周波数分析したものです。スペクトルアナライザなどの測定器で見ることも出来ます。
 分析したスペクトルの周波数帯域は凡そ 20〜20KHz です。
●一方、音楽のゆらぎ現象は、その現象のゆらぎ成分を分析したスペクトルであり、単に音楽をそのままフーリエ分析(周波数分析)したものではありません
● 1/fそのものであるホワイトノイズや 1/fそのものあるピンクノイズと、音楽のゆらぎ成分を分析した音楽の 1/fゆらぎとは、分析の内容が違いますので区別されます。
田中 正しく理解するには専門的知識が必要で、だいぶ誤解が多いようですね。
小松 音楽をそのままフーリエ分析(周波数分析)すると、音楽の周波数スペクトルが分析され、その周波数帯域は、凡そ 20〜20KHz になります。一方、音楽のゆらぎを分析したスペクトルの周波数帯域は、凡そ 0.005Hz〜5Hz くらいになります。この周波数帯域の違いこそが、分析している内容の違いをよく表していると思います。
田中 そうですか… 音楽のゆらぎを分析したスペクトルの周波数帯域はずいぶん低いですね。普通の周波数分析とは、だいぶ違う分析方法らしいことは私にも理解できますが、でも難しそうですね。
小松 分析方法については順を追って、後で説明させて頂きます。
 さて、 1/fゆらぎは研究が進むにつれて結晶の格子振動、地球の自転、自然現象、生物など多岐に及んで、いわゆる名曲と言われるものも 1/fゆらぎを示すことが分かってきたのです。これはとても興味深い発見です。
田中 素晴らしい発見であることは誰しも同じ思いでしょう。ただ気になるのは 1/fゆらぎを示せば、その曲が名曲であるという逆説は証明できないのではないでしょうか。まったく個人レベルで言えば 「 1/fゆらぎを示す曲です」 と紹介されても自分にとって馴染みのない曲はかえってストレスになるし、馴染みのある曲でも聞きたくないものもあります。また、音楽ジャンル、作曲家、楽器、歌手なども重要な要素になります。

♪名曲は総て 1/fゆらぎ特性を示す?

田中 以前から聞きたいと思っていたのですが、名曲でない曲は、1/fゆらぎではないのですか?
小松 そんなことはありません。芸術性のあまり高くない曲や、あまり知られていないような曲でも 1/fゆらぎを示す曲は沢山あります。その一方で、クラシックの名曲と呼ばれる曲は全て 1/fゆらぎかというと、そうとばかりとは言えません。
 渡辺茂夫氏がバイオミュージック研究会誌 Vol.1 に発表したデータによれば、クラシック音楽の場合はλの値が 0.5〜1.75 に分布しています。ただ 1〜1.25 が最もパーセンテージが高く、やはりクラシックは 1/f1〜1.25 つまり 1/fゆらぎ辺りの曲が多いことになります。
田中 歌謡曲ではいかがですか。
小松 歌謡曲は、そのデータによれば、入の値が 0.26〜1.25 ぐらいに分布していて 1/fゆらぎの曲もあります。しかし 0.51〜0.75 が最もパーセンテージが高く、歌謡曲ではクラシックよりは刺激の強い 1/f0.51〜0.75 ゆらぎの曲が多いデータとなっています。
田中 ではロックでは如何でしょう。
小松 ロックでは、λの値がさらに小さくなり、0.01〜1 ぐらいに分布していて、これにも 1/fゆらぎの曲も、あることはありますが、λ=0.26〜0.5 が 最もパーセンテージが高く、歌謡曲よりもさらに刺激の強い 1/f0.26〜0.5 ゆらぎの曲が多いデータとなっています。
田中 全体的な感じは分かってきましたが、何をどう測定分析しているのかが分からないので、今ひとつピンとこないのですが…

