体感音響研究所


EWI 技術開発の先駆
エレキサックス







ボディソニックの技術開発
ボディソニックの研究
ボディソニック効果の探求 −情報を持つ体感音響振動こそが効果の正体である−

         

  bodysonic laboratory


 

    EWI 技術開発の先駆

 

吹奏式電子楽器  エレキサックス  
“電子サックス” とでも呼ぶべき 新しい分野への提案   

 

小松 明*  

 

1.管楽器に相当する吹奏式電子楽器

 本器は今までになかった管楽器に相当する吹奏式電子楽器で、“電子サックス”とでも呼ぶべき、まったく新しいタイプの電子楽器です。キーシステムはサックスの運指によっていますが、演奏を容易にするため若干異なるキーもついています(なお、キーシステムはサックス以外によることも可能です)。

   写真 エレキサックスを試奏する渡辺貞夫氏

        右は開発・製作者の 小松 明氏
              (本器は特許出願済み)

 本器は電子オルガンのように豊富な音色を出すことができると同時に、一般電子楽器にありがちな、いかにも電気くさいメカニックな音だけでなく木管楽器等、普通の楽器のような自然な音色を出せます。そして吹奏楽器であり、かつ吹き方で自由なビブラートをかけることができることと相まつて、電子オルガン等の有鍵楽器ではできない微妙な音楽的表現ができます。
 本器は他のどんな管楽器より演奏が容易です。初心者でもただちに全音域にわたり美しい音色を出せます。運指は全音域にわたりオクターブごとに同じ運指のくりかえしですからたいへん簡単です。
 どのポジションにおいてもかけられるトリルキー等と相俟って演奏をいっそう容易にしています。また音域は4オクターブ以上出すことができ、他のどの管楽器よりも広い音域をもっています。
 その他、長いフレーズを吹く場合マウスピースを深くくわえれば鼻でブレスをとりながらどんな長いフレーズでも切ることなく自由に演奏できます(この場合でも強弱をつけられる。もちろんオーボエのそれのような難しいテクニックはぜんぜん必要としません。

 さる10月22日(1969年)九段の科学技術館で行なわれた第6回電子楽器演奏会で発表させて頂きました“吹奏式電子楽器エレキサックス”は、あくまで実験段階の、しかも第1回目の試作バラック・セットで、電子楽器メーカ各社が最先端機種を競い合う電子楽器演奏会で公開できるような代物ではありません。しかし小生が音楽についても、電子楽器についても、また演奏についても、まったくの素人である、ということに甘えさせて頂き、また日本電子楽器協会の泉たかし理事長も、素人であればこそ、すべてに目をつむって出品を勧めて下さったのだと思います。

 またこの度、ミュージックトレード社より “エレキサックス”の原稿を依頼され、その道の専門の方ばかりが読まれる本誌に、素人の小生ごときが書いたらお笑いぐさになるばかりで、電子楽器演奏会における恥の上塗りをするのがおちとも思いました。でも “エレキサックス”を開発するに際して、素人は素人なりの考えもあってやったこと。また、あのバラックセットでは、あまりにも不完全過ぎ、その上、小生の下手な演奏ときては意図したことも理解して戴けないとも考え、あえて拙い筆をとらせて頂きました。
 素人の考えること故、間違ったことや、独り善がりなことだらけと思いますので、専門家である読者 諸先輩のご指導とご批判を、心よりお願い申し上げる次第です。
 なお、電子回路的なことは、雑誌 「無線と実験」 1969年7月号及び9月号に詳しく書いてありますのでそちらにゆずり、ここでは新電子楽器の 開発・製作意図、性能、演奏面、構造と主要部の大要、可能性などについて述べさせて頂きます。
 また“エレキサックス”と謳ってありますが、サクソフォンとは直接関係はなく、まつたく別の新しい電子楽器です。ただ、運指法をサックスに準じさせましたので仮にこの名をつけたわけです。


電子楽器コンサート 拝聴記

 

電子 管楽器 エレキサックス
出品者 小松 明

 

