体感音響研究所


日本における
音楽振動の利用状況








ボディソニックの技術開発
ボディソニックの研究


 

  bodysonic laboratory



 日本における音楽振動の利用状況  序 章  第1章  第2章  第3章  第4章


第1章 ボディソニックによる受容的音楽療法  

歴史的経緯と受容的音楽療法の臨床例、聴覚振動心理 ・生理  

 

体感音響研究所 小松 明  

 

  ボディソニックを搭載した外科手術台による
  局所麻酔・術中写真
   済生会横浜市南部病院

はじめに

 我が国のボディソニックによる音楽振動を採り入れた受容的音楽療法への応用は、心療内科領域1-12)、老年医学領域13)、末期医療領域14)、人工透析15-18)、成分献血19-20)、外科領域21-23)、ストーマ24) 、歯科25) 、産科26) など、医学の広い分野で多くの研究・臨床報告がある。それらの臨床例を見ると、音楽の癒しによる患者の不安やストレスの緩和が、症状の改善に良い効果をもたらしている例が多い。末期医療の臨床例では、モルヒネを主とする薬物投与量の減少、便秘の改善、褥瘡発生の回避なども指摘されており、音楽振動が持つ独特の生理的効果として注目される。また、障害児への応用27)や誘眠の効果28-29)などの報告もあり、基礎研究的な報告30-33)も行なわれている。

 欧米で行なわれている“振動音響療法”“体感振動療法”に対応する装置は、わが国では“ボディソニック”と呼ばれている。こうしたことから、ここでは“ボディソニック”と記すことにする。“ボディソニック”の振動発生方式はスピーカではなく“振動変換器”に依る“体感振動”方式の1種である57)
 また、わが国では“振動音響療法”“体感振動療法”に対応する言葉は使用されておらず“ボディソニックによる受容的音楽療法”として捉えられてきた。その違いは装置の性能の違いとともに、歴史的な生い立ちの違いに関係があるように思われる。欧米では最初から“療法”として発展してきたが、これに対してわが国では“オーディオ”として発展してきた。
 振動音響療法(Vibroacoustic therapy)については、序章 で紹介をしたが、詳細は、人間と歴史社刊“振動音響療法”(Tony Wigram, Cheryl Dileo編著、小松 明 訳)にゆずる。

1.歴史的経緯

1.1 重低音再生と体感音響振動

 オーディオファン、オーディオ専門家やオーディオ技術者が比較的多かったわが国では、重低音再生の変った試みもされていた。そうしたものの1つに、1963年、五十嵐氏による「20〜40C/S振動を床に伝える」重低音再生の試み34) が行なわれた。振動の発生はウーハ(低音専用スピーカ)を使用していた。
 1966年頃、ソニーの永見氏は3Dステレオ再生方式のスーパーウーハを、ソファ座席の下の空間をエンクロージャとして使用することにより、150Hz以下の低音再生とともに、体感振動がソファを通じて伝わることにより重低音感の効果を高める試み35)をした。

1.2 振動変換器の開発と体感音響振動

 1960年代から70年代にかけて筆者は、壁、天井、床面など振動可能な板面を直接振動させ、壁や天井全体から音響再生をする、エコニック・サウンドトランスデューサ36-37)、GTボ−ドスピーカ38)などを開発、製品化した。これらのトランスデューサは、動電形の電気−機械振動変換器であり、本来の音響再生の他、大学研究室などで特殊な研究用として使われるなど、思いがけないような分野でさまざまな実験や応用を促した。後にボディソニックの開発に当たり、このトランスデューサが重要なキーテクノロジーとなった。
 1970年代初期の頃、筆者はこのトランスデューサを利用して、床面から音響再生を行うことによって重低音感を増す試みや、トランスデューサを取りつけたベニア板製のパネルの上に乗ったり、椅子を載せて座ることにより重低音感や臨場感を増す試みなどを行った。
 このように体感音響振動を取り入れた考えやテクノロジーは割合早くから開発されていたが、ボディソニックを具体的に製品化する重要なきっかけとなったのは、次に述べる糸川英夫博士の提言による。

1.3 糸川英夫博士の提言とボディソニック・システムの開発

 1972年、糸川英夫博士(ロケット工学の権威でチェリスト)はボーンコンダクション理論によって次のような提言39)を行った。『楽器を演奏する人は、弦楽器でも管楽器でも2つの音を聴いている。1つは空気中を伝わってくる音波である。もう1つは、楽器をもつ手、抱えている身体を通して、直接振動として伝わり、聴覚系伝播されるものである。音楽の中で、聴く人に真の恍惚感を与えるのは、この直接振動として伝わるボーンコンダクションの方である。バイオリニストが顎に楽器を抱えて陶然と自分の弾く音に浸っているのは、顎の骨にバイオリンの表裏板から直に伝わる振動音・ボーンコンダクションの音を聴いているためである。古典音楽がヨーロッパで発展したのは、貴族社会の中の小さい室内で、チャンバーミュージックという名がつけられた通りである。楽器の振動が床板を伝わり椅子の足を通して座っている人の腰にまで減衰しないで伝達するゾーンである。音楽が大衆化し大ホールが現れたときにこちらは棄てられ、空気中を伝わる音波だけの音楽になった。レコードが生まれ、エレクトロニクスが登場したときにも音波だけの音楽になりきり、ボーンコンダクションは忘却の世界に置き去られた。ディスコなどで物凄い音響を出し、ドラムが桁外れの音を出すようになったのは、若い人達が本能的にボーンコンダクションを現代に復活させようとする1つの試みである。ボーンコンダクションはそれに気づけば再現は可能である。ボーンコンダクションをステレオに付けるべきである』。

 この提言を受けて数社がボディソニックの開発に取り掛かり、振動の発生には低音用スピーカが使用された。これらの状況は1970年代中頃の特許文献に多数見ることができる。しかし振動の発生手段としてスピーカを使用することは、振動発生に付随する発音が大きくなる弊害や、装置が大型化するなどの問題があり、これらはわが国の住宅事情その他に合わなかったので製品化は成功しなかった。
 こうした中で、その最も強力な推進者となったのは、パイオニアの創業者、故・松本望会長であった。松本会長の鋭い直感力はボーンコンダクション理論の卓越さと可能性を見通していた。筆者はトランスデューサの技術・ノウハウ、特許などを持つことから、松本会長に手繰り寄せられ、ボディソニックの開発に関わることになった40)。松本会長はボディソニック社を設立して1976年、最初の製品を世に送り出した39)40)。この製品は振動の発生に、スピーカではなく動電形のトランスデューサ(電気−機械振動変換器)を使用したボディソニックであった。しかし体感振動を付加したこの製品は当時のオーディオファンには理解されず、当初は商業的には苦難の道を歩むことになった。

