体感音響研究所


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  bodysonic laboratory



体感音響振動の効果メカニズム試論   

−ボディソニックによる音楽療法の効果はなぜおこるのか−   

 

小松 明*  

ボディソニック株式会社 研究開発センター  


The effect and the mechanism of the Bodysonic system  

- Why music therapy applying the Bodysonic system is effective ? -  
Bodysonic inc. KOMATSU Akira  

 


Summary

 

 Many patients treated with music the therapy using the bodysonic system (somesthesia acoustic system) have been reported in the fields of psychosomatic medicine geriatrics, terminal care, dialysis blood donation surgery and dentistry.
 The bodysonic system has been effective in relaxation and it has also been said to be effective for decubitus.
 It can be considered that the effect on decubitus is the proof of the direct act on a cell by the vibration.
  However it hasn't been to how the mechanism works.
  I developed the bodysonic system and the transducer 20 years ago.
  I have been studied the vibration for 20 years.
  I would like to study why music therapy applying bodysonic system is effective.
 The specific points of views are as follows.
1. Psychology of auditory vibration.
2. The bone conduction theory and the cerebral physiology.
3. The effect of vibration as pain-reliever.
4. The subconscious memory that has been kept since fetal stage.
   The sounds that fetus hear are the sounds with vibration.
   The relationship between the fetal heart-beat and the mother's.
   The bone conduction theory and the memory of fetal stage.
5. The effect of relaxation by the bodysonic system and 1/f swing.

はじめに

 ボディソニック(体感音響装置)による音楽療法の臨床例が、心療内科領域1-6)、老年医学領域7-9)、末期医療領域10)、人工透析11-15)、成分献血16-17)、外科領域18-20)、歯科領域21)など本研究会でも多くの報告があり注目されている。また地道な基礎研究22-25)の報告も行われている。しかしボディソニックが、なぜ音楽療法に効果があるのか、その効果メカニズムについては、まだ、ほとんど言及されておらず、その検討、考察の必要性を迫られている。
 リラクセーションなどメンタルな面での効果ばかりでなく、褥瘡への効果10) などは、音楽振動が細胞レベルで直接生理的効果を及ぼしている可能性26) も考えられる。
 筆者はボディソニック27-28)の開発に携わり、その基本技術であるトランスデューサ(電気−機械振動変換器)を 1969年に開発29) した。ボディソニックの開発者として、本論文では体感音響振動の効果メカニズムについて考察を試みたい。

1.聴覚振動心理

 人間の聴覚器官が耳であることは言うまでもないが、音の知覚が耳だけでなく体全体で感じとっているものであることは、多くの文献でも指摘されており、特に低音域では周波数が低くなる程、体で感じとっている比率が高くなるとも言われる。「腹に響く重低音」という言葉があるが、低音域の音響エネルギーは、それがあたった面や物を振動させる性質がある。近くで打たれる大太鼓の音が腹に響くのは、低音域音響エネルギーが人間の身体を振動させているのである。これらは、それと意識されるものから、ほとんど意識されず、無意識の中に感じとっているものまで、多くのものがある。
 この低音域音響エネルギーは人間の体に音圧として感じられるだけでなく、しばしば大地や床面等を伝ってくる振動を伴うものがある。例えば、電車やSLの走る音、爆発音、強くドアを閉める音などいろいろあるが、この振動感さえも音の情報の一部となり、最終的には耳からの情報と重なって総合的な音響知覚が行われる。
 そして体で感じている情報の多くはあまり意識されず、聴覚の「縁の下の力持ち」的な役割をはたす。これら音圧が体を振動させて感じる振動感や、床面や大地を伝って感じとられる振動感を、それと意識されるものから無意識の中に感じとっているものまで含めて、これを体感音響振動と呼ぶことにする。
 体感音響振動は「縁の下の力持ち」なるが故に、人間の根源的、生理的、官能的な面や音識下の世界にも影響を及ぼす側面があるように感じられる。
 音楽の場合では、陶酔感、恍惚感、リズム感、重低音感、エネルギー感などの心理的快感、生理的快感をもたらし、人間の官能にも訴える一方、ある種の音に対しては、不安感、緊張感、恐怖感などを倍加する。
 和太鼓を叩くのを間近に聴いた時の感動や陶酔感。アフリカの原始的な音楽の強烈なボンゴなどの響きには、生命の根元を揺さぶるようなエネルギーがある。これらはいずれも体感音響振動を伴っている。
 耳から聴いている音は、意識的、論理的な面に訴えるウエイトが高いのに対し、体感音響振動は、より情緒的、本能的な面に作用し、何か人間の根源的なものに訴えてくるように感じられる。

