体感音響研究所

ボディソニック効果の探求
目次
第3章 ボディソニック・システムの応用施工例
第4章 期待される体感音響振動の応用
第5章 音楽療法について 健康科学の視点から



終章 「情報を持つ振動」の明日のために

序章 情報を持つ体感音響振動こそがボディソニック効果の正体である
第1章 音楽療法とボディソニックの効果
第2章 ボディソニックはなぜ音楽療法に効果があるのだろう

ボディソニックの技術開発
ボディソニックの研究


  bodysonic laboratory


第5章 音楽療法について −健康科学の視点から−


第1節 現在('90年)の日本はストレス社会    
   − 心の健康科学の必要性 −
     

 

   はじめに  1.音楽療法の歴史  1.1 ポドルスキーとアンキーファー  2.我が国の音楽療法事情
   3.健康科学的視点から見た音楽療法  3.1 音楽療法先進国の音楽療法士が行なっている音楽療法
     3.2 日本バイオミュージック学会が目指している音楽療法
   4.音楽療法の種類 −受容的音楽療法と活動的音楽療法− 4.1 受容的音楽療法  4.2 活動的音楽療法(能動的音楽療法)
   5.音楽療法と音楽健康法の違い  5.1 医療、治療としての音楽療法  5.2 健康医学、予防医学に対応する音楽健康法

 

ボディソニック(株)研究開発センター 小松 明         

 

1993年 Muramatsu Planning  

はじめに

 現在(1990年)、日本の社会は国際化した、といっても世界的に見れば、まだまだ単一民俗国家で、貧富の差も少なく国民全体が高学歴の同質社会、均質社会であるといえよう。差が少ないということは、激しい競争社会でもある。大学の受験戦争が問題化して久しいが、名門校に入るために高校、中学はおろか幼稚園に入るための塾がよいまで常識化される程である。こうした極端な競争はストレスと様々な心の歪みを作り出す。不登校児(登校拒否)の増加はその一例であろう。
 こうして学校を卒業すれば、企業社会の激しい生存競争が待ちかまえている。激しい競争に打ち勝つために技術大国日本の企業は、ハイテクノロジー化を進める。高度情報化社会はOA化を急速に進める結果となり、様々なテクノストレスを生んでいる。
 情報化社会に不可欠なコンピュータソフト開発の仕事は、はた目には病的なワーカホリックとしか見えないが、どんなに疲れても休むことができなくなるような、それに携わった者でないと理解し難い極度なストレスの落し穴も待ちかまえていてるのである。当然の成行きとして、心身症、うつ病、神経症などの患者が増えている。
 ストレスの増大は心因性の病気を増やしている。胃腸病の大半は心因性だといわれている。その他の多くの病気も心因性である場合が多いという。ハイテクノロジー化された現在の日本では、肉体的疲労を強いる重労働はほとんどなくなった半面、身体は全然使わず左脳のみを極端に酷使し、神経ばかりをすり減らす仕事が増大しているのである。こうした状況は心身の健康に一番良くないパターンとも言えよう。
 かっては人手不足で、そして今は不況で勤勉な日本人企業戦士をさらなる過重な勤務にも追い込んでいる。心労を増大させストレスはたまるばかりである。心の健康に不安をもつ人々が大勢いるだけでなく、深刻な過労死の問題にまで至っている。
 社会全体が病んでいる状況下にあって、リラクセーションの必要性と特別な意味が語られるようになった。労働省、厚生省も国民の心身の健康に重大な関心をもち、こうした問題の解決に様々な施策をはじめている。

 「身体の健康」は医学の進歩、医療制度の整備が進み、病気にかからないで健康を保つための保健衛生、栄養学、予防医学的な健康科学の知識の普及浸透で、高い水準に達し、長寿社会にもなってきた。ではこれと同じ様に「心の健康」を保つにはどうしたらいいのだろうか。
 「心の健康」に対しての予防医学、健康科学の知識の普及浸透はまだ遅れていて、これからの問題というべき水準にしか達していないように見える。こうした社会的ニーズの中で、最近注目と関心が高まっているのが音楽療法である。様々な研究も行なわれ成果も上がり、マスコミでもそうした情報が伝わるようになりはじめてきた。健康を保つために、保健衛生、栄養学など健康科学の知識が必要なように「心の健康」を保つためには健康科学の視点から見た音楽療法、音楽健康法の知識が必要なのである。
 音楽療法とは音楽による心理療法であるが、音楽療法の正確な知識や実態は、意外に伝わっていないようである。そこで健康科学の視点から見た音楽療法について簡単に触れてみよう。