 雑誌「無線と実験」にこの楽器の製作記事が載って以来、世間の注目をあびた発明品である。
 この楽器は単音電子楽器であって、この点何ら新らしいものではなく、従来から存在する、たとえばエース電子の「キャナリー」のようなけん盤式単音電子楽器の形をかえ、手持ち式にしただけである。
 しかしその演奏方法、つまり鳴らし方がまったく画期的な発明なのである。ファゴットの頚部と同じような形体に曲げられた管から息を吹き込み、その息の流れの強弱によって音の強弱を出す。つまり管楽器を吹奏するのと同じような方法で音量のコントロール・エクスプレッションをつけるのである(息で音を出すのではなく、息の流れの圧力の変化によって音量の強弱をつける)。音階を出すための指使いはサキソフォンの指使いに準じてある、つまり基本的にはボエーム・システムによつているということ。そしてサキソフォンより簡単だということだ。
 音は、個人的製作品としてはなかなかよい出来ばえといえよう。音色はサキソフォソに近いが、また、ファゴットやオーボエなどにも似たところがある。ダブルリード木管楽器の音色をまねるほうが技術的にはやさしく、サキソフォソの音色を作ることは実に困難なことである。しかし電子楽器の正しい方向は、特定な他の楽器の音色をまねることではなく、要は音楽的に良い音を出すことである。サキソフォンの音色にのみ固執すると、いつまでたっても不満足な代用品に終わらねばなるまい。
 そもそも、楽器の生命は表現力にある。表現力は、人間が楽器の性能のある部分をコントロールすることによって成り立つものである。サキソフォソという楽器は、音の、特にその音程のコソトロールをしやすい楽器であり、そのことがこの楽器の大きな表現力の基となっている。ある条件がコントロールしやすいということは、それが流動的だということに外ならぬ。電子楽器の音は、特にその音程はきわめて安定的である。いうならば非流動的である。つまり、@大衆楽器としての段階においては長所となるが、A高度な次元から見れば欠点となるのである。
 まあ、そういう堅苦しい理屈は抜きとして、この電子サックスは、商業的にはかなり有望なのではあるまいか。

引用文献

水上好男:電子楽器コンサート拝聴記 国産電子オルガンは世界のトップ エレクトーンEX-21を筆頭に
     各社も個性をハッキリ打ち出す 「ミュージックトレード」誌 1969年12月号 P20-26

2.エレキサックス開発のきっかけ

 現在ある電子楽器をみますと、そのほとんどが電子オルガンを中心とした有鍵楽器です。しかし楽器には有鍵楽器のほかに弦楽器、管楽器、打楽器などがあります。打楽器に相当する電子楽器には、電子式自動リズム発生器などがあり、弦楽器に相当するものには電子楽器ではありませんが、電気ギター等があります。
 しかし、管楽器となると電子楽器らしきものは見あたりません。これは、何か作る余地があるのではないか? と感じたのがきっかけです。
 ここで、いまさら書くまでもありませんが、木管楽器についてふれますと、その音色は美しく、気品があり、それぞれの楽器がたいへん個性的な音色をもっています。
 また、吹奏されることから、ある意味では声楽にも似た微妙な表現力さえ持っています。吹奏するということは有史以前の石器時代から行なわれていたといわれ、演奏形態としてたいへん原始的なものとも考えられます。が、原始的なるがゆえに、人間にとって、本質的なものを含んでいると思います。そしてそれなるが故に、人間の感覚上、より直接的で、音楽の表現にそれが現れて来ると思います。更に吹奏するという動作は、音楽上の問題と同時に生理上の問題を多く含みます。歌の好きな人が思いきり歌っているとき、そして歌った後、音楽的満足感と同時に、きっと生理的な満足感を感じているはずです。
 それに共通するものが吹奏という動作にもあります。笛(木管楽器)を吹いているとき、あるときは徴妙に、あるときは力いつばい吹きまくり、笛を自分の喉と同じように心ゆくまで歌わせていると、音楽的なよろこびと同時に、生理的に訴える快感、満足感、よろこびなどがあります。
 原始的だが、それだけに人間にとって本質的なものを含み、人間の感覚にマッチした音楽的表現力のある“吹奏”ということに着目して、これを電子楽器に応用したら、と考えたわけです。

