体感音響研究所


EWI 技術開発の先駆
エレキサックス







ボディソニックの技術開発
ボディソニックの研究
ボディソニック効果の探求 −情報を持つ体感音響振動こそが効果の正体である−

 

  bodysonic laboratory


新しいタイプの 吹奏式電子楽器 エレキサックス(1)

EWI 技術開発の先駆
 
 

 

  小松 明



1969年7月号 無線と実験 1)  

楽器本体と操作部(回路、SP)

はじめに

 

 現在ある電子楽器をみますと、そのほとんどが電子オルガンを中心とした鍵盤楽器です。しかし楽器には鍵盤楽器のほか、弦楽器、管楽器、打楽器などがあります。
 そこで電子楽器も鍵盤楽器ばかりでなく、ほかの種類の楽器があったらと思い、筆者が開発し、新たに作りあげたのが標題の 吹奏式電子楽器 “エレキサックス” です。
 これは楽器分類上からは木管楽器に相当するものです。もちろん、あくまで吹奏式の電子楽器ではありますが……。

木管楽器とエレキサックスについて

 ここで少し木管楽器についてふれますと、フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴット、サキソホンなどがその仲間です。その音色はたいへん美しく気品があり、また各楽器がたいへん個性的な音色をもっています。
 また吹奏されるところから、電子オルガンなどには真似のできない、ある意味では声楽にも似た微妙な音楽的表現力を持っています。一方、多くの音色タプレットを持ち、和音を出せる電子オルガンは、音楽の“量的”な面では管楽器を凌ぎます。しかし音楽の“質的”な面になると、大がかりな電子オルガンもたった1本の笛(フルートやオーボエ)に及ばないのです。それは鍵盤のスイッチで開閉される音と、人間の息で微妙にコントロールされる音との差がある為です。
 しかしこの魅カ的な木管楽器にも泣きどころがあります。その第1は発音が難しいことです。たとえば電子オルガンなら誰がキーを押しても一定の音が出てくれますが、管楽器ではそうはいきません。初心者が吹くとスースーいうばかりで音が出ず、やっと出たら悲鳴のような音がして音楽にはほど遠い、ということもザラです。そしてこの難しさは熟練した人にもつきまとうのです。それぞれの楽器に、ヴォルフと呼ばれる出しにくい音、よく響かない音、音程の悪い音が存在し、これらをカバーしつつ、粒のそろった美しい音を出すためのテクニックが必要です。
 また電子オルガンなどの場合は“ド”なら“ド”のキーを押せば必ずドの音が出てくれますが、管楽器の場合はそういきません。ドのポジションを押えて吹いても必ずしも正確なドの音が出てくれるとは限らないのです。それは管楽器がマウスピースのくわえ方、唇のあて方、角度、吹込む吹の速さ、強さなどによって、音のピッチ(高さ−周波数)が変るからです。
 さらに各楽器はひとつひとつが違うクセを持っています。それぞれの楽器によって高めに鳴る音、低めに鳴る音があり、教則本通りの指使いでは、正確な音階、むらのない粒の揃った音を出せないこともあり、各楽器のクセを見ぬいて、それらを補ってやらねばなりません。
 それには良い耳を持ち、ひとつひとつの音をよく聴きわけ、文字どおりひとつひとつの音を作っていかなければならないのです。初心者のブラスバンドの音が合わないのは、こんなところにも原因があるのです。そこで、

 

  @何とかこの木管楽器の難しさを解消したい(筆者は演奏テクニックがないため)。
  A管楽器は1種類の音色しか出せないが、電子オルガンのように豊富な音色を出したい。
  B管楽器のもつ音楽的表現力はそのまま持つものにしたい。

 

 以上の3点を考慮した上で、管楽器のような微妙な音楽的表現力と、電子オルガンのような音色の多様性とを合せ持ち、且つ管楽器の吹奏の難しさを解消した、筆者のような演奏技術のない音痴にも、何とか演奏できる新しいタイプの電子楽器を、と虫のいい目標をたてて実験、試作、試奏を操返してきました。
 そして不完全ながらようやく一応の成果を得ましたので、読者諸兄のご批判を仰ぎたく、ここに発表させて頂く次第です。
 なお“エレキサックス”と謳っておりますが、サキソホンとは直接は関係なく、ただ運指法をサキソホンと同じにしたため、便宜上この名をつけただけで、あくまで純電子式の吹奏式電子楽器です。
 だいぶ前置きが長くなりましたが以下、順を追って説明しましょう。

 

 

