体感音響研究所


酒類 音楽振動醸造







ボディソニックの技術開発
ボディソニックの研究
ボディソニック効果の探求
参考文献リスト

 

  bodysonic laboratory


 

音楽振動醸造・音楽振動熟成の試み  

 

音楽による酒類・食品の品質向上と. 聴覚を持たない酒類・食品に音楽を聴かせる技術  
− 人間と同じ方法では酒類・食品に 音楽は分からない −  

 

       

小松 明

日本バイオミュージック学会

藤原俊男

ヌースアートクリエイション

       

はじめに

 1990年頃から「音楽を聴かせて」造った酒類や食品が新聞や雑誌に紹介され話題になった。また、モーツァルト没後200年の頃には、モーツァルトの音楽を聴かせた日本酒などが数社から発表された。「酵母菌も人間と同じ生き物だから、モーツァルトの素晴らしい音楽は酵母菌にも良い効果を与える」と言うような説明もされていた。パン、乾麺、クッキーなどの食品類でも同様だった。


 

タンクの振動特性の測定・調整作業中

 

7Kg 日本酒醸造タンクに取り付けられた
  振動トランスデューサ SC-8032

 

 「音楽を聴かせて」 味がよくなったり品質が向上するという話は、ロマンチックで神秘的魅力に富んでいる。酒や食品類では 「音楽を聴かせて」 というイメージの良さは、商品価値を高める重要な要素でもある。しかし、理論的裏付けに欠ける、多分にムード的なものではないか、という疑問も残る。
 筆者等は、酒類や食品などに音楽を聴かせる、単なるムード的なものから、サイエンス、テクノロジーへの橋渡しをする新しい試みとして、振動トランスデューサによって音楽振動を付与する音楽振動醸造ワインの試験醸造を、1989年 と 90年 の2回にわたり、山梨県工業技術センター の ワインセンターで行い、好結果を得ることができた1)2)3)10)。醸造過程で得られたデータを示し、その効果メカニズムを考察する。
 また、普通に醸造・瓶詰めされたワインを、振動トランスデューサを取り付けたワインラックに載せ、音楽振動を付与した音楽振動熟成ワインが、ワインアドバイザから高い官能評価を得ることができた。
 音楽を「情報を持った振動エネルギー」として捉え、発酵、熟成などでの利用を示唆するテクノロジーを提起してみたい。

1.酒類・食品にスピーカで音楽を聴かせても効果はない
     − 人間と同じ方法では、酒類・食品に音楽は分からない −

 従来からある、乳牛に音楽を聴かせると乳が良く出るようになる話(農林水産省畜産試験場の実験では2〜3%の増量が認められている)は「牛も気分が良くなれば、乳も良く出るだろう」と分かる気がする。乳牛には聴覚機能と大脳があり、かなり高い知能を持っているからである。
 しかし聴覚機能も大脳も持たない酒類や食品が音楽美学を理解するのか、といえば疑問を抱くのが普通であり、イメージの良さのみが先行し、多分に人間の思い込みによるムード的なもの、理論的裏付けに欠けるものということになろう。生物学的に見ても、人間と乳牛はかなり近いが、酵母菌との距離はあまりにも大きい。知能の高い人間でも、聴覚を失えば音楽は聴くことができなくなる。