音楽の 1/fゆらぎ、その分析法
  − 曲の周波数がどのように変化しているかを分析する −

田中 そろそろ分析方法の話に移らせてください。初歩的な質問をします。例えば演歌ですが殆どの場合、1番から3番迄を歌い終えるまで3〜4分です。これは演奏を分析しているのか、歌手の歌を分析しているのか、それとも全てをミックスしているのか教えてください。
 また、クラシックでもモーツァルトを例に引いて云えば、クラリネット協奏曲という私が個人的に好きな曲があります。私の持っているCDによれば、第1楽章が12分、第2楽章が7分、第3楽章が9分半からなっています。当然のことながら各楽章によりまったく楽趣が異なります。乱暴な言い方をすれば、眠くなる部分あり、軽快でリズミカルで躍動的楽章もあります。加えてその楽章の中でもこれまた鎮静的、刺激的など様々です。
 このように一曲の中でも楽章によってまったく異なり、且つ長時間です。演歌、クラシック、このように異なる曲をそれぞれどのように分析しているのですか。特にクラシックの場合、どの部分が中心になるのでしょう。
小松 まず分析法を説明します。
●分析する音楽の演奏を録音したテープ、レコードなどを再生し、再生された 20〜20000Hz の信号を 25ms ごとに区切ります。
●その区間で波形が何回ゼロクロスするかカウントし、その 1/2 をその区間の平均周波数とします。このようにして連続的に音楽の最後までデータをとります。
●データはAD変換器で連続的にコンピュータに取り込みますので、データ数は1秒間で40個、3分の曲では 7200個になります。
 このデータは、音楽の周波数が時々刻々と、どのように変化しているかを表しています。周波数の変化とは、言い換えれば音の高さの変化、音色の変化、和音の変化…などなどです。つまり、音楽のゆらぎの状態を表していることになります。
 ごく大雑把ですが、メロディーラインの変化を波形としてイメージしてもらうと、分かりやすいかと思います。
●このデータをコンピュータでフーリエ分析して、スペクトルに表すわします。スペクトルの周波数範囲は、凡そ 0.005Hz〜5Hz くらいになります。そしてこのスペクトルから、1/fゆらぎか、そうでないかなど、ゆらぎの性質を読み取ります。
●取り込む音楽は生の音でもよいのですが、分析する都合からリアルタイムでは難しいので、録音テープなどを使用するわけです。

 次に、音楽のどの部分を分析するのかですが、
●歌謡曲の場合は短いので全曲を分析することになるでしょう。
●モーツァルトのクラリネット協奏曲では、各楽章ごとのゆらぎを分析する場合もあれば、全曲を通して分析することもあるでしょう。
●歌謡曲でもクラシックでも、音楽的に一区切り出来る部分を分析することもあります。

♪ 1/fゆらぎが分析する要素

田中 すると楽譜上の特徴、例えばメロディラインとか和音とか、それぞれの楽器が持つその楽器特有のゆらぎなど全てミックスしてしまうと言うことですか?
小松 そうです。この分析方法によれば、楽曲の旋律によるゆらぎ、和音の変化によるゆらぎ、楽器特有のゆらぎ、演奏者によるゆらぎ、音色の変化によるゆらぎ、楽器の違いなど諸々のゆらぎ要素が、音楽として総合的に分析されます。
田中 楽譜上から分析した方が合理的なようにも思えるのですが…。
小松 これは先ほど、楽音(楽器の音)のゆらぎ でもお話したように、譜面上ではバイオリンでもフルートでも「ラ」の音は440Hzですが、音色の違い、つまり倍音構成の違いからバイオリンでは数倍の高い周波数にゼロクロスカウントされる可能性があります。一方、フルートでは440Hzに近い周波数にゼロクロスカウントされます。
 例えばバイオリンがラの音を出し、続いてフルートの音がラの音を出した場合、譜面上では周波数の変化が無いのでゆらぎは無いことになりますが、実際の演奏ではゼロクロスカウント周波数が変ることになり、ゆらぎが出てくる訳です。音色が違って変化すれば、ゆらぎが有ったとする方が、物理的にも感覚的にも合致するわけです。
 基本的には、楽譜は音楽を記録するための一種の記号、覚書であるということです。従って、譜面上の音楽は、生きた音楽ではないわけです。音楽を音楽たらしめ、芸術にする為には、名演奏家、大指揮者を必要とする所以です。武者教授も言っておられますが、譜面上のピッチを周波数に換算して分析しても、1/fゆらぎにはならないそうです。