1.4 ボディソニックの技術開発

 ボディソニックの研究開発はその後も休むことなく続けられ、椅子形の他、クッションやシート状のもの、床全体を駆動する方式、車載用、ベッド形式など、さまざまな形態、用途の製品が生み出されていった39)
 技術面でもさまざまな開発がなされ、最も基本的なデバイスであるトランスデューサ(電気−機械振動変換器)も、非常に小型なものから、大形で強力なものまで多数開発され、各種の用途に対応が可能となっていった。
 また、トランスデューサを駆動する電気系も、単にオーディオ信号を入力すればよいわけではなく、種々な信号処理を必要とする。それは、トランスデューサの性能、振動系の性能に対応し、人間の体感音響振動心理・生理に合わせるためである。しかし参考となる資料や文献はほとんど無く、ひたすら実験と試行錯誤の繰返しであった。
 トランスデューサの開発は、その性能を引出す振動伝達系の開発を必要とし、それに見合った電気駆動系の開発を必要とする。そして、それは人間の振動心理・生理に新たな経験とインパクトを与え、それが新たなアイディアを生み、電気駆動系にフィードバックされて新しい信号処理技術ができる。するとそれが振動伝達系の改良を迫り…と、まるでいたちごっこのような試行錯誤と開発の繰返しの中で、電気駆動系の信号処理技術が開発され、各種用途向けの専用ICも多数開発された。そして各種用途に合わせた多数の体感音響用AMPが製品化された41)
 さらに、パイオニア(株)より発売されているコンシュマユースをはじめ、ホンダ・シティ、ニッサン、ダイハツ、トヨタに採用され、車載用ボディソニック9)も製品化された。
 このようにしてボディソニックの技術が開発されていき、受容的音楽療法への応用も可能になり、音楽療法への効果が注目されて多くの研究・報告がなされるに至った。

 筆者は1998年、16Hzまで再現可能な高効率、高性能なボディソニック用トランスデューサ、Vt7 を開発した。Vt7を搭載したボディソニックのチェアは、アイ信、ソニー、オムロン、リビングテクノロジー、松下電工その他で製品化された。ベッドではシモンズから製品化されている。
 また、2001年には20Hzまで再現可能な小形、高効率、高性能トランスデューサ Vp6 も開発し、Vp6 を登載した人工透析用の体感音響ベッド、およびベッドパット、透析チェアがGETWELLから製品化された。介護用の体感音響ベッド、およびベッドパットがバイジックコーポレーションから製品化されている。 これらの高性能トランスデューサの開発によって、第2章で述べる“振動音楽”を実現することが可能になった。

1.5 ベルボ・トナル・メソッドとの接点

 1980年、ベルボ・トナル・メソッドの創始者として知られる、ザグレブ大学音声学研究所・ペタル・グベリナ教授が来日し、触振動覚を利用した言語リハビリテーションの立場から、わが国のボディソニックの椅子に注目し、それを例にしながら講演をした42)。このことが後に、言語リハビリテーション分野で体感音響技術が応用43-47)される契機となった。

1.6 日本バイオミュージック研究会の発足と音楽療法への適用

 1980年代前半、私的な報告で、ボディソニックのリラクセーション効果、老人痴呆への効果、褥瘡への効果なども指摘された。
 1986年、音楽の全人的な医療に於ける評価・研究、音楽の生体に及ぼす生理学的・心理学的効果の科学的な研究を目指した「日本バイオミュージック研究会」が日野原重明・聖路加看護大学学長らによって組織され、日野原重明氏が会長に就任した。日本バイオミュージック研究会は発足当初、医師や看護婦などの医療関係者が比較的多かったのも、この研究会の特徴であった。
 1986.3.31に発行された日本バイオミュージック研究会の創刊号会報の中で、日野原会長は「日本バイオミュージック研究会発足に当たって」と題し、研究会の意義や目標を述べながら、研究の進め方についても次のように触れ「研究には方法論がないと、なかなかできない訳ですが、幸いにもボディソニック?という体感音響システムが開発されたので、それを試験的に使いながら若干の研究をして参りました。これによって侵襲を与えることなしに一般の人々に、またベッドに横たわっている患者の全身を音楽で包むことによってそこに大きな生理学的な変化が出現するということが判って参りました。そこでこれらの音楽が心と身体に与える影響を研究してみたいと考えています」と述べている。
 ここで注目されるのはボディソニックによる音楽療法が「大きな生理学的な変化が出現する」としていることである。それを証明するように同年、日野原会長らは「不安定高血圧治療における体感音響システムの効果」を発表48)し、生理的効果が顕著であったことを指摘した。
 こうして、医療関係者が音楽療法に取り組むようになり、医学の広い領域で多くの研究・臨床報告がなされた。これらはバイタルサインや医学的裏付けを重視した研究・臨床報告が多く、それは従来の音楽療法とはかなり異なる領域であり、メディカル・ミュージックセラピーとでも呼ぶような新しい音楽療法の領域が形成されつつある49)ようにも見えた。
 ハードウエア(ボディソニック)の開発はわが国の方が早くから行なわれたが、音楽振動の音楽療法的な利用は、欧米と日本でほぼ同じ時期に起っているのは興味深い。
 尚、日本バイオミュージック研究会はその後1991年12月に日本バイオミュージック学会となり、2001年4月、臨床音楽療法協会と日本バイオミュージック学会が合同し「日本音楽療法学会」になった。

2.副作用が少なく効果の高い“ボディソニック”

 体感振動は単純に付与すると、あるパーセンテージで悪心(吐き気)などの副作用が起る。これらの副作用を避け、心地よいリラクセーション感を得るためには、下記に述べる細心の配慮が必要である。
 同じ振動でもその目的、身体への駆動部位、駆動の仕方の違いによって、その効果は大きく異なってくる。副作用のない心地よい振動感の得られる“ボディソニック”を作ることによって、音楽療法で高い効果を示すことを可能にした。以下に述べることは筆者が膨大な実験・研究の中から見いだしてきたものである。

2.1 吐き気を催さない体感振動の付与方法(図1〜3)