2.酒類、食品にも理解できる音楽の聴かせ方

 聴覚機能も大脳もない酒や食品に、人間と同じやり方で音楽を聴かせても駄目である。つまり、酒類や食品にも分かる音楽の聴かせ方が必要である。それには少し視点を変えて、音楽を「情報を持った振動エネルギー」として捉えると様々なことが見えてくる。スピーカによって音波として聴かせるのではなく、音楽を振動トランスデューサ(電気−機械振動変換器)によって音楽を振動に変換し、音楽振動を付与するのである。振動であれば水の分子構造や機能、酵母菌の活動にも様々な影響を及ぼすことが考えられる。
 音楽には 情緒情報とも呼ぶべきものが含まれている。だから曲が変われば 情報が変わる。物理的に分析しても、曲によって 周波数スペクトル や ゆらぎ など、物理的パラメータ が異なることも知られている。従って音楽が変われば及ぼす効果も変わってくる可能性がある。イメージも効果も、バイブレータなどの単なる物理的振動とは大きな違いがある。
 振動といっても、ステンレス製の醸造タンクに振動トランスデューサを取り付けて音楽振動を付与していることから、醸造タンク自体が一種のスピーカとなり、雰囲気のある音楽が聴こえる。また、タンクに触れば音楽の振動が手に伝わってきて、音楽が酒・食品に及ぼしている効果が感覚的にも実感できる(図1)。
 この方法が、理論的にも感覚的にも雰囲気的にも、酒や食品に音楽を聴かせるのに最もふさわしい方法であることが実感できる。

3.酒類、食品などに音楽を聴かせる技術

3.1 振動のテクノロジー

 

 音は聴覚を持つものに対しては有効な「情報」の伝達手段であるが「振動エネルギー」の伝達手段としては適当とは言い難い。空気は音響インピーダンスが低く、音を介して液体や固体に振動エネルギーを伝達するには、インピーダンス・ミスマッチによる損失が大きく、周波数が高くなるほど著しい。
 そのうえ、音は拡散性が高く、多くは目的外の所に拡散し損失となってしまう。図1に示すように、スピーカによって音を出し空気振動を介して酒や食品などに振動を与えようとすれば、雰囲気も何もぶち壊してしまうような過大な音を出しても十分な効果を出し得ないであろう。振動トランスデューサで音楽振動を付与する重要性がここにある。                      (図1)

        酒や食品には聴覚機能がないので
        スピーカで音楽を聴かせても、効果
        はない。また、うるさい程の音を出し
        ても振動はあまり伝わらない。

  

トランスデューサで音楽振動を付与すると
酵母菌の活動が活発になる。水分子が小
さくなり、疑似熟成効果で味も良くなる。
醗酵タンク全体が残響スピーカとなり、魅
力的な雰囲気を醸し出す。

           図1 スピーカで音楽を聴かせたものと、振動トランスデューサで
               音楽振動を付与したものとの比較


 筆者は、1960年代から70年代にかけて、壁、天井、床面など振動可能な板面を直接振動させ、壁や天井全体から音響再生をする、エコニック、サウンド・トランスデューサ4)、GTボードスピーカ5)などを開発、製品化した。
 このトランスデューサは、電気−機械振動変換器であり、本来の音響再生の他、大学研究室などで特殊な研究用として使われるなど、思いがけないような分野で様々な実験や応用を促した。

各種ボディソニック用トランスデューサ

 写真1 振動トランスデューサ 各種

      (電気−機械振動変換器)

 音楽療法に応用されて注目されるボディソニック(体感音響装置)の 開発6) に当ってもトランスデューサが重要な基本技術となった。心療内科領域、老年医学領域、末期医療、人工透析、献血、外科領域、歯科領域など医学分野で多くの臨床報告がある。
 そして、ここに述べる音楽振動を付与したワインの醸造も、振動トランスデューサの技術によるものである。写真1に各種振動トランスデューサの例を示す。動作原理は動電形でオーディオ帯域用として最適であり、音楽信号を忠実に振動エネルギーに変換する。

3.2 ムード的なものからテクノロジーへ

 

 科学的にするにしても「音楽を聴かせて」というイメージの良さによる商品価値の向上は、酒類・食品にとって重要な要素であろう。
 こうした考慮と、最近の水の科学による水の分子構造と味、健康7)との関係や、音楽振動による疑似熟成の効果などの考察を踏まえ、ワインの醸造過程で、スピーカによって音楽を聴かせるのではなく、醸造タンクに振動トランスデューサを取り付け、音楽を「情報を持つ物理的振動エネルギー」に変換して、醸造中のワインに音楽振動を付与する方式により好結果を得ることができた。