1.音楽療法の歴史

 音楽療法の歴史は、古代エジプト時代まで遡ることができる。どの民俗でも原始社会に遡ると治療のために音楽を使っていた。病に罹ることは神の怒りにふれた結果と信じられ、呪術師、祈祷師が病人の前で祈りと音楽によって、神の怒りを鎮めるものであり、それを支える理念は呪術的であった。音楽が鎮痛剤として処方されていたという記述も残されている。
 古代ギリシャ時代には、ピタゴラスが音楽に宇宙との調和を考えたが、完全5度を12回重ねて作られるピタゴラス音階と、そこから派生する和声学、音の性質の数学的な規則性の美しさと関係がある。太陽系の運動に見られる規則性を思わせるような神秘性と科学性を感じとらせる美しさがあることから、音楽を重要な学問として位置付けていた。また、アリストテレスは音楽の機能として精神ないし感情のカタルシス的均衡化の役割を果たすことを指摘した。古代ギリシャの賢人達は呪術性を音楽療法から追放しようと努めた。ヨーロッパでの医学の芽生えがここにあるともいえる。
 キリスト教の時代には宗教音楽という形で音楽療法的な役割も担った。ヨーロッパでは古くからキリスト教によって音楽療法が支えられてきた歴史が有る。聖歌には悲しみを和らげたり、怒りの心を鎮めたりする効果があり、音楽が神と人間との交流の手段として祈りの場で活用された。荘厳な宗教音楽は人間の精神を高め浄化する機能もあり、キリスト教の教義と共に様々な癒し、救済の役割を果たしてきた。
 音楽が人間の癒しにいろいろ効果が有るのだと信じる考え方は音楽療法では重要で、この思想がなければ音楽療法は根付き難いであろう。薬でも効くと信じて飲むのと、効かないと疑って飲むのとでは、薬効に差異がでるのと同じである。その意味からもキリスト教が音楽療法に果たした役割は大きいといえよう。
 ルネッサンス期の音楽療法の記録によれば、坐骨神経痛の患者の患部の上で楽器を演奏させ、直接患部に曲の振動を与え、疼痛を軽減させる治療が行われたという(音楽の振動が痛みを和らげる生理的な効果は、現代のテクノロジーを応用したボディソニックによる音楽療法として、末期医療領域、外科及び関連領域、歯科領域などで音楽療法のペインコントロールとして応用され、効果を上げている)。
 20世紀初頭になるとアメリカに於て、陰惨な鉄格子の収容所のような精神病院へ、人道的立場から音楽家による慰問演奏活動が行われるようになった。音楽家は病院職員がもたなかったような患者との緊密な人間関係を作ったり、隔絶された精神病院内に社会の空気を送り込み、患者にも喜ばれ好影響を及ぼした。このことは、今日も尚、精神科領域が音楽療法の中心的分野であることと深い関係がある。

