体感音響研究所


日本における
音楽振動の利用状況








ボディソニックの技術開発
ボディソニックの研究


 

  bodysonic laboratory



 日本における音楽振動の利用状況  序 章  第1章  第2章  第3章  第4章


第3章 音楽振動処理による酒類などの熟成促進  
音楽振動熟成、音楽振動醸造のテクノロジー  


小松 明 日本バイオミュージック学会 幹事  

 

 

   聴覚をもたない酒類・食品に
       音楽を聴かせるテノロジー

 

   人間と同じ方法では、酒類・食品に
   音楽は分らないので、効果は期待できない。

 

         写真1 7000リットル日本酒醸造タンクに取り
             付けられた振動トランスデューサ  →

7kg醸造タンクに取り付けられた振動トランスデューサ

はじめに

 平成になった頃から「音楽を聴かせて」造った酒類や食品が新聞や雑誌に紹介され話題をまいた。音楽で味がよくなったり品質が向上するという、ロマンチックで神秘的なイメージの良さが商品価値を高める。
 乳牛に音楽を聴かせると乳が良く出るようになることは、農水省畜産試験場の実験でも 2〜3%の増量が認められている。人間や乳牛には聴覚と大脳があり、音楽を聴くと心理的効果を及ぼすので乳牛の乳がよく出るようになる話も理解できる。
 しかし酒や食品は聴覚も大脳もないので、人間と同じ方法で音楽を聴かせても音楽は理解されず効果は期待できない。「人間も酵母菌も生き物だから、モーツァルトの音楽はきっと良い効果がある」 ともいうが、酵母菌には聴覚も大脳もない。生物学的にみて、ヒトと乳牛とは近いが、ヒトと酵母菌との距離はあまりにも大きい。

 筆者らは、音楽を 「情報を持つ振動エネルギー」 として捉え、それを実現する技術を開発した。そして 1989年90年の2回にわたり 山梨県工業技術センターのワインセンターで試験的に音楽振動醸造を行い好結果を得た1-3)。 醸造過程で得られたデータを示し、その効果メカニズムを考察する。
 また、普通に醸造、瓶詰めされたワインを、振動トランスデューサを取り付けたワインラックに載せて音楽振動を付与する音楽振動熟成を行い、ワインアドバイザーから高い官能評価を得ることができた。

1.酒、食品にも理解できる音楽の聴かせ方

 少し視点を変え、音楽を 「情報を持った振動エネルギー」 として捉えると様々なことが見えてくる。音楽をスピーカによって音として聴かせるのではなく、振動トランスデューサ(電気−機械振動変換器)によって音楽振動に変換して付与するのである(写真1)。
 振動であれば、近年の水の科学でも指摘されている水の分子構造と味、健康4)との関係や、音楽振動による疑似熟成の効果、酵母菌の活動などにも様々な影響を及ぼすことが考えられる。
 音楽には情緒情報などが含まれている。物理的に分析すると、曲によって「周波数スペクトル」や「ゆらぎ」など物理的パラメータが異なる。バイブレータなどの単なる物理的振動とは異なるものである。

2.振動トランスデューサ −酒類・食品などに音楽を聴かせる技術−

 スピーカは「電気−音響変換器」で、入力された電気信号エネルギーを音響エネルギーに変換する。
 これに対して、振動トランスデューサは「電気−機械振動変換器」で、入力された電気信号エネルギーを、機械振動エネルギーに変換し、入力電気信号に忠実な機械振動エネルギーを出力する構造となっている。このため、振動エネルギーを直接タンクに与え、タンク内の酒・食品に伝えることができる。
 スピーカによってこの効果を得ようとすれば、音を介してタンクや液体を振動させなければならない。音は本質的に拡散性があり、エネルギーの大半が四方八方に拡散し、エネルギーを与えるべきタンクには一部分しか届かない。その上、空気の音響インピーダンスと、タンクや酒・食品などとの音響インピーダンスが大きく異なることから、インピーダンスミスマッチングによる、大きなエネルギー損失を生じる。
 このため、雰囲気も何もぶち壊してしまうような過大な音を出しても、なお、十分な効果が得られないことになってしまう。ここに、振動トランスデューサ(電気−機械振動変換器)を使用することの重要性がある(図1)。

           酒や食品には聴覚機能がないので
           スピーカで音楽を聴かせても、効果
           はない。また、うるさい程の音を出し
           ても振動はあまり伝わらない。

 

 

トランスデューサで音楽振動を付与すると
酵母菌の活動が活発になる。水分子が小
さくなり、疑似熟成効果で味も良くなる。
醗酵タンク全体が残響スピーカとなり、魅
力的な雰囲気を醸し出す。