2.糸川博士のボーンコンダクション理論

2.1 音楽の不純物

 楽器の演奏者は自らの演奏行為(アクション)に対して得られる音(リアクション)を聴きながら、ピッチ、強弱、音色などをコントロールする。そしてリアクションは音だけでなく、さまざまなものを伴う。
 例えばリード楽器(木管)では、リードの振動が歯や顎に伝わり楽器によっては顔中がくすぐったく感じる程であったり、リップリード楽器(金管)では、唇が麻痺したようにさえなる。
 弦楽器では楽器の胴から音楽振動が伝り、弓から手にもリアクションがある。
 打楽器ではさらに大きな、とりわけ低音部を受け持つ打楽器では身体にも、打つ手にも特大の振動リアクションがある。これら、音と共に音に同期して得られるリアクションは、演奏者にとって非常に重要で、もしリアクションによるフィードバックが無かったら、演奏は困難となるばかりか、フラストレーションを伴なう。
 このように音楽の現場では物理的なもの、生理的なものなど様々な「音楽の不純物」とも言うべきものが存在している。そして、このような不純物の中に、恍惚感をもたらし演奏をより陶酔的なものにする要素があることを、糸川英夫博士はボーンコンダクション理論27)30)で指摘している。
 『楽器を演奏する人は、弦楽器でも管楽器でも二つの音を聴いている。ひとつは空気中を伝わってくる音波である。
 もうひとつは、楽器をもつ手、抱えている身体を通して、直接振動として伝わり、聴覚系伝播されるものである。音楽の中で、聴く人に真の恍惚感を与えるのは、この直接振動として伝わるボーンコンダクションの方である。バイオリニストが、あごに楽器を抱えて、陶然と自分の弾く音に浸っているのは、あごの骨に、バイオリンの表裏板から、じかに伝わる振動音、ボーンコンダクションの音を聴いているためである』と振動と恍惚感の関係を指摘し、さらに続けて、『ピアニストの場合でも指先、足、腰から、ピアノの音をボーンコンダクションで聴いている。古典音楽がヨーロッパで発展したのは、貴族社会の中の、小さい室内であって、チャンバーミュージック(室内楽)という名がつけられた通りである。部屋の大きさは、このボーンコンダクションの範囲でつくられていた。楽器の振動が床板を伝わり、イスの足を通して、座っている人の腰にまで減衰しないで、伝達するゾーンである。
 音楽が大衆化し、大ホールが現れたときに、こちらは棄てられた。空気中を伝わる音波だけの音楽になった。そしてレコードが生まれ、エレクトロニクスが登場したときにも、音波だけの音楽になりきり、ボーンコンダクションは忘却の世界に置き去られた』と音楽の不純物の中にある直接的な振動、ボーンコンダクションの重要性とその効果を指摘している(図1)。

図1 糸川英夫博士のボーンコンダクション理論
 楽器を演奏する人は耳で聴く音の他に、楽器を持つ手、身体を通して直接振動が伝わり聴覚系伝播されるが、音楽の中で聴く人に真の恍惚感を与えるのは、直接伝わる「振動」ボーンコンダクションの方である。


 音楽がレコード化されると、音楽の現場に存在している物理的なもの、生理的なものなどの音楽の不純物は漉過されて取り除かれてしまい、純粋な「音波」だけの音楽になる。現在私達は純度の高い音波だけの音楽を聴いている。