 さて、ここで電子楽器について考えますと、電子オルガンは現在電子楽器の王様として隆盛をきわめておりますが、同じ有鍵の単音電子楽器は、クラビオリンやその他、いろいろ出て、それぞれ特徴ある音色を持っていたにも拘わらず、現在、オンド・マルトゥノの他はほとんど姿を消してしまいました。
 その第一の理由は電子オルガンに押されたということでしょう。何といっても電子オルガンは多くの音色を出せるし和音も出せる。1台の楽器単独で完成された音楽の演奏ができるのに対し、単音電子楽器は 和音を出すことのできない悲しさで、いくら多様な音色は出せても単独では完成された音楽の演奏ができず、他の楽器とのアンサンブルを要することです。
 第2の理由は、表現力の問題です。鍵盤式である両者は、キー・スイッチの開閉により音を出すという同一の手段によっている為、音楽的表現力“質”等がほとんど同じになります(厳密には、音の“はり”等の違いはありますが)。
 このため、鍵盤式単音電子楽器は、性能的に電子オルガンの中に包含されてしまい、独立の楽器としては、その存在価値を失なってしまったのだと思います(高級モデルの電子オルガンの一部として組み込まれているものはある)。

 ここで木管楽器をみますと、単音の楽器であり、単独では完成された音楽にはならず、アンサンブルを組まねばならないことは、鍵盤式単音電子楽器と事情を同じにします。一方電子オルガンは、フルートやオーボエその他の音色を出すことができます。その上、和音も出せます。このことは一見、木管楽器も鍵盤式単音電子楽器と同じく、電子オルガンに包含されるかに見えます。しかし鍵盤式単音電子楽器が影をひそめても、木管楽器は健在です。それは今さらいうまでもなく、音楽的表現力において、木管楽器は電子オルガンに勝るからです。
 和音を出せる、多くの音色も出せる、それ単独で、完成された音楽の演奏を可能とする大がかりな電子オルガンも、たった1本の笛に及ばないものがあるのです。それは、音楽の量的な面では電子オルガンが勝っても、質的な面になると、和音も出ない、音色タブレットもない たった1本の笛(フルートやオーボエ)にとても及ばないということです。
 それは鍵盤スイッチの開閉によって作られる音と、人間の息で微妙にコントロールされて作られる音の差があるのです。更に、演奏技術上の立場だけから観ても、1人で和音等多くの声部を扱わねばならない電子オルガンと、ひとつの声部だけに全神経を集中できる単音楽器(たとえば木管楽器)では、表現力の“質”において当然、単音楽器の方が上の筈です。
 以上の考察から、鍵盤方式と、吹奏方式の差が浮きばりにされてきます。ここから1つの方向が導き出されます。
 吹奏式にしたら、単音電子楽器にも生命を吹き込み、再び存在価値を与え得るのではないだろうか。そうすれば木管楽器のもつ音楽的表現力と、電子楽器のもつ音色の多様性とを合わせ持った楽器を作ることができる筈です。“電子サックス”の提案です。
 以上の理由から吹奏式電子楽器の構想を練り始めたのです。

3.楽器のハードウエアとソフトウェア

 しかし、それだけでは問題は解決されません。楽器には、演奏技術という宿命的な問題があります。
 楽器は、テレビやステレオ等の商品と異なり、品物があるだけでは商売が成り立ちません。歴史的にみても楽器がある国から他の国へ、ある民族から他の民族に渡るとき、楽器単体では渡らず、必ず楽人(演奏技術)といっしょに渡り、はじめて広まっていきます。
 これは電子計算機にハードウェアとソフトウェアがあり、その両者がそろっていないと話にならないのとよく似ていると思います。この為、新しい楽器ができ上がり、それが普及するまでには非常に長い年月を要してきました。
 現在あるどの楽器をみてもそうです。昔一人の名工が、ひとつひとつ、一生かかって作った数を合計しても数えられる程の小規模の生産の場合はそれでもまだよいのですが、現在のような大量生産時代には、新しい楽器を急激に普及させる必要があります。逆にいえば、それができない楽器は現在の商業ベースに乗らないということになります。
 電子楽器というものが、他の電器製品と同じように、本来大量生産に適しているものであってみれば、なおさらのことです。
 そこで急激に大量に普及させるには楽器のソフトウェアともいうべき演奏技術が簡単であることが要求されます。この「演奏技術が簡単である」といういき方には3通りの方法があるでしょう。

