体感音響研究所


EWI 技術開発の先駆
エレキサックス







ボディソニックの技術開発
ボディソニックの研究
ボディソニック効果の探求 −情報を持つ体感音響振動こそが効果の正体である−

 

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木管楽器の難しさを解消した 吹奏式電子楽器 “エレキサックス”(2)

EWI 技術開発の先駆
 
 

 

  小松 明



1969年9月号 無線と実験 2)  

 前号では、エレキサックスの構成などを説明しましたので、今回は主としてエレキサックスの回路について説明し、全体のまとめ方や試奏結果などを記します。

分周回路

 普通のフリップ・フロップ回路を3段つなぎ、4'、8'、16'、32'の4信号を得ています(第5図を参照してください)。基本的には電子オルガンなどの普通の電子楽器回路と同じです。

トーンフィルタ回路

 第6図に回路を示します、普通の電子楽器と同じですが、本機は単音のメロディーのため、混変調歪の心配がありませんので、フリップ・フロップ出力の短形波を微分して、ダイオードで整流した出力をストリング、オーボエ、プラスなどの信号にしています。
 ブラスは8'、16'、32'を全部同じ回路に入れています。どうもこれは少しデタラメですが、実験器ということでお茶を濁しています。16'クラリネットも同様です。

エクスプレッションゲート信号回路およびサスティン回路

 気体流量変換器の出力をエミッタホロワに入れて、インピーダンスを下げ、これをエクスプレッションゲート信号とします(第7図参照)。
 サスティンはエクスプレッションゲート信号に少し細工をします。エミッタホロワの出力にコンデンサを接ぎ、演奏する時、息をトゥッとパルス状に吹きます。するとエミッタホロワで急激にコンデンサに充竃します。後はダラダラとゆるやかに放電曲線を画きます。この信号は鐘などを打った時と同じで、急激に立上り、後はゆっくりエクスポシャネルカープで減衰します。この信号で音量を制御すればサスティンになるわけです。
 エミッタホロワのコンデンサは、ゆるやかに放電しなければならないので、高抵抗でないとなりませんから、さらにもう一段エミッ夕・ホロワを入れています。サスティンのディケイ時間はコンデンサにパラに入れたボリュームにより変えることができます。従ってサスティン回路といっても、ただコンデンサを付けるだけ、サスティンタイマはVR1個という、まことに簡単な回路です。

ビブラート(マウス)信号回路

 普通、電子楽器ではビブラートを自動的にかけます。これはたいへん効果がありますが、反面、メカニックな感じもします。本器では、これをもっと音楽的にするため、吹きかたでビブラートを掛けられるようにしてあります(第8図参照)。
 エクスプレッションゲート信号から、交流分のみを取り出せるようにしておき、吹く時に横隔膜をふるわせるなど、管楽器でビブラートをかけるのと同じ要領で息にこまかく強弱をつけると、数Hz〜数l0Hzの交流信号か得られます。これでトーンジェネレータに周波数変調をかけてやれば自由なビブラートをかけることができるわけです。しかしこのままでは実際に吹いてみますと、音の立上がり時に大きな交流出力があるため、立上がり時の周波数ドリフトが大き過ぎて、スタッカートなどが吹けなくなります。それで回路に少し細工をして、立ちあがり時の交流分を吸収するようにしてあります。“ビブラート(マウス)”という言葉はないのですが、今までこんな回路がなかったので筆者が無理につけた言葉で、あまりよくないのですが勘弁して下さい。
 ビブラート(マウス)信号は弱いので、これを数Hz〜数10Hzの狭帯域低周波アンプで増幅しています。これはCR移相形発振器のエミッタに負帰還をかけ発振しないようにしたものです。

トレミュラント発振回路

 前記の“ビブラート(マウス)”に対し、普通の電子機器と同じように自動的にビブラートをかけるための正弦波発振器(この発振器からはトレモロ信号も取り出す)と、マンドリン効果用の鋸歯状波発振器です。いすれも電子オルガンなどでお馴染みのものばかりです(第9図参照)。
 本器においては“ビブラート(マウス)”と区別するため、このトレミュラント発振器から掛けるビブラートを“ビブラート(オート)”とします。
 ビブラート(オート)は前記ビブラート(マウス)と同様トーンジェネレータのユニジャンクション・トランジスタのB2に印加しで周波数変調を掛けます。
 トレモロとマンドリンは、次に述べるエクスプレッション・ゲート回路で振幅変調をおこないます。