               図1 スピーカで音楽を聴かせたものと、振動トランスデューサで
                   音楽振動を付与したものとの比較

3.音楽振動の音響効果などについて

 振動といっても、ステンレス製の醸造タンクに振動トランスデューサを取り付けて音楽振動を付与していることから、醸造タンク自体がスピーカとなり、雰囲気のある音楽が聴こえる。また、タンクに触れば音楽の振動が手に伝わってきて音楽が酒・食品に及ぼしている効果が感覚的にも実感できる(図1)。理論的にも雰囲気的にも感覚的にも、この方式が酒や食品に音楽を聴かせるのに最もふさわしい方法といえよう。

4.音楽振動を付与したワインの醸造(音楽振動醸造)

 音楽振動を付与したものと、しないものとの比較醸造(89年産葡萄)を山梨県工業技術センターのワインセンターで行った。
 図2に示す200リットル発酵タンク2基を使い、一方のタンクにトランスデューサを取り付け音楽振動を与え、もう一方のタンクには付けずに、発酵の比較実験を行った。同一果汁を二分し、発酵も同一の部屋で行い、温度などの条件を同じになるようにした。ワイン醸造諸元を表1に示す。
 発酵中は温度と糖度を測定比較したところ、音楽振動を与えた方が糖のアルコールへの転化率が 2.5%上昇し、発酵日数も2日間短縮された。瓶詰して半年間ねかせた後、試飲、官能テストをしたところ、以下のような評価を得た。
 
 1.辛口(ドライ)の白ワインである。
 2.香りがたかく芳醇である。
 3.白ワインの黄金色がよくでている。
 4.のどごしが、すっきりしている。
 5.気品のある味と香りである。
 6.音楽を聴いて醸造されたというロマンチックな
   ストーリー性がある。

 図2 醸造タンクへ振動トランスデューサ
     の取り付け状況図


 

表1 音楽振動醸造ワイン 諸元  

 

 1.試験醸造槽

 200リットル  600mmD×780H
 (音楽振動付与も、なしも同容量)

 2.原料葡萄

 甲州種 200Kg (約150リットル)

 3.醸造期間

 12日

 4.使用酵母

 Saccharomices cerevisie W-3

 5.トランスデューサ

 SC-8032 ×4 BODYSONIC

 6.増幅器

 SRA-2400 ローランド

 7.テープデッキ

 RS-B57R テクニクス

 8.使用ソフト

 NUS ART CREATION C
 ODYSSEY STUDIO tm
 Composer T, FUZIHARA

 9.音楽振動付与時間

 30分演奏、30分休止の繰り返し

 10.プロデュース

 NUS ART CREATION C

 11.技術研究

 ボデイソニック(株)研究開発センター

 12.研究・試験醸造

 山梨県工業技術センター・ワインセンター

5.音楽振動醸造ワインの効果メカニズム

 表2の醸造中の測定データの糖度の変化は、発酵時間の経過と共に音楽振動付与の方が糖度が下がりアルコールへの転化率が高い。
 表2の温度変化のデータは、5日目前後で振動付与の方が1℃高くなっている。これは音楽振動を付与した方音楽振動醸造の方が酵母が活発に働いて発酵が盛んに行われていると考えられる。

 

表2 醸造中の測定データ

 

 糖度変化

 

 89年 月/日

  10/31

 11/ 2

 11/ 4

 11/ 6

 11/ 7

  11/10

 振動付与

 21.5

 21.0

 15.8

 12.6

 11.0

 7.8

 振動なし

 21.5

 21.0

 16.2

 13.0

 11.6

 8.4

 

 温度変化

 

 89年 月/日

  10/31

 11/ 2

 11/ 4

 11/ 6

 11/ 7

  11/10

 振動付与

 14.0

 16.0

 19.0

 18.5

 19.0

 18.0

 振動なし

 14.0

 15.5

 18.0

 17.5

 18.5

 18.0

 室  温

 14.0

 15.0

 15.0

 15.0

 17.0

 16.0

 

 表3の醸造後の測定データで、比重は振動付与の方が軽い。アルコール度数は振動付与の方が高い。Ext(糖、酸、グリセロール、鉄、灰分、苦みなどの成分で、Ext の値から2〜3を引いたものが糖度で数値が大きいもの程甘い)は振動付与の方が低く、糖のアルコールへの転化率の高いことを示す。「辛口の白ワインである」との官能評価とも一致する。
 発酵時間は振動付与の方が2日間短縮されている。データは、いずれも振動付与の方が発酵が効率的が高いことを示している。

 

表3 醸造後の測定データ

 

 比重 Ext アルコール 発酵時間(測定 '89年11月)

 