 体感振動の場合、リラクセーションや陶酔感など心地よさが重要であるが、局所的な振動では心地よさを得にくい(陶酔感、リラクセーション感が得られにくい)。この場合は全身的な振動ほど心地よく、陶酔感、リラクセーション感がもたらされる。しかし全身的な振動であっても、振動分布が均一な振動は吐き気を催すことがあり、あるパーセンテージの人が顕著にこの傾向を示す。特に胃の後辺りを振動駆動すると吐き気を催す確率が高くなる。
 振動分布の要所は、ヒトの官能特性に合わせて、肩、腰、座部、膨らはぎ、足部に、あるバランスで振動分布を構成し、振動は均一ではなく濃淡があるようにする。しかし濃淡がありながら、体感者が“全身的である”と感じるようにすると高い効果が得られる。胃の後の振動駆動は避ける。
 ボディソニックは、こうしたことに細心の注意を払うことによって、心地よい振動感、リラクセーションの効果を実現している。図2〜4にボディソニックのトランスデューサの配置の1例50)を示す。用途によりトランスデューサの配置が異なるのは、ベッド、椅子などの構造が持つ物理的振動特性の違いによる。良い効果を得るためには高度なノウハウを必要とし、音楽振動(体感音響振動)を適切に付与することが重要である。ボディソニックトランスデューサは全て SCP-6018 を使用している。

 
 ボディソニックにおいては、このような振動分布を構成することによって、吐き気を催すことがなく、心地よい振動感、リラクセーション感が得られるように設計されており、長時間使用しても問題がないようになっている。それは 3.2.2 人工透析 の項で記述される、吐き気、嘔吐の減少の指摘に現れている。

2.2 音楽の特性に合わせた信号処理

 体感振動に必要な約150Hz以下の周波数成分は、音楽の種類、楽器編成、録音状態などさまざまな違いにより、大きなレベル差が生じる。バスドラムやエレキベースなどを使用するポピュラー音楽では、比較的十分な低音成分が得られ易いが、アコースティック楽器を使用するクラシック音楽では、体感振動として使用可能な低音成分レベルの低い場合が多く、十分な体感振動の効果を出しにくい場合が多い。このように音楽を使用して体感振動を得る場合は大きなばらつきが出てくる。
 また、ポピュラー音楽などに於けるバスドラムの音は、ずば抜けてピークレベルが高く、これに振動レベルを合わせると他の楽器の振動レベルが低くなり過ぎる。他の楽器で適当な振動レベルにすると、バスドラムのピークレベルでアンプが飽和し歪みが発生する。歪みが発生しないようにするにはアンプのパワーを上げれば良いが、振動出力強度が過大になりやすい。過大な振動出力は人体に有害であり副作用を引き起こす虞が出てくる。
 こうした問題を解決するために、音楽信号を適切にイコライジング処理した後、レベル圧縮回路で音楽の種類などの違いによる低音レベルの差を圧縮し、リミッタ回路によってバスドラムなどの高いピークレベルを押さえる。そして適切な特性を持つ低域通過フィルタにより低音成分を取り出す39)。ボディソニックにおいては、このような信号処理によって、音楽の種類などによるばらつきを押さえ、副作用を起こすこともなく、より良い体感振動の効果が得られるように設計されている。
 更に必要によっては、音楽信号からいくつかのパラメータを抽出し、そのパラメータによって振動信号を合成するシンセサイザ方式の信号処理50)も行なわれる。
 以上に述べたような振動構造と信号処理によって、ボディソニックは吐き気などの副作用がなく、心地よい適切な振動レベルで高い振動効果を実現し、音楽療法で高い効果を示すことを可能にしている。これらがVA療法(振動音響)の装置とは異なる点である。

3.ボディソニックによる受容的音楽療法の臨床例
  − 音楽による癒しが症状の改善にも効果をもたらしている −

 ボディソニックを使用した受容的音楽療法の臨床例を見ると、治療としてのみならず、音楽の癒しによる患者の不安やストレスの緩和が、症状の改善に良い効果をもたらしている例が多い。そうした臨床例のいくつかを紹介し、その心理的、生理的効果の機序に触れてみたい。

3.1 治療的音楽療法 心療内科領域

 我が国は '80年代、ストレス社会に突入した。企業は急激にOA化を進め、テクノストレスなどが深刻な状況を作り出していた。受験戦争も社会問題になっていた。こうした状況下で、心身症、神経症、不登校児の増加、過労死など、ストレスに起因する病を多発させた。
 心療内科領域での受容的音楽療法の研究・臨床例は、「うつ状態に音楽療法的接近を試みた1例」1)、「うつ症状の治療に音楽療法を併用した1例」2)、「心身医学領域における音楽療法の試み−受動的音楽療法の適用と限界について」3)、「頭頸部の不定愁訴に対して音楽療法を施行した1例」4)、「摂食障害患者の過食衝動に対する音楽の活用の試み」5)、「摂食障害患者に対する音楽療法の試み(2)」7)、「音楽が健常人に及ぼす生理学的変化に関する検討(第1報)」8)、「過敏性腸症候群に対する音楽療法」9)、「在日外国人のストレス管理の一手段としての音楽の活用の試み」10)、「心療内科クリニックにおける音楽療法の試み」11)、高齢者に対する音楽療法の試み」12)など、東邦大学心療内科・筒井教授らの数多い研究・臨床報告がある。また、横浜労災病院心療内科・山本先生の「不登校症例に対する音楽療法の活用」6)も報告されている。方法としては、リラクセーション効果のある椅子形のボディソニックを使用した例が多い。
 東邦大学心療内科では、音楽療法導入前に対象者の状態を十分に把握し、検討した上で、音楽療法が適した患者のみに行われ、治療の目標となるゴールを設定し、治療方針を決定の後に音楽療法セッションを行っている。カウンセリングはもとより、ケースによって自律訓練法、ボディソニック・リフレッシュ1バイオフィードバック療法、薬物投与などと、音楽療法を併用する高度に治療的な音楽療法である。
 心療内科領域での振動音響療法、体感振動療法は、欧米の状況を記した「振動音響療法(人間と歴史社刊)」にも具体的な研究・臨床報告の章はなく、東邦大学でのボディソニックによる受容的音楽療法の研究・臨床報告は、質、量ともに群を抜いており、その業績は高く評価される。