2.2 不純物の重要生

 音、すなわち「音波」は聴覚機能を持ち知能を持つものに対しては、極めて有効な「情報」の伝達手段である。この点で人間は聴覚を持ち大脳が発達して高い知能を有しているために、音波は極めて有効な「情報」の伝達手段となる。従って音楽においても、音楽の純粋な部分「音波」ばかりに重点がいっている。純粋なものは洗練されたものの良さが有るが、不純物の中に重要な物が隠されている場合もある。
 例えば、現在の塩は、イオン交換膜法によって作られ塩化ナトリウム99パーセントの高純度だが、純粋になり過ぎて塩辛いだけでうまさが失われ、健康に良くないと言われる。これに対して昔の塩は塩田で海水を蒸発させ、煮詰めて作ったので、いろいろな不純物やミネラルがバランス良く含まれており、味の点でも、健康上からも好ましいものであった。
 水でも同じで、純粋な蒸留水より、いろいろな成分の混じっている天然水、ミネラル水の方がうまいし体にもよいことは誰もがよく知っているところである。
 人は、純度の高いものを追いすぎて「不純物=不要なもの」と考えて不純物の中に含まれているものの重要性をとかく忘れがちである。
 音楽に於てもこのことを指摘しなければならない。

2.3 音楽の二つの要素

 音楽の3要素は、旋律、リズム、和音であるが、それとは別の視点から「音波」と「振動」の二つの要素から捉えることもできる。
 「振動」は音楽の不純物として忘れ去られているが、ミネラルのように不純物の中に重要なものがあることをもう少し考えてみたい。

2.4 ボーンコンダクション理論と大脳生理学的視点

 ボーンコンダクション理論は、『楽器を演奏する人は、耳で聴く音の他に楽器を持つ手、身体を通して直接振動が伝わり、聴覚系伝播されるが、音楽の中で聴く人に真の恍惚感を与えるのは、直接伝わる振動、ボーンコンダクションである』と音楽の振動と恍惚感の関係を述べている。この指摘は音楽の直接的な「振動」が、人間の根源的なものに作用することを示唆している。
 恍惚感や陶酔感は高度な知的作業によって起こるものと言うよりは、どちらかと言えば根源的、本能的なものによってもたらされる要素が大きいであろう。これは、大脳生理学的に言えば、知的作業を司る脳の表面の新皮質よりは、もっと脳の内側の古皮質や旧皮質に作用することを物語っていることになる。
 古皮質や旧皮質は、生存本能、食欲、性欲、快感、恐怖など人間が生命を維持していく上で最もベーシックな部分を司っている。これら動物的、根源的なものにこそ、生物としての生命力の源泉があり、生命、健康にとって極めて重要な要素である。
 こうしたことを考え合わせると、音楽の直接的な振動は、人間の「生物・動物」としての面に強い影響力があることを示唆している。
 また、ルネッサンス期における音楽療法の記録31) によれば、坐骨神経痛の患者の患部の上で楽器を演奏させ、直接患部に曲の「振動」を与え、疼痛を軽減させる治療が実際に行われたという(図2)。

図2 ルネッサンス期の音楽療法の記録
 坐骨神経痛の患者の患部の上で楽器を演奏させ、直接患部に曲の「振動」を与え、疼痛を軽減させる治療が実際に行われていたという。ボディソニックを使った体感音響振動が痛みを和らげる効果は、末期医療領域、外科領域、歯科領域などで応用されている。


 これらの指摘は、音楽の直接的な「振動」が、生理的、生物学的なものに作用することを物語っている。ボディソニックによるペインコントロール、リラクセーション、音楽療法のルーツがここにあると言ってもいい様に感じられる。実際、音楽による体感音響振動が痛みを和らげる生理的な効果は、末期医療領域10)、外科領域18-20)、歯科領域21) などで応用されている。