♪演奏中のミスタッチ

田中 そうですか。では次に素朴な疑問なのですが、1/fの本には書かれていないので質問するのですけど、演奏中にミスタッチがあった場合はどういうことになるのですか。
小松 質問が変化球になってきましたね。まあ分かり易く単純計算をしますと、演奏の途中でミスタッチがあって、そのミスタッチの時間が1秒であったとします。さきほどのモーツァルトのクラリネット協奏曲の第1楽章であれば、12分ですから720秒、従って28800個あるデータの中の40個のデータの数値が少し変ってくる可能性はあるわけです。
 これはパーセンテージ的に云えば 0.14%程度の違いがデータに表れる可能性がありますが、この程度の差はスペクトルから読み取ることは不可能でしょう。
 良く知られた旋律などでのミスタッチは聴いていると目立ちますが、この分析はミスタッチのような演奏のミスを分析するものではないと言えますね。

♪λ の値が小さくなり易い曲 ロックはなぜ 1/f0 傾向なのか

田中 なるほど、かなり音楽の 1/fゆらぎの実体が見えてきた感じです。ではついでに聞きますが、ロックミュージックなどは何故 1/f0 傾向が多くなるのですか。刺激が強いからそうなると言われますけれど、どうも漠然としていてよく分かりません。もっと具体的に説明した話を…
小松 ウーン、益々変化球の質問ですねぇ… ひとつ原理的に考えられることは、ドラムスとか、リズムセクションと呼ばれる楽器の多用があります。バスドラムのようにごく低い周波数で、高調波の少ない楽器と、シンバル(ハイハット)の様に周波数が高く高調波の多い、従ってゼロクロスカウント周波数が高い楽器が激しく交互に打ち鳴らされると、交互に打ち鳴らされる度に、とても大きな周波数変化となり、速い周期で非常に大きなゆらぎが起こります。
 従ってこの様な曲では、スペクトルの1Hz前後辺りでゆらぎの周波数成分のパワーが、とても高くなり、図4で説明したスペクトルは水平方向に近づいていきます。音楽のゆらぎでは、長いメロディラインの周期から生じる、長い周期のゆっくりとしたゆらぎに比べると、1Hz 辺りはゆらぎの高い周波数部分です。このため、1Hz 辺りのパワーが増えるとスペクトルは 1/fゆらぎの 45°ではなく、水平方向に近付いて 1/f0傾向となり、λの値が小さくなります。
田中 なるほど……  それが刺激が強いといわれていることの実態……
小松 最近のロックミュージックやポピュラーミュージックのλが小さいのは、このことと深い関係が有ると考えられるわけです。歌謡曲でも昔の曲は、今の歌謡曲の様にバスドラムとシンバルが多用されておらず、クラシックの曲と楽器編成が似ていて、おとなしい感じでしたから、昔の歌謡曲の方が 1/fゆらぎが多かったと考えられます。昭和 30年代頃の「有楽町で逢いましょう」 は 1/fだそうですが、その例と言えそうです。
田中 そうですか、「有楽町で逢いましょう」 の例を聞いて感じが分かってきました。
小松 ですから、ロックの曲でもバスドラムとシンバルの使用を控えて、クラシック音楽と似た様な楽器編成にすれば、1/fゆらぎが増える可能性が有ります。もっとも、こんなことをしたらロックの良さはすっかり失われてしまい、音楽的には本末転倒でロックファンから怒られてしまいますが…
 意地悪な理屈をいえば 「音楽的には陳腐で価値は低くても、きれいな 1/fゆらぎ特性を持つ音楽」 を作ることが、可能性としては有り得るわけです。
田中 なるほど、そうですか。 1/fゆらぎの裏事情を聞いてしまったような感じですね。
小松 うまく誘導尋問にのせられて、あちこちから非難されそうな、どうも差障りの多い話をしてしまいました。