   ボディソニック・リフレッシュ1
     音楽療法用として心療内科領域での臨床例が多い。
     リラクセーション用としても使用されている。
 

3.2 音楽の癒しが症状を改善

 音楽療法は治療的な面だけでなく癒しが重要な意味を持つ。病は生理的にも精神的にも苦痛や不快感を伴うし、医療での手術や内視鏡検査、人工透析なども苦痛や不快感を伴う。こうした医療の場で、音楽の癒しが症状の改善などに良い効果をもたらすことが、以下の項で紹介する臨床例にも表れている。
 成分献血でVVRの発生がゼロになった。人工透析で吐き気、嘔吐が少なくなり、血圧変動が軽減した。ストーマ・ケアで下痢・便秘などの便の性状によるトラブルがなく便のコントロールが得られた。末期医療でモルヒネを主とする薬物の投与量が減少し、便秘の改善と褥瘡の予防効果が指摘されたなど、様々な効果が見られる。
 使用する音楽は演歌もあればクラシックもありで、患者の好む曲を使用する例が多い。また、音楽が趣味の患者の場合に効果が大きいようである。

3.2.1 成分献血

 大阪府赤十字血液センターの小林医師らは、成分献血注1に音楽療法を採り入れ「成分献血における音楽の心理的効果について」19)と、「成分献血における振動を伴う音楽の心理学的効果」20)を報告している。
 上記文献によると、血液凝固因子製剤の国内自給のため成分献血を推進しているが、大きな問題は穿刺を伴った約1時間の拘束である。そこで、ドナー(献血者)が、できるだけ快適にリラックスして採血時間が短く感じられるよう、成分献血用ドナーチェアに特別製のボディソニックを搭載した。
 ドナーは好みの曲を選びボディソニックで音楽を聴きながら成分献血をする。成分献血者から 142名を無作為抽出し、アンケート調査した結果、初回者では 100%、経験者では94%が「好む」と回答している。皮膚温、GSR(指の皮膚電気抵抗)の測定データでも音楽を聴く方がリラックスしていることを裏付けた20)
 オープン採血(学校や企業への出張採血)では、センター採血と異なり、採血環境の条件がよくない場合が多い。ドナーに対する精神的環境がよくない場合にVVR注2などの発生が起こり易いが、ボディソニックを採用してからはVVRの発生がゼロになった19)と報告しており、音楽による精神的環境の改善の効果として注目される。



                ボディソニックを搭載した献血台
                    写真は日本赤十字社北大阪血液センター

3.2.2 人工透析

 大阪府立病院注3人工透析室の表氏らは「血液透析中における音楽療法の試み」15)を報告している。また「大阪府立病院人工透析室での音楽利用」16)でも紹介されている。
 上記文献によれば、音楽療法で精神的に安定することによって吐き気、嘔吐が少なくなり、血圧変動が軽減し、腹痛・倦怠感など愁訴が減少するなどの改善の効果がみられた。
 透析中、愁訴の多い維持透析患者10例について、各患者に医療用ベッドパットタイプのボディソニックを使用した音楽療法を行い、その前後の心理調査・透析経過比較・施行後の患者へのアンケートによって有効性を評価したところ、8例で不安度の改善や血圧変動・不定愁訴の軽減が認められた。
 使用する音楽は病院でも用意しているが、患者に好きなテープを持ってきてもらうのを基本にしているとのことである。
 聖路加国際病院の人工透析室では医療用ベッドパットタイプボディソニックと、特別設計のボディソニック搭載の透析椅子も使用されており、土屋氏らの「慢性透析患者・透析中の音楽併用の試み」や篠田教授の「音楽療法:慢性疾患、特に透析患者への応用」17)が報告されている。

 

ボディソニック搭載の人工透析椅子

  写真は  聖路加国際病院・人工透析室


3.2.3 ストーマ・ケア

 横浜市立市民病院の榎澤氏らは「人工肛門造設患者の術前・術後における精神的、肉体的慰撫の試み」24)で、ストーマ・ケアに音楽療法を採り入れた臨床例の報告をしている。
 上記文献によると、同病院では特製のベッドパットタイプのボディソニックをターミナル患者に用いて、メンタルな面だけでなく、褥瘡の防止、便通の改善に効果のある経験から、人工肛門(ストーマ)造設患者に音楽療法を導入した。
 直腸癌手術で行われる人工肛門造設患者にとって、手術に対する不安や術後のボディイメージの変化は、時にはショックや抑鬱状態を招く。ストーマ受容の困難やセルフケアの自立を阻み、社会や家庭復帰の遅滞をもたらすと考えられる。
 このようなことが予測された患者に、音楽により精神的慰撫をはかる目的でベッドパットタイプのボディソニックを使用した。その結果、音楽と体感音響振動のもたらす効果や、音楽を通じて患者、家族、医療者が疾患以外に共通の話題をもって接することにより、患者は疾患のみに囚われず自分の気持ちを外に発散することができ、精神的安定がはかられた。
 ストーマ・ケアで大きな課題となる下痢・便秘などの便の性状によるトラブルが全くなく、便の出始めから軟便で、やや軟便から普通便の排泄が見られ、便のコントロールが得られてセルフケアの自立も早く、速やかな家庭復帰がなされた。
 人工肛門造設患者にとって、下痢・便秘などの便の性状によるトラブルは切実な問題であるが、それがスムーズであったことは注目される。


        ベッドパッドタイプの 医療用ボディソニック
          マットレスの上に敷くと、ベッドがボディソニックになる。
          人工透析、外科領域の術前術後、末期医療など、さまざ
          まな領域で利用されている。

3.2.4 大腸回盲部切除術と便のコントロール

 便のコントロールでは、筆者自身、大腸回盲部(小腸と大腸がつながる部分)腫瘍切除術で '94年に東京女子医大病院消化器病センターに入院し、小腸の一部と大腸を20センチほど切除したが、ボディソニックの使用によって、排ガス、排便が、周りの患者に比べてスムーズであったことを経験している。
 入院時、秘かに小形のボディソニック・MX-1とCDを30枚ほどを持ち込み使用したが、術後3日目の朝には排ガスがあり、その日の午後には排便があった。
 手術直後の痛みの中ではボディソニックの振動は傷の痛みに響いて使えないだろうと術前に思っていたが、手術直後ほど振動は強い方が苦痛や痛みを和らげた。これは意外で、実際に体験しなければ分からないことであった。

 また聴く音楽が、病状の変化とともに変わっていったことが自身でも興味深かった。手術直後はボディソニックで振動の良く出る音楽。病状の回復とともに聴き馴れた音楽になっていったが、普段聴いている曲でもシェーンベルクなどの現代音楽は退院間際でなければとても聴けなかった。
 この辺りが芸術音楽と癒しの音楽の特質の違いだろう。
 