4.音楽振動を付与したワインの醸造(音楽振動醸造)
    山梨県工業技術センター・ワインセンターの試験醸造

4.1 音楽振動を付与したものと、しないものとの比較醸造('89年産)

 

 山梨県工業技術センターのワインセンターで、200リットル発酵タンク2基を使い、図2に示すように一方のタンクに振動トランスデューサを取り付け音楽振動を与え、もう一方のタンクには付けずに発酵の比較試験醸造を行った。同じ葡萄から搾った果汁を2分し、発酵も同一の部屋で行い、温度などの条件も同じになるようにした。
ワイン醸造諸元を表1に示す。
 発酵中は温度と、光を利用した屈折計示度計で、1日おきに糖度を比較したところ、音楽振動を与えた音楽振動醸造の方が糖度が低く、糖のアルコールへの転化率が 2.5%上昇していることが分かった。発酵に要する日数も2日間短縮された。瓶詰して半年間ねかせ、試飲、官能テストをしたところ、以下のような評価を得た。
 
 1.辛口(ドライ)の白ワインである。
 2.香りがたかく芳醇である。
 3.白ワインにて語られる 黄金色がよくでて
   いる。
 4.のどごしが、すっきりしている。
 5.気品のある味と香りである。
 6.音楽を聴いて醸造されたという ロマンチッ
   クなストーリー性がある。

図2 醸造タンクへ振動トランスデューサ
の取り付け状況図      

 

表1 音楽振動醸造ワイン 諸元  

 

 1.試験醸造槽

 200リットル  600mmD×780H
 (音楽振動付与も、なしも同容量)

 2.原料葡萄

 甲州種 200Kg (約150リットル)

 3.醸造期間

 12日

 4.使用酵母

 Saccharomices cerevisie W-3

 5.トランスデューサ

 SC-8032 ×4 BODYSONIC

 6.増幅器

 SRA-2400 ローランド

 7.テープデッキ

 RS-B57R テクニクス

 8.使用ソフト

 NUS ART CREATION C
 ODYSSEY STUDIO tm
 Composer T, FUZIHARA

 9.音楽振動付与時間

 30分演奏、30分休止の繰り返し

 10.プロデュース

 NUS ART CREATION C

 11.技術研究

 ボデイソニック(株)研究開発センター

 12.研究・試験醸造

 山梨県工業技術センター・ワインセンター

 

4.2 使用した音楽について

 醸造に使用した音楽は、プロジェクトをプロデュースした藤原俊男作曲のワイン醸造用音楽「ワインの子守歌」である。全曲30分の大曲であり、醸造に適するよう比較的ゆったりしていながら音楽振動の物理的効果を考慮し、周波数帯域も広くなるよう配慮されたシンセサイザによる作品。水のイメージ、神秘的魅力と変化に富んだ優れた作品である。

5.音楽振動とワイン醸造の効果メカニズム

 表2の醸造中の測定データで糖度の変化を見ると、発酵時間の経過と共に音楽振動付与の方が糖度が下がりアルコールへの転化率の高いことを示している。
 温度変化のデータは、発酵が最も盛んに行われていると思われる発酵を始めて5日目前後で、振動付与の方が1℃ぐらい高くなっている。これは音楽振動を付与した方が酵母が活発に働いて発酵が盛んに行われていると考えられる。

 

表2 醸造中の測定データ

 

 糖度変化

 

 89年 月/日

  10/31

 11/ 2

 11/ 4

 11/ 6

 11/ 7

  11/10

 振動付与

 21.5

 21.0

 15.8

 12.6

 11.0

 7.8

 振動なし

 21.5

 21.0

 16.2

 13.0

 11.6

 8.4

 

 温度変化

 

 89年 月/日

  10/31

 11/ 2

 11/ 4

 11/ 6

 11/ 7

  11/10

 振動付与

 14.0

 16.0

 19.0

 18.5

 19.0

 18.0

 振動なし

 14.0

 15.5

 18.0

 17.5

 18.5

 18.0

 室  温

 14.0

 15.0

 15.0

 15.0

 17.0

 16.0

 