 このように音楽療法の歴史は古代にまで遡ることができるが、今日的な意味での音楽療法が組織的に行なわれるようになったのは第二次世界大戦後のアメリカに於てである。桜林仁・東京芸術大学名誉教授は次のように述べている。
 戦争による傷病兵の戦闘殺人という非人間的な異常体験によるショックの痕跡は、内部に疼くストレスとなり、不眠、うつ病、精神分裂など心因性の疾患を慢性的に多発させ、その対策に迫られた。ベトナム戦争でも兵士の多くがアル中や、麻薬中毒になり、家庭破戒者として離婚へと転落していった。大戦当時のアメリカ陸軍病院は、この種の傷病兵であふれていた。外傷治療にも内科治療にも先立つ課題はモラルの回復であり、またモラルの改善そのものが、治療効果の促進剤になることも明らかになってきた。その結果、精神療法の重要性が改めて痛感され、古くからキリスト教によって支えられてきた音楽療法が、現代医学の作戦として組織的に行なわれた。
 戦後社会でも、高度産業社会の拘束性、人間関係の複雑化、ファミリーストレスの重症化、薬物多用からくる心身障害児の多発、自閉症児や青少年の反社会行動など、音楽療法に期待される問題が限りなく広がる状況にある。
 1950年には全米音楽療法協会(NAMT)が設立され、音楽療法士を養成する音楽療法課程を持つ大学も生まれ、公認音楽療法士の資格が認定されるようになった。その後、イギリス、アルゼンチン、ウルグアイ、イスラエル、オーストラリア、カナダ、西ドイツに同様の協会が作られて、今日に至っている。

1.1 ポドルスキーとアンキーファー

 1940〜50年代ごろにかけて、音楽心理学の立場から音楽の心理学的な影響、効果、曲目との関係など受容的音楽療法が多くの研究者、音楽療法家によって熱心に研究された。それらの研究成果をまとめたポドルスキー(Edward Podolsky) の「音楽療法」("Music Therapy" Philosophical Library)という書物は受容的音楽療法の古典・バイブル的存在として、我が国に於ても音楽療法の解説書には大概ポドルスキーの音楽処方曲目リストが紹介されているほどである。
 しかしアメリカの音楽療法家アンキーファー(Robert F Unkefer) は1960年に「音楽療法士」(The Music Therapist Music Therapy) という論文の中でポドルスキーらの考え方に反対し『音楽療法士は沢山の音楽の中から特別な音楽を選び、レコードで精神患者に聴かせて、患者の病気を治す不思議な力をもった人である、と考えるような著しい誤解と混乱がある。このような音楽の効能については、古くからいろいろと伝えられているが、近年の音楽療法はこのような歴史的な音楽の治療効果によるものではなく、むしろ今日の活動療法の発達に根ざしている』とした。
 ポドルスキーの「音楽療法」の本が出された1954年以後、アメリカに於て神経症、心身症は音楽療法の対象から外されていった。その理由は神経症、心身症といった疾患はアメリカでは外来通院治療が原則で、患者の大部分は精神療法家の外来に通ったが、精神療法家は音楽療法に関心がなかった。一方その当時、神経症の音楽療法に非常な熱意で取り組んでいた多くの音楽療法家が、アンキーファーの論文が挙げた理由から、精神病院などで働く正規の音楽療法士から似非療法士として非難され排斥されたのである。
 今日の音楽療法の主流は音楽療法士による即興演奏を主体とする活動的音楽療法であるともいえよう。しかし、我が国の今日のストレス社会の現状に於て、神経症、心身症などの受容的音楽療法は非常に重要である。このためには医師による音楽療法の推進が必要であり、日本バイオミュージック学会が創設されてから、東邦大学医学部心療内科、筒井末春教授らによって研究が推進され、優れた多くの臨床報告がなされていることは、高く評価されるものであり注目されるものである。

2.我が国の音楽療法事情

 近年(1990年)、音楽療法という言葉が日常的にも語られ、新聞や雑誌にも書かれるようになって関心も高まってきた。しかし、聞くところによれば比較的最近まで放送用語、新聞用語に音楽療法という言葉が認められていなかったそうである。
 我が国の音楽療法は、音楽療法研究と文献の紹介をされてこられた桜林仁・東京芸術大学名誉教授、障害児の音楽療法を実践をされてこられた山松質文・大坂市立大学名誉教授、精神科領域の音楽療法を実践をされてこられた村井靖児・国立音楽大学心理学教授、精神科領域の音楽療法をされてこられた松井紀和・山梨大学教授、早くから老年医学の重要性を叫ばれ老人痴呆の音楽療法を実践されてこられた田中多聞・福岡大学医学部非常勤講師、その他多くの優れた先覚者、先駆者達が1960年代頃から大変な苦労をして切り開いてきた上に成り立っている歴史がある。
 新聞用語、放送用語に「音楽療法」という言葉がなく、音楽療法の理解を得ることが如何に困難なものであったか、それを実践することが如何に大変なことであったか、先駆者達にとって語り尽くせないものがあろう。