小形のボディソニック MX-1 入院時に使用したもの
  

3.2.5 末期医療

 横浜市立市民病院の岩谷氏らは「末期患者に対する音楽療法の試み」14)を報告している。この文献によれば ‘90年以来、主として癌末期患者のトータルペインの緩和、QOLの向上を目的として、当時この領域では、まだ前例のなかったボディソニック(医療用ベッドパットタイプのボディソニック)による音楽療法を導入し22例に実施した。
 大方の例で、不安、痛みからくる鬱状態が軽快し、また、全例に便秘の改善、褥瘡(床ずれ)発生の回避が得られた。また、モルヒネを主とする薬物の投与量が減少したことも指摘されている。
 ここには書ききれないが個々の臨床例では、様々な苦しみや葛藤があり、末期医療では音楽による癒しは特に重要である。
 音楽療法を強いて一言でいえば[音楽の機能を利用した心理療法]ともいわれる。不安、痛みからくる鬱状態が軽快したことは心理療法としての効果といえる。モルヒネを主とする薬物の投与量が減少したことは、痛みが緩和されていることを示している。
 しかし、便秘の改善と褥瘡の予防効果も指摘されている事実は、心理療法のみならず、直接生理的効果を及ぼしていると考えられ注目される。
 末期医療という、体動の制限・抑制が持続した期間から見て、当然、仙骨部などに発生することが予想された褥瘡が全く認められなかったこと。便秘の改善が全例に認められたこと。これは体音響装置による音楽の体感音響振動が直接、生理的効果を及ぼしているものとも考えられる。これに関連しては細胞レベルでの効果の示唆54)もある。

3.2.6 外科、歯科

 外科領域では、術前、術後、術中があり、術前では「子宮摘出術を受ける患者の術前不安の緩和・その1」23)および「その2」がある。
 術後では先に紹介した「ストーマケア」24)などがある。前項で紹介した「末期患者に対する音楽療法の試み」14)も癌の手術をしているので術後と捉えることもできる。
 術中では局所麻酔手術時にボディソニックを搭載した外科手術台を使用した「意識下で手術を受ける患者へのボディソニックの導入」21)、「形成外科手術患者に対する音楽療法」22)などがある。


         ボディソニック搭載の手術台による術中写真
                   済生会横浜市南部病院・手術室


 歯科では「体感音響装置(ボディソニック)の歯科領域への応用」25) その他の文献がある。歯科治療や、局所麻酔手術などは全身麻酔と異なり、意識がハッキリしているので緊張や不安がつのる。

 こうした不安、緊張、痛みの緩和に効果がある。


ボディソニックを搭載した歯科診療装置
     モリタ製作所製 スペースライン
 

3.3 臨床例の引用文献について

 いくつかの臨床例を紹介したが、これはあくまでも文献の紹介である。短い文章の中での臨床例の紹介には限界があるし、筆者の知識不足による間違いのあることを恐れている。正確には参考文献の原文を参照されたい。また、臨床例などの文献を引用させて戴いた先生方に深くお礼を申し上げる。

 

4.聴覚振動心理・生理

 今までに紹介した臨床例では、方法としてボディソニックを使用している。ではなぜボディソニックは受容的音楽療法に効果があるのだろうか。

4.1 人間が聴く音の原点は振動を伴っている(意識下に残る胎児期の記憶)

 人間が聴く音の原点は、振動を伴った音を聴いている状態といえる51-52)。声を出している人の背中に触ると、驚ほど声の振動が手に伝わってくる。ドキッ、ドキッと心臓の鼓動も振動として感じられる。このことから、胎児は母親の鼓動や声を、胎内で体感音響振動を伴った音として聴いていることが納得されるだろう。人間の身体は70%ぐらいが水分であり、水や骨は空気よりはるかに振動を良く伝える51)からである。
 母親が健康で情緒が安定している時のリズミカルな鼓動は、胎児に安心感を与える音と振動である。鼓動には1/fゆらぎがある。体感できる音の振動、すなわち体感音響振動が人間に及ぼす効果の最も根源的なことが胎児期の記憶にある。胎児期の記憶につながることは、リラクセーション効果をもたらす。
 母親が発する鼓動や声など胎内音には母親の健康状態、精神状態など、心理的、生理的な情報が含まれている。単なる物理的な振動ではなく「情報を持つ体感音響振動」が胎児に心理的・生理的にさまざまな影響を及ぼす。
 生まれたばかりの赤ちゃんは胎児期の記憶が十分に残っていて、お母さんに抱かれて母親の鼓動や声が振動を伴った音として伝わると安心する。この状態が人間にとって最も心安らぐ、リラクセーションの原点でもあろう。
 人間は成長するにつれて、胎児期のことは忘れてしまうが、意識下には胎児期の記憶が残っており、何かの折に胎児期と同じような状態になると、安心したり快くなったりリラックスする。
 これが「情報を持つ体感音響振動」を伝えるボディソニックによる効果の根源的な要素である。単なる物理的振動であるバイブレータなどとは異なるものである。

4.2 体感音響振動と大脳生理学的視点

 糸川英夫博士(ロケット工学の権威でチェリスト)はボーンコンダクション理論39-41)の中で『楽器を演奏する人は二つの音を聞いている。1つは空気中を伝わってくる音波。もう1つは、楽器から直接振動が聴覚系に伝播されるボーンコンダクションである。音楽の中で聴く人に真の恍惚感を与えるのは、楽器から直接伝わる振動・ボーンコンダクションの方である』と音楽の振動と恍惚感の関係を述べている。この指摘は音楽の直接的な「振動」が、人間の根源的なものに作用することを示唆している。
 恍惚感や陶酔感は高度な知的作業よりも、根源的なものによってもたらされる要素が大きいであろう。これは、知的作業を司る脳の表面の新皮質よりは、脳の内側の古皮質や旧皮質に作用することを意味する。
 古皮質や旧皮質は、生存本能、食欲、性欲、快感、恐怖など、ヒトが生命を維持していく上で最もベーシックな部分を司っている。こうしたことを考え合わせると、音楽の直接的な振動は、ヒトの「生物・動物」としての面に影響力があることを示唆している。
 耳から聴いている音は、論理的な面に訴えてくる要素が多く、脳の最も外側の新皮質の左脳の部分に作用する比率が比較的高い。これに対して体感音響振動は、より右脳的であり脳の内側の古皮質、旧皮質にも刺激を与え、意識下の世界にも影響を及ぼし、より情緒的、官能的、本能的な面に作用し、人間の根源的なものに訴えかけてくる51)ウエイトが高く、生理的効果を持つと考えられる。

