体感音響研究所


ボディソニックの
技術開発、製品例












ボディソニックの技術開発
ボディソニックの研究
第1章2節 体感音響振動の効果

 

  bodysonic laboratory



ボディソニック(体感音響装置)  
開発の 歴史的経緯  

 

体感音響研究所 小松 明  

 

はじめに

 ボディソニック(体感音響装置)とその技術は、リラクセーション医療・音楽療法への応用。言語リハビリテーションへの応用。酒類・食品分野への応用。映画・博覧会・アトラクションなど エンターテインメント分野 への応用… など 多岐にわたる。
 欧米では “振動音響療法(Vibroacoustic therapy)”として最初から “療法” として発展してきた経緯があるが、わが国では “オーディオの 一領域” として発展してきたといえる。
 ここでは、わが国における ボディソニックの開発と発展の歴史的経緯、背景などについて述べる。なお、振動音響療法については、このサイト内のファイルを参照されたい。

1.歴史的背景と経緯

1.1 重低音再生と体感音響振動 1960年代

 オーディオファン、オーディオ専門家やオーディオ技術者が比較的多かったわが国では、重低音再生の変った試みもされていた。以下にそれらの例を示す。

 

 1963年 五十嵐一郎氏は「ラジオ技術」1963年4月号に「20〜40C/S振動を床に伝える」重低音再生の興味ある実験を発表1) している。上記文献に拠れば、振動の発生には、ウーハ(低音専用スピーカ)を使用している。右の図にリスニングルーム全体の見取り図を示し、右寄り部分の図に示す如く、椅子下に20-40Hzのドライバユニット(ウーハ)を設置した。
 ある日、五十嵐氏は早川正昭氏宅を訪ねた時、チェロのレッスンに居合わせ、眼前2〜3メートルで弾くチェロの音は、床づたいにも伝わってきて「これだ、床を振動させよう」 と思い立ち、この実験を開始した。
 振動発生のスピーカ(ドライバユニット)は、ボイスコイルストロークの大きい「コーラル・AR-2」を使用し、スピーカは椅子の下に隠してテストを行った。

  

 1969年の特許公報2)によれば、ソニーの永見勝氏は、3Dステレオ再生方式のスーパーウーハを、ソファ座席の下の空間をエンクロージャとして使用することにより、150Hz以下の低音再生とともに、体感振動がソファを通じて伝わることにより重低音感の効果を高める試みをした。永見氏が実験をしていたのは1966年頃以前と推測される。
 右に示すソファ外観図の中央下部にウーハの開口部があり、右下の断面図にそれが良く示されている。

 

 左に示すブロックダイヤグラムのセンターチャネルには、ソファに組み込まれたウーハが接続されている。

1.2 振動変換器の開発と体感音響振動 1969〜71年

 1969年 筆者は1969年に、壁、天井、床面など、振動可能な板面を直接振動させ、壁や天井全体から音響再生をする、エコニック・サウンドトランスデューサ3)4)を開発、製品化した。そして「無線と実験」1970年1月号に「壁全体が音源となる新しいSP エコニック・サウンドトランスデューサ」として発表。次いで「ラジオ技術」1970年4月号に「面音源を実現させた新しい振動ユニット。エコニック・サウンドトランスデューサの特長と性能」として発表した。

 1971年 エコニック・サウンドトランスデューサを更に改良した“GTボ−ドスピーカ5)6)”を開発、製品化した。そして「無線と実験」1971年4月号に「壁自体が音源となる 4チャンネル音場再生に適したボードスピーカについて」と、「ラジオ技術」1971年3月号に「音作りの新しい可能性を示す・全面的に改良されたGTボードスピーカ」として発表した。

  

 上図に「ラジオ技術」1971年3月号から引用したGTボードスピーカとエコニックサウンドトランスデューサの断面構造図を示す。左がGTボードスピーカ、右が エコニック・サウンドトランスデューサである。

 これらは動電形の 電気−機械振動変換器(振動トランスデューサ)であり、本来の音響再生の他、大学研究室などで特殊な研究用として使われるなど、思いがけないような分野でさまざまな実験や応用を促した。ボディソニックの開発に当たっても、この振動トランスデューサの技術が重要なキーテクノロジーとなった。
 下の囲みに、これらのトランスデューサ が ボディソニックに応用された例を示す。