 

  その1 演奏がやさしいこと。
  その2 演奏技術そのものは必ずしもやさしくないけれども、普及している既存の
      楽器の演奏者の技術で、簡単に移行できること
      (電子オルガン等、その例といえます)。
  その3 前2者を合わせたもの。

 

 そこで“エレキサックス”は、現在普及しているサックスと基本的には指使いを同じにして演奏技術そのものは、更に簡単にしました。
 ここで再び木管楽器について、そのソフトウェア(演奏技術)の面からみると、いささか問題があります。音色の美しい、気品もあり、個性的である木管楽器も、そのハードウェア(楽器)から十分な性能を引き出すには大変なソフトウエアのテクニックが要ることです。
 その第1は発音が難しいということです。たとえば電子オルガンなら誰がキーを押しても一定の音が出てくれますが管楽器ではそうはいきません。初心者が吹くと スースーいうばかりで音が出ず、やっと出たら悲鳴のような音がして音楽には程遠いということもザラです。
 そして、この難しさは熟達した人にもつきまとうのです。それぞれの楽器に出しにくい音域、よく響かない音、音程の悪い音等が存在し、これをカバーしつつ、ツブの揃った美しい音を出すためのテクニックが必要です。また電子オルガン等の場合には ド なら ド のキーを押せば、必ず ド の音が出てくれますが、管楽器の場合はそうはいきません。ド のポジションを押さえて吹いても、必ずしも ド の音が出てくれるとは限らない要素があります。
 それは管楽器が、マウスピースのくわえ方、唇の当て方、角度、吹き込む息の速度、強さ、その他によって音のピッチが変るからです。
 更に各楽器はひとつひとつが違うクセを持っています。それぞれの楽器により高めに鳴る音や、低めに鳴る音があり、教則本どおりの指使いでは正確な音階、むらのないツブのそろった美しい音は出せないこともあり、各楽器のクセを見抜いて、それらを補なってやらねばなりません。それには良い耳を持ち、ひとつひとつの音を良く聴き分け、文字どおり、1音1音、音を作っていかねばならないのです。
 初心者のブラスバンドで、いくらチューニングをしても、いざ演奏するとどうしても音が合わないのはこのためです。そこでエレキサックスは、誰でも、どんな初心者でも直ちに美しい音を出せるようにしました。また、管楽器のもうひとつの難しい点、オーバーブローイング(息の速度を速くしてオクターブ高い音を出すこと)の難しさを解消し、更に運指も単純明解なものとし、基本の 1オクターブの運指さえ覚えれば、オクターブキーの使用だけで同じ運指の繰返しで4オクターブ以上も簡単に出せるようにしました。
 更に今までになかった万能トリルキー等を開発し、演奏を容易にしました。表現上の問題としてビブラートを、吹き方でかけられるようにもしました(演奏、性能については後述)。

●普及の見込み

 現在学校における音楽教育には器楽が取り入れられ、特にリコーダーは、大半の生徒が吹けるようです。このことは、膨大な数の潜在的木管楽器奏者がいることになります。しかしそれにもかかわらず、これらの人たちのうちッルートやクラリネットを吹くのは、ごく一部にすぎません。それは多分、リコーダーより発音が難しく、価格も高い… その他いろいろな理由があると思います。
 そこで、リコーダーよりさらに演奏技術がやさしく、音色の多様性もあり、音楽的表現力も充分ある魅力に富んだ、かつ価格も適当なもの(ずいふんムシのよい話ですが)そんな吹奏式電子楽器を作ったら普及できるのではないか? という気がするのです。現に、リコーダーを吹ける女の子が比較的簡単にエレキサックスになじんでくれました。
 以上のことを考えて、
 
  1.何とか木管楽器のむずかしさを解消したい。
    リコーダーが吹ける人ならわずかの練習ですぐ演奏できるものでありたい。
    (もちろんサックスの吹ける人なら直ちに演奏できるものであること)。
    初心者でも、他のどの木管楽器より容易に習熟できるものでありたい。
  2.管楽器は1種類の音色しか出せないが、
    電子オルガンのように音色の多様性を持たせ、魅力に富んだものにしたい。
  3.管楽器のもつ音楽的表現力はそのまま持つものにしたい
    (電子オルガンに包含されないものでありたい)。
 