全体の構成

 第1図に示すブロックダイヤグラムが本器の構成です。少しゴチャゴチャしていますが原理は簡単で、トーンジェネレータと、吹奏する息の強弱を電気信号に変える気体流量変換器とを設け、気体流量変換器の出力でトーンジェネレータの発振出力を制御すれば、吹奏することにより音を出したり止めたり強弱をつけられるわけです。
 これにキーシステムをつけ、音階が出せるようにすれば、吹奏式電子楽器の基本形ができあがります。これに効果をあげるために、トーンフィルタやビブラート、トレモロ、サスティンなどの効果回路が付いたものが第1図のブロックダイヤグフムというわけです。
 個々の回路は他の電子楽器と少し趣の異なるものですが、全体の構成は電子オルガンなどの普通の電子楽器とよく似ています。

トーンジェネレータ、および キーシステム回路

 ユニジャンクショントランジスタによる弛張振動発振器で、音階はRを変え、オクターブ移動(左手親指で操作するオクターブキー)はCを変えて行っています(第2図参照)。
 また、G#、C#などを出すための左手小指の#印のキー、後述のトリルキー(右手操作で0.5、1.0と書かれているキー)などは、ユニジャンクショントランジスタのB2のバイアスを変えて行います。出力は、Eより取出し、負荷インピーダンスの影響をさけるため高抵抗を通して一段増幅しています。波形は鋸歯状波です。
 
 電子オルガンなどの場合と異なり、トーンジェネレータとキースイッチが切離し難い、密接な関係の回路構成になっています。それは管楽器がひとつの音を作るのに、いくつものキーを同時に押したり離したりの組合せによるため、これを電子回路で作る場合、1種のマトリクス回路になる為と、前記のオクターブキーやトリルキーなどがある為です。
 スイッチはすべて押して手を離せばまた元にもどるノンロックの押ポタンスイッチです。また図示のスイッチは押していない状態を示します。
 サキソホンは、わりあい合理的な運指であり、オクターブキーも持っている点、本器に適していると思われましたので、キーシステムはサキソホンの運指法を採用し、それに基づいて構成されています。もっと合理的で独自のキーシステムにすることもできますが、現在普及している楽器の運指法を採用すれば、その楽器奏者が直ちに本器を演奏できる利点があるわけです。

 また、サキソホンより更に運指を容易にするため、少し異ったキーも付いています。その代表格は トリルキーです。管楽器に付いているトリルキーは、ある特定の運指の困難なトリルなどを出す場合の換指キーとして付けられているものですが、原理的に特定の音の場合しか有効ではありません。ところが 本器に付けられている トリルキーは、全音域のどの音に対しても有効で、0.5 のトリルキーを押すと半音、1.0 のトリルキーを押すと 1音高くする ことができます。これは演奏上たいへん便利なことで、広範な換指キーとして演奏をより容易にします。

 オクターブキーは、これを押すことによりオクターブ高くすることができ、音域を広げます。サキソホンにはオクターブキーがひとつしかありませんが、本器にはオクターブ下げるもの、オクターブ上げるもの、さらにもう 1オクタープ上げるものの 3個のオクターブキーがあり、これによって 4オクターブの音域をカバーします。これは他のどの木管楽器より広い音域です。
 普通、木管楽器は一番下の1オクターブを基本の運指で出し、次のオクターブはオーバープローイング(吹込む息の速度を早めると第2倍音が出て、オクターブ高い音がでる)することにより、だいたい最初のオクターブと同じ運指で出しますが、第3オクターブは第3倍音を使ったり、ぜんぜん別のキーを使ったりするので、まるで違う運指となり、指使いが複雑になり、最高音域のオクターブはオーバーブローイングの難しさと重なって、たいへん出し難いものです。
 ところが本器においては、オクターブキーを押すだけでオーパーブローイングの難しさから解放され、そのうえ運指は下のオクターブから上のオクターブまで、全オクターブが同じ運指の繰返しにより出すことができます。まさに1石2鳥で演奏をしやすくしています。
 第3図は本器の運指表で、基本的にはキサンホンと同じですが、サキソホンより簡単になっています。第2図で8vaがオクターブ下げるもの、8va↑がオクタープ上げるもの、8va↑↑が更にもう1オクターブ高くする、それぞれのオクターブキーのスイッチです。なお、本機のトーンジェネレータは、図から分かるように常時発振しています。キーを押す押さないに拘わらず一定です。
 

気体流量変換器

 この楽器の最も特徴的な、そして重要なところです。なにしろ吹いて音を出すのですから、吹いた息の強さを電気信号に変えてやらねばなりません。この気体流量変換器(気体流量−電気変換器)の性能は非常に重要で、この変換器の性能がこの楽器の性能を決めるといっても過言ではありません。特に応答速度、過度特性などが音楽表現に適したものでなければなりません。工業計測用のものなどは、この点で適しません。それで楽器向きの気体流量変換器を特別に設計しました。
 第4図がその構造を示す原理図です。下に書かれた回路はランプとフォトトランジスタの回路で、気体流量変換器の電気部分を示します。
 マウスピースから吹込んだ息は、マウスピース部下側の逃げ穴から抜けますが検出部の圧力を高めます。検出部にはゴム膜が張られており、その先に軽量のシャッタが付けられています。息が吹込まれ、検出部の圧力が高まるとゴム模を押上げ、シャッタがフォトトランジスタにあたる光量を減じます。
 フォトトランジスタは息を吹込まないときは、光がフルにあたってON状態になっていて、コレクタ・エミッタ間の電圧はゼロになっています。このため吹込む息の強さに応じた電圧が出力に現われます。また吹かない時は出力ゼロになります。これで気体流量は電気信号に変えられるわけです。