 

エコニック・サウンドトランスデューサを振動素子として使用した例

 1973年に西ドイツで出願され、1974年にイギリスに出願された、1976年のイギリス特許 1447588 “VIBRATORY DANCE FLOOR” があり、これは床振動方式のボディソニックである。

 左図に床パネルの展開図を、右下にエコニック・サウンドトランスデューサを組み込んだ部分を拡大した断面図を示す。

 

    

 

ボードスピーカをドライバユニット(振動素子)として使用した例

 筆者が「ラジオ技術」1978年4月号7)に発表した 「ヘッドホンとの併用で重低音を体験できる オーディオクッション/ディスコターボとは? ボディソニック MODEL24」の例があり、これはクッション方式の ボディソニックである。

    

 左上の図は「ラジオ技術」1978年4月号から引用した オーディオクッションの断面図であり、ドライバユニット部分を拡大して示したのが右上の図である。ドライバユニット(振動素子)は、デュアルダンパセンターセッティング方式の ボードスピーカである。

 

 1970年代初期の頃、筆者はこのトランスデューサを利用して、床面から音響再生を行うことによって重低音感を増す試みや、トランスデューサを取りつけたベニア板製のパネルの上に乗ったり、椅子を載せて座ることにより重低音感や臨場感を増す試みなどを行った。
 右の写真にベニア板製のパネルにエコニックサウンドトランスデューサを取り付けたものを示す (ラジオ技術1970年4月号より引用)。
 その頃、前衛的音楽グループ「タージ・マハル旅行団」によって、このトランスデューサ(ボードスピーカ)をベニア板製のパネルに取り付け、音楽を再生するとともに、このパネルに身体を押し付け、音楽とともにその音楽振動を体感するワークショップなどが何回か行なわれた。
 このように体感音響振動を取り入れた試みは早くから行なわれ、その技術も割合早くから開発されていたが、ボディソニックを具体的に製品化する重要なきっかけとなったのは、次に述べる糸川英夫博士の提言による。

1.3 糸川英夫博士の提言とボディソニックの開発 1972年

 1972年 糸川英夫博士(ロケット工学の権威でチェリスト)は「音響的リズム感を機械的振動として直接身体に伝達して利用する方法」を特許出願し、1973年 特開昭48-90515として公開された。
 さらに糸川英夫博士は、ボーンコンダクション理論によって次のような提言8)を行った。『楽器を演奏する人は、弦楽器でも管楽器でも2つの音を聴いている。1つは空気中を伝わってくる音波である。もう1つは、楽器をもつ手、抱えている身体を通して、直接振動として伝わり、聴覚系伝播されるものである。音楽の中で、聴く人に真の恍惚感を与えるのは、この直接振動として伝わるボーンコンダクションの方である。
 バイオリニストが顎に楽器を抱えて陶然と自分の弾く音に浸っているのは、顎の骨にバイオリンの表裏板から直に伝わる振動音・ボーンコンダクションの音を聴いているためである。古典音楽がヨーロッパで発展したのは、貴族社会の中の小さい室内で、チャンバーミュージックという名がつけられた通りである。楽器の振動が床板を伝わり、椅子の足を通して座っている人の腰にまで減衰しないで伝達するゾーンである。
 音楽が大衆化し大ホールが現れたときにこちらは棄てられ、空気中を伝わる音波だけの音楽になった。レコードが生まれ、エレクトロニクスが登場したときにも音波だけの音楽になりきり、ボーンコンダクションは忘却の世界に置き去られた。
 ディスコなどで物凄い音響を出し、ドラムが桁外れの音を出すようになったのは、若い人達が本能的にボーンコンダクションを現代に復活させようとする1つの試みである。ボーンコンダクションはそれに気づけば、テクノロジーによって再現は可能である。ボーンコンダクションをステレオに付けるべきである』。

 この提言を受けて数社がボディソニックの開発に取り掛かった。振動の発生には低音用スピーカ(ウーハ)が使用された。これらの状況は1970年代中頃の特許文献に多数見ることができる。それらの例を下図に示す。

  

 