 表3の醸造後の測定データで、比重は振動付与の方が軽い。アルコール度数は振動付与の方が高い。Ext(糖、酸、グリセロール、鉄、灰分、苦みなどの成分で、Ext の値から2〜3を引いたものが糖度で数値が大きいもの程甘い)は振動付与の方が低く、糖のアルコールへの転化率の高いことを示す。発酵時間は振動付与の方が2日間短縮されている。
 これらのデータは、いずれも振動付与の方が酵母菌が活発に働き、発酵が効率的に行われたことを示している。官能評価の「辛口(ドライ)の白ワインである」と云う表現とも一致するデータと思える。

 

表3 醸造後の測定データ

 

 比重 Ext アルコール 発酵時間(測定 '89年11月)

 

 測定項目

 比重

 Exit

 アルコール

 発酵時間

 水分子の
 大きさ

 振動付与

 0.997

 3.43

 12.56

 10日間

 87.56Hz

 振動なし

 1.002

 4.48

 11.56

 12日間

 92.06Hz

 

   注:分子の大きさの測定は日本電子 JNM-EX270使用
     測定年月 '91年5月9日 測定温度20℃(温度制御測定)

 

 17O-NMR(核磁気共鳴)分光法による水の状態測定では、振動付与の方が水分子が小さくなっていることを示し(周波数が低い方が分子が小さい)音楽振動を付与したものの方が熟成が進んでいると考えられる。
 このことが官能評価の「香りがたかく芳醇である」「のどごしが、すっきりしている」「気品のある味と香りである」などの味覚表現になって表れたと考えられ、測定データと官能評価がよく一致していると言えよう。この他、発酵時の「湧き」が、振動付与と無しで動き方や早さが異なり、音楽振動を付与する音楽振動醸造の方が動きが早かった。

 以上のことから、仮説 推論ではあるが、次ぎのようなことが考えられる。音楽振動により水の分子集団が小さくなると分子運動が活発になり、活性化された状態になる。水の密度が高まって分子間に入り込んでいる空気が少なくなり、嫌気性の酵母菌の活動が活発になる。音楽振動が酵母菌の細胞分裂を促進することも考えられる。これらによって糖のアルコールへの転化率を高め発酵期間を短縮した。また、振動による熟成の効果と、水の分子集団が小さくなったことによって味を良くした(初めての試みであり、且つ 醸造は専門外、誤りがあればご指摘いただけることを願っている)。

 尚 '89年に引続き '90年産葡萄による醸造は、発酵タンクの大きさを3倍の600リットルにして音楽振動醸造を行ったが、ほぼ同様の結果を得ており、再現性のあることが認められた。

6.瓶詰済みワインへの音楽振動付与効果(音楽振動熟成)

 普通に醸造、瓶詰めされたワインを、図3に示す様なワインラックに載せ、ラックに振動トランスデューサを取り付けて音楽振動を付与した音楽振動熟成ワインが、ワインの専門家であるワインアドバイザーから高い官能評価を得ることができた。同種、同銘柄のワインを音楽振動付与と無しを比較した評価リポートを原文のまま表4に示す。
 この実験リポートは醗酵過程だけでなく、熟成や味覚向上などにも効果のあることを示している。


 

表4 音楽振動熟成 ワインアドバイザー 7名による総合評価リポート


音とワイン

ワインは、数千種、数万種類あるが「育ち方」は人間と一緒である。赤ん坊は、非常にデリケートで
 慎重に愛情をもって育てないと、すぐに病気にかかる。ワインも同様で、この時点の成長が将来性を
 見極める大きな要素となりうる。

幼年期・青年期の人間の成長が、人格を決定づけると言っても過言ではない。ワインについても、こ
 の時代の生育が、性格、性質を決定するだろう。

音楽振動を付与したワインティスティング

 ワインアドバイザーが青年前後のワインを対象に「音の振動とワイン」をテストした。

 