 耳から聴いている音は、論理的な面に訴えてくる面が多く、脳の最も外側の新皮質の左脳の部分に作用する比率が高い。これに対してボディソニックの体感音響振動は、より右脳的であり脳の内側の古皮質、旧皮質にも刺激を与え、意識下の世界にも影響を及ぼし、より情緒的、官能的、本能的な面に作用し、人間の根源的なものに訴えかけてくるウエイトが高い。このため、ボディソニックを使用して音楽を聴くと、耳から聴いた音が脳の内側、古皮質、旧皮質にも刺激を与えることを倍加する。
 体感音響振動は、脳の内側の古皮質や旧皮質に刺激を与え、意識下の世界にも影響を及ぼし、より情緒的、官能的な面に作用し、人間の根源的なものに訴えかける。
 古皮質、旧皮質には言語能力はないが(言語は新皮質の左脳)、記憶は表面の新皮質、内側の古皮質、旧皮質の三層が協力して行われる。このため記憶を高めたり、意識下の記憶を呼び覚ます作用が働く。
 このような特性が心を閉ざし、言葉によるコミュニケーションの障害を持つ心身症や老人性痴呆の患者に、言葉によらない人間の根源的なもののチャンネルにアプローチするボディソニックによる音楽療法が効果を発揮し、思いがけないような効果として現われるのだと考えられる。

3.意識下に残る胎児期の記憶

3.1 胎児の聴いている音は、振動を伴っている

 胎児は、母親のおなかの中でどんな音を聞いているのだろうか。最近はこうした音を録音したものなどにもふれることもある。血流音、心臓の鼓動、母親の声など、結構賑やかなところであるらしい。
 ここで特筆したいのは、これらの音が全て振動を伴っていると言うことである。骨、血液、羊水などどれも音と振動を伝え易いものだ。空気中の音波よりは、液体中の音波の方が遥かに振動を良く伝える。空気の音響インピーダンスより、水の音響インピーダンスの方が高いことによる。
 試みに、自分で声をだし手のひらを胸に当てれば、声の振動が手のひらに伝わってくるのが分かる。このことからも、母親が発生する諸々の生理的な音は、全て振動を伴っていることが納得されるだろう。
 それでは、外部からの音はどうかというと、これは振動を伴わない音波と考えていい。空気中を伝わってくる音波が、あまり振動感を伴わないのは、日頃経験しているところである。話している人の胸に手を当てればその人の声の振動を感じるが、手を離せば感じないことからも理解される。従って胎児にとって母親の声というのは、特別な存在であることが理解されるだろう。外部の話し声は単なる音波、それも母親のおなかの脂肪によって高い周波数成分がカットされ、こもった様な声である。
 一方、母親の声はボーンコンダクションによって外部の音より、かなり明瞭に届くことが想像されると共に、振動を伴っている。胎児は我々が想像する以上にこれらの音を識別し、いろいろな影響を受けているという。
 ボディソニックによって振動を伴った音が、印象を強める効果があるのは、胎児期の記憶が意識下にあるためだと考えられる(図3)。


第3図 胎児は振動を伴った音を聞いている
 胎児にとって母親の話す声、鼓動など母親が発する全ての音は振動を伴っている。振動を伴った音が印象を強める効果があるのは、意識下に残る胎児期の記憶によるものでボディソニックの効果と深い関係がある。


 胎児の Auditory Responses32)では工学的に定性定量化した音波リズムのクリック音を腹壁から胎児にむけて発射し聞かせた反応が、妊娠8カ月〜9カ月のはじめで明らかな反応が有ったのに対し、ボディソニックによる振動を伴っている場合は妊娠17〜23週(4〜5カ月)と、凡そ4カ月も早くに明確な反応が有ったと言うことは、胎児が振動に対しては早くから反応するものであることを窺わせる。

3.2 母国語修得と胎児期の母親の声

 胎児は言葉そのものを理解するほど大脳が発達していないので言葉の理解は出来ないが、母親の声がこのように特別な存在であることから、母国語のリズムやイントネーションは胎児の時代に覚えるともいう。子供が自然に言葉を覚えていく土台になるものは、生まれたときには既に身についているのである。
 従って、生まれてきたばかりの赤ちゃんは既に、母親の声を知っており、母親の声には特別な反応を示す。このことは語学学習用ボディソニック33) と深い関係がある。