 しかし体感振動の発生手段としてとしてスピーカ(ウーハ)を使うと、電気→音響(空気振動)変換した後、さらに音響(空気振動)→機械振動変換と、2重のエネルギー変換を行うため、エネルギーの変換効率もあまり良くなく、装置は大型化し、音漏れなど、いろいろな副作用もあり、これを防止するため装置は増々大がかりになり、製品化は成功しなかった。

1.4 振動トランスデューサを使用したボディソニックの開発 1976年

 こうした中で、ボディソニック開発の最も強力な推進者となったのは、パイオニアの創業者、故・松本望会長であった。松本会長の鋭い直感力はボーンコンダクション理論の卓越さと可能性を見通していた。筆者は振動トランスデューサの技術・ノウハウ、特許などを持つことから、松本会長に手繰り寄せられ、ボディソニックの開発に関わることになった9)
 松本会長はボディソニック株式会社を設立して1976年 最初の製品 “ボディソニック ミュージックチェア MC-1000” を世に送り出した8)9)

 この製品の優れた点は、振動発生にスピーカではなく、動電形のトランスデューサ(電気−機械振動変換器)を使用したことである。エネルギー変換も、電気→機械振動の1回だけで直接体感振動を発生可能であり、変換効率も高くスッキリとまとめることができ、デザイン的にも優れた製品化を可能にした。
 振動トランスデューサは磁気回路を強力にしたもので、ボードスピーカと同じ構造方式のデュアルダンパセンターセッティング方式であった。
 しかし当時のオーディオファンに「体感音響振動を付与するボディソニック」を理解してもらう迄には、時間を要した。
 

最初の製品

 ボディソニック・ミュージツクチェア MC-1000

 

 次いで1977年暮頃、一般ユーザが入手しやすいコンパクトな製品として、クッションタイプの 「オーディオクッション・ディスコターボ MODEL24」 を製品化した。
 筆者が「ラジオ技術」1978年4月号7)に発表し、振動発生のドライバユニットとして「ボードスピーカ」を使用していたことは、囲みの部分で前述した通りである。
 

        オーディオクッション・ディスコタ−ボ MODEL-24

           座当て用大クツションと、背当て用小クッションがある。
           右下の専用AMPでクッション 2台まで駆動可能。


1.5 ボディソニック トランスデューサ SC-6024 の開発 1978年

 ボードスピーカを振動素子として使用した場合、このままではクッションの上に人が座って荷重が懸かると、振動素子はダンパを介して保持されているので、振動素子がが壊れてしまう。これを避けるために、保護カバーを付けなければならず、非常に厚ぼったくなり過ぎてしまう。このためには、
◆体重の負荷が懸かっても壊れない振動トランスデューサが必要である。
◆カーオーディオ用のボディソニックではスペース的制限があり、車用シートに装着するに
 はもっと薄型で信頼度の高いトランスデューサがなければ開発できない。
◆床振動方式の振動トランスデューサとしてはもっと強度の高いものが必要である。
 … など、次のボディソニックの開発は限界の壁に突き当たっていた。これらの課題を解決するために、新たな振動トランスデューサと、その振動伝達構造の開発の必要に迫られていた。
 1978年、筆者はケースを振動出力端とする新たな ボディソニックトランスデューサSC-6024」を開発した。そして、その応用技術を矢継ぎ早に開発した。体感音響装置専用振動トランスデューサの断面構造を右の図に示す。トランスデューサの振動発生機構はアルミ製のケース(シェル)に被われており、振動はケースに出力される構造である。合理的で巧妙なその構造により薄型で信頼度の高い振動トランスデューサを実現した。