音楽を客観的に評価する ひとつの指標
   − 音楽における 1/fゆらぎは少し特別な存在 −

田中 さて時間も迫ってきましたので 1/fゆらぎについてのまとめをお願いします。理想的な 1/fゆらぎスペクトルの曲であっても、聴く側の誰でもが同じ様な心地よさを誘うとは必ずしも言い切れない…
小松 それはあるでしょうね。個人の嗜好に関わる問題は いろいろあり、ここでは論じきれませんが、音楽療法の現場では個人の好みを重視して対処していますね。
田中 その他、音楽の効果に対し、客観的にアプローチする方法として、音楽を聴く前と、聴いた後の血圧、脈拍、呼吸数、皮膚抵抗、筋電図など、所謂 「バイタルサイン」 で評価する方法があります。これはいわば音楽を聴く側の人間のデータであり、1/fゆらぎ分析は音楽そのものを分析したデータだといえますね。
小松 まったくその通りですね。客観的な指標であることに重要な意味があるのだと思います。音楽における 1/fゆらぎは、「統計物理学的視点から捉えた客観的な指標」 として高く評価され、多くの関心を集めました。
 しかし注目されて関心が高い一方、理解が難しいこともあり、過大な期待を持たれて、音楽芸術を評価する決定的な指標であるかのような、そうした誤解の様なものを生んでいる雰囲気を感じるのが気掛かりなところです。
田中 同感です。その辺を知りたくて、変化球で困らせるような質問もしてしまいました。
小松  1/fゆらぎはいろいろありますが、音楽の 1/fゆらぎは少し特別な存在と言うべきでしょう。と言うのは、音楽芸術はあまりにも多くの要素、様々な側面があるからです。この分析方法が、これら多くの要素、側面を総て評価するというのは過大な期待です。
田中 そうですね。
小松 もし仮に 1/fゆらぎが音楽の総てを捉えるのだとしたら、その測定方法 「25ms ごとに区切り、その区間で波形が何回ゼロクロスするかをカウントして、その 1/2 をその区間の平均周波数とする…」 は随分荒っぽいものだと思います。音楽の特質や和声学的考察からも、とても気になるところです。もっともこれは「もし仮に」の話ですから、論議にはならないことを、誤解を避けるためにお断りしておきます。
田中 それでは音楽の 1/fゆらぎは、どう捉えるのですか。
小松 音楽における 1/fゆらぎは、音楽を客観的に評価するひとつの指標なのだと思います。音楽の評価は個人の嗜好など主観に左右されます。これに対して、1/fゆらぎは客観的な評価をします。「音楽を客観的に評価するひとつの指標」 であることが重要なのだと思います。
 先ほど田中さんが 音楽が人にあたえる効果を客観的にアプローチする方法として 「バイタルサイン」 をあげたようにです。
田中 良く解りました。日頃から疑問に思っていたことが納得できた感じです。

♪音楽における 1/fゆらぎ は適正な評価を

小松 最初にもお話 したように、鼓動にも細胞にも 1/fゆらぎがあり、音楽に 1/fゆらぎがあるのも、生理という最も根源的な要素に行き当る可能性があることは注目されます。
 バッハやモーツァルトなど、多くの大作曲家たちが、1/fゆらぎなどまったく考えもせずに作曲した多くの作品が 1/fゆらぎ特性を示している事実や、長い年月を経た現在も尚、人々を感動させ続けている事実は多くの人が認めているところです。
 それらが、生理という最も根源的な要素に行き当る可能性の示唆や、現代の科学・技術で客観的なデータを測定可能にしたことなどの、注目すべき研究1-3)は高く評価されるものです。それは音楽に対して、今までになかった視点を指し示し、一石を投じました。
 多くの研究者たちの努力に対して敬意をもって接し、過大でもなく過小でもない適正な評価をすべだと思います。
田中 おっしゃる通りですね。1/fゆらぎは、一般の人にとっては理解が難しく、誤解も多いですからね。