ワインティスティングの条件

全員に、全く予備知識と先入観を与えない。

比較するワインは、同銘柄を同条件の温度・湿度でテストする。

比較するワインは上述の如く、青年期のフレッシュで性質的に素直なタイプをコレクションした。

ワインラックに振動トランスデューサーを取り付け、1週間、モーツァルトの曲で振動を与えた。

赤ワイン

 外 観:色の変化は見られない。

 香 り:大変重要な部分で、空気に触れた時、アロマが少し違っていた。酸味も少しとれ、ブドウの
     香りが少し強く感じられた。

 味  :熱成香(ブーケ)と果実のもつ甘味、フルーティさが感じられる。まろやかな感じ、酸味の
     カドがとれ、バランスが良くなった様子で、スムースに飲める感じがした。

白ワイン

 外 観:赤ワインと同様殆ど変化なし。

 香 り:多分、瓶のうちで少し熟成したと思われて、アロマがクリヤーになりつつある。

 味  :トゲトゲした酸味が少しとれ、ブーケとアロマがバランスよくなり、口当りのよい感じで咽
     ごしがよいという表現がぴったりである。はっきりした酸がバランスよく調和されていた。

 

 青年のワインは、本当に素直で、音を与えたワインは短期間のうちで瓶の中で熟成して酸味・渋み・苦みのバランスがよくなったというのが感想である。赤ワインより、白ワインの方が、クリアーに特色が出て、専門的な表現をするならば、樽香・果実風味・鋼の硬さ、ハッカ・青りんご・ジャスミンの花・アーモンドの香りなどはっきり感じられた。総合的にうまく熟成して、ブドウの香り・味がはっきり出てきている、という感想である。

 


資料提供 (株)日食    

7.音楽振動の物理的特性

 音楽は倍音関係で構成される「楽音」によって、旋律、和声、リズムなど、振動エネルギーとして見ると興味深い特色と可能性を持っている。最近は1/fゆらぎ理論からのアプローチも注目されている。音楽を「情報を持った振動エネルギー」として捉え、その物理特性を他の振動エネルギーと比較考察する。

7.1 音楽振動と音響(空気)振動

 

 音、すなわち空気振動は「振動エネルギー」の伝達手段としては不適当である。空気は音響インピーダンスが低く、液体や個体である酒や食品に振動エネルギーを伝達するには、インピーダンス・ミスマッチによる損失が大きい。このことは周波数が高くなるほど著しい。そのうえ、音は拡散性が高く、多くは目的外のところに拡散し損失となってしまう。
 スピーカによって音を出し、空気振動を介して酒や食品などに振動を与えようとすれば、雰囲気も何もぶち壊してしまうような過大な音を出しても、なお十分な効果を出し得ないであろう。振動トランスデューサで音楽振動を付与する重要性がここにある(図1)。

7.2 音楽振動と超音波振動

 

 振動エネルギーを与える方法として超音波が多くの成果を挙げていることはよく知られている。しかし周波数が高いために 図3に示すような柵に載せた瓶詰されたワインを熟成させるような場面では、途中で振動が吸収されてしまい目的のワインに届かない。柵と瓶との接触面での吸収も大きい。


図3 音楽振動を付与するワインラック

    普通に醸造、瓶詰されたワインをワインラックに
    のせ、ラックにトランスデューサを取り付け音楽
    振動を付与したワインが、ワインアドバイザから
    高い官能評価を得ることが出来た。


 これに対してオーディオ帯域である音楽振動は周波数が低いので柵などのラフな構造のものでも容易に振動伝達ができる。この特性はワインの熟成やさまざまな食品などに振動を付与する場合たいへん有利になる。このことは前記ワインアドバイザによる評価で実証済みである。

7.3 音楽振動と単一周波数振動

 