 測定項目

 比重

 Exit

 アルコール

 発酵時間

 水分子の
 大きさ

 振動付与

 0.997

 3.43

 12.56

 10日間

 87.56Hz

 振動なし

 1.002

 4.48

 11.56

 12日間

 92.06Hz

 

   注:分子の大きさの測定は日本電子 JNM-EX270使用
     測定年月 '91年5月9日 測定温度20℃(温度制御測定)

 

 17O-NMR(核磁気共鳴)分光法による水の状態測定では、振動付与の方が水分子集団が小さくなっていることを示し(周波数が低い方が分子が小さい)、音楽振動を付与したものの方が熟成が進んでいると考えられる。このことが官能評価の「香りがたかく芳醇である」「のどごしが、すっきりしている」「気品のある味と香りである」などの味覚表現になって表れたと考えられ、測定データと官能評価がよく一致していると言えよう。この他、発酵時の「湧き」が振動付与と、無しで動き方や早さが異なっていた。
 以上のことから次ぎのようなことが考えられる。音楽振動により水の分子集団が小さくなり、活性化された状態になる。水の密度が高まり分子間に入り込んでいる空気が少なくなって嫌気性の酵母菌の活動が活発になる。音楽振動が酵母菌の細胞分裂を促進することも考えられる。これらによって糖のアルコールへの転化率を高め、発酵期間を短縮した。また、振動による熟成の効果と、水の分子集団が小さくなったことによって味を良くした。
 '89年に引続き '90年産葡萄による醸造でも、ほぼ同様の結果を得ており、この技術には再現性のあることが確認された。

6.瓶詰済みワインへに音楽振動を付与する音楽振動熟成の効果

 普通に醸造、瓶詰めされたワインを、トランスデューサを付けたワインラックに載せ、音楽振動を付与した音楽振動熟成ワインが、ワインの専門家であるワインアドバイザーから高い官能評価を得ることができた。同種、同銘柄のワインを音楽振動付与と無しを比較した評価リポートの主要部の原文を表4に示す。このリポートは醗酵過程だけでなく、熟成や味覚向上などにも効果のあること示す。

 

 

表4 音楽振動熟成 ワインアドバイザー 7名による総合評価リポート


音とワイン

ワインは、数千種、数万種類あるが「育ち方」は人間と一緒である。赤ん坊は、非常にデリケートで
 慎重に愛情をもって育てないと、すぐに病気にかかる。ワインも同様で、この時点の成長が将来性を
 見極める大きな要素となりうる。

幼年期・青年期の人間の成長が、人格を決定づけると言っても過言ではない。ワインについても、こ
 の時代の生育が、性格、性質を決定するだろう。

音楽振動を付与したワインティスティング

 ワインアドバイザーが青年前後のワインを対象に「音の振動とワイン」をテストした。

 

ワインティスティングの条件

全員に、全く予備知識と先入観を与えない。

比較するワインは、同銘柄を同条件の温度・湿度でテストする。

比較するワインは上述の如く、青年期のフレッシュで性質的に素直なタイプをコレクションした。

ワインラックに振動トランスデューサーを取り付け、1週間、モーツァルトの曲で振動を与えた。

赤ワイン

 外 観:色の変化は見られない。

 香 り:大変重要な部分で、空気に触れた時、アロマが少し違っていた。酸味も少しとれ、ブドウの
     香りが少し強く感じられた。

 味  :熱成香(ブーケ)と果実のもつ甘味、フルーティさが感じられる。まろやかな感じ、酸味の
     カドがとれ、バランスが良くなった様子で、スムースに飲める感じがした。

白ワイン

 外 観:赤ワインと同様殆ど変化なし。

 香 り:多分、瓶のうちで少し熟成したと思われて、アロマがクリヤーになりつつある。

 味  :トゲトゲした酸味が少しとれ、ブーケとアロマがバランスよくなり、口当りのよい感じで咽
     ごしがよいという表現がぴったりである。はっきりした酸がバランスよく調和されていた。

 

 青年のワインは、本当に素直で、音を与えたワインは短期間のうちで瓶の中で熟成して酸味・渋み・苦みのバランスがよくなったというのが感想である。赤ワインより、白ワインの方が、クリアーに特色が出て、専門的な表現をするならば、樽香・果実風味・鋼の硬さ、ハッカ・青りんご・ジャスミンの花・アーモンドの香りなどはっきり感じられた。総合的にうまく熟成して、ブドウの香り・味がはっきり出てきている、という感想である。

 


資料提供 (株)日食    

7.音楽振動の物理的特性

 音楽は倍音関係で構成される「楽音」によって、旋律、和声、リズムなど、振動エネルギーとして見ると興味深い特色と可能性を持っている。最近は1/fゆらぎ理論からのアプローチも注目されている。
 音楽を「情報を持った振動エネルギー」として捉え、その物理特性を音響(空気)振動、超音波振動、単一周波数振動、1/fゆらぎ振動、連続波振動、微弱振動エネルギーなどとの比較考察が重要であるが、紙数の都合もあるので他の文献1)3)にゆずる。