1.6 ボディソニック技術開発の進展

 ボディソニック専用振動トランスデューサは、次世代のボディソニックの研究開発を加速した。椅子形の他、クッションやシート状のもの、床全体を駆動する方式、車載用、ベッド形式など、さまボディソニック・トランスデューサ各種ざまな形態、用途の製品が生み出されていった8)
 技術面でもさまざまな開発がなされ、最も基本的なデバイスである振動トランスデューサも、左の写真に示すように、非常に小型なものから、大形で強力なものまで多数開発され、各種の用途に対応が可能となっていった。
 また、トランスデューサを駆動する電気系も、単にオーディオ信号を入力すればよいわけではなく、種々な信号処理を必要とする。それは、トランスデューサの性能、振動系の性能に対応し、人間の体感音響振動心理・生理に合わせるためである。しかし参考となる資料や文献はほとんど無く、ひたすら実験と試行錯誤の繰返しであった。
 トランスデューサの開発は、その性能を引出す振動伝達系の開発を必要とし、それに見合った電気駆動系の開発を必要とする。そして、それは人間の振動心理・生理に新たな経験とインパクトを与え、それが新たなアイディアを生み、電気駆動系にフィードバックされて新しい信号処理技術ができる。
 するとそれが振動伝達系の改良を迫り…と、まるでいたちごっこのような試行錯誤と開発の繰返しの中で、電気駆動系の信号処理技術が開発され、各種用途向けの専用ICも多数開発された。
 そして各種用途に合わせた多数の体感音響用AMPが製品化された11)。それらの各種ボディソニック用アンプを右の写真に示す。さらに、パイオニア(株)より発売されているコンシュマユースをはじめ、ホンダ・シティ、ニッサン、ダイハツ、トヨタに採用され、車載用ボディソニック8)も製品化された。
 このような経過をたどりながら、ボディソニックの技術が開発されていき、受容的音楽療法への応用も可能となり、1986年頃から音楽療法への効果が注目されて、多くの研究・報告がなされるに至った。

2.学術面からのアプローチ

2.1 ベルボ・トナル・メソッドとの接点

 1980年、ベルボ・トナル・メソッドの創始者として知られる、ザグレブ大学音声学研究所・ペタル・グベリナ教授が来日し、触振動覚を利用した言語リハビリテーションの立場から、わが国のボディソニックの椅子に注目し、それを例にしながら講演をした12)。このことが後に、言語リハビリテーション分野で体感音響技術が応用13-17)される契機となった。

2.2 日本バイオミュージック研究会の発足と音楽療法への適用

 1980年代前半、私的な報告で、ボディソニックのリラクセーション効果、老人痴呆への効果、褥瘡への効果なども指摘された。
 1986年、音楽の全人的な医療に於ける評価・研究、音楽の生体に及ぼす生理学的・心理学的効果の科学的な研究を目指した「日本バイオミュージック研究会」が日野原重明・聖路加看護大学学長らによって組織され、日野原重明氏が会長に就任した。日本バイオミュージック研究会は発足当初、医師や看護婦などの医療関係者が比較的多かったのも、この研究会の特徴であった。
 1986.3.31に発行された日本バイオミュージック研究会の創刊号会報の中で、日野原会長は“日本バイオミュージック研究会発足に当たって”と題し、研究会の意義や目標を述べながら、研究の進め方についても次のように触れ『「研究には方法論がないと、なかなかできない訳ですが、幸いにもボディソニック?という体感音響システムが開発されたので、それを試験的に使いながら若干の研究をして参りました。これによって侵襲を与えることなしに一般の人々に、またベッドに横たわっている患者の全身を音楽で包むことによってそこに大きな生理学的な変化が出現するということが判って参りました。そこでこれらの音楽が心と身体に与える影響を研究してみたいと考えています』と述べている。
 ここで注目されるのはボディソニックによる音楽療法が「大きな生理学的な変化が出現する」としていることである。それを証明するように同年、日野原会長らは「不安定高血圧治療における体感音響システムの効果」を発表18)し、生理的効果が顕著であったことを指摘した。
 こうして、医療関係者が音楽療法に取り組むようになり、医学の広い領域で多くの研究・臨床報告がなされた。これらはバイタルサインや医学的裏付けを重視した研究・臨床報告が多く、それは従来の音楽療法とはかなり異なる領域であり、メディカル・ミュージックセラピーとでも呼ぶような新しい音楽療法の領域が形成されつつある19)ようにも見えた。
 ハードウエア(ボディソニック)の開発はわが国の方が早くから行なわれたが、音楽振動の音楽療法的な利用は、欧米と日本でほぼ同じ時期に起っているのは興味深い。
 尚、日本バイオミュージック研究会はその後1991年12月に日本バイオミュージック学会となり、2001年4月、臨床音楽療法協会と日本バイオミュージック学会が合同し「日本音楽療法学会」になった。

3.副作用が少なく効果の高い“ボディソニック”