3.3 胎児の鼓動と母親の鼓動の関係

 胎児が何時も聞き、感じている最も主要なものは、やはり母親の鼓動であろう。リズミカルな鼓動は、振動も最も大きいと想像される。一方、鼓動は胎児にもある。胎児の鼓動は母親の鼓動に比べると、たいへん早い。このことは胎児から見れば、母親の鼓動は大変ゆっくりしたものとして感じられる。自分(胎児)の鼓動よりゆっくりしていて安定している母親の鼓動は、自分(胎児)の鼓動を忘れさせ安心感をもたらしている。特に、母親が安心して眠っているときの母親の鼓動は最もゆっくりした穏やかなものであり、この効果も最も大きく、胎児も安心して眠っていることだろう。
 しかし母親に危険が迫って不安を感じたり驚いたりして、鼓動が激しくなり早くなると、自分(胎児)の鼓動に周期が近付いてきて自分(胎児)の鼓動を意識するようになる。これは胎児にとって異常事態であり、危険が迫っていることを察知することになる。
 こうした胎児期の記憶は成人しても意識下に残っていて、心臓の音などをスピーカによって聞かされると、息苦しさを感じたり、不安を感じたりする場合が多い。それは、他人の鼓動も自分の鼓動も、同じ程度の早さであり、胎児期の状態で言えば母親の鼓動が早くなり危険が迫った状態に相当するからであろう。
 これは成人すれば自分の鼓動は胎児期に比べ遥かに遅くなるので、胎内にいた状態にするには、鼓動の相対速度を遅く換算する必要があり、リラクセーションを得ようとすれば、現実の母親の鼓動の周期より遥かにゆっくりしたもが必要なのである。

3.4 メンタルバイブレーション と胎児期の記憶

 ボディソニックで、音楽を用いる代りに鐘の音や波の音の感じを抽象化した信号を、電子回路で合成して駆動すると非常に高い効果が得られる。単調で比較的ゆっくりした繰り返しが快く「感性のバイブレーション」「心のバイブレーション」として、大きな効果が得られる。これをメンタルバイブレーション28) と呼ぶ。

 いろいろな波形と効果の研究が進むにつれて、多くの実験と経験の中から、次ぎのような振動心理的効果のあることが分かってきた。
 
  a.メンタルバイブレーション用の波形は、自分の鼓動や呼吸を忘れてしまうような
     非常にゆっくりした周期の場合、リラクセーションや誘眠の効果が大きい。
  b.信号波形の周期を早くし、自分の呼吸や鼓動を意識するようになると、落ち
     着かなくなったり、緊迫感を与える効果が有る。
  c.上記の中間的な周期を持つ信号波は、快活快適などの心理的効果をもたらす
     性質が有る。
 
 この効果は、先に述べた胎児の鼓動と母親の鼓動の関係と、同じ様な関係であることが分かる。こうしたことから意識下にある胎児期の記憶が、リラクセーション効果を与えたり、緊迫感を与えたりするのだと考えられる。
 いろいろな波形と効果の研究が進むにつれて、リラクセーションや誘眠だけでなく、快活な気分の信号や、「起床」「非常」に使う、目を覚まし緊迫感を与える信号も開発された。

 音楽は好き嫌いがある。音楽を聴くことを好まない人もいる。こうした人達に対してメンタルバイブレーションは音楽療法と同じ様に、リラクセーション、ペインコントロールなどの効果をもたらすことが出来る。
 ボディソニック・ベッドパットを利用した成分献血、人工透析、末期医療領域などでメンタルバイブレーションが応用されている。

3.5 ボーンコンダクション理論と胎児期の記憶

 体感音響振動は振動を身体のどの部分に与えるかによって脳に与える効果が変る。聴覚障害者が聴覚の補助手段として、振動を使う例では、言語的識別能力は指先が最も優れている。
 しかし指先のみに体感音響振動を付与しても快さや陶酔感は得られず、ボディソニックの効果にはならない。逆に全身的な体感音響振動では左脳的な意味での言語識別には適しない。つまり振動にも右脳的振動と左脳的振動が存在する。

 『音楽の中で、聴く人に真の恍惚感を与えるのは、直接振動として伝わるボーンコンダクションの方である』と指摘していることと、音は振動と共にあった胎児期の経験とは、深い関わりが有ることが想像される。
 これは筆者の仮説であるが、ボディソニックによって振動を伴った音が、印象を強める効果があるのは、胎児期の記憶が意識下にあるためだと考えている。またボディソニックの効果は、局部的な振動では効果は少なく、全身的な振動の方が効果が大きい。これも胎児期、子宮内の羊水の中で全身的な振動を感じていた経験の意識下に残る記憶によるものと考えられる。