8.応用の可能性と課題

 音楽振動が分子レベルで効果を及ぼし、酒類の醸造、熟成の他、発酵、熟成を必要とする食品の品質向上にも役立つ技術を紹介した。日本酒、焼酎、味噌、醤油などには実際の生産に応用され、製品が市場に出荷されている。
 一口に酒類・食品といっても様々なものがあり、それぞれに原料も製造技術も異なる。工業技術として完成して行くためには、各分野の専門家によって研究が進められ、定量化がなされなければならない。各分野の専門家・研究者の参入を切望するものである。           褥瘡発生の回避効果

9.音楽療法 褥瘡発生の回避効果への示唆

 以上に述べた音楽振動醸造、音楽振動熟成の経験から、体感音響装置による褥瘡発生の回避効果に対する示唆があるように思うので、そのことについてふれたい。
 岩谷らの報告5)によれば、主として癌末期患者のトータルペインの緩和、QOLの向上を目的として、体感音響装置(ベッドパットタイプ)による音楽療法を導入し、22例に実施したが、1例も褥瘡の発生がなかったという。末期医療という、体動の制限・抑制が持続した期間から見て、当然、仙骨部などに発生することが予想された褥瘡が全く認められなかったと報告しており、非常に注目される。
 褥瘡は長期間寝ていることによる圧迫やうっ血など、血液の流れが悪くなることにより起こるので、血液の状態とも深い関係があると思われる。人体は約70%が水分であり、血液は更に水分のパーセンテージが高い。水分のパーセンテージが高い点ではワインも同様である。
 音楽振動を付与したワインの醸造が、水の分子レベルで作用していることを伺わせるデータが得られていることは、血液にも何らかの効果を及ぼすことが予想される。音楽振動を付与する体感音響装置による受容的音楽療法の、褥瘡発生回避の効果機序に対して何らかの示唆をするものがあるのではないかと感じている。
 門外漢の素人考えであると、失笑と叱責を受けることは承知の上で、敢えて記した。



       写真2 特製ベッドパットタイプ・医療用体感音響装置
           末期医療、ストーマケアなど、外科領域の術前
           術後に使用され、痛みの緩和、便秘の改善、
           褥瘡の回避など注目される効果が得られた。

 

おわりに

 音楽振動を付与したワインの醸造は、国際デザイン年の事業として実施して下さった山梨県商工振興課デザイン企画担当主事・仲田道弘氏、山梨県工業技術センター食品醸造部長・小沢俊治氏、山梨県工業技術センター・ワインセンターの方々、県関係者の、多大な努力と熱意による成果である。
 山梨県工業技術センター・ワインセンター研究員・荻野敏氏には、ワイン醸造のご教示と貴重な資料とデータの提供を受けた。
 瓶詰済みワインへの音楽振動付与とワインアドバイザによる官能評価は、(株)日食・ワインアドバイザの方々、関係者の方々の尽力によるものであり、貴重なリポートの提供を受けた。
 音楽ワインのプロジェクトを提唱して、総合プロデュースをするとともに、ワイン醸造用音楽「ワインの子守歌」を作曲したヌースアートクリエイション・藤原俊男氏の発想と努力なくしては音楽ワインは生まれなかった。
 また、水の理論は日本電子(株)主任研究員・松下和弘氏から多くのご教示を受けた。皆様に心から感謝し厚くお礼申し上げる。


参考文献

1)小松 明:《最近の技術》 音楽振動の食品分野への利用の可能性
  日本食品機械研究会 食品加工技術 1991,Vol.11,NO.4,P179-189
2)小松 明:〈アメニティ時代の飲酒形態〉音楽振動の酒類への利用
  日本醸造協会誌 1991年10月号 (Vol.86 No10) P745-750
3)小松 明:食品に音楽を聴かせる  ─ 振動エネルギーの効用とテクノロジー ─
  「食の科学」 1995,No203 1月号 P52-62
4)佐々木久夫:魔法の液体〔水〕の不思議
  花も嵐も 1990,4月号 P110-111
5)岩谷房子、池田典次:末期患者に対する音楽療法の試み −特にボディソニックベッドパ
  ットの応用− 日本バイオミュージック学会誌 1994,6月 Vol.11, P29-P38
6)小松 明:音楽(音響)処理によるワインなどの熟成促進 ─ 聴覚をもたない酒類・食
  品に音楽を聴かせるテクノロジー ─ 「生物・環境産業のための非熱プロセス辞典」
  サイエンスフォーラム社   1997, 5 P52-62

 

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