 しかし時代は移っている。日野原重明・聖路加看護大学学長が1986年に日本バイオミュージック学会を創設してから、テレビ、新聞などでも音楽療法のことが取り上げられるようになって一般的にも関心が高まり今日に至った。
 従来、音楽療法は自閉症や精神薄弱等の障害児と、精神分裂症などの精神科の患者などが主たる対象であったが、日本バイオミュージック学会を中心とする最近の日本の音楽療法は、医師が中心になった音楽療法の研究報告例の多いことが一つの特徴になっている。
 ボディソニックを応用した音楽療法は心療内科領域老年医学領域末期医療領域人工透析成分献血外科領域ストーマケア歯科領域、産科領域など広く医療分野全般に及びつつある。バイタルサインや医学的裏付けを重視した研究が行なわれ、音楽療法の新しい方向、分野が切り開かれている。また、熱心に音楽療法の研究、実践をしている看護婦さんたちのグループがあるのも特徴と言えよう。
 これらの新しい音楽療法の研究成果は、健康科学の立場から、今日の日本のストレス社会でストレスに悩む人々の、心身の健康維持増進に応用されることが期待されている。

 音楽療法を推進するためには音楽療法士が必要である。しかし、外国にはある音楽療法士の資格制度が日本にはまだない。また、音楽療法そのものは厚生省レベルではまだ医療行為として認められておらず、従って医療報酬も認められていない。これでは音楽療法は成り立たない。意欲的な研究者、先駆的な医療機関の努力に支えられているのが実情である。日本の音楽療法が遅れていると言われる所以である。これらの法制度化を目指しつつ日本の音楽療法の研究は進められている。

3.健康科学的視点から見た音楽療法

3.1 音楽療法先進国の音楽療法士が行なっている音楽療法

 音楽療法という言葉が、我々日本人一般に与えるイメージはソフトだと思うが、現実は必ずしもそうではない。音楽療法の先進国といわれるアメリカにおける音楽療法士の活躍の場は、自閉症などの障害児と、精神分裂症などの精神科の患者が中心である。これは非常に重要な分野である、が、専門家以外の一般人にとってはかなり特殊なものでもある。従って高度な専門的知識と技術が必要なのである。
 これらの患者は全く無反応であったり、或は健常者の常識とはまるで違う反応を示したり、精神分裂症の場合は暴れたりして身の危険さえ起こるハードな面を持つものである。これは当然専門家でないとできない。
 音楽療法士は患者の僅かな反応や表情の変化を読み取り的確、機敏かつ柔軟に音楽も変えていく必要がある。レコード(CDやテープ)の掛け換えではとても対応できない。このため、即興演奏によって柔軟な対応の出来る音楽療法士が必要なのである。
 その辺の事情を知っていないと、外国の音楽療法の文献を断片的に紹介されたものを読んでも本質がよく理解されない。音楽療法は、医学・心理療法と音楽をよく理解した経験者専門家が即興演奏を中心にして行なうものであるといわれる所以である。従って、音楽療法士は、非常に高度な専門性を要求される。
 英国音楽療法協会の創立者、ジュリエット・アルバン女史は『音楽療法とは、身体的、精神的、情動的失調を持つ成人・児童の治療、復帰、教育、訓練に関する音楽の統制的活用である。音楽療法は、音楽の機能であって、音楽そのものを目的としていない。それ故に、音楽療法の価値は、使われた音楽の種類にも音楽的完成度にも関係しない。音楽療法の効果は、もともと音の人間に与える影響に由来している』としているが、障害児や精神科の患者が主たる対象である現実を知っていれば理解されよう。
 音楽に何を選択するかという問題に、音楽美学の考え方とは隔たりのある意外な感じを与える重要な示唆をしているが、音楽療法の厳しい現実を示しているといえよう。
 この世界は、一般の人にとっては、かなり特殊な世界であることも確かである。日本人一般が思い描く音楽療法のイメージとはかなり異なったものであろうし、ストレス社会で悩む多くの人々の期待やニーズとも異なっていると思われる。