 以上の3点を主眼にして、試作したのがエレキサックスです。できあがった試作品は素人の手作りゆえ、また資金も安サラリーマンの少ないポケットマネーでまかなわねばならなかった事情もあり、はなはだ不完全なところだらけで、目標とは少しかけ離れていますが、その可能性は確認できたと思っています。

写真 エレキサックスの本体(右)とアンプ部

 また、デザイン等には全く手がまわらず、単にアイディアの可能性を実験してみただけのバラック・セットなので、その点をご理解ください。

4.エレキサックスの全体の構成

 写真のように、吹奏する楽器本体とアンプ部より成ります。楽器本体には、吹奏する息の強さを電気信号に変える気体流量変換器、音階を作るトーン・ジェネレータ等が入っています。
 アンプ部には各種音色を作るトーン・フィルター、音の強弱、発音、停止を行なうエクスッレッション・ゲート回路、リバープ回路、アンプ、スピーカ等が組み込まれています。
 トーン・フィルター、音色タブレットは楽器本体に組み込んだほうが演奏操作上便利なのですが、回路実験をしやすくする、あくまで実験ということに重点を置いた為、やむをえずアンプ部に組み込みました。アンプは他のアンプなどに接続できるよう外部端子を設けてあります。全体の回路構成は、鍵盤式単音電子楽器とよく似ています。

5.吹奏する息の強さを電気信号に変換

 この楽器の最も特徴的な、そして重要な部分です。奏者が吹き込んだ息の流量を一旦、圧力に変換し、圧力の強弱を電気信号の強弱に変換して、該信号により、音の強弱をつけます。
 この気体流量変換器(正しくは気体流量−電気変換器)の性能は非常に重要で、この変換器の性能が楽器の性能を決めるといっても過言ではありません。特に応答速度、過度特性などが音楽表現に適したものでなければなりません。工業計測用のものなどはこの点、適しません。それで楽器専用の気体流量変換器を作りました。
 構造、原理は第1図に示すようなものでマウスピースから吹き込んだ息は、マウスピース部下側の逃げ穴から抜けますが、検出部の圧力を高めます。検出部にはゴム膜が張られており、その先にシャッターが付けられています。息が吹き込まれ、検出部の圧力が高まると、ゴム膜を押上げ、シャッターがフォト・トランジスタに当る光量を減じます。フォト・トランジスタは息を吹き込まないときは光がフルにあたっていて、オン状態になっていて、コレクタ、エミッタ間の電圧はゼロになっています。このため吹込まれた息の強さに応じた電圧が出力に現れます。また吹かないときは出力ゼロになります。これで気体流量は電気信号に変えられるわけです。
 ここでマウスピース部下側の逃げ穴はたいへん重要かつ巧妙な働きをします。その第1は水気の問題です。管内に息を吹き込みますと息は管にあたり、冷やされて水滴となります。管楽器奏者が、よく楽器内のツバ抜きをやるのはこのためで、別にツバを吹込むわけではないのですが、水滴が溜るわけです。
 本器の気体流量変換器では吹込まれた息はマウスピース部下側の逃げ穴に抜けますので空気の流れるのはこの間だけとなり、従って水滴が発生するのもこのマウスピース部だけに限られますので中に水滴がたまることがありません。
 電子回路に水滴は禁物ですし、検出部のゴム膜あたりに水がたまったりしますと、過度特性を悪くします。
 その点、本器のように水滴が内部に発生しないのはたいへん好都合なわけです。更にマウスピース部の水滴が中に流れ込まないようにパイプの曲げ方、検出部の向き等にも注意をはらっているわけです。
 その第2はブレスの問題です。吹奏楽器は人間が吹くのですからむやみに長いフレーズを吹くことはできません、途中で必ずブレスをしなければなりません。
 これは管楽器の宿命的な問題です。ところが本器の場合、マウスピースを少し深くくわえて逃げ穴を下唇でふさぐことにより息を吹き込まなくても口の中の圧力を適当にしておけばシャッターが押上げられ音が出ます。奏者はこの状態では鼻から息を吸い込みながら、音を出すことができて、どんな長いフレーズでも切らずに演奏できます。これは管楽器の宿命的な問題を解消したことになります。
 本器の気体流量変換器はだれが吹いてもその息の強さに応じた電圧出力を出します。従ってこの出力でトーン・ジェネレータからの出力を制御すれば誰が吹いてもすぐ一定の音が出せるわけです。
 普通の管楽器が、ただ吹いただけでは音が出ないのと大いに異なり、本器はともかく、ただ吹きさえすれば、どんな初心者でも簡単に美しいピッチの正確な音が出せるわけです。これは管楽器のいちばん難しい問題を解消したことになります。
 以上で一応吹奏ができ、微妙な強弱をつけられるわけですが、更に吹奏の仕方でビブラートをかけられるよう、気体流量変換器の出力信号を積分して、既に電子回路的テクニックで加工したあと、この信号でトーン・ジェネレータに周波数変調をかけています。これにより演奏者は、普通の木管楽器を演奏するときと同じように横隔膜をふるわせるなどして、吹き込む息に波をつけてやると、ビブラートをかけることができます。そしてこのことは単にビブラートをかけられるということにとどまらず、前に述べたように電子回路的テクニックで加工した信号を用いているので、発音するとき、その立上がりに過渡的に適当な初期変動を与えることができます。