4.3 ボディソニック・システム

 ボディソニックとは、糸川英夫博士のボーンコンダクション理論に基づき、音と同時に、音楽の主として低音成分をトランスデューサ(電気−機械振動変換器)によって体感音響振動に変えて、身体に体感させながら、音楽を聴くリスニングシステム39-41)である。
 体感音響振動を伴った音が印象を強め、音楽の感動や陶酔感を深める。また、胎児期の記憶につながることは、リラクセーション効果をもたらす。体感音響振動が生命の根源に訴える。
 受容的音楽療法に於て、スピーカによって音だけを聴かせるのと、ボディソニックによって、音と同時に体感音響振動を付加するのとでは効果の違いがあるのはこのためであるとも考えられる。リラクセーション効果とともに、誘眠の効果28-29)もある。

4.4 体感音響振動と褥瘡の予防効果

 3.2.5項で紹介した末期医療では、22例すべてに便秘の改善、褥瘡発生の回避が得られたことが指摘されている。人間の心理と生理には密接な関係があり相互に影響するので、何処までが心理的効果でどこまでが生理的効果かは明確に区別しにくい。しかし便秘の改善と褥瘡発生の回避(予防効果)などは生理的な効果と思われる。
 体感音響振動の褥瘡などへの予防効果の作用機序についてはまだ明確ではないが、たいへん注目される。
 筆者らは音楽を「情報を持った振動エネルギー」として捉え、1989年に山梨県工業技術センターのワインセンターで、音楽振動を付与したワインの醸造を行った。その結果、発酵期間の短縮、官能テスト、物理的測定データなどで、通常に醸造したワインとの間に有意差が認められた。そして測定データから音楽振動が、水の分子構造に効果を及ぼしている可能性が窺えた53)
 褥瘡は病気などで長期間寝ていると鬱血など、血液循環が悪くなることによって起こるが、人体は70%が水分であり血液はさらに水分のパーセンテージが高い。音楽振動が水の分子構造に効果を及ぼす可能性があるとすれば、体感音響振動の褥瘡への予防効果に示唆する54)ものがあるのではないかとも思われる。このことは、音楽療法(褥瘡発生回避効果)への示唆 に記した。

4.5 痛みを和らげる効果

 ルネッサンス期の音楽療法の記録によれば、坐骨神経痛患者の患部の上でアウロス注4を演奏させ、直接患部に曲の振動を与えて疼痛を軽減させる治療が行われた55)という。現代でも音楽療法の効果のひとつに、痛みを和らげる効果が指摘されている。また、音楽の振動が痛みを和らげる効果は、3.2.4項で紹介した「大腸回盲部切除術と便のコントロール」や「末期医療」「外科、歯科」などでボディソニックを応用した臨床例に見られる。
 3.2.5項の「末期医療」では、モルヒネを主とする薬物の投与量が減少したことが指摘されており、痛みが緩和されていることを示している。

4.6 体感振動(体感音響振動)と触振動覚の相違について

 体感振動については上記のごとく、4.1〜4.6項でに述べた通り、その知覚は右脳的であり生理的である。

4.6.1 触振動覚 (Vibrotactile sensation)

 歴史的には、人が感じる振動感覚は“触振動覚(Vibrotactile sensation)”として捉えられてきた。聴覚障害児(者)の音声言語リハビリテーションなどでは、聴覚の補助手段として音声振動を使用するが、音声の振動は言葉を識別するために左脳で処理される。この場合は話し言葉の振動を、手、指先などに付与するのが、最も振動の言語的弁別能力が高く知覚の感度も高い。こうしたことから、指や手以外の身体に振動を付与することはあまり関心が持たれていなかった。弁別能力は高いが、この方法では体感振動のようなリラクセーションや陶酔感、生理的な効果は得られない。
 こうしたことから筆者は触振動覚と体感振動は区別されるべであるとの立場を取っている。体感振動の概念は新しく、まだあまり一般化していない。

おわりに

 わが国のボディソニックは、高性能な動電形の振動トランスデューサ(電気−機械振動変換器)の使用と適切な振動分布、高度な信号処理技術によって、音楽のみで効果的な体感振動を発生可能な性能を有している。音楽の多様な周波数成分による振動と、適切な振動分布によって、吐き気などを催すことのない(副作用が少ない)ことにより、通常の音楽聴取と同じように、任意の時間聴取することが可能である。
 音楽振動は音楽の旋律、リズム、和声、ダイナミックスなどの音楽の情報を持っており、体感振動と音楽が融合した自然な音楽聴取を可能にするとともに、音楽による体感振動を伴った音が音楽の印象を強め、音楽の感動や陶酔感を深める。こうした効果による音楽の癒しが、医療のさまざまな場面における心身の不安や苦痛の緩和に役立ち、症状の改善にも良い効果をもたらしている。こうしたことが、わが国では、VA療法(振動音響療法)、体感振動療法とは言わずに“ボディソニックによる受容的音楽療法”と捉えられている理由でもあると考えられる。
 それは、VA療法(振動音響療法)が、振動の発生手段としてスピーカを使用し、音楽による振動の不確かさを超えて、30〜120Hzの正弦波の低周波音圧を、治療目的に使用する音楽に混ぜて使用していること。この低周波音圧は特定の症状に特定の周波数を使用していること。特定の臓器、部位に対する共鳴周波数なども使用して非常に高い効果を持つことなどの特長を持つ。その半面、使用に当たっては専門的な注意も必要であること。また、正弦波の低周波音圧を、治療目的に使用する音楽に混ぜて使用するため、低周波音と音楽との干渉(和声的、リズム的干渉による不協和、不自然感)などへの対応も必要であることなどと対照的である。

 このように音楽振動の利用は、欧米と日本では全く別の道を辿ってきたにも拘わらず、欧米と日本でほぼ同じ時期に起っており、医学領域での適用が多いこと、リラクセーション効果が高いこと、生理的効果が高いことなど共通することが多く興味深い。

 以上、わが国の「ボディソニックによる受容的音楽療法」の文献を紹介して概観したごとく、多くの研究・臨床報告がなされており、ここでは紹介しきれない更に多くの文献がある。しかし、ボディソニックによる受容的音楽療法そのものは、医療保険で認められていないことから、日常の医療に採り入れられているものは限られているのが実情である。
 おわりに、臨床例などの文献を引用させて戴いた先生方に深くお礼を申し上げる。