3.2 日本バイオミュージック学会が目指している音楽療法

 これに対して、日本バイオミュージック学会に於ける音楽療法は、医師が中心になった音楽療法の研究報告例の多いことが一つの特徴になっている。バイタルサインや医学的裏付けを重視した研究が行なわれ、世界的に見ても音楽療法の新しい方向づけが行なわれつつあるのだと考えられる。また、熱心に音楽療法の研究、実践をしている看護婦さんたちのグループがあるのも特徴と言えよう。
 ボディソニックを応用した音楽療法の研究報告、臨床報告例は、その対象も心療内科領域、老年医学領域、末期医療領域、人工透析(腎臓内科領域)、成分献血、外科領域、歯科領域、産科領域など広い医療分野に及んでいる。

 音楽療法には治療そのものだけでなく、苦痛や不安の緩和などの側面がある。病気は元々、苦痛や不快感を伴うことが多いが、手術や人工透析、歯科治療など医療行為に伴う苦痛ものもある。その苦痛も生理的なものから、不安などの精神的なものまであり、これらを和らげ、より快適なものにするクオリティオブライフを目的としたボディソニックの応用が成果をあげている。極度な緊張やストレスを和らげることが、結果として非常によい医療効果となって表われている例が多い。

 今日、テクノストレス、過労死、リラクセーションの必要性などの言葉が語られない日はない程である。積み重なるストレスは半健康人を生み、病人にはなっていなくても心身症予備群ともいえる人達を増大させている。こうした面に音楽療法を応用した音楽健康法の必要性が高まっている。
 障害児や精神科の問題は重要であるが、健常者の常識を越えるもので、一般の人にとってはあまりにも特殊過ぎ、現在の日本のストレス社会のニーズに応えるものとは隔たりがあり、音楽健康法の参考にはなり難いともいえよう。
 その点、バイオミュージック学会での臨床例、研究成果は、心療内科、老年医学、末期医療、人工透析、成分献血、外科、歯科など、誰しもお医者さんのお世話にはなっている身近なものである。最近の日本バイオミュージック学会の動きは音楽療法の応用分野を広げ、現在のストレス社会や、高齢化社会に対応する老人問題やターミナルケァでの可能性が出てきたし、クオリティ・オブ・ライフや音楽健康法に示唆するもの、参考になる問題が沢山含まれている。現在の日本のストレス社会のニーズに応えられる研究成果が上がりつつある。

4.音楽療法の種類  −受容的音楽療法と活動的音楽療法−

 音楽療法には音楽を聴くことによって行なう受容的音楽療法と、歌唱、楽器演奏など音楽を演奏することによって行なう活動的音楽療法(能動的音楽療法)とに大別することができる。

4.1 受容的音楽療法

 受容的音楽療法とは、音楽を聴くことにより情緒・行動の変容を目的とするもので、刺激として音楽を与える刺激療法と、音楽鑑賞そのものを方法とする鑑賞療法に分類できる。
 刺激療法は音楽を積極的に聴きたがらない患者や音楽を聴くことを拒否する患者に対して当初音楽を刺激として用いる。この方法は自発性の乏しい精神分裂病、自閉症、痴呆などに用いられるが、患者の状態像に応じて、気分、テンポ、音の大きさなども考慮し、その状態とほぼ同質の音楽を与えることが勧められている。
 鑑賞療法は音楽の感動を音楽療法に利用しようとするもので、音楽の鑑賞を治療契機として用いる音楽療法である。ドイツを中心に、主として神経症の治療に用いられるが、最近では日本でも心身症・神経症の治療手段として薬物など他の治療法と併用して用いられはじめた。理論的基礎として精神分析的(力動的)精神療法に組み込まれるものと、弛緩訓練として位置付けられる二種類の方法がある。
 これらの詳細は対象が病者、障害者であり、非常に専門的なものなので省略する。