 ここでマウスピース部下側の 逃げ穴 は、たいへん重要かつ巧妙な働きをします。その第1は水気の問題です、管内に息を吹込みますと息は管にあたり、冷やされて水滴になります。管楽器奏者がよく楽器内のツバ抜きをやるのはこのためで、別にツバを吹込むわけではないのですが、水滴がたまるわけです。
 本器の気体流量変換器では、吹き込まれた息はマウスピース部下側の逃げ穴に抜けますので、空気の流れるのはこの間だけとなり、従って、水滴が発生するのもこのマウスピース部だけになるので、中には水滴が入らない構造になっているわけです。
 電子回路に水滴は禁物ですし、検出部のゴム膜のあたりに水がたまったりすると過度特性を悪くしたりします。その点、本機のように水滴が内部に発生しないのはたいへん好都合なわけです。さらにマウスピース部の水滴が中に流れ込まれないようパイプの曲げ方、検出部の向きなどにも注意がはらわれています。
 その第2はブレスの問題です。吹奏楽器は人間が吹くのですから、むやみに長いフレーズを吹くことはできません。途中で必ずブレス(息を吸うこと)しなければなりません。これは管楽器の宿命的な問題です。
 ところが本器の場合マウスピースを少し深くくわえて 逃げ穴を下唇で塞ぐことにより、息を吹込まなくても口のなかの圧力を適当にしておけば、シャッタが押し上げられますので音を出す ことができます。
 奏者はこの状態で鼻から息を吸い込みながら音を出すことができ、どんな長いフレーズでも音を切らずに演奏できます。管楽器の宿命的な問題を解消したわけです。本器の気体流量変換器は、誰が吹いても、その息の強さに応じた電圧出力を出します。従ってこの出力でトーンジェネレータからの信号を制御すれば誰が吹いても、すぐ一定の音が出せるわけです。
 普通の管楽器がただ吹いただけでは音が出ないのと大いに異り、本器はとにかく、ただ吹きさえずれば、どんな初心者でも簡単に美しい音が出せるわけです。
 このことは管楽器の一番難しい問題を解消したことになります。ブレスなしで長いフレーズが吹けることと、キーシステムの項で述べた運指が易しくなったことと相俟って、たいへん演奏の容易な楽器にしているわけです。
 以上のトーンジェネレー夕、キーシステム、気体流量変換器の部分を、下の写真に示すように、ひとつのケースにまとめて、これを楽器本体とし、これによって演奏します。
 なお楽器に付いているふたつのツマミはひとつがチューニング、もうひとつは気体流量変換器のゼロアジャスト用です。

               (以下次号)  リンク 次号 “エレキサックス”(2)

 

EWI 技術開発の先駆                     (本機の主要部・回路は特許出願済)


     【注】 EWI、ウインドシンセ 技術開発の先駆

 

             エレキサックスはシンセサイザが現れる以前の1960年代に開発されたもので、
             この原稿はウインドシンセなどが現れる以前の1969年に書かれたものです。
             本稿は、現在の EWI, ウインドシンセ などへの、技術開発の先駆をなすものです。
 
 

 

 

気体流量変換器の改良について
  光シャッター式から半導体ストレーンゲージ式に

 

 この原稿を発表した数年後に、Shinkoh 社の半導体ストレーンゲージ EN104-T23 と EP304 を入手することが出来、第4図 に示す気体流量変換器の改良をしました。
 円筒台に付いていたゴム膜を 0.05mm.厚のアルミ板に換え、アルミ板の上に半導体ストレーンゲージを接着。(ランプ、光シャッター、ホトトランジスタは取り外しました)。
 動作原理は、息の吹き込みに応じてアルミ板にひずみが起こるのを、半導体ストレーンゲージで検出するものです。この改良によって気体流量変換器の過度特性が著しく向上し、楽器としての表現力も飛躍的に向上させることが出来ました。


参考文献

1)小松 明:新しいタイプの− 吹奏式電子楽器“エレキサックス”(1)
   「無線と実験」1969年7月号 P131-135
2)小松 明:木管楽器の難しさを解消した− 吹奏式電子楽器“エレキサックス”(2)
   「無線と実験」1969年9月号 P105-109
3)小松 明:[エレキサックス] 電子楽器 その新しい分野への提案
   「ミュージックトレード」誌 1969年12月号 P28-35


 

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04.4.11


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