4.体感音響振動のリラクセーション効果と1/fゆらぎ

 バスドラムのように高調波の少ない、ゼロクロスカウント周波数が非常に低い音と、シンバルのように高調波成分の多いゼロクロスカウント周波数が非常に高い音が、激しく交互に打たれるロックミュージックなどでは、大きなゆらぎが早い速度で起こるので、パワースペクトル密度の1Hz前後のエネルギー密度が上昇し、1/f0 ゆらぎ傾向の刺激の強いものになりやすい34)
 しかし、ボディソニックはローパスフィルタによって、150Hz 以下の信号を取り出して、体感音響振動に変えるので、例えばロックミュージックで1/f0 ゆらぎに近い刺激の強い音楽であっても、シンバルの音など高い周波数成分の音はカットされるので、バスドラムやエレキベースなどの低音部分が主になり、ゆらぎは穏やかになって音楽全体よりは、遥かに単純−単調になり、刺激は弱まる。
 このためボディソニックは、覚醒状態で最も精神の安定が得られるという1/fゆらぎ的振動になる可能性が高い。
 歌謡曲の場合は、低音部分はもっと単純なので1/f2 ゆらぎに近い振動になる可能性もある。弛緩を生じ安堵と休眠に導くような振動になる可能性もあることになる。
 たとえ音楽が1/f0 ゆらぎに近い刺激の強いものであっても、快くなってリラックスするのはこのためだとも考えられる。ボディソニックで快くなり眠ってしまう人が多いのも、こうした理由による。このことがリラクセーションに関与する一つの原因と考えられる。

おわりに

 音楽療法は音楽の持つ感動や陶酔感の効果を利用して精神的、情動的作用を及ぼすことによって行なうので、ボディソニックで体感音響振動を付加することにより、音楽の感動や陶酔感を深め、効果を一層高めることができる。
 それらのことを体感音響振動心理、ボーンコンダクション理論、音楽振動の鎮痛効果、意識下に残る胎児期の記憶、1/fゆらぎ、などの視点から、体感音響振動の効果メカニズム考察を試みた。推論に過ぎないとの批判を受けることは承知の上で、この分野の研究のきっかけになることを期待している。

 尚、振動の専門家は公害関係の研究者である場合が多く、低周波振動公害も、体感音響振動(ボディソニック)も振動という括弧でくくれば同じ振動であることから、混同されやすい。
 同じ振動でもこれら二つは非常に異なるものなので、混同を避けるために発生メカニズム、物理的性質の違いについて述べなければならないが、別の機会にゆずる。