脚 注

注1) 成分献血 血液凝固因子製剤(血液を原料とする医薬品)に必要な血漿と血小板のみを採血し、赤血球をドナーに返す採血方法。普通の全血では一回の採血が200tであるが、成分採血では1000t分に相当する血漿と血小板の採血ができ、しかもドナーの負担が軽く回復が早い26)。

注2) VVR VASOVAGAL REACTION 血管迷走神経反応。採血に伴う副作用として最も頻度が高く、問題となる症状の一つである。採血に対する献血者の心理的な不安・緊張、あるいは採血による神経生理学的な反応の結果として生じる。VVRの症状は多様であり、気分不良、めまい、あくび、顔面蒼白、熱感など軽度なものから、冷汗、悪心、嘔吐、徐脈、呼吸浅薄、血圧低下をきたし、さらに意識喪失、筋拘縮、痙攣、失禁に至るものまである26)。

注3) 大阪府立病院 基幹病院として導入患者や合併症を持つ患者、大きな手術を必要とする難しい患者を扱っているので、患者のストレスの軽減は他の人工透析施設におけるよりも一層重要。3〜6ヶ月の導入期を終え、透析を受容した患者は転院していくシステム。透析を初めて行なう導入患者は、経験がないため不安とストレスが高い。高齢、合併症を持つなどの難しい患者では特に著しい。透析導入期が患者の一生を左右するものであり、導入期を乗り切って安定期に入るまでは患者のストレスを軽減することが非常に重要。

注4) アウロス ギリシャ語でアウロス(aulos)は「笛」を総称する言葉。もともとのアウロスは、古代ギリシャの重要なダブルリード楽器で、突き刺すような激しい音を出した。情動に衝撃的に働き、激情を発生させるとも言われる。アウロスはディオニュソスの祭礼に用いられ、熱狂的、官能的であることを特徴とする(太陽神アポロンの古典的明澄性を象徴する楽器「キタラ」と対照される)。アウロス(笛)をフルートと訳すのは適当でないとC・ザックス56)が指摘している(フルートは繊細な楽器であり、振動の発生には不向き。アウロスのように情動に衝撃的に激情を発生させたりはしない)。