 単に振動を与えるだけのことであれば振動モータなどによるのが最も簡単で誰もが思い付く方法である。しかしこうして得られる振動は周波数も振幅も一定なものしか得られない。また低い周波数のみで高い周波数は発生困難である。特定の周波数のみでは目的の効果が出ないかも知れない。
 図4に示すように一定の周波数で柵などを駆動すると分割振動による定在波が起り振動の腹は大きく振動するが、節では振動しないことになりムラができる。
 一方「音楽振動」は時々刻々と周波数も振幅も変化するので、振動の腹も節も時々刻々と動き、一定時間後には広い範囲にわたりムラのない効果を及ぼすことができる。これにより、複雑な振動特性を持つ対象物にも広い範囲にわたって対応して効果を発揮する。

  

単一周波数振動 一定の周波数で棚などを振動すると分割振動による定在波が起り、振動の腹は大きく振動するが、節では振動しないことになりムラができる。

図4 音楽振動と単一周波数振動の比較

音楽周波数振動 「音楽振動」は時々刻々と周波数も振幅も変化する。このため振動の原も節も時々刻々と動き、一定時間後には広い範囲にわたりムラのない効果を及ぼすことができる。複雑な振動特性を持つ対象物にも、広い範囲にわたって対応して効果を発揮する。

 

7.4  1/f ゆらぎ振動と連続波振動

 

 船で運んだ酒はうまいといわれる。酒がうまくなったのは波によって揺らされた結果と考えられる。波はある周期性を持ちながらときに大きく、小さく、速く、遅くゆらぐ。酒樽は1/fゆらぎ特性を持った揺れかたをしている。酒は振動によって疑似熟成され味もまろやかになる。
 水の分子集団を小さくしたり、聴覚機能のない植物や菌類、非生物などを対象とする信号源として発振器などの出力は、レベル的にも周波数的にも変化のない連続波である。一方、音楽は時々刻々と周波数もレベルも変化する1/fゆらぎゆらぎ的傾向を持つゆらぎ波である。船で運ばれた酒樽が1/fゆらぎで揺れていることは先に述べた。人間の細胞も、水の分子も1/fゆらぎ現象があることが認められている。変化のない刺激は時間の経過とともに刺激の効果が弱まる。一方、適度な変化を伴った刺激は刺激の鮮度が保たれる8)。 使用する振動刺激として音楽を使用することは意義があると考えられる。

7.5 微弱な振動エネルギー

 

 従来、振動と言えば大きなエネルギーによるドラスティックな効果を追うものが主であった。しかしこうした大きなエネルギーでは逆効果になってしまうような領域が存在し、微弱なエネルギーによってこそ効果が得られる領域があることが分かってきた。ここで取り上げている問題もそうした領域に属するものといえよう。

8.実際の応用と、今後の課題

8.1 実際の生産への応用例 (音楽振動熟成、音楽振動醸造)

 

 音楽振動が分子レベルで効果を及ぼし、酒類の醸造、熟成の他、発酵、熟成を必要とする食品の品質向上にも役立つ技術を紹介した。このテクノロジーは、日本酒、黒糖酒、焼酎、味噌、醤油などには、既に実際の生産に応用されている。

 焼酎や日本酒などが、酒造メーカーで量産化され、音楽振動醸造、音楽振動熟成、音響熟成などの表示で、高い付加価値と、出荷の伸びを記録している。
 マスコミでも何回も取り上げられ話題を呼んだ。
写真2〜6 に焼酎、黒糖酒、日本酒の場合の、実際の生産設備(音楽振動醸造・熟成設備)の設置例と、工事中の様子などを示す。

   

     写真2 30Kg 焼酎熟成タンク

           振動トランスデューサ の
           取り付け工事中。

 写真3 ずらりと並んだ20Kg 黒糖焼酎熟成タンク  右の写真は振動トランスデューサ の取り付け
      作業中。 焼酎は蒸留酒なので、熟成過程で音楽振動を付与して、音楽振動熟成される。

 

 

   

     写真5 7Kg 日本酒醸造タンク

          日本酒は醸造酒なので発酵過程で
          音楽振動が付与され音楽振動醸造酒
          になる。



        写真6 4.5Kg 焼酎熟成タンク群

 

    