参考文献

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  日本バイオミュージック研究会誌 1988,Vol.2, P57
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  日本バイオミュージック研究会誌 1990,Vol.4, P29-33
4)村林信行、坪井康次、中野弘一、筒井末春:頭頸部の不定愁訴に対して音楽療法を施行した
  1例  日本バイオミュージック研究会誌 1990,Vol.4, P49-54
5)牧野真理子、坪井康次、中野弘一、筒井末春:摂食障害患者の過食衝動に対する音楽の活用
  の試み  日本バイオミュージック研究会誌 1990,12. Vol.5 P15-18
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  日本バイオミュージック研究会誌 1991,8月 Vol.6, P39-42
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  CURRENT THERAPY  1987,Vol.5,No.10, P107-111
8)田中多聞:第五の医学 音楽療法、 2.ボディソニック・テラピー
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9)河野友信:音楽療法 −老年期心身症への応用−
  日本心身医学会誌(心身医学) 1991.Vol.31 P10
10)池田典次、岩谷房子:音楽療法最前線(3)
  ターミナルケアにおける音楽療法の試み  −横浜市立市民病院外科を尋ねて− 
  日本バイオミュージック研究会誌 1991,8月 Vol.6, P93-96
11)表 文恵、田島佳代、吉永徳江、浦出節子、原田美恵子、西村明子、尾副節子、
  下田俊文、春木谷マキ子、黒畑 功、豊中啓尹子:血液透析中における音楽療法の試み
  大阪透析研究会誌 1990,9月,8巻2号 P173-177
12)椿原美治:音楽療法最前線(1) 大阪府立病院人工透析室での音楽利用
  日本バイオミュージック研究会誌 1990,12.Vol.5 P40-43
13)篠田知璋:音楽療法 −慢性疾患、特に透析患者への応用−
  心身医学 1991. Vol.31 P10
14)田口文人、村中一文、野村泰輔、青木茂美、峰岸俶子:人工透析例に対する音楽療法の鎮静
  効果 −特に脳波トポログラフィを用いた治療効果の検討− 心身医学 1991.Vol.31 P56
15)土屋みゆき、樋口正子、大岩孝誌、篠田知璋:慢性透析患者・透析中の音楽併用の試み
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16)大国典子、小林芳夫、松本一夫、富田忠夫、小川敏彦:成分献血における音楽の心理的効果に
  ついて −体感音響装置を使用して− 日本血液事業学会 第13回(熊本)1989,10月 P75
17)小林芳夫、松本一夫、大國典子:成分献血における振動を伴う音楽の心理学的効果
  日本バイオミュージック研究会誌 1991,8月 Vol.6, P84-87
18)村山正子、小熊由美、梅垣いつみ:意識下で手術を受ける患者へのボディソニックの導入
  −不安の軽減と安楽を考える− 日本看護学会、第20回、成人看護(青森)1989, P199-202
19)大場とも子、西条、前川、青木、佐々木、岡部、菊地:局麻患者へのボディソニックの応用
  日本バイオミュージック研究会誌 1989,Vol.3, P49
20)岡光京子、佐藤禮子:子宮摘出術を受ける患者の術前不安の緩和(その1)
  日本看護学会、第19回 成人看護(島根) 1988, P81-83
21)黒須一夫、土屋友幸:体感音響(ボディソニック)の歯科領域への応用
  日本バイオミュージック研究会誌 1991,8月 Vol.6, P72-83
22)荒井純子、田中ネリ、日野原重明、篠田知璋:健常者におけるボディソニックの影響
  −生体反応観察と自己報告による体験印象−
  日本バイオミュージック研究会誌 1989,Vol.3, P24-30
23)吉川昭吉郎、野毛 悟:人間の知覚に対する音と振動の相補効果に関する研究
  日本バイオミュージック研究会編「音楽療法の実践」 1991,P155-168
24)吉川昭吉郎、野毛 悟、田辺雅英:純音の頭内定位に対する振動の寄与
  日本バイオミュージック研究会誌 1991,8月 Vol.6, P50-54
25)久能弘樹、野毛 悟、吉川昭吉郎:脊柱の振動伝達特性の姿勢依存性に関する検討
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  日本バイオミュージック研究会誌 1990,12.Vol.5 P46-54
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  日本オーディオ協会誌 (JAS JOURNAL) 1981, Vol,21 No.6, P54-60
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  日本バイオミュージック研究会誌 1987 Vol.1 P93-104 & 1988 Vol.2 P76-82
29)小松 明:壁全体が音源となる新しいSP エコニック・サウンド・トランスデューサー
  無線と実験 1970年1月号 P136-139
30)糸川英夫、小松 明、佐々木久夫:音楽と健康(7) ボーンコンダクション
  音楽は「骨」で聴くのがベストだ 「毎日ライフ」 1991年2月号 P130-134
31)篠田知璋:音楽療法の歴史
  日本バイオミュージック研究会編「音楽療法の理解」 1990. P9-15
32)小林 登:胎児・新生児の Auditory Responses  −音楽療法の原点として−
  日本バイオミュージック研究会編「音楽療法の理解」 1990,P115-122
33)増田喜治、小松 明:Enhanced Perception of Rhythm Through Vibrotactile Sensations:
  Body Sonic Apparatus for Learning Prosody.
  9th World Congress of Applied Linguistics AILA 90 GREECE Apr.1990,Vol.5, P541
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  日本バイオミュージック研究会誌 1991,8.Vol.6, P17-28
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