エクスプレッション・ゲート回路

 エクスプレッション・ゲートなどという言葉はないのですが、本器ではエクスプレッションを与えると同時に、音を出したり止めたりするので、ゲート作用も兼ねるためこの名前をつけたわけです。
 トーンジェネレータの項で書いた通り、常時発振で分周回路 → トーンフィルタ回路を通って、このエクスプレッション・ゲート回路の入口まで常時信号が来ていますので、たんにエクスプレッションをつけるだけではいつまでたっても音か出っぱなしでどうも演奏ができません。
 そこで吹いている時だけ音が出るようにするため、常時はゲートを閉じでおいて、吹いた時、すなわちエクスプレッション・ゲート信号が来た時だけゲートを開き、さらにその強弱に応じでエクスプレッションを掛けるわけです。
 少し話がゴチャゴチャしますが、エクスプレッション・ゲート回路は、ゲート作用および振幅変調を与える回路、すなわち一種の変調回路で、エクスプレッション・ゲート信号回路とは、変調信号を作る回路、すなわち気体流量変換器の出力を増幅したり、低インピーダンス化したりする回路です。名前がよく似ているので間違いないように。
 このエクスプレッション・ゲート回路にはもう少し手を加えて、トレモロ、マンドリンの振幅変調も同時にかけられるようにしてあります。

 第10図がそれで、ダイオードによるものです。基本回路は第11図に示すもので、エクスプレション・ゲート信号によりダイオードのインピーダンスを変えて行いますが、音の漏れをなくすため第10図のように2段にしています。
 また第10図で、点線で囲んだ部分のダイオードは、トレモロ、マンドリンの変調をかけるためのもので、エクスプレッション・ゲート信号をここでトレモロ(サイン波)、またはマンドリン(鋸歯状波)に変調するた
めのものです。この変調された信号で、トーンフィルタよりの信号をさらに変調してやるので、このエクスプレッション・ゲート回路だけで、ゲート回路、エクスプレッション回路、トレモロ回路、マンドリン回路をすべて兼ねてしまうわけです。
 さらにこの回路にはもう1つ利点があります。普通マンドリン変調回路では変調信号の漏れが問題になるのですが、本器の回路ではエクスプレッション・ゲート信号がなければ、すなわち吹かなければ、全ての信号は止められてしまうので、マンドリン信号の漏れはまったくありません。上記ゲート出力はレベルが低いので1段増幅しでいます。

リバーブ回路

 秋葉原で入手したスプリングによるトランジスタ式の普通のリバーブ回路です。少し深くリバーブをかけられるようにしてあり、リパープON→OFFのスイッチと、リバープの深さ調整のボリュームを付けてあります。

メインアンプ

 トランジスタによるOTLです。公称10Wといっているものを買ってきて付けたのです。Hi-Fiの必要はありません。

電源回路

 -24Vはメインアンプ用、安定化した-18Vは他の全回路に供給します(第12図)。

全体のまとめ

 トーンジェネレータ、キーシステム、気体流量変換器をひとつのケースにまとめ楽器本体とし、分周回路、トーンフィルタ、エクスプレッションゲート回路、エクスプレッションゲート信号回路、サスティン回路、ビブラート(マウス)信号回路、トレミュラント発振回路、リバーブ回路、メインアンプ、電源、スピーカを1つのケースにまとめて、操作部としました。そして楽器本体と操作部は、今、はやりのDINジャックコードで接ぐようにしてあります。これはテープレコーダの録再用としてだいぶ出回っているので、ジャック・プラグコードとも入手が楽で、具合もよいようです。
 楽器本体に使うキーシステムの押ボタンスイッチは、市販品に適当なものがないので設計して特注しました。気体流量変換器、ケースなども同様です。楽器本体のケースは軽くするため1mm厚のアルミ板にしました。その他の回路は、スピーカといっしょのケースにまとめてあります。
 何分、実験用の試作機ですので、中身は自由にいじれるようバラックセットです。構造が悪いのでリパ←ブを極端に深くかけると、ハウリングを起してしまいました。深いリバーブをかける必要のある時、および大きな音を出す必要がある時は、外部にギターアンプを接いで使っています。
 実験用ということで、操作面にはビブラートの早さとか深さとかの調整用ボリュームをたくさん付けましたが、こんなにいっぱい出すのは操作をわずらわしくするだけなので、実際に作る場合はもっと省くべきでしょう。
 音色タブレット、効果タブレットなどは楽器本体に組込んだ方が便利かと思いましたが、楽器本体が大きく重くなるのを避けるのと、楽器本体に小さく組込んでしまうと回路実験をしたり変更したりできなくなるので組込みませんでした。
 音色タブレットを組込まず、楽器本体は音階作りと気体流量変換器だけにした湯合は、操作部の作り方しだいで簡易型にもデラックス型にもできるので、楽器(演奏部)は、1種類だけで、操作部を何種類か作れば、その組合せだけで家庭用、練習用、コンサート用などになり、演奏上からも経済上からも好都合かと思われます。
 音色タブレットの配置は電子オルガンの場合と逆になっています。左側に4'、次が8'、その次が16'、1番右端がが32'となっています。電子オルガンの場合は、右手が高い方の音を受け持つのに対し、木管楽器の場合は左手が高い方の音を受け持つので、左側に高い音のタブレットをもってきたわけです。このほうが木管奏者には自然に感じるわけです。
 話が前後しますが、気体流量変換器のパイプは8φの透明アクリルパイプを蒸気で加熱して曲げたもので、楽器から抜き差しできるようになっています。マウスピースとパイプとの間も抜き差しできます。
 各部の様子は前号、無線と実験7月号・ エレキサックス(1) の写真を参照して下さい。