     写真4 測定・調整作業

      タンクの振動特性を測定し調整を行う。
       

 

 表5に、このテクノロジーを応用している酒類・食品のメーカー例を参考資料として示す。製品名などについては最新の情報を確認されたい。


表5 音楽振動醸造・熟成 応用メーカー (参考資料)

 

 種 類  メーカー名  製品名の例  所在地
 焼 酎

 田苑酒造(株)
 (株)奄美開運酒造
 高崎酒造(株)
 瑞穂酒造(株)
 川添酒店

 田苑ゴールド(麦焼酎)他
 レント(黒糖焼酎)
 しま甘露(芋焼酎)
 首里天(泡盛)
 愛華(麦焼酎)

 鹿児島県薩摩川内市 
 鹿児島県名瀬市 
 鹿児島県西之浦市 
 沖縄県那覇市
 鹿児島県薩摩川内市

 日本酒 

 鳳鳴酒造(株)
 石鎚酒造(株)

 夢の扉(純米吟醸酒)
 いしづち音楽堂
   (純米大吟醸酒)

 兵庫県多紀郡篠山町
 愛媛県西条市氷見丙

 ビール

 信濃ブルワリー(株)

 信濃エール
 マウンテンエール 他

 長野県上水内郡信濃町  

 醤 油

 キミセ醤油(株)

 五穀芳醇醤油 他

 岡山県岡山市妹尾

 味 噌

 マルカワ味噌(株)
 (株)ますや味噌

 ビバルディ(米みそ)
 四季の蔵(麦味噌)

 福井県武生市杉崎町
 広島県呉市西中央

ボトル台   

 

 こうした音楽熟成を個人用として試作したのが 写真7に示すボトル台である。台の裏側には振動トランスデューサが取り付けられ、アンプ、音源なども内蔵されている。実験したところでは、日本酒、焼酎、ウイスキー、ワインなどいろいろな酒が、音楽振動を与えて3日から1週間もすると素人でも分かる程に味が変りまろやかになってくる。
 酒の味などたいして分かりもしないのに、酒談義から音楽談義まで、知ったかぶりの能書きを垂れながら飲み比べをするのが楽しい。音楽振動はテクノロジーとしての可能性ばかりでなく、イメージの良さ、神秘的魅力も相俟って、飲酒空間での話題、楽しさも増し酒を旨くする。
 写真8 はオーク材の小形の樽に振動トランスデューサを取り付けた音楽振動熟成樽である。ウイスキーの熟成樽と同じように樽の内側が焼かれており、焼酎を入れて熟成すると焼酎が琥珀色になり、色も風味も焼酎とは思えないほど素晴らしくなる。

  写真7 音楽振動を付与するボトル台     写真8 熟成樽、焼酎の熟成に好適

        台の下に振動トランスデューサが            オーク材の樽に振動トランスデューサが
        取り付けられている。                取り付けられているのが見える。
 

8.2 今後の課題

 ここに示した新しいテクノロジーは、まだ端緒についたばかりでもある。一口に食品・酒類と言っても実に様々なものがある。それぞれに特殊な内容を含んでおり、原理も製造技術も一義的ではない。工業技術として完成して行くためには様々な分野の専門家の参入によって研究が進められ、個々の食品、酒類に合わせた定量化がなされなければならない。各分野の専門家、研究者の参入を切望するものである。

おわりに

 技術には、コストダウン、効率化、品質の向上、高付加価値化など、さまざまな側面があるが、ここに発表した「音楽振動」のテクノロジーは、神秘的魅力と共に、イメージが良いことから、商品に高い付加価値を与えることが可能である。
 イメージを高め、高い付加価値を与えることは、他商品との差別化や、利益率を高めることも可能で、技術の重要な役割である。さらに、音楽振動が分子レベルで効果を及ぼし、食品の品質向上に役立つ。
 音楽振動を付与する音楽振動醸造・音楽振動熟成では、醗酵・熟成タンク自体が一種の残響スピーカとなり、近付くと神秘的な響きの音楽が聴こえ、見学者の多い工場などではデモンストレーション効果、イメージアップ効果も大きいと考えられる。こうしたことから、幅広い効果をもたらす商業的価値の高いテクノロジーといえよう。