 管楽器の場合、音の立上がり時、初期変動といって周波数の不安定に動く時期を経た後、安定したピッチになります。このごく短い、普通あまり気ずかない初期変動ということが、楽器の音色とか味といったものを決める重要な要素になります,
 木管楽器は、その音色が美しいので、あえてビブラートをかけなくても、じゅうぶん美しい音がするということからクラリネットやその他、特にビブラートをかけない方法さえある程ですが、この木管楽器の音が、ビブラートをかけなくてもなおかつ美しい音がする、という秘密は、その重要な要素として先程来述べている初期変動によるのだというのが小生の持論です。といいますのは“エレキサックス”で初期変動をつけたり、つけなかったりの実験をしてみますと、音色が相当変わるのです。
 “エレキサックス”で初期変動をつけますと、その音色は電気くささがなくなり、普通の楽器のような自然な音色になります。このため“エレキサックス“は、他の電子楽器よりはるかに電気くささのない自然な、普通の楽器のような音色を出すことがでぎます(もちろん電気くさい音も出せる)。

   写真 楽器本体背面      楽器本体正面

                上部のツマミはチューニング用と
                気体流量変換器ゼロアジャスト用

 

 この初期変動は他の電子楽器でも使われているものもあるようですが、鍵盤楽器の場合初期変動のかかり方が一定になり、かなりメカニックになりがちですが“エレキサックス”の場合は、吹き方で初期変動をもコントロールできる為たいへん自然です。
 このことは音楽表現上重要な要素となります。吹き方で初期変動、ビブラートをコントロールできるということは、同じ音色のタブレットを入れていても、奏者によりかなり違う感じの音が出せる可能性がでてぎます。
 実際“エレキサックス”を演奏してみますと、たとえばトランペットのタブレットを入れて吠く時は、いかにもトランペットらしい吹き方(音の立上がり、初期変動、ビブラート、音のエンベロープ等)を するとトランペットによく似た音になりますが、吹き方を変えると同じタブレットを入れているにもかかわらず、トランベットと違う感じの音になります。他のタブレットにおいても事情は同じです。
 電子オルガンで、たとえばオーボエのタプレットを入れて演奏すると、たしかに音色はオーボエに似ていますが、演奏される音楽そのものは、オーボエの感じとは相当かけ離れたものとなります。しかし“エレキサックス”では吹き方をそれらしくすると、オーボエそっくりな演奏効果を出すことができます。この辺りは吹奏式ならではの味だと自負しております。
 また、気体流量変換器の構造からわかるように普通の木管楽器のように、マウスピースのくわえ方、唇の当て方、角度、吹き 込む息の早さ、強さ等によってピッチが狂うことがありません。出しにくい音、よく鳴らない音、むらのある音、等が原理的に存在しません。
 従って、誰が吹いても美しい一様な音が出せ、楽器さえ正確に調律されていれば、どのように吹いても常に正しいピッチの音が出てくれます。そして表現力は、管楽器のように微妙です。