 鑑賞療法にもとずく音楽療法は、ボディソニックを使用した音楽療法例が広い医療分野で多数報告されている。この分野で得られている成果が、ストレス社会で悩む多くの人達の、音楽健康法として応用できる多くのことを示唆している。

4.2 活動的音楽療法(能動的音楽療法)

 活動的音楽療法は歌唱、器楽合奏など音楽を演奏することにより行なわれるものである。一定の詩に任意のメロディをつけて歌ってみるなどの創作活動によるものもこの範疇に入る。広義にはダンスセラピィなども活動的音楽療法と考えることもできよう。
 活動的音楽療法は主として音楽療法の専門家である音楽療法士が行なっているもので、音楽療法先進国アメリカなどでさかんに行なわれている。自閉症、精神分裂病、精神薄弱児、身体障害者、痴呆などの難治性疾患に対して、障害者の治療とリハビリテーションが行なわれており、ケースによって集団音楽療法をとったり、個人音楽療法をとったりしている。活動的音楽療法は情緒に働きかけ、対人関係の安定の一助ともなり、かつ機能訓練としても大きな意味がある。その方法は即興演奏によることが重視されている。障害児に対する活動的音楽療法、精神分裂症に対する活動的音楽療法、痴呆患者に対する活動的音楽療法などについて記さねばならないが、これらの詳細は非常に専門的なものであるので省略する。

5.音楽療法と音楽健康法の違い

5.1 医療、治療としての音楽療法

 医療行為、治療行為としての音楽療法は障害者、病者に対して行なうものである。精神及び身体の健康の回復・維持・改善という治療目的を達成する上で音楽を適用することである。音楽的な援助を必要とする患者に全人的な立場から診断的アプローチを行ない、治療の目標となるゴールを設定し、治療方針を決定の後に音楽療法セッションを実践する医療の一部として独立した医療のひとつと考えられる。
 同じ曲目を聴くにしても、治療方針の中で設定されたものと、単にその曲を聴くのとは位置付けも意味も内容も異なるのである。音楽療法は目標を指向した過程であり、従って基本的には医療関係者、心理療法家、音楽療法士などの専門家が行なうものである。音楽教育や音楽レクリエーションとは異なる点に注意が必要である。

 しかし、日本のストレス社会が抱えている問題を考えるとき、障害や病的なものだけでなく、音楽療法は健康科学の視点から心身の健康の確保、増進に有用に活用できる予防医学的な手段としても位置付けるべきであろう。

5.2 健康医学、予防医学に対応する音楽健康法

 ストレス社会で生活している一般の人が、心身の健康を保とうというニーズと期待が音楽療法に向けられている。このニーズと期待は障害児や精神科の患者に対する治療技術とは大分違う。つまり「音楽健康法」と呼ぶべきものである。もう一方では科学の常として新しいことも起こってくる。音楽療法に於てもこれはあって、古い規定をはみ出してしまって見直しが必要になってくるようなこともある。
 音楽療法は病気を直す医療治療行為であり、音楽健康法は健康を維持する予防医学的なものに対応する。一般の人でも健康を維持するためには予防医学的知識や栄養学的な知識も必要なように、音楽健康法には音楽療法やサウンドサイエンスの知識も必要になってくるのである。そしてそれを知っていれば専門家でない一般の人も音楽健康法を行なうことができる。生物が生存するためには、傷を負いながらも絶えず自己治療し、それを克服するように、人間の精神面の自己治療ができるよう、音楽健康法の活用が必要なのである。
 音楽健康法とは日本のストレス社会のニーズに応えるものであり、学問的、行政的なレベルで考える組織的なものになることが期待される。地方自治体で保健婦さんを音楽健康法の指導者にして、心身の保健衛生的な試みをする例も出てきた。学会での研究成果を踏まえて広く国民の心身の健康に役立てるよう、行政まで含めた学際的な組織、体系として日本の社会的ニーズに応えていくことが期待さている。

 

第2節 音楽健康法 −受容的音楽健康法と活動的音楽健康法−  

 

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