 学術面へのアプローチのためには、より高度な性能が求められる。体感振動は単純に付与すると、あるパーセンテージで悪心(吐き気)などの副作用が起る。これらの副作用を避け、心地よいリラクセーション感を得るためには、下記に述べる細心の配慮が必要である。
 同じ振動でもその目的、身体への駆動部位、駆動の仕方の違いによって、その効果は大きく異なってくる。副作用のない心地よい振動感の得られる“ボディソニック”を作ることによって、音楽療法で高い効果を示すことを可能にした。以下に述べることは筆者が膨大な実験・研究の中から見いだしてきたものである。

3.1 吐き気を催さない体感振動の付与方法

 体感振動の場合、リラクセーションや陶酔感など心地よさが重要であるが、局所的な振動では心地よさを得にくい(陶酔感、リラクセーション感が得られにくい)。この場合は全身的な振動ほど心地よく、陶酔感、リラクセーション感がもたらされる。しかし全身的な振動であっても、振動分布が均一な振動は吐き気を催すことがあり、あるパーセンテージの人が顕著にこの傾向を示す。特に胃の後辺りを振動駆動すると吐き気を催す確率が高くなる。
 振動分布の要所は、ヒトの官能特性に合わせて、肩、腰、座部、膨らはぎ、足部に、あるバランスで振動分布を構成し、振動は均一ではなく濃淡があるようにする。しかし濃淡がありながら、体感者が“全身的である”と感じるようにすると高い効果が得られる。胃の後の振動駆動は避ける。
 ボディソニックは、こうしたことに細心の注意を払うことによって、心地よい振動感、リラクセーションの効果を実現している。図2〜4にボディソニックのトランスデューサの配置の1例50)を示す。用途によりトランスデューサの配置が異なるのは、ベッド、椅子などの構造が持つ物理的振動特性の違いによる。良い効果を得るためには高度なノウハウを必要とし、音楽振動(体感音響振動)を適切に付与することが重要である。ボディソニックトランスデューサは全て SCP-6018 を使用している。
  
 ボディソニックにおいては、このような振動分布を構成することによって、吐き気を催すことがなく、心地よい振動感、リラクセーション感が得られるように設計されており、長時間使用しても問題がないようになっている。

3.2 音楽の特性に合わせた信号処理

 体感振動に必要な約150Hz以下の周波数成分は、音楽の種類、楽器編成、録音状態などさまざまな違いにより、大きなレベル差が生じる。バスドラムやエレキベースなどを使用するポピュラー音楽では、比較的十分な低音成分が得られ易いが、アコースティック楽器を使用するクラシック音楽では、体感振動として使用可能な低音成分レベルの低い場合が多く、十分な体感振動の効果を出しにくい場合が多い。このように音楽を使用して体感振動を得る場合は大きなばらつきが出てくる。
 また、ポピュラー音楽などに於けるバスドラムの音は、ずば抜けてピークレベルが高く、これに振動レベルを合わせると他の楽器の振動レベルが低くなり過ぎる。他の楽器で適当な振動レベルにすると、バスドラムのピークレベルでアンプが飽和し歪みが発生する。歪みが発生しないようにするにはアンプのパワーを上げれば良いが、振動出力強度が過大になりやすい。過大な振動出力は人体に有害であり副作用を引き起こす虞が出てくる。
 こうした問題を解決するために、音楽信号を適切にイコライジング処理した後、レベル圧縮回路で音楽の種類などの違いによる低音レベルの差を圧縮し、リミッタ回路によってバスドラムなどの高いピークレベルを押さえる。そして適切な特性を持つ低域通過フィルタにより低音成分を取り出す39)。ボディソニックにおいては、このような信号処理によって、音楽の種類などによるばらつきを押さえ、副作用を起こすこともなく、より良い体感振動の効果が得られるように設計されている。
 更に必要によっては、音楽信号からいくつかのパラメータを抽出し、そのパラメータによって振動信号を合成するシンセサイザ方式の信号処理も行なわれる。
 以上に述べたような振動構造と信号処理によって、ボディソニックは吐き気などの副作用がなく、心地よい適切な振動レベルで高い振動効果を実現し、音楽療法で高い効果を示すことを可能にしている。これらがVA療法(振動音響)の装置とは異なる点である。
 