参考文献

1)牧野真理子、坪井康次、中野弘二、筒井末春:うつ状態に音楽療法的接近を試みた1例
  日本バイオミュージック研究会誌 1987, Vol.1, P61-66
2)村林信行、坪井康次、筒井末春:うつ症状の治療に音楽療法を併用した1例
  日本バイオミュージック研究会誌 1988,Vol.2, P62-68
3)平 陽一、村林信行、坪井康次、筒井末春:心身医学領域における音楽療法の試み
  −受動的音楽療法の適用と限界について−
  日本バイオミュージック研究会誌 1989,Vol.3, P31-34
4)村林信行、坪井康次、中野弘一、筒井末春:頭頸部の不定愁訴に対して音楽療法を施行し
  た一例  日本バイオミュージック研究会誌 1990,Vol.4, P49-54
5)牧野真理子、坪井康次、中野弘一、筒井末春:摂食障害患者の過食衝動に対する音楽の活
  用の試み  日本バイオミュージック研究会誌 1990,12. Vol.5 P15-18
6)山本晴義:不登校症例に対する音楽療法の活用
  日本バイオミュージック研究会誌 1990,Vol.4, P29-33
7)牧野真理子、坪井康次、中野弘一、筒井末春:摂食障害患者に対する音楽療法の試み(2)
  日本バイオミュージック研究会誌 1991,8月 Vol.6, P39-42
8)村林信行、坪井康次、中野弘一、筒井末春:音楽が健常人に及ぼす生理学的変化に関する
  検討(第1報) 日本バイオミュージック学会誌 1993,2月 Vol.8, P46-P51
9)村林信行、坪井康次、中野弘一、筒井末春:過敏性腸症候群に対する音楽療法
  日本バイオミュージック学会誌 1993, 5月 Vol.9, P39-42
10)牧野真理子、坪井康次、筒井末春:在日外国人のストレス管理の一手段としての音楽の
  活用の試み 日本バイオミュージック学会誌 1993,12月 Vol.10, P39-P43
11)牧野真理子、坪井康次、筒井末春:心療内科クリニックにおける音楽療法の試み
  日本バイオミュージック学会誌 1994,6月Vol.11, P39~P44
12)牧野真理子、坪井康次、筒井末春:高齢者に対する音楽療法の試み
  日本バイオミュージック学会誌,13:56〜59,1995
13)田中多聞:老人痴呆の映像・音響療法、ボディソニック・ルーム・テラピー、
  CURRENT THERAPY  1987, Vol.5, No.10, P107-111
14)岩谷房子、池田典次:末期患者に対する音楽療法の試み −特にボディソニックベッドパ
  ットの応用− 日本バイオミュージック学会誌 1994,6月 Vol.11, P29-P38
15)表 文恵、田島佳代、吉永徳江、浦出節子、原田美恵子、西村明子、尾副節子、下田俊文、
  春木谷マキ子、黒畑 功、豊中啓尹子:血液透析中における音楽療法の試み
  大阪透析研究会誌 1990,9月,8巻2号 P173-177
16)椿原美治:音楽療法最前線(1) 大阪府立病院人工透析室での音楽利用
  日本バイオミュージック研究会誌 1990,12.Vol.5 P40-43
17)篠田知璋:芸術療法、慢性透析患者への透析中の音楽療法の試み
  日本心身医学会誌(心身医学) 1992,2月Vol.32 第2号, P108-113
18)会田美香、宗美千子、志水哲雄、北村 真、田中進一:透析患者に対する音楽療法
   −フリッカーテストによる透析中の疲労度の検討−
  日本バイオミュージック学会誌 1998,12月Vol.16,No.2 P187~193
19)大国典子、小林芳夫、松本一夫、富田忠夫、小川敏彦:成分献血における音楽の心理的効
  果について −体感音響装置を使用して−
  日本血液事業学会 第13回(熊本) 1989,10月, P75
20)小林芳夫、松本一夫、大國典子:成分献血における振動を伴う音楽の心理学的効果
  日本バイオミュージック研究会誌 1991,8月 Vol.6, P84-87
21)村山正子、小熊由美、梅垣いつみ:意識下で手術を受ける患者へのボディソニックの導入
   −不安の軽減と安楽を考える− 
  日本看護学会、 第20回、成人看護(青森) 1989, P199-202
22)千島康稔、西條正城、吉田豊一、青木文彦、佐々木恵一、清水 調、村沢承子、
  松崎昇一:形成外科手術患者に対する音楽療法 −サーモグラフィーを用いた皮膚温測定
  による評価−  日本バイオミュージック学会誌 1994,6月 Vol.11, P20-28
23)岡光京子、佐藤禮子:子宮摘出術を受ける患者の術前不安の緩和(その1)
  日本看護学会、第19回 成人看護(島根) 1988, P81-83
24)榎澤美紀、角川佳子、岩谷房子、近藤ヨウ子、宮崎加奈子:人工肛門造設患者の術前・術
  後における精神的、肉体的慰撫の試み −体感音響システムの活用−
  日本ストーマ学会誌 1993,12月 Vol.9,No.2,P11-P17
25)黒須一夫、土屋友幸:体感音響装置(ボディソニック)の歯科領域への応用
  日本バイオミュージック研究会誌 1991,8月 Vol.6, P72-83
26)秋山尚美:音楽療法最前線(5) 音楽に満ちあふれた分娩室 −楽しくリラックスした
  出産を−  日本バイオミュージック学会誌 1992,5月 Vol.7, P65-67
27)矢島卓郎:重症心身障害児に対する体感音響装置による音楽療法の適用
  日本バイオミュージック学会誌 1999,6月Vol.17,No.1 P116~125
28)筒井末春:心身症・内科的疾患と不眠
  日本医師会雑誌 第105巻.第11号 1991,6月 FC16-FC18
29)小松 明:音・音楽・振動と眠り −情報を持つ体感音響振動の誘眠効果考察試論−
  「睡眠と環境」日本睡眠環境学会誌 第3巻、第1号 1995.12, P108-116
30)荒井純子、田中ネリ、日野原重明、篠田知璋:健常者におけるボディソニックの影響
   −生体反応観察と自己報告による体験印象−
  日本バイオミュージック研究会誌 1989,Vol.3, P24-30
31)吉川昭吉郎、野毛 悟:人間の知覚に対する音と振動の相補効果に関する研究
  日本バイオミュージック研究会編「音楽療法の実践」 1991,P155-168
32)吉川昭吉郎、野毛 悟、田辺雅英:純音の頭内定位に対する振動の寄与
  日本バイオミュージック研究会誌 1991,8月 Vol.6, P50-54
33)久能弘樹、野毛 悟、吉川昭吉郎:脊柱の振動伝達特性の姿勢依存性に関する検討
  日本音響学会講演論文集 1991,10月,P453-454
34)五十嵐一郎:重低音再生の興味ある実験:20〜40C/S床に伝える
  ラジオ技術 1963, 4月号 P60-65
35)永見 勝:ステレオ再生スピーカシステム 特公昭44-21697
36)小松 明:壁全体が音源となる新しいSP、エコニック・サウンドトランスデューサー
  無線と実験誌 1970,1月号, P136-139
37)小松 明:面音源を実現させた新しい振動ユニット、エコニック・サウンドトランスデュ
  ーサの特徴と性能 ラジオ技術誌 1970,4月号, P251-254
38)小松 明:壁自体が音源となる 4チャンネル音場再生に適したボード・スピーカについ
  て  無線と実験誌 1971, 3月号, P123-128
39)小松 明:身体で聴く音響装置、ボディソニック・システム
  日本オーディオ協会誌 (JAS JOURNAL) 1981,Vol, 21 No.6, P54-60
40)小松 明、佐々木久夫[編]:音楽療法最前線増補版 人間と歴史社 1996.12
41)小松 明:ボディソニック・システム
  日本バイオミュージック研究会誌 1987 Vol.1 P93-104
42)ペタル・グベリナ、北原一敏、内藤史朗:話しことばの原理と教育
  −言調聴覚法の理論− 明治図書出版 1981, 9月
43)増田喜治、小松 明:リズム教育を重視したLLシステムの設計と実践
  語学ラボラトリー学会、第29回(筑波) 1989, P29-31
44)鈴木 薫、安藤 直:ボディソニック・システムの外国語習得への利用
  愛知女子短期大学研究紀要 第26号 人文編 1993,3月,P93-P103
45)小松 明、小圷博子:低周波数と触振動覚を活用した聴き取りと発話の訓練(第1報)
  第12回、日本言調聴覚論協会 1993,7月 拓殖大学(高尾)
46)木村政康:振動器を活用した音声聴取と発音指導
  語学ラボラトリー学会(LLA) 第35回全国研究大会発表要綱、1995/7 P157〜159
47)後藤慶子:振動器を構音訓練に用いた口蓋裂児の1症例
  日本聴能言語学会 第21回学術講演会予稿集,1995/6, P74
48)永田勝太郎、日野原重明:音楽療法の研究(第1報) 不安定高血圧治療における体感音
  響システムの効果 心身医学26 1986
49)座談会「健康と音楽(2)」 −健康科学、予防医学的視点から音楽療法を考える−
  出席者:筒井末春、吉川昭吉郎、山田恭太 司会:小松 明
  日本バイオミュージック学会誌 1994,6月 Vol.11, P45-52
50)小松 明:ボディソニック・システム
  日本バイオミュージック研究会誌 1988 Vol. 2, P76-82
51)小松 明:体感音響振動の効果メカニズム試論  −ボディソニックによる音楽療法の効
  果は何故起こるのか− 日本バイオミュージック学会誌 1992, Vol.7, P28-36
52)小松 明:体感音響装置の振動と低周波振動公害との相違について
   −情報を持つ体感音響振動の有用性についての概念を体系的に捉えるための考察試論−
  日本バイオミュージック学会誌,13:48-55,1995
53)小松 明:《最近の技術》 音楽振動の食品分野への利用の可能性
  −音楽振動を付与したワインの醸造から−
  日本食品機械研究会誌「食品加工技術」 1991,Vol.11,NO.4,P179-P189
54)小松 明:音、音楽を科学する  −音楽振動を付与したワインの醸造から−
  日本バイオミュージック研究会誌 1990,12.Vol.5 P46-54
55)篠田知璋:音楽療法の歴史
  日本バイオミュージック研究会編「音楽療法の理解」1990,P11
56)C・ザックス著・柿木吾郎訳:「楽器の歴史・上」P130、全音楽譜出版社 1965
57)Tony Wigram, Chryl Dileo(編著)、小松 明(訳著):振動音響療法 人間と歴史社刊 2003.3.31

 

ページの先頭に戻る ページの先頭に戻る      

 


Copyright (C) 2003-2017 Bodysonic Laboratory, All rights reserved.