【音楽療法への示唆】

 酒類の醸造や熟成における音楽振動の水分子への影響を窺わせる効果は、体感音響装置による受容的音楽療法の効果、褥瘡への効果11)、振動音響療法11)などの生理的効果に示唆するものがあるようにも思われる。

【謝 辞】

 音楽振動を付与したワインの醸造は、国際デザイン年の事業として実施して下さった山梨県商工振興課デザイン企画担当主事・仲田道弘氏、山梨県工業技術センター食品醸造部長・小沢俊治氏、県関係者、ワインセンターの方々の、多大の努力と熱意による成果であることを特筆する。
 山梨県工業技術センター・ワインセンター研究員・荻野敏氏には、ワイン醸造のご教示と貴重な資料とデータの提供を受けた。瓶詰済みワインへの音楽振動付与とワインアドバイザによる官能評価は(株)日食・ワインアドバイザの方々、関係者の方々の尽力によるものであり、貴重なリポートの提供を受けた。
 音楽ワインのプロジェクトを提唱し、総合プロデュースをするとともに、ワイン醸造用音楽「ワインの子守歌」を作曲したヌースアートクリエイション・藤原俊男氏の発想と創造性なくしては音楽ワインは生まれなかった。ボディソニック社システムインテグレート部・喜田氏、阿部氏にはプロジェクト実施にあたり多くの協力を受けた。
 水の理論は日本電子(株)主任研究員・松下和弘氏から多くのご教示を受けた。また、リポートをまとめるにあたって、人間と歴史社代表・佐々木久夫氏からご教示を受けた。皆様に心から感謝し厚くお礼申し上げる。

参考文献

1)小松 明:音、音楽を科学する ―音楽振動を付与したワインの醸造から―
  日本バイオミュージック研究会誌 1990,12.Vol.5 P46-54
2)小松 明:〈アメニティ時代の飲酒形態〉音楽振動の酒類への利用
  日本醸造協会誌 1991年10月号 (Vol.86 No10) P745-750
3)小松 明:《最近の技術》 音楽振動の食品分野への利用の可能性
  日本食品機械研究会 食品加工技術 1991,Vol.11,NO.4,P179-P189
4)小松 明:面音源を実現させた新しい振動ユニット、エコニックサウンド・トランスデューサの
  特長と性能  ラジオ技術 1970年4月号 P251-254
5)小松 明:壁自体が音源となる 4チャンネル音場再生に適したボード・スピーカについて
  無線と実験 1971年3月号 P123-128
6)小松 明:身体で聴く音響装置、ボディソニック・システム
  日本オーディオ協会誌(JAS JOURNAL) 1981, Vol,21 No.6, P54-60
7)佐々木久夫:魔法の液体〔水〕の不思議 花も嵐も 1990,4月号 P110-111
8)小杉幸夫、高橋考夫、鈴木晴夫、鈴木真人、高倉公明、池辺潤、武者利光:1/fゆらぎの
  リズムを持つ電気刺激による叙痛について  電子通信学会技報 MBE80-59,33-40 1980
9)小松 明:食品に音楽を聴かせる −振動エネルギーの効用とテクノロジー−
  食の科学 No203 1995,1. P52-62.
10)岩谷房子、池田典次:末期患者に対する音楽療法の試み −特にボディソニックベッドパ
  ッドの応用− 日本バイオミュージック学会誌 1994,6月 Vol.11, P29~P38
11)Tony Wigram, Cheryl Dileo 編著、小松 明 訳著:振動音響療法 音楽療法への医用工学的
  アプローチ [MUSIC VIBRATION. Tony Wigram & Cheryl Dileo] 人間と歴史社 2003,3


 

ページの先頭に戻る ページの先頭に戻る      


 


Copyright (C) 2003-2017 Bodysonic Laboratory, All rights reserved.