   リンク  ボディソニック プロセッサ 音楽用信号処理回路 編
         オーディオ信号から ボディソニック用の振動信号を得る信号処理回路技術

4.医療・受容的音楽療法用ボディソニックの開発

 このようにしてボディソニックの技術が開発されていき、受容的音楽療法への応用も可能になり、音楽療法への効果が注目されて多くの研究・報告がなされるに至った。
 医療・受容的音楽療法用の製品は1986年頃から開発されはじめ、ボディソニック・リフレッシュ1カプセル椅子方式、ベッドパット方式、外科手術台用、分娩台用、人工透析椅子用、献血台用、歯科診療装置用、医療ベッド用なども作られた。以下にそれらの製品例を示す。

カプセル椅子形
 ボディソニック・リフレッシュ1

 音楽療法用として心療内科領域での臨床例が多い。
 リラクセーション用としても使用されている。

医療用ボディソニック・ベッドパッドシステム




医療用ボディソニック・ベッドパッドシステム

 マットレスの上にボディソニック・ベッドパッドを敷くとボディソニック・ベッドになる。枕の部分に専用スピーカがセットされている。人工透析、外科手術前後の不安や痛みの緩和、ターミナルケァ、ストーマケァなど、多くの領域で音楽療法用に使用されている。


ボディソニックを搭載した外科手術台





ボディソニックを搭載した外科手術台

 ボディソニックを搭載した外科手術台での術中写真。局所麻酔手術の場合、意識がハッキリしているので緊張や不安がつのるが、ボディソニックによって不安や緊張を緩和する。右側の台の上にボディソニックAMPが見える。写真は、済生会横浜市南部病院・手術室。


人工透析椅子用ボディソニック・パッド




人工透析椅子専用・ボディソニック・パッド

 人工透析は4〜5時間掛かり、週2〜3回行なう。ボディソニックを使用することによって、QOLの向上、不快感の緩和、スムーズな透析などの効果がある。写真は、聖路加国際病院・人工透析室。


ボディソニックを搭載したドナーチェア




ボディソニックを搭載した献血台

 献血者への負担の軽い合理的な、成分献血が行なわれるようになったが、採血時間が1時間ほど掛かる。献血者がより快適に献血できるようボディソニックが搭載されている。ボディソニックを採用してからスムーズに採血できるだけでなくVVRもゼロとなった。写真は日本赤十字社北大阪血液センター。


ボディソニックを搭載した歯科診療装置






ボディソニックを搭載した歯科診療装置

 歯科と言うと痛みを思い出す人が多い。ボディソニックにより、痛み、緊張、不安などを緩和して快適な治療が受けられる。モリタ製作所製。

 

 なお、受容的音楽療法への適用、臨床例などの紹介は、このサイト内にある他のファィルを参照されたい。

5.高性能 振動トランスデューサ Vt7, Vp6 の開発

 1998年に筆者は20Hzまで再現可能な高効率、高性能な振動トランスデューサ・Vt7 を開発した。振動トランスデューサ・Vt7 の開発は、ボディソニックの開発に新たなインパクトを及ぼし、Vt7を搭載したボディソニックが、アイ信、ソニー、オムロン、リビングテクノロジー、松下電工その他で製品化された。ベッドではシモンズから製品化されている。

                振動トランスデューサ Vt7

 
 2001年に筆者は更に20Hzまで再現可能な小形、高効率、高性能トランスデューサ・Vp6 も開発した。Vp6は薄い小型の振動トランスデューサで新たな分野への開発を可能にし、Vp6を登載した人工透析用の体感音響ベッド、およびベッドパット、透析チェアがGETWELLから製品化された。介護用の体感音響ベッド、およびベッドパットがバイジックコーポレーションから製品化されている。

                    振動トランスデューサ Vp6

 