♪快さの条件 エネルギーレベルも重要

田中 インタビューの最初の部分で、 1/fゆらぎを示す例として、そよ風を取り上げてお話し頂きましたが、快さの条件としてエネルギーの大きさの問題がクローズアップしてきそうですね。
小松 そうですね。そよ風は、風量も温度も人にとって優しいエネルギーレベルであるから快いわけです。いくら 1/fゆらぎで揺らいでも、強風でとても寒ければ心地よくはないでしょう。音の場合でも、ほどよい音の強さの範囲があると思います。波の音、せせらぎ、小鳥のさえずりなどでも音量が過大であれば苦痛になるでしょう。
 海辺の家に泊ったら、潮騒(波の音)で落ちつかず眠れないとか。川辺の宿で川の流れの音が気になって仕方がないなどと言うこともあるでしょう。
田中 小鳥のさえずりにしても、耳もとで、のべつピーピー鳴かれては耳が痛くなり快さを感じるどころではないかも知れませんね。
小松 過大は良くないからといっても音楽の場合、音量が小さ過ぎては音楽の感動や陶酔感が伝わってこないこともあります。適度な音量であることが必要です。        ボディソニックの 1/f

♪ボディソニック(体感音響装置)の 1/fゆらぎ

田中 ボディソニックと 1/fゆらぎとの関係で何か特筆すべきことがありますか?
小松 ボディソニックの振動は入力される音楽によります。従って、基本的には音楽の特性によるのです。しかしボディソニックは 150Hz以下の信号を取り出して、体感音響振動に換えますので、例えばロックミュージックの場合で 1/f0ゆらぎに近い刺激の強い音楽であっても、低音部分のみが主になるので、音楽全体よりは、遥かに単純−単調になり、刺激が弱くなります。このためボディソニックは、覚醒状態で最も精神の安定が得られるという 1/fゆらぎ的振動になる可能性が高いのです。
 歌謡曲の場合は、低音部分はもっと単純なので 1/f2ゆらぎに近い振動になる可能性もあります。弛緩を生じ安堵と休眠に導くような振動になる可能性があります。たとえ音楽が 1/f0ゆらぎに近い刺激の強いものであっても、快くなってリラックスするのはこのためだとも考えられます。
 ボディソニックで快くなり眠ってしまう人が多いのも、こうした理由によるわけです。このことがりラクセーションに関与する一つの要因だと思います。

田中 1/fゆらぎについて興味あるお話を有難うございました。私のような物理的科学的頭脳を持たない者でも、要点だけは理解できた気がしてきました。ひとつの事実について、正確な認識をすることの大変さ、をです。
 音楽療法がこれだけ社会的に脚光を浴びてきた背景には、音楽療法の持つ響きの良さもさることながら、それだけ、必要としている人達が存在するということでしょう。病める現代人の癒しに、音楽が果たす役割を期待しつつ、このインタビューを終了致します。貴重なご教示を有難うございました。

 

日本バイオミュージック研究会誌 1991 Vol.6    

参考文献

1)R, F.Vosse, J. Clauke, “ 1/fnoise in Music, Music from 1/fnoise”,
    J. Accoust. Soc. Am. 63(1), Jan 258-263, 1973.
2)武者利光:ゆらぎについて -  1/f雑音
  数理科学7 No169 生命 1977.
3)渡辺茂夫:音楽の生体親和性と 1/fスペクトラムとの関係
  電子通信学会技術研究報告 Vol. 82, 145, PRL-82-31, 1983.
4)小松 明、インタビュア 田中正道:音楽に於ける 1/fゆらぎ分析の理解
  日本バイオミュージック研究会誌 1991, 8.Vol.6, P17-28.


  リンク 音楽のゆらぎの正体 ジャンル別研究(クラシック編) ジャンル別研究(洋楽ロック/ポップス編)


ページの先頭に戻る ページの先頭に戻る      


  03/12/2


Copyright (C) 2003-2017 Bodysonic Laboratory, All rights reserved.