性能および試奏の結果

 トーンジェネレータとエクスプレッションゲート回路が別になっている本器は、普通の管楽器のように吹き方によって音程が狂ったり、出しにくい音などが原理的に存在しません。従って誰が吹いても同じように美しい一様な音が出せ、楽器さえ正確に調律されていれば、どんな風に吹いても常に正しいピッチの音が出てくれます。またマウスピースのくわえ方で、どんな長いフレーズもブレスなしで演奏することができます。
 これは普通の管楽器では考えられなかったことです。その上、ビブラート(マウス)のタブレットを入れると、早さも深さも吹き方で自由にコントロールできるビブラートをかけることができます。
 実際に吹奏してみますと、予定どおり指使いが簡単で、そのうえ発音が容易です。粒のそろった音を出すために、口や吹き方に気を使う必要がなくなりました。
 ビブラート(マウス)のタブレットを入れ、8'フルートのタプレットを入れて吹くと、リコーダそっくりの音がします。オーボエ、チェロなど、よく感じが出ます。それは音色を決める要素は、周波数スペクトラムと過度特性によるのですが、電子オルガンの場合、キーイングするためスペクトラムを似せることはできても、過度特性まではコントロールできないのに反し、本器では吹奏のしかたで、ゆるやかな立ち上りでも、急激な立ち上りでも、その音のエンベロープを自由に変えられるためです。
 その上、ビブラート(マウス)のタブレットを入れると、音の立上り時、瞬間的に “周波数の初期変動”も与たられるため、さらに管楽器の音によく似てきます。それはたいへん自然な音で、まったく電気臭さがありません。これは電子オルガンなどの有鍵楽器では真似のできないところです。
 よく電子楽器ということで、いかにも電気臭い音が問題になりますが(もっとも電気臭いことが電子楽器の特徴でもありますが…)、それは楽音の周波数スペクトラムだけの問題ではなく、むしろ瞬間的な周波数ドリフトによる過度特性の方が大きいのではないかと思われます。吹いたり叩いたりして出る音には皆これがあるからです。
 本器の音楽的表現力はまずまず管楽器なみです。そのうた多くの音色タプレットを持っていますから、いろいろな楽器の音も出すことができ演奏も容易と、まず当初の目標のうたい文句は達成されたようです。
 またビブラート(オート)のタブレットを入れると、がぜん電気臭い派手な音になります。いかにも電子楽器らしい音がします。ビプラートがオートかマウスかによって、こうも音の感じが変るかと驚くほどです。
 サスティンはディケイを長くして、トレモロをかけるとビブラホンのような音になり、4'のタブレットを2つ入れて、リパープをうんと深くかけると鐘の音のようになります。
 ビブラート(マウス)による音は主としてクラシック向きのようです。また反対にビブラート(オート)はポピュラー向きの音がします。
 いかにも電子楽器らしい音と、電気臭さのない自然な音の両方が出せたことは予想外の収穫でした。発音があまりにも易しいので、本器をしばらく吹いていたらフルートが吹けなくなってしまいました。フルートを吹いても音がよく出ないのです。フルートの場合は各音を作るため吹き方や口の形、etcに、たいへんな気を使わないと良い音がしません。本器に馴れてしまった今、フルートを吹くのは気疲れがして何となく億劫です。それほど本器は演奏が楽なのです。

おわりに

 大分独りよがりなことを並べてきましたが、本器はあくまで試作品であり、不完全なところだらけです。
 しかし不完全ながら、本器が電子楽器の新しい分野を開くきっかけにでもなればと期待している次第です。読者諸兄のご批判をお待ちしております。(本機は特許出願済)

EWI 技術開発の先駆  


       【注】 EWI ウインドシンセ 技術開発の先駆

             エレキサックスはシンセサイザが現れる以前の1960年代に開発されたもので、
             この原稿はウインドシンセなどが現れる以前の1969年に書かれたものです。
             本稿は、現在の EWI, ウインドシンセ などへの、技術開発の先駆をなすものです。


参考文献

1)小松 明:新しいタイプの− 吹奏式電子楽器“エレキサックス”(1)
   「無線と実験」1969年7月号 P131-135
2)小松 明:木管楽器の難しさを解消した− 吹奏式電子楽器“エレキサックス”(2)
   「無線と実験」1969年9月号 P105-109
3)小松 明:[エレキサックス] 電子楽器 その新しい分野への提案
   「ミュージックトレード」誌 1969年12月号 P28-35


 

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 04.4.27


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