 これらの詳細については、このサイト内にある  ボディソニックと振動トランスデューサ その応用製品例20) のファイルを参照されたい。

 下の写真に Vt7  Vp6 を搭載した、各社のボディソニックの製品例を示す。


             
    ソニー アクティブソニックチェア          リビングテクノロジー サウンドキュア

          
      オムロン リラクセーションチェア           アイ信 L VIbSICチェア

            
       松下電工 フィールビート     バイジック・コーポレーション ベッドパッド VBP-10S


               
            タチエス 人工透析椅子 Getwell Vibromusic System

おわりに

 1960年代まで遡って、ボディソニックの技術開発の歴史的背景、経緯などについて概観を試みたが、今後注目すべきテクノロジーとして “音楽振動醸造・熟成”  “振動効果装置”  “振動音楽” などの領域があげられる。これらに関しては、このウェブサイトにある
 音楽振動醸造・音楽振動熟成のテクノロジー 
 振動効果装置   振動効果装置に至る体感振動の概念と技術の変遷
 振動音楽と感性振動  ボディソニック プロセッサ 映画DVD用 信号処理回路 編
                         などのファイルを参照されたい。

参考文献

1)五十嵐一郎:重低音再生の興味ある実験:20〜40C/S床に伝える
  ラジオ技術 1963, 4月号 P60-65
2)永見 勝:ステレオ再生スピーカシステム 特公昭44-21697
3)小松 明:壁全体が音源となる新しいSP、エコニック・サウンドトランスデューサ
  無線と実験誌 1970,1月号, P136-139
4)小松 明:面音源を実現させた新しい振動ユニット、エコニック・サウンドトランスデュ
  ーサの特徴と性能 ラジオ技術誌 1970,4月号, P251-254
5)小松 明:壁自体が音源となる 4チャンネル音場再生に適したボード・スピーカについて
  無線と実験誌 1971, 3月号, P123-128
6)小松 明:音作りの新しい可能性を示す 全面的に改良された GTボードスピーカ
  ラジオ技術、1971年3月、P265〜269.
7)小松 明:ヘッドホンとの併用で重低音を体験できる、オーディオ・クッション/ディス
  コターボとは?(ボディソニック MODEL24)  ラジオ技術誌 1978,4月号, P268-270
8)小松 明:身体で聴く音響装置、ボディソニック・システム
  日本オーディオ協会誌 (JAS JOURNAL) 1981,Vol, 21 No.6, P54-60
9)小松 明、佐々木久夫[編]:音楽療法最前線増補版 人間と歴史社 1996.12
10)山田恭太:ボディソニック・ミュージック・チェア MC-1000の紹介
  無線と実験誌 1977,7月号, P207-210
11)小松 明:ボディソニック・システム
  日本バイオミュージック研究会誌 1987 Vol.1 P93-104
12)ペタル・グベリナ、北原一敏、内藤史朗:話しことばの原理と教育
  −言調聴覚法の理論− 明治図書出版 1981, 9月
13)増田喜治、小松 明:リズム教育を重視したLLシステムの設計と実践
  語学ラボラトリー学会、第29回(筑波) 1989, P29-31
14)鈴木 薫、安藤 直:ボディソニック・システムの外国語習得への利用
  愛知女子短期大学研究紀要 第26号 人文編 1993,3月,P93-P103
15)小松 明、小圷博子:低周波数と触振動覚を活用した聴き取りと発話の訓練(第1報)
  第12回、日本言調聴覚論協会 1993,7月 拓殖大学(高尾)
16)木村政康:振動器を活用した音声聴取と発音指導
  語学ラボラトリー学会(LLA) 第35回全国研究大会発表要綱、1995/7 P157〜159
17)後藤慶子:振動器を構音訓練に用いた口蓋裂児の1症例
  日本聴能言語学会 第21回学術講演会予稿集,1995/6, P74
18)永田勝太郎、日野原重明:音楽療法の研究(第1報) 不安定高血圧治療における体感音
  響システムの効果 心身医学26 1986
19)座談会「健康と音楽(2)」 −健康科学、予防医学的視点から音楽療法を考える−
  出席者:筒井末春、吉川昭吉郎、山田恭太 司会:小松 明
  日本バイオミュージック学会誌 1994,6月 Vol.11, P45-52
20)小松 明:体感音響装置と振動トランスデューサ Vt7, Vp6 体感音響装置VISICによる
  5.1ch再生DVDチェア 日本オーディオ協会誌 JAS journal 2002年 Vol.42, No.3, P9-13
21)Tony Wigram, Chryl Dileo(編著)、小松 明(訳著):振動音響療法 人間と歴史社刊
  2003.3.31


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