6.サックスよりも容易な運指法

 運指は第2図の運指表(次頁)に示すとおりです。基本的にはサクソフォンの運指に準じています。サクソフォンは割合、合理的な運指であり、オクターブ・キーも持っている点、本器に適していると思われましたので採用しました。
 もつと合理的で独自のキー・システムにすることもできますが、現在普及している楽器の運指法を採用すれば、その楽器奏者がただちに本器を演奏できる利点があるわけです。またサキソフォンより更に運指を容易にするため、少し異なったキーもついています。その代表格はトリルキーです。管楽器についているトリルキーは、ある特定の運指の困難なトリル等を出す場合、その他の換指キーとしてつけられているものですが、このキーはその目的のとおり、また原理的にも特定の音の場合だけしか有効でありません。
 ところが本器におけるトリルキーは全音域のどの音に対しても有効で0.5のトリルキーを押すと半音、1.0のトリルキーを押すと1音高くすることができます。これは演奏上たいへん便利なことで広範な換指キーとして演奏をより容易にします。
 オクターブ・キーは、これを押すことによりオクターブ高くすることができ、これにより音域を広げます。サキソフォンにはオクターブ・キーが1つしがありませんが、本器にはオクターブ下げるもの、オクターブ上げるもの、更にもうーオクターブ上げるものの3個のオクタープ・キーがあり、これによって4オクターブの音域をカバーします。
 これは他のどの木管楽器より広い音域です。普通、木管楽器はいちばん下のlオクターブを基本の運指で出し、次のオクターブはオーバー・ブローイングすることにより、だいたい最初のオクターブと同じ運指で出しますが第3オクターブは、第3倍音を使ったり全々別のキーを使ったりするので、まるで遼う運指となり、指使いを複雑にして最高音のオクターブはオーバー・ブローイングの難しさと重なってたいへん出しにくいものです。
 ところが本器においてはオクターブ・キーを押すだけでオーバー・ブローイングの難しさから解放され、その上、運指は下のオクターブから最高音のオクターブまで、まったく同じ運指の繰返しにより出すことができます。もう一度、第2図の運指表を見てその単純明解な運指を読み取ってください。
 そして単純である反面、独特のトリルキーにより広範な換指が、可能であることも見のがせない特長です。吹奏の項で書いた発音の容易さと相俟ってたいへん演奏を容易にしているわけです。
   

●音色と効果音

 音色タブレットや、効果タブレットを持てるのは電子楽器の特長のようなもので、電子楽器である“エレキサックス”も電子オルガン等と同じように多くの音色タブレットや効果タブレットを持つことができます。
 この為、例えばサスティンにすると、鐘の音やビブラフォン等のような打撃音、エレキベースのようにはじく音なども出すことができます。マンドリンのタブレットを入れると、マンドリンのようなトレモロ効果が出ます。
 第3図に本器の音色タブレット、効果タブレット等の一覧表を示します。なお、これらのタブレットを多くすることも少なくすることも自由なのは、電子オルガンの場合と同じです。

 

  

●外観、製造価格

 楽器の外観は非常に重要で、楽器を手にした人が、何か得がたい宝物でも手にしたような夢を感じさせるものであることが必要であると、かねがね考えているのですが、今回試作したエレキサックスでは、実験だけでせいいっぱい、とてもデザインまで手がまわらず、なんともぶざまな代物で、ただ恥じ入るばかりです。
 製造価格は部品の使用量から見ますと、電子オルガンよりはるかに少なく、クラビオリン等の単音電子楽器ぐらいですから、価格も単音電子楽器並みにできるだろうと思われます。

