流行の本を読まない人なので・・ここには私の愛読書の紹介、
数年前の話題作の感想。などを順次アップしていくことにしました。

現在はブログに掲載しています。

「エイジ・オブ・イノセンス」
イーディス・ウォートン作
 
数年前に映画化されたので、ご存知の方も多いでしょう。大好きな作品で、原作も読もうと、買ってきたのがきっかけです。
1921年のピュリッツァー賞受賞作です。
なんというか・・さすがにピュリッツアー賞。
1870年代のニューヨーク上流社会という、非常に狭い時代の狭い世界での出来事を描きながら、愛、自由、家族、結婚、不倫、と現代に通ずるテーマがあふれています。
イーディス自身もこの階級の出身で、女性でありながら文筆家を目指すと言う事が、当時如何に難しく、この世界が閉鎖的で、無垢(イノセンス)を装いながら残酷で冷酷だったか・・彼女は、作中のアーチャーに自身を重ねていたと思われます。
彼の持つ二面性。自由を求めながら、片方では自らの属するこのニューヨーク社会に誇りを持っており、しきたりにのっとって暮らす事は当たり前だと信じている。そこへ、婚約者の従姉で幼馴染のエレンがポーランドの伯爵と離婚したいといってニューヨークへ戻ってくる事から、この完璧だった世界に水面が立ち始めます。当時、ヨーロッパはニューヨークから見れば堕落した世界だったそうです。しかし、そのニューヨーク貴族達は決して本当の貴族ではなく、あくまで新大陸で成功した、ヨーロッパ式の格式を重んじているだけの人々。イーディスの筆は容赦なく彼らの虚飾をえぐりながらも、屋敷や調度品、ディナーでのしきたり、マナー、女性達のドレス、男達のパイプの香りまで、それはうっとりするほどの芳香で漂ってきます。まだ「狭いニューヨーク」だった頃の、彼女の少女時代の幸せな思い出もそこにはあるのでしょう。
結局主人公二人は結ばれる事なく終わりますが、それは周囲の周到に作り上げられた無垢でもって、引き離されたのみならず、彼ら自身のこの「世界」への思い、家族への思いが彼らを踏みとどまらせたのだと思います。
現代の人が読むと、まだろっこしい愛かもしれませんが、切なく美しい物語です。
ちなみに、これを映画化したスコセッシ監督は「私が今まで撮った中で、もっとも残酷な映画。」と言っています。これもある意味本当です。読んでも、見ても、深い感動のある作品です。

 

「廃市」
福永武彦作
 
とある、男の子の部屋に福永武彦が並んでいるのを見て、とても意外だったのを覚えています。
また、これを読んでいるのを取引先の男性に発見されて、「僕、大好きなんですよ〜」と言われたのも、意外でした。
男の人って、こういう話好きなんでしょうか?
福永武彦は、じつは「草の花」から入りました。
この辺りはまた別に書く事にして。
「廃市」は美しい物語です。
日本人独特の滅びの美というものが、これほど胸に迫ってくる作品は、他では芥川の「斜陽」くらいだと思います。
でも、「斜陽」にはまだ未来がある(と、思う)。
けれど、「廃市」は滅び去った、崩れ落ちた町、青春の日々への郷愁と回想の物語です。
掘割をめぐらせ、迷路のように町を作り上げ、芸術や酔狂が行くところまで行ってしまった町。ほかに何も無い町。
そして、愛は誤解と錯覚なのか・・・永遠の謎なのかということ。
この、「愛は誤解と錯覚」というのは、福永武彦作品の共通のテーマだと思います。
この作品でも、メインとして一人の男を巡って3人の女性が登場します。
彼が本当に愛していたのは誰だったのか?
そして、一夏を町で過ごした「私」が愛していたのは・・かくて、愛は謎です。

町のモデルは、冒頭に白秋の詩が引用されていることからも、柳川ではないかと言われていますが、ご本人の弁によると、柳川ではなく、どちらかというと、ベルギーのブルージュだそうです。
でも、数年前に柳川に行った時はやはりこの作品を思い出してしまいました。

 

「ペスト」
アルベルト・カミュ作
 
最初にこれをもってくる辺りが・・・。
この作品は、声高に人に勧めたり愛読書だと言ったりしたことは実はあまり無いんですが。
なんというか、私にとっては「人生の書」のようなものです。内容はまあ、ご存知の方も多いと思うのであえて書きませんが、何故、「人生の書」かというと、ここに登場するさまざまな人間の姿を通して、自分のあり方を模索する事が出来るからです。
なんつーと、えらそうに聞こえますね。
作品は町がペストの発生により封鎖される。という一種のパニック下においての人間群像です。でも、この作品が世界中で読まれているのは、そこに、普遍的な人間の姿があるからでしょう。
だれでもここに登場する誰かしらに感情移入する事が出来ると思います。多分、読者が一番入りやすいのは、たまたまここに滞在していて、町を封鎖されてしまい、なんとか脱出しようと試みる新聞記者でしょう。
彼もそうですが、この極限状態の中で、自分に出来る事はなんなのか?為すべきことはなんなのか?を、みなが段々に理解し、協力し合っていく様は静かな感動と衝動を呼び起こします。
読んでいる途中、神父に反感をもっていた私ですが、彼もまた、自らの「為すべき事」を為したのでしょう。その姿は感動的ですらありました。

カミュは人間の尊厳や理性や理想を描いた作家です。
人間性を否定する全てのものを拒否しつづけた作家でした。
この他にも有名な作品がいくつもあります。
また順次紹介していきたいと思いますが、変わったところでは、サルトルとの論争集(?)「革命か反抗か」は、難しかったけども面白いです。