●演奏した感じは

 先にも述べましたように吹き方によって音程がくるったり、出しにくい音などが原理的に存在しません。従って誰が吹いても同じように美しい一様な音が出せます。またマウスピースのくわえ方でどんな長いフレーズも切ることなく吹けます。これは普通の管楽器では考えられなかったことです。オーボエ、リコーダー、トランペット、クラリネット、チェロ等のタブレットは、吹き方をそれらしくするとそれらの楽器に非常によく似た音が出せます。
 吹き方でコントロールできるビブラート、初期変動などの効果で表現力もまずまずです。
 発音があまりにもやさしいので本器をしばらく吹いていたらフルートが吹けなくなってしまいました。フルートを吹いても音がよく出ないのです。フルートの場合は各音を作るのに吹き方や口の形その他に、たいへん気を使わねば良い音がしません。そして、演奏のアラがすぐ表れてしまいます。それに引き換え“エレキサックス”は、発音が楽なのと同時に、音色の多様性に合わせて演奏のアラをかなり隠してくれます。
 また強力なアンプにつなげば、いくらでも大きな迫力ある音も出せますので、それに慣れてしまった現在、フルートを吹いても手ごたえがあまりなく貧弱な音のような気もします。
 だいぶ独り善がりなことを並べてきましたが、本器はあくまで第1回目の試作品で、楽器としてはあまりにも不完全なところだらけです(今後、改良を重ねたいと、いろいろなアイディア持っております)。
 それでも不完全ながら、電子楽器の新しい方向の可能性は確認できたと考えております。しかし、方向が確認できたからといってこれが即完成された楽器につながるとは必ずしも考えておらず、電子楽器の新しい分野への提案と考えている次第です。
 本器の持つ可能性を感じとってもらうことができ、かつ本器が電子楽器の新しい分野を開くきっかけにでもなれば望外の喜びと期待している所です。

        【注】 EWI ウインドシンセ 技術開発の先駆

               エレキサックスはシンセサイザが現れる以前の1960年代に開発されたもので、
               この原稿はウインドシンセなどが現れる以前の1969年に書かれたものです。
               本稿は、現在の EWI, ウインドシンセ などへの、技術開発の先駆をなすものです。


 

気体流量変換器の改良について
  光シャッター式から半導体ストレーンゲージ式に

 

 この原稿を発表した数年後に、Shinkoh 社の半導体ストレーンゲージ EN104-T23 と EP304 を入手することが出来、第1図 に示す気体流量変換器の改良をしました。
 円筒台に付いていたゴム膜を 0.05mm.厚のアルミ板に換え、アルミ板の上に半導体ストレーンゲージを接着。(ランプ、光シャッター、ホトトランジスタは取り外しました)。
 動作原理は、息の吹き込みに応じてアルミ板にひずみが起こるのを、半導体ストレーンゲージで検出するものです。この改良によって気体流量変換器の過度特性が著しく向上し、楽器としての表現力も飛躍的に向上させることが出来ました。


参考文献

1)小松 明:新しいタイプの− 吹奏式電子楽器“エレキサックス”(1)
   「無線と実験」1969年7月号 P131-135
2)小松 明:木管楽器の難しさを解消した− 吹奏式電子楽器“エレキサックス”(2)
   「無線と実験」1969年9月号 P105-109
3)小松 明:[エレキサックス] 電子楽器 その新しい分野への提案
   「ミュージックトレード」誌 1969年12月号 P28-35
4)水上好男:電子楽器コンサート拝聴記 国産電子オルガンは世界のトップ
   エレクトーンEX-21を筆頭に各社も個性をハッキリ打ち出す
   「ミュージックトレード」誌 1969年12月号 P20-26



 筆者略歴


小松 明* ボディソニック(体感音響装置)開発者

 ボディソニック(株)常務取締役・研究開発センター担当、日本バイオミュージック学会幹事、全日本音楽療法連盟理事・初代事務局長、日本音楽療法学会理事、桐朋学園大学音楽療法講座講師、日本言調聴覚論協会理事、日本住宅環境医学会理事 などを歴任。
体感音響研究所(Bodysonic Laboratory)主宰。
 主な論文・著書に 「体感音響振動の効果メカニズム試論」 「音・音楽・振動と眠り」 「音楽振動醸造、音楽振動熟成の試み」 「音楽療法最前線(共編)」 「振動音響療法(訳著)」 など多数。
 1960年代に EWI、ウインドシンセ の先駆となる 吹奏式電子楽器 “エレキサックス” を開発。1960年代から70年代にかけて、エコニック・サウンドトランスデューサなど、動電型の電気−機械振動変換器を開発し、この技術をキーテクノロジーとしてボディソニック・システムを完成。特許多数。 1937年、東京都小石川区生まれ。




  1969年 第18回 全日本オーディオ・フェア の パンフレットに載った電子楽器演